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鬼狩り裏譚 異形を纏う少年は勝ち続け、運命に叛逆す【第2部更新中!】  作者: 雨宮ソウスケ
第2部

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幕間一 とある潜入者の思惑

「……さて」


 その夜。彼女は新城学園の寮の自室で一人、ノートPCを操作していた。

 ワークデスクの前で黒い下着姿。上には黒のタンクトップを着用している。抜群のスタイルと美貌を持つ美女だった。

 彼女の名は白藤(しらふじ)緋雨(ひさめ)。《夜叉猿》とも呼ばれるはぐれ鬼狩りだ。

 主に諜報に優れ、高い依頼達成率を誇る個人運営のエージェントである。

 そして今回、実年齢を誤魔化し、新城学園に潜入した生徒でもあった。

 ただ、整形までして裏口入学している者もいる中、彼女の場合は家名を適当にでっちあげ、年齢を二歳下げただけなので、ほとんど偽装もしていない。

 本来ならば偽装にはもっと手をかける。特に変装はお手の物だった。

 なにせ、彼女の家系は忍びの血を引いているからだ。


 鬼狩りは怪異と戦う者たちの総称だった。

 その中には侍や陰陽師の末裔もいる。最終的には各家とも獣殻を纏う形に至ったが、各自の家系の術は今も受け継がれている。


 緋雨の場合は、忍術を受け継いでいた。

 彼女は鬼狩りでもあり、忍びでもあるのだ。

 その気になれば、彼女は骨格さえも操り、別人へと姿を変えることも出来た。


 だが、あえて今回、本来の姿で潜入したのには理由がある。

 もし再会(・・)できた時に、あの方の前で偽りの姿でいるなど不敬だと思ったからだ。


(まあ、私が勝手に思っていることだがな)


 ふっと笑いつつ、


「……しかし、かの石神家の姫君。石神沙夜か」


 緋雨は瞳を細めた。

 PCのモニターには、石神沙夜の情報が映し出されている。

 情報通りなら、明日に編入してくるそうだ。それも同じクラスだった。別に依頼主が配慮した訳ではないだろうが、面倒臭い子守が明日から始まるという訳だ。


「流石にしばらくは近づく羽虫もいないと思うが」


 一拍おいて、緋雨は口角を上げる。


「その間に友人ぐらいにはなっておくか。その方が何かと動きやすいしな。私にとっては渡りに船だったこの依頼を維持するためにも」


 ポツリとそう呟く。

 卒業時、この学園の最優秀者となった者から神槍を盗み出す。

 それが緋雨の受けた一つ目の依頼だ。わざわざ生徒として潜入したのは最優秀者と親しくなって隙を突くためだった。数年がかりの潜入など忍びにはよくある話だ。

 だが、今回、緋雨にとってそれは建前に過ぎなかった。


(あの方は……)


 緋雨は双眸を細めて思考する。


(《七天祭器》を求めているという噂がある。それを信じて私はここに来た)


 さらに双眸を鋭くする。


(もしそうなら、あの方は生徒に紛れ込むはずだ。神槍を求めて最優秀者を目指すはず。あの方が神槍を求めるのなら依頼などどうでもいい。私の手から献上して――)


 そこで、小さく呼気を零し、瞳を完全に閉じた。

 こうして瞼を下せば思い出す。何度でもだ。

 ――あの雨が降る夜。

 場所はコンテナ倉庫の一つだった。

 あの日、別件の依頼でその場にいた緋雨は第五階位(アバタイト)の妖鬼と出くわしてしまった。

 正確には第五階位(アバタイト)の妖鬼と鬼狩りたちの戦いに遭遇したのだ。一瞬、彼らに加勢することも考えたが、数分も経たずに鬼狩りたちは全滅してしまった。


 ……あれが第五階位(アバタイト)なのか。

 コンテナの影に隠れつつ、緋雨は恐怖を覚えた。

 鬼狩りたちは決して弱かった訳ではない。恐らく充分な準備をしてきたのだ。それでも相手にもならなかったのである。


 緋雨も実力には自信がある。むしろ強さにこそ拘りがあった。

 主家だったとはいえ、自分よりも弱い男に嫁ぐのが嫌で家を飛び出したほどだ。

 血筋程度で弱者にくれてやるほど自分の矜持は安くない。はぐれとなってからもその実力を示し続けた。単独で第四階位(フローライト)さえ仕留めたこともあった。


 だがしかし。


(あれはあまりに危険だ)


