第三章 今日からあなたは①
――風倉市の第三区。
そこは新城学園の生徒たちのほとんどが休日には必ず訪れる場所だった。
アミューズメント施設に、有名チェーン店が並ぶショッピングモール。個人店なども多く、買い物にしても息抜きにしても最適な地区だ。
街中は常に賑やかであり、休日に関係なく十代の姿も多い。
そんな騒々しくもある大通りを、とある少年少女が並んで歩いていた。
悠樹と沙夜である。
「次はあそこ」「う、うん」
沙夜に言われて、悠樹は付いていく。
二人がしているのはアミューズメント施設巡りだ。悠樹の手にはクレーンゲームの戦利品である大きなクマのぬいぐるみが担がれていた。
由良曰く、沙夜は先日のセクハラの一件で悠樹と和解したいとのことだ。
流石にそれを告げられた時は、言葉を失うほどに悠樹は青ざめたが、結局、和解交渉としてやっているのは沙夜に付き合って遊ぶことだった。
沙夜は無表情で様々なゲームをこなしている。悠樹はそれを見ていた。
(……沙夜ちゃん)
本当に久しぶりに見る幼馴染の姿だ。
悠樹の胸中は、郷愁の想いでいっぱいだった。
ただ、少し疑問もある。様々なゲームで遊んだ沙夜ではあるが、悠樹の知る彼女はこういった遊びは苦手――というより興味がない少女だった。兄である大和がこういった騒々しいぐらいのゲームが大好きで、彼女はそれに付き合っていた印象だった。
あの頃の彼女はゲームよりも、黙々と本を読むことを好む女の子だった。
(あれから二年半か)
沙夜の後ろ姿を見つめて、悠樹は瞳を細めた。
二年半ぶりに再会した幼馴染。
身長はあの頃よりも少し伸びている。手足もだ。ただ、悠樹の方はもっと伸びたので二人の身長差は昔よりも開いたようだ。
顔立ちは少し大人びていて、さらに綺麗になっていた。
ただ表情は変わらない。無表情のままだ。遊んでいる今もだ。ただ、大和を失い、代わりに石神家の期待を一身に受けたせいなのか、昔よりも無表情になった気がする。
そして何故か輝きを失っている彼女の《星銀の髪》。
(…………)
彼女の灰色の髪が揺れるたびに、心が強く痛む。
果たして彼女に何があったのか。それをまだ聞けずにいた。
今更ながら思う。
本来は生き残った自分が、彼女を支えるべきだったのではないかと。
けれど、黒い翼を持つ騎士たちと戦い続けなければならない運命を理由に、自分は今日まで彼女に会うことをずっと避け続けていたのだ。
本当に臆病だったと思う。
(……僕は)
そうして今も臆病な自分は、彼女と何を話せばいいのか分からずにいた。
唇を強く噛む。と、
「……楽しくない?」
彼女が下から悠樹の顔を覗き込んできた。
「ゲームでも楽しめば、あなたの悩みも軽くなると思った」
そんなことを告げてくる。
どうやら彼女の希望ではなく、悠樹のためにこの場所を選んでいたようだ。
記憶を失ってもなお、彼女は悠樹を気遣ってくれていたということだ。
(……沙夜ちゃん)
本当にあの頃と変わらず優しかった。
思わず彼女を抱きしめたくなるが、ここで罪の上乗せは出来ない。
代わりにクマのぬいぐるみを抱きしめつつ、
「ううん。楽しいよ。ありがとう」
悠樹は微笑んだ。
これに嘘はない。すぐ傍に沙夜がいるのだ。本当に嬉しかった。
沙夜は「……そう」と呟いてから、
「少し疲れた? 休んだ方がいい?」
そう告げた。悠樹は「うん」と頷いた。
二人はアミューズメント施設と出て、近くのカフェに向かった。
チェーン店ではなく、あえて個人店の方に向かう。
行先は悠樹がたまに使うレトロな雰囲気を持つカフェだ。クラシック音楽が流れる落ち着いた雰囲気の店であり、沙夜にはこっちの方が居心地がよいかなと悠樹は考えていた。
「石神さんは新城学園に編入してくるの?」
「……ん」
隣を歩きながら、沙夜は頷いた。
「来週の月曜から。1年1組と聞いている。もう一人同じクラスになる」
「へえ。そうなんだ。由良と同じクラスだ」
と、悠樹は呟く。
(あ、そうか)
四人の特待生の内、二人が同じクラスに編入されるというのは珍しいと思ったが、考えてみれば、現在1組は生徒が二名足りていないのだ。クラスの人数調整のために、優先的に特待生を編入させたのかもしれない。
「……由良?」
その時、沙夜が足を止めて、悠樹の顔を覗き込んだ。
悠樹も足を止めて「あ、うん」と頷き、
「御門さんと一緒にいた白い髪の子だよ。下の名前は知らなかった?」
「知ってる。けど、あなたは彼女を名前で呼ぶの?」
「え、あ、うん」悠樹は頷いた。
「由良とは入学前からの知り合いなんだ」
「……そう」
と、呟く沙夜の声は今まで以上に感情が籠っていなかった。
「……どういう関係?」
これまた感情の籠っていない声で尋ねてくる。悠樹は「え?」と動揺した。
「えっと、友達でいわゆる相棒かな。僕らは一緒に仕事もするんだ」
「……そう」
沙夜は淡々と呟く。そして、
「……初めて知った。聞いていない。彼女のことは」
「え? それは当然だよ。だって初めて会ったのは昨日なんだよね?」
「違う。私が言いたいのは――」
眉根を寄せて問う悠樹に、沙夜は微かに唇を噛んで何かを言おうとしたが、
「……? 私が言いたいのは?」
自身の言葉に困惑するように、自分の胸元に片手を置いた。
「……石神さん?」
悠樹がさらに眉をひそめると、沙夜は小さく息を吐いて、
「ごめんなさい。疲れてる。休もう」
「うん。そうだね。もうじき店に着くよ」
悠樹はそう告げた。
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