16足目 絵本と靴下②
「小春も今帰りだったか。」
「うん!」
「久しぶり小春ちゃん、今日も元気みたいだな!」
「かんちゃんだ!久しぶりー!」
二人で手を上げて挨拶している。
「お姉ちゃん達は...はじめまして?」
「はじめまシて!百束くんのクラスメイトの栗熊クララといいマす!よろしクね、小春...クん?チャん?」
「ああ、好きな方で呼んでくれていいから。」
弟って紹介してたからな、困惑するのも当然だ。
「え〜小春はちゃんがいいなぁ?」
「じゃあ小春ちゃんでスね、よろしクね!」
そういって握手を交わす2人。
「クララお姉ちゃんの話はにいちゃんから聞いてます!ぬんちゃんみたいな女の子だよって!」
「うーンと...?」
「オカルトが好きって伝えといた。」
「そ、そうでスか。それだけでしタか...。」
少し寂しそうにするクララ。もっと具体的な説明をしておいたほうが良かったか?
「こんにちは、青水ひなです。よろしくねミニモモちゃん」
クララの後ろからヌっと出てきた青水。
ミニモモはないだろう、相変わらず壊滅的なセンスだ。
「こんにちは!あおみ...あおみーだね!」
「私の話は?お兄ちゃんから何て聞いてるのかしら」
「何にも聞いてないよー!よろしくね」
「そう...」
いつもの無表情をこちらに向ける青水。
「なんで私の話は1つもしてないの?」
「声がでかいとでも言っておけばよかったか?」
「はぁ〜...私の容姿ならいくらでも褒め称えられるでしょう」
「言ってろ」
そんなやりとりを後ろから笑いながら見ていた甘太郎だったが、ひとしきり笑って落ち着いたようだ。
「小春ちゃん、今日これから遊びに行っていいか?」
「うん!みんなで遊びたーい!行こ!」
そういって早速クララと青水の手を引く小春。その後ろを追って、残り短い家路を歩いた。
ソワソワと落ち着かないクララ。
ボードゲームを吟味する小春に話しかけたいようだが...。
「じゃあ最初はこれ!」
選び終わったようだ。じゃん!と言わんばかりにみんなに見せてくる。
「小春ちゃん、遊ぶ前に聞きたいことがあるんでスが!」
「なぁに?」
「『ちきゅうのうらがわ』の続きって学校にありましタか?」
「うん!ぬんちゃんが用意してくれてた!...あ、うん。図書室にあった、って!」
「ほんとでスか!やっタぁ!」
立ち上がって喜ぶクララ。そこまで嬉しいものだったのか。
小春がランドセルを開けて本を取り出し、そのままクララへと差し出した。
「はい、どーぞ!...ゲームの前に読んじゃう??」
「いいんでスか!?」
「クララお姉ちゃんすごく読みたそうだし!」
今のクララを見たら誰だってそう言うだろう。
「読みたいって顔に書いてあるぞ」
「抑えきれてないもんな」
「かわいい、100点」
思ったことを口々に伝える一同。
「恩に着マす...!」
はにかみながらそう言うと、早速座って本を見つめ始める。
表紙や背表紙をじっくり見た後、俺たちにも本が見えるようテーブルの中央に置いてくれた。
「では読みマす。」
『ちきゅうのうらがわ➁』
『原初の水』と呼ばれる 神がいた
黒く黒くよどんだ その水の中には
『暗やみ』 『む限』 『ひ定』 が同じく存在していた
それぞれが男女で対になっている 計8体の神は
『原初の丘』という りく地をつくって過ごしていた
だが 世界が暗くにごり ほとんど何も見えないことに
うんざりした彼らは 光が欲しいと 1つの卵をうみだす
やがて 卵がかえると 中から飛び出してきたのは 『太陽』
太陽は光を放ち 空気をあたためて 風を生み 波を起こし よどんだ水に流れをつくった
波が引き りく地が増えるたびに あたらしい生命が生まれる
彼らはとても喜んだ 世界各地を飛び回り 自分たちが生みだした生物を見守ろうとした
だが 悲しいことに 彼らは こんとんをつかさどる神々
ずっと この世界にいることは できないのだ
自分たちの役目は終わってしまった 彼らはそうさとると
原初の丘 へと戻っていった
すると 卵がかえった場所に 1本の大きな木が 生えていた
神々は その大きな木を とても気に入り 原初の丘一帯を飲み込んで 地中おくふかくへと もぐっていった
飲まれた丘には すでに たくさんの生物がいたため
地上と変わらない りっぱな生たい系が 存在していた
ねむる直前には 木の管理をさせるべく エナトスとよばれる守ご者を生み出した
「私たちが 再び目ざめるころには おそらく ちきゅうは ほろびているでしょう。ほろびたらまた つくりなおします」
そう告げると 神々は深い深いねむりについた
3かんへ続く 次回「地底都市ってそうなんだ!」
クララが本を閉じると、パタンと音が鳴る。
「...神話になっちゃったな」
沈黙を破るように甘太郎が言った。青水は目を閉じ、クララは俯いている。
オカ研の期待してた内容と違かったか?
