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レッド・シティ  作者: 最上優矢
第三章 私は姉さんを憎んだ

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襲撃、そして

 夢の中の世界にいた私だが、それでも私は現実の世界からわずかに聞こえてきた、玄関扉が軋む音を聞いて――一抹の不安を覚えた。


 玄関の施錠、果たしてしただろうか、と。

 一度不安になれば、あとは覚醒するのみ。


 そうして私は夢の世界からお暇し、現実世界に戻ってきた。


 目が覚めて、布団から起き上がるなり、私はゾクッとした。

 なぜって、閉まっていたはずの部屋の扉が開け放たれていて、なぜだか常夜灯はつけてあったから。


「まさか……泥棒でも入ったのか」


 そう私が声を震わせながらつぶやいた、次の瞬間。


「泥棒じゃ、ないよ」


 背後から聞き覚えのある声がしたかと思えば、私の左腕は刃物か何かで切りつけられた。


 今まで体験したことのない激痛と摩擦熱。

 左腕からは真っ赤な血が噴き出し――激しいパニック状態に陥った私は、出せる限りの悲鳴を上げた。


 私の背後に隠れ潜んでいたらしい“姉さん”は、まだ血が噴き出る左腕に五〇〇ミリペットボトルを押し当て、何やらその中に血を溜めていた。


 意味不明で狂った行動だった。

 姉さんが正気をなくしているのなら、こんな目に遭っている私も正気ではなかった。


 いつしか私は泣き叫び、姉さんに許しを請うため、その場で必死に頭を何度も下げていた。


 どれくらい時間が経ったのだろう。

 私が正気を取り戻したとき、そこにいたのは狂気に取り憑かれた姉さんではなく、複数の救急隊員と警察官だった。


 気づいたときにはもう、私の左腕の処置は終わっていた。

 やはりそれなりに出血はしたようで、布団やら床やらは広範囲にわたって真っ赤に染まっていた。

 それでも傷の縫合は必要ないらしく、私はホッと胸を撫で下ろした。


 安心したのもつかの間、今度は刑事とおぼしき私服警察官と話すことになり、一気に緊張の糸が張り詰めた。


 どうも刑事たちは、この事件の犯人が姉さんだと把握済みのようだった。


 私は刑事たちに姉さんは今どうしているのか、ダメ元で訊いてみた。

 刑事たちは顔を見合わせてから、私の質問に答えた。


「それがですね、今しがた我々も知った情報なのですが……まあ、なんと言いますかね」

「なんです? 姉さんの身に何かあったのですか」


「彼女、ご自宅で亡くなられましたよ」


 …………。

 亡くなった?


「姉さんが……亡くなった、だって」


「ええ。毒薬を飲んでの自殺です。

 それからですね、これまた狂気の沙汰ではないのですが――このことはくれぐれもご内密にお願いしますよ――、おそらくあなたの血液と彼女自身の血液を混ざり合わせた、毒薬入りの赤ワインを口にし、そのままあの世逝きだそうで」


 なんだ、それは。

 一体、なんなんだ。

 これではすべてが謎に包まれたままだ。

 姉さんの知られざる闇の過去も、彼女の不可解な言動の真意も、何もかもが解き明かされずに終わってしまう。いや、終わってしまったのだ。


 どうしてだ、どうしてなんだ。

 ねえ、どうして。

 姉さん。


 その後、私はこのあたりを管轄している警察署内で事情聴取を受けた。

 事情聴取が終わった頃、空はすっかり明るさを取り戻していた。


 朝だ。つらく苦しい夜が明け、朝が……やってきたのだ。


 ケガをしているから、という刑事たちの計らいで、現場検証済みの自宅まで覆面パトカーに乗って帰った。


 自宅である賃貸マンション玄関前の廊下には、例の女性刑事が佇んでいた。

 刑事さんは私の姿を認めると、深々と一礼。


 私は無言で刑事さんの隣を通り過ぎ、玄関扉を開放した。

 同じく無言で、刑事さんに家の中に入るよう、私は目配せする。


 またもや刑事さんは丁寧に一礼すると、先に家の中に入った。


 そうだ、まだ姉さんに関することが迷宮入りになったわけではない。

 刑事さんさえいれば、姉さんについての一切合切が明らかになるはず。


「……姉さん」


 私の知らない姉さんとは、一体何なのか。


 静かに、優しく――私は玄関の扉を閉めた。

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