 あれに単独で挑むのは、あまりにも無謀だった。

 強さに拘り、忍びであるからこそ冷静に判断した。

 無念ではあるが、ここは逃げなければならない。鬼狩りたちは男ばかりだったのでただ殺されるだけで済んだが、緋雨はそうはいかない。

 犯されるか。孕まされるか。そして最後には喰われるか。


(……どれも最悪だな)


 流石に冷たい汗が頬を伝う。

 緋雨は気配を消して逃走する機会を窺っていた。

 すると、


『……女の匂いがするな』


 一本角の鬼がそう呟いた。緋雨は表情を険しくする。


『それも極上の匂いだ。鬼狩りの女だな』


 そう言って、妖鬼は、ズシンズシンと歩き出した。

 緋雨は唇を噛む。煙球を取り出す。奇襲で視界を奪うか。

 その時だった。


『……少し遅かったか』


 不意に、少年のような声が聞こえたのだ。

 妖鬼は眉をひそめて、そちらに振り向いた。

 緋雨もコンテナの影から声の主の姿を確認して――息を呑んだ。

 そこには、蒼い鬼火のような獣毛を持つ黒い竜人が立っていたのだ。

 裏世界に精通している緋雨も初めて見る怪物だった。

 妖鬼も動揺したようだが、二体の怪物たちはそのまま戦闘に入った。


 コンテナを打ち砕き、巨獣同士が争う。

 竜人の巨大な拳が、何度も妖鬼の顔に炸裂した。緋雨は目を見張った。その威力ゆえに豪快に見えるが、それは実に洗練された攻撃だった。

 そうして竜人は妖鬼を頭上に抱え上げると、背面からコンクリートの床に叩きつけた。衝撃は倉庫全体を震わせ、巨大な亀裂を床に刻んだ。

 後で調べたが、それはいわゆる『背面落とし(パワー・ボム)』と呼ばれる大技だった。


 その一撃で妖鬼は絶命し、土塊となって崩れ落ちた。

 あまりに圧倒的な竜人の姿を、緋雨はただただ凝視する。


 そして、さらに驚いたのはその後のことだ。

 突如、黒い竜人の姿が崩れたのだ。それは銀霊布だった。竜人の巨躯は銀霊布と化して、黒いコートへと変化したのである。

 そこに立っていたのは少年のようだった。恐らく緋雨とさほど年齢が変わらない少年だ。フードを被った姿だったので顔を確認できなかったのは痛恨だった。


 そして黒いコートの少年は、宝角を拾い上げると、そのまま去っていった。

 緋雨はしばらくの間、その場から動くことが出来なかった。


(あの御方こそが《魔皇》なんだ……)


 回想から戻っても鮮明に残る記憶に、緋雨はぞくぞくと背中を震わせた。

 恐らくあの方も鬼狩りだ。

 何かしらの方法で規格外の力を得た人間なのだ。

 力の求道者としては、その秘密を知りたいと思う。


 だが、それ以上に……。


(……そう。石神沙夜などではない。あの御方こそが武の化身なんだ)


 緋雨は恍惚の光を微かに宿した瞳を細めた。

 あの日、緋雨の強さに対する自負は、完全に打ち砕かれてしまった。

 第五階位(アバタイト)の妖鬼にではない。あの方にだ。

 日を追うごとに、あの方の姿を忘れられなくなる。


(……だから、私は……)


 微かな笑みを零す。

 あの日、自分の運命を知った。家を出たのも必然だと感じた。

 自分の中に流れる忍びの血が告げているのだ。

 遂に主君と巡り合ったことを。


(神槍は必ずや御身に献上いたしましょう。貴方が望まれるのでしたら、この身も捧げます。ですので、どうか)


 彼女は胸元に片手を当てた。

 そして、


「我が主よ。お屋形さま。どうか、この緋雨を御身のお傍に」


 熱を宿した眼差しで、そう願うのであった。









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