「モモくん...」
俯いたままクララが話しかけてくる。
チラリと甘太郎にアイコンタクトを送るが目を逸らされた。
小春は...いつもと変わらず楽しそうだ。
「な、なんだ?」
「この本...すごいデす!」
「すばらしいわね」
そっちか。2人の感性がよくわからん。
「お二人さん的にはどの辺りが良かったんだ?」
「カンちゃん、この本は地底に生物が住んでいるという大きな証拠になっているのよ」
「前回と文体が違うところは気になりますが...エナトスという地底人がどうやってうまれたのかも示していマす。」
唸りながら考えているクララ。そんなにメッセージ性があったとも思えないが。次巻の案内も違和感がすごい。一気に軽くなっている。
「ミスター、スキャナーとかプリンターはあるかしら?」
「あるけど...またコピーする気か?」
「ええ。販売も頒布もされてないならこれしか方法がないから」
まぁいいか、書き写せというのも酷な話だ。
「テレビの脇にあるから好きに使ってくれ。」
「ありがとう」
そう言って本を1ページずつコピーし始める。
「じゃあゲームしよー!」
「お!やるか!じゃあ俺が出そうか。」
甘太郎が小春のためにボードゲームの準備を進めてくれる。
考え続けるクララに小声で話しかける。
「クララ、ゲームできなそうなら無理にやらなくてもいいぞ」
「あ、いえ!読みたいって衝動は収まりましタし、小春ちゃんと遊びたいのは私も一緒ですカら!」
にこりと微笑む。色々考えたいことがあるだろうに、本当にいい子だ。なんでオカ研の部長なんてやっているんだろうか。
「そっか、小春のためにありがとうな。ちょっと飲み物取ってくるよ」
「あ、私も手伝いましょウか?」
「大丈夫大丈夫。クララはゆっくりしてて」
冷蔵庫を開くと飲み物がお茶しかなかったが、まぁいいだろう。人数分のコップと簡単につまめる菓子を適当に盆に乗せテーブルへと運ぶ。
あれ?青水がいない?先程まで本をコピーしていたはずだが。
「誰か青水がどこに行ったか知ってる?」
知らなーい、と横に首を振る一同。何か嫌な予感がするな。
「小春、みんなにお茶注いでおいてくれ」
「はーい!」
リビングを出てトイレを確認するが、明かりがついていない。
2階に上がったか?
階段を上り、鍵のかかった親の部屋以外を回ってみる。
が、やはりいなかった。
一度リビングに戻ろうと階段を降りると、玄関にしゃがみ込む青水の姿を見つけた。
「青水...?何してるんだ?」
「...やあミスター、洗面所に君の靴下がなかったのでね。こうして靴を嗅がせてもらっているわけだ」
立ち上がり振り返った青水は、さながらトランシーバーのように靴を持ち、フゴフゴとそう言った。




