第489話 旧文明、白日の下に
イレーネ帝国の艦隊をやり過ごして航行を続けるコアレシアの艦隊。
その艦隊に所属するすべての将兵は理解していた、もうイレーネとの開戦を避けることはできないのだと。
同時に、彼らは生き残る道が戦い勝利する以外にないことを理解していた。
大陸において覇権を握っていたコアレシア、制海権を握り続けていたコアレシア……
その幻想が崩され、最強と自負していたその威容も打ち砕かれた。
そんな彼らに希望をもたらすものが海底大陸に眠っている、という軍部からの情報のみが彼らの希望であった。
「だれがいつ、このような正確な地図を作ったのだ? ほとんど解明されていないはずの海底大陸の地図を……」
出港の直前に艦隊に配布された、正確無比な海底大陸の地図。
そこには家も学校も軍事施設も、ありとあらゆるものが詳細に書き記されていた。
各提督たちは不自然に思いながら、そこに示された一つの赤い点に向かって進む。
提督たちは知らないが、この地図は実際に旧文明が作成したものだ。
本来は手に入らず、そしてコアレシアが常に求め続けていたもの。
それがなぜ存在するか、理由は少し前にさかのぼる……。
◇
「総統、何度も言っておりますが無暗に捜索を続けたところで目的のものを探し当てるのは困難です」
「軍の兵器は今まであてずっぽうで見つけていたではないか」
「……それは軍の設備は各地に分散して配置されているためです。この国でもそうでしょう? それと一点ものを探るのでは話が違います」
「せめて地図でもあればいいものを――」
そう思いながらノートンが机をたたいていると、突然肩をたたかれる。
誰かと思い振り返ると、そこには一枚のメモを持った副官がいた。
そのメモを見たノートンの顔は引きつり、慌てて会議室を出た。
「なぜあのお方がこんな時に……」
焦ったように足を力強く床に打ち付け、ノートンは速足で歩く。
残された将軍たちはその背中を、やれやれと言った表情で見つめていた。
そんな視線に気づくことなく、彼は官邸内の一室の扉をノックした。
「失礼いたします。ロキ様」
「……少し遅かったな。まあ僕は寛大だから許してあげるけどね。そういえば僕の貸してあげた艦隊はうまく動いているかな?」
「秘密の基地で整備中であります。空から判別できないよう偽装を施してありますので、まだイレーネは気が付いていないかと」
「そう? でも使わなければ意味がないからね。戦争が始まったら惜しみなく投入するんだよ?」
ロキは不敵に笑い、ノートンも苦笑いする。
ロキが以前にノートンに示唆していた艦隊の貸与による戦力の供給。
それはイレーネの監視の外で着実に進んでいた。
貸与された艦隊は、過去の海を航行していたもの。
奇しくも、【統帥】スキルによって構成されたイレーネの艦隊と同じ方法で調達されていた。
だが乗員はおらず、その訓練が必要であったのだ。
「……僕の貸した艦隊、一週間以内に出撃準備を整えてほしいんだけど。イレーネと、神の使徒と戦端を開くよ」
「一週間ですか? しかし戦闘に移る前に貴方様の体を回収する必要があります。それを同時にこなすのは――」
「僕が言ったのは、あくまでも一週間以内に出撃準備を整えてね、ってことだよ。一週間以内に戦闘を開始しろとは言っていないさ」
「!! も、申し訳ございません! 早とちりを――」
ノートンは冷や汗をかきながら、ひきつった顔で頭を下げる。
ロキの機嫌を損なえば、彼の命など簡単に消し去られる。
生物としての本能が、彼に恐怖を感じさせていたが……
「まあ構わないよ。君が無能なのは知っているからね。で、やってくれるかい?」
「も、もちろんでございます! 直ぐにでも用意させましょう!」
「うん、君のそういうところは気に入っているよ。……ではそんな君にプレゼントだ」
そう言ったロキは、一枚の紙を無造作にノートンに投げつけた。
ひらひらと舞う紙をつかんだノートンは、その内容に驚愕する。
それはコアレシアが長年地道に描き続けてきたが完成することはなかった、海底大陸の地図であった。
「な、なぜこの地図が……」
「この前、元老院の連中と一緒に散歩してきたときに見つけたんだよ」
「……といいますと?」
「古代の遺跡で、君たちの技術力では開けられない場所あったでしょ? あそこで拾ってきたんだよ」
ロキの言う古代の遺跡とは、イレーネも一つ保有しているガイアシリーズのことだ。
イレーネの物が起動したことでコアレシアが保有していたものも起動していたが、その会場にはいあっていなかった。
それを無理やりロキがこじ開け、中からこの地図を発見したのであった。
そして発見されたものは、地図だけではない。
海の底に葬られていたはずの数々の旧文明時代の遺産、情報……
それらがすべて、元老院の手に渡っていたのであった。
「他の物もすべて君に預けるのは不安だから、元老院の連中にあずかっておいてもらうことにしているよ」
「元老院に、ですか」
「そうだよ。君がこの国の総統、国家の指導者なのに実質的に権力を握っているのは元老院。君も大変な役割だねぇ。ま、君が選んだ道だから僕は否定しないけどね」
そう言い、ロキはノートンの肩をポンとたたいた。
そして冥府の扉を開き、その中へと姿を消す。
ノートンは手に持った地図を見つめ、そして何も言わず部屋を後にするのであった。
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