第四章 特待生、来たる①
その日。1年1組はざわついていた。
それもそのはず。新たな生徒が編入されたからだ。
それも二人もだ。男子生徒と女生徒だ。
ただ、注目は女生徒の方に集まっていた。
その美貌もあるが、何よりその家名にざわついていた。
「石神沙夜」
特待生の一人である彼女――沙夜は教壇の前で名乗る。
「今日からクラスメイト。よろしく」
「「おお~……」」
主に男子生徒から感嘆の声が上がった。
妖精のような容姿にたがわない可憐な声だったからだ。
続けて、もう一人の特待生も自己紹介をするのだが、ほとんどの生徒が聞いておらず、ざわついていた。
「石神ってやっぱあの?」「ああ。《砂塵姫》だろ? あの二姫の片割れの」「マジで噂通りの美少女だな」「つうか、これでこの学園、二姫が揃ったってことか?」
ざわつきは収まらない。
「……先生」
特待生である男子生徒がポツリと呟く。
「俺としては全力でガン無視されて泣きそうなのですが……」
「ご、ごめんさない。室戸くん」
名前を室戸武志という少年に、担任である谷口女教諭が両手を合わせて謝罪した。
「ほ、ほら、むさいおじさんと可愛い美少女だったら、美少女の方が注目されるのは仕方がないことで……」
「……いや。俺は一応十代で、そこまで年上ではないのですが……」
「い、いえ、その、ただのたとえであって」
しどろもどろになりながらも、谷口教諭は手を叩き、
「みんな! 静かに! 編入生の室戸くんと石神さんです! 仲良くしてね!」
そう叫んだ。流石に教師の声に生徒たちも静かになる。
谷口教諭は沙夜と室戸を見やり、
「それじゃあ、二人とも空いている席に座ってね」
そう告げた。二人は頷き、それぞれ空いている席に向かう。
その途中で沙夜は由良とすれ違った。
ぺこりと頭を下げる。由良も軽く首肯した。
(いよいよ来おったか。石神沙夜)
由良は瞳を細める。
最も警戒すべき女。いつか出会う日が来るとは考えていた。
それが、まさかクラスメイトとしてとは思わなかったが。
(さて。どう接するべきか)
由良は考える。
由良にとってはあの娘は『敵』だが、悠樹にとっては大切な幼馴染だ。無下に扱って悠樹に嫌われるようなことにはなりたくない。
(まあ、悠樹が望むのならば、あの娘も側室にはと考えておったしのう)
由良は視線を後ろに向けて、席につく沙夜を見やる。
確かに瞠目すべき美貌だ。髪の色こそくすんだ灰色だったが、髪質は絹糸のようであり、恐らく御門翔子にも劣らない。スタイルに関しては翔子よりも上と見た。腰の細さや脚線美においては互角だが、胸部では沙夜の方に分があった。ただ、由良には及ばない。
(妾が負けておるのは身長ぐらいじゃな)
ふふんと鼻を鳴らして、そう分析をする。
悠樹との関係もふまえると、第二夫人が妥当か。
(ならば悠樹の正妻として友誼を結んでおくべきかの)
由良は前を向き直し、そう考えた。
休み時間になれば、声を掛けてやるのもやぶさかではない。
そう思っていた。
一方、このクラスには白藤緋雨もいた。
(さて。いよいよ任務開始か)
表情を変えずに、沙夜の背中を一瞥する。
緋雨は最後尾の席にいた。
(こうやって実際に会って見ると、依頼者が心酔するのも分かる美貌だな。なるほど。あれでは羽虫を危惧する訳だ)
表情に出さず、内心で苦笑をする。
(とはいえ、考えてみれば、あの娘こそが最優秀者になる可能性が高い。やはり、ここは友人になっておいた方がいいな。御方さまに神槍を献上するためには、あの娘から盗み出す必要があるからな)
実力で奪い取るのも面白そうだが、力の求道者である前に自分は忍びだ。
自身が最優秀者になるなどの目立つ動きは避けるつもりだった。
(ここは搦め手だな)
そう考えるのは、忍びとして自然な思考だった。
まずは石神沙夜の友人となる。緋雨はそう方針を決めた。
そうして休み時間。
由良と緋雨は互いの思惑に従って沙夜に近づこうと考えていたのだが、短い休み時間には沙夜の周りに人が集まりすぎて近づくのが難しかった。
ちなみに、沙夜の周りに十数人集まるのに対し、室戸の周辺は二人だけだった。
一層にへこむ室戸の肩を、その二人の男子生徒が、ポンと叩いていた。
(仕方がないのう)
(ここは昼休みまで待つか)
と、由良と緋雨は通常の休み時間は断念した。緋雨はともかく、由良の方は沙夜と面識がある。昼食に誘ってから校内を案内するなど、話す切っ掛けはあった。
そうして昼休みが訪れたのだが、
――トトト。
丁度、由良たちが沙夜の席まで近づいたところで、沙夜はとても軽快な足取りで教室を出ていってしまった。
(……むむ)
(……忙しいお姫さまだな)
沙夜の席の前で、由良と緋雨は手持ち無沙汰になってしまった。
そんな二人の視線を重なる。
「珍しいのう、白藤。そなたが他者に声を掛けようとは」
「人をコミュ障みたいに言うな。私だって石神家のお姫さまには興味がある」
と、二人は会話を交わす。
クラスメイトなのだから面識はある。ただ会話するのは初めてだった。
それだけに少し気まずい。
「……まあ、クラスメイトだ。話す機会はまたあるか」
そう言って、緋雨は自分の席に戻っていった。
「……むう」
一方、由良は呻いた。
「確かにそうなのじゃが、あの娘、編入早々どこにいったのじゃ?」
と、素朴な疑問を抱いた。
――同時刻。
「……ん。見つけた」
その教室に入るなり、沙夜はひょいと片手を上げた。
そして、唖然とした表情を見せる、とある少年に向けてこう告げた。
「四遠くん。校内を案内して」




