表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼狩り裏譚 異形を纏う少年は勝ち続け、運命に叛逆す【第2部更新中!】  作者: 雨宮ソウスケ
第2部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/60

第三章 今日からあなたは③

 ――《影門館(えいもんかん)》。

 それは主にはぐれの鬼狩りたちが利用する諜報機関のことだ。

 全国各地にあるその施設は、主に引退したはぐれの鬼狩りたちが運営しており、妖鬼と思しき人物の身元調査や討伐の斡旋、戦闘の修繕などと、多岐に渡ってはぐれ鬼狩りたちをサポートしてくれるのである。


「どうして石神さんが《影門館》に?」


 とあるビルの地下。沙夜と共に歩く悠樹が尋ねる。

 沙夜は「……ん」と頷き、


「前から興味があった。私は使ったことがないから」


「まあ、石神家直系の君が使うはずもないか」


 悠樹は苦笑を零した。

 実のところ、《影門館》は家の所属する鬼狩りも利用することが多い。宝角の換金もしてくれるからだ。要は家に黙って仕事をするのに丁度いいということだ。

 しかし、石神家の秘蔵の姫君が、そんなことに縁があるはずもない。

 そうこうしている内に地下通路の奥。行き止まりの壁に到着した。悠樹が壁に触れると木製の扉が現れた。霊力を注ぐことで現れる入口だ。


 中に入ると、ざわざわと騒がしかった。

 受付があり、奥の方には仕事の検索機が並んでいる。様々な人間が行きかっていた。イメージとしてはそれこそハローワークだろうか。


「あそこが換金受付。あっちが相談受付だよ。それとあっちが――」


 悠樹はとある受付を指差した。


「施設の貸し出しをしてるよ。訓練所とか」


「……ん。分かった」


 沙夜は頷くと、そのままその受付に向かった。

 悠樹は「え?」と困惑しつつも彼女の後を追った。

 受付には人は並んでおらず、すんなりと通った。そして彼女は言う。


「二名。訓練所を借りたい」


「おう。いいぜ」


 受付の男性が答える。そしてタブレットを彼女に見せた。


「一時間単位のコースから一日単位もある。部屋のタイプも選べるぞ。トレーニング器機なんかはオプションだ。中にはVRもある」


「……ん」沙夜は指先でタブレットを操作し始めた。


「え? 石神さん?」


 一方、悠樹は目を丸くしていた。

 まさかいきなり施設を借り出すと思っていなかったのだ。


「……ん。これでいい」


「お。そっか」


 受付の男性は沙夜からタブレットを受けとって、少し眉をひそめた。


「オプションはなしか。しかし、かなり広い部屋を借りたな。模擬戦をするにも二人じゃあ広すぎないか?」


「これぐらいの広さがいい。ところで少し壊すかもしれないけどいい?」


「ああ、構わねえよ」受付の男性は頷いた。


「うちには腕のいい修繕師がいるからな。どれだけ壊しても五分で完全復元だ」


 一拍おいて、


「それも含めてのこのレンタル料金だ。あと模擬専用の武具も常備してるが、獣殻を使ってもいいぞ。治癒術のエキスパートも常勤しているからな。死なねえ程度になら気にせずに暴れてくれても大丈夫さ」


「……ん。ありがとう」


 沙夜は礼を告げる。


「え? ちょっと待って。石神さん?」


 それに対し、悠樹は動揺していた。


「まさかこれから訓練するの? もしかして僕と?」


「……ん。そう」


 悠樹の幼馴染は振り返って首肯した。


「あなたに事情があるのは分かった。けど、私はまだ確かめていない」


 一拍おいて、


「あなたの本質を。それは刃を重ねて確かめてみる」


「えええ……」


 悠樹は思わず目を瞬かせるが、すぐに思い出す。

 そうだった。彼女はこういう脳筋的な思考をすることが多かった。


(とりあえず刃を交えて相手を知ろうとしてたっけ)


 まさしく生粋の武門の令嬢だった。

 そして彼女は常勝不敗でもある。

 石神家の分家の中には、そんな彼女に心酔する者もいるほどだ。


(そういえば、仙石さんとかもそうだっけ)


 比較的に年齢が近かった同じ分家筋の男性を思い出す。あまり親しくはなかったが、沙夜と一緒にいると、いつも凄い目で睨まれていた記憶があった。

 そんな感じでつい昔を懐かしんでいる間にも、


「時間は一時間でOKか?」


「……ん。それでいい」


 沙夜は黙々とレンタルのやり取りを進めていた。

 悠樹は少し困っていたが、


(けど、これもいいかな)


 そう考える。

 結局のところ、ただの模擬戦なのだ。そこまで大層に構える必要はない。


(今の沙夜ちゃんの実力も気になるし)


 あれから二年半。

 自ら望んだことではないが、幾度となく死線は潜り抜けてきた。

 すべてを失ったあの日から、自分はただの一度たりとて負けていない。

 敗北の先に待つものは死だったからだ。

 大和が生かしてくれたこの命だ。絶対に奪わせてなるものか。

 何より自分が負けてしまえば、由良の命まで危うくなってしまう。


(だから、僕は誰にも負けてはいけないんだ)


 心にそう誓っていた。

 そして今、記憶の中にある最強の少女が目の前にいる。あの頃の悠樹はまだ霊獣と契約していなかったとはいえ、結局、彼女には一度も勝つことは出来なかった。

 果たして、自分はどこまで彼女に近づけたのだろうか。

 それを確かめてみたいとも思った。


(よし)


 悠樹は心を決めた。


「レンタルできた。行こう」


 と、沙夜が告げる。悠樹は頷いた。

 二人は歩き出す。沙夜は教えられた壁に手を触れて霊力を流した。

 再び扉が現れる。訓練場に直に通じる扉だ。

 その奥は全方位をコンクリートで覆われた殺風景な部屋だった。しかし広さや高さは相当にある。学園の体育館並みの広さだ。


「霊獣は使う。刃引きはするから。あなたも使って」


 そう告げて沙夜は歩きながら、獣殻を纏った。両足に灰色の東洋具足。両手には手斧を握っている。沙夜の契約霊獣。大熊の霊獣・《(かぶと)》の力を顕現したのだ。


(……霊獣か)


 悠樹は一瞬だけ躊躇った。

 悠樹の霊獣は《大和》だ。すなわち沙夜の実の兄である。

 部分顕現だが、その姿はすでに一度見られている。けれど、まさかこんな場所で改めて三人が揃うとは思ってもいなかった。


(……大和。沙夜ちゃんと再会したよ)


 悠樹は心の中で親友に語り掛けつつ、右腕に黒い獣殻の籠手を纏った。その手には一振りの刀が握られている。


「僕も刃引きしたよ。これで霊塵を突破することはないはずだ」


 悠樹はゆっくりと訓練場の中央に歩き出す。


「始めよう。石神さん」


「……ん。分かった」


 彼女も中央へと進み、足を止めて振り返った。


「全力で来て。それと始める前に言っておく」


「……? 何を?」


 眉根を寄せる悠樹に、沙夜はこんなことを告げるのであった。


「あなたは私の空洞を埋められる? もしもそれが出来たのなら、あなたに私のすべてを上げてもいい」









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