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レッド・シティ  作者: 最上優矢
第三章 私は姉さんを憎んだ

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明かされる過去

 刑事さんはダイニングテーブルの席につくと、まだ私が席に座っていないのにも関わらず、おもむろに「あの女は」と落ち着き払った様子で話し出した。


「命が尽きる最期まで、あなたを愛していたのでしょうか。

 それとも最期になって、あなたを憎んだのでしょうか」

「……さあね。今となっては分からないものです」


「否、あの女は最期まであなたを愛していた、とわたくしは結論付けます」

「何を根拠に言うんです」

「これですよ、これ」


 刑事さんは手元の角形二号封筒を私にグイッと差し出した。

 私は封筒をしげしげと見つめてから、恐る恐る受け取った。


 この封筒の中に、何枚かのA4用紙らしきものが入っていることが窺えた。

 封筒の表面や裏面を見てみるが、どうも封筒そのものには何も書かれていないようだった。


 私は封筒をテーブルに置くと、神妙な顔つきで見守っている刑事さんに尋ねた。


「一体、これはなんですか」

「これが何なのかを明かす前に、です。

 昨日の深夜、眠くて話し損ねたことがありましたので、まずはそれを説明するとしましょう」

「話し損ねたこと、ですか」

「そうです。……あの女の病的な愛憎、それはいかにして生まれてしまったのか、をね」


 刑事さんは頬の火傷の跡に触れたのち、姉さんの過去について話し始めた。


 刑事さんの話によると、姉さんは高校一年生の頃、自分を好いてくれる同級生の女子生徒に依存していたそうで、それであるとき、姉さんはその女子生徒に告白したという。

 しかし、当の女子生徒は姉さんを気味悪がり、そればかりか、ほかの同級生に姉さんのあることないことを言いふらし……それは次第に姉さんへのいじめに発展した。


 いじめられた姉さんはというと、最初は女子生徒の裏切りを信じなかったが、やがて姉さんはそれを信じるほかなくなり、そのショックで声が出せなくなってしまう。

 そのことを知った女子生徒はやりすぎたと感じたそうで、高校では姉さんの味方をするようになる。

 が、とうに姉さんへの陰湿を超えたいじめは過激と化していて、女子生徒が何を言っても、いじめは続いた。


「それでついにあの女は転校し、それから数日後のこと……あの女は女子生徒の自宅前まで出向き、住所が書かれていない手紙を郵便ポストに入れたんです」

「手紙には……なんと書かれていたんですか」

「さあ、そこまでは知りませんよ。ええ、ですがね、内容なら知っています」

「どういう内容ですか」


「あの女が女子生徒を呪ったということ、その呪いであの女の寿命は削られていくこと、呪いに喜びを感じていること、でしょうかね。その手紙の最後は、あの女の名前で締めくくられていたそうですよ」


 それから一年後、高校二年生になった姉さんの家の郵便ポストに、住所のない手紙が入れられ……そう、その手紙は女子生徒が書いたものだった。


「あの女が書いた手紙を読んで以降、幻覚や幻聴、対人恐怖や被害妄想、苛立ちや不安、泣き出したり喚いたりと、何かに取り憑かれたかのような状態になってしまったと、あの女を恨む内容の手紙だったそうです」


 このとき、すでに姉さんは声が出せるようになっていて、新しい高校ではクラスのアイドル的存在となっていたらしい。


「どんな言葉が手紙に書かれていたかは知りません、が……手紙の内容なら把握しています」

「その内容とは……なんです」

「女子生徒はあの女を呪い返したそうです」


 なんて救われない話なのだろうか。


「それからですね」と刑事さんは再び火傷の跡に触れた。


「その後、女子生徒は焼身自殺をし、十七歳という若さで亡くなりました」


 ……ああ。むごい、むごすぎる。


 そのとき、私は刑事さんの頬に残る火傷の跡を見て、考えるよりも前に尋ねていた。


「その頬の火傷跡は……?」

「ああ、これですか? これはですね、哀れな親友が焼身自殺をした際、巻き添えに遭ったときにできた火傷跡です」

「その親友って……まさか」

「ご名答。その親友とは、あの女が呪い殺した女子生徒のことです。

 ということはつまり、わたくしと女子生徒は親友同士の仲だった、ということも意味します」


 なるほど、と私の中でピースが繋がった。

 だから刑事さんは、あんなにも姉さんを憎んでいたのか。

 親友の死の原因である姉さんを憎んでいたのだ、彼女は。


 それに……そう、姉さんによる二人目の“被害者”とならないよう、あそこまで彼女が私に警告してきたのも、そういう事情があってのことだったようだ。


 刑事さんは腕時計に目を落とすと、舌打ち。


「申し訳ないですが、じき出勤の時間になるので、これにてわたくしは失礼します」


 刑事さんは椅子から立ち上がると、一礼したのち、「それではごきげんよう」とその場をあとにした。


 一人残された私は、しばらくぼんやりとしていた。

 けれど、刑事さんが残していった封筒に目を向けた瞬間、何とも言えぬ胸騒ぎを覚えた。


 これはなんだろうか、この謎の封筒は。


 私は意を決し、ついに封筒を開封した。

 中に入っていたのは、何枚かの原稿用紙でありながら――姉さんが最後に残した私宛の遺書だった。

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