15足目 アンテナと靴下
ソファーに寝転び、先程の口切が言っていた言葉を思い返す。
『私たちにはあなたの靴下が必要なの』
私たち、ってなんだ?
店長さんも事情を知っているようだった、ということはグルなのだろうか。...でも店長さんが求めているのは『協力』に思えた。口切のしていることとは真逆だ。
「にいちゃんあそぼ!」
何かあったら喫茶エナトスへ行けばいい、それが分かっただけでも大きな収穫か。
「よしきた」
勢いよく身体を起こし、思考を吹き飛ばす。
ここ最近、やたらとボードゲームが強くなった小春。様々なゲームをしたがるので一緒に遊んでみるが、どれもこれも負けに終わる。
そして、例に漏れず今日も惨敗。
「小学生に全敗したのか俺は...」
「へへ〜そういう日もあるよ、おにーちゃん?」
次までにコツでも掴んでおこう。兄として、このまま負けっぱなしは悔しすぎる。
こうして穏やかに日曜が過ぎ去っていく。
来週は問題ごとに遭遇したくないな...。
今日は水やり当番。朝の支度を済ませていつもより早めに学校へと向かう。
制服のまま畑に水をやっていると後から番長がやってきた。
「よ、おはようモモ!」
「おはよ。」
「水やりありがとな。あと部長の手伝いも。」
「おう。みんなの役にも立ちたかったしよかったよ。」
「あんまり卑下するなよ、もっと胸張って気楽に...じゃなかった。この前、口切について聞いてきたろ?」
ちょうどまき終わった水を止め、番長の方を向く。
「あ、たんこぶのせいで途中までしか聞けなかったやつか。」
キョロキョロしながら近づいてくる番長。小さい声で話すような内容なのだろうか。
「そうそう。実は変な目撃情報があってさ。」
「変?」
「うん。放課後、どこの部活にも所属していないのに授業棟や部活棟をフラフラしてるところを目撃したとか」
「ふむ」
「更衣室を遠巻きにじーっと見てたとか」
「ふむふむ」
「あとはお前のクラスの掃除用具入れから出てきた、なんて話もあったぞ」
「あ〜」
なんか分かってきた。そして皆に見られてるじゃないか口切。
それに気づかなかった俺は一体...?
「何か知ってるのか?...おいモモ?どこ見てるんだ?」
番長が目の前で手をヒラヒラと振る。
「お、すまん。なんだかやっと繋がった気分で...」
「何言ってんだ?...口切に関することで知ってるのはこれくらいかな。まぁアタシも聞いた話なんだけど。」
「助かったよ、ありがとう番長」
「よし。じゃあ伝えたから先に行くわ!もうすぐ予鈴鳴りそうだから気をつけろよ!」
時間を確認すると、本当に時間がない。のんびりしている場合じゃなかった。
ホースを高速で巻いて片付けを終わらせ、教室へと急いだ。
「モモくん、お願いがあるのデす」
休み時間に入ると、クララが手を合わせてそう言った。
「どうかした?」
「今日の放課後ヒマであればお家に行ってもいいでスか...?」
「俺の家?あ、絵本のことか。」
「ハい!休みの間、興奮と考察であまり眠れていないのデす。早く続きを知りたクて...。」
モジモジするクララ。
横で聞いていた甘太郎が口を開ける。
「そんなに気になる内容だった?俺には子ども向けの本にしか見えなかったけど」
「ええ、思わずコピーして1ページずつじっくりと観察する程度ニは...」
「え?コピーしたの?」
「悪いことだとは思いつツも...」
困り顔でテヘヘと笑うクララ。
※良い子は絶対に真似しないでね!
その時、開いていた教室の扉が勢いよく閉まり再びガラガラッと音を立てて開いた。
「思いつつコピーした理由はしっかりあるのよ、ミスター。」
でかい声でそう言い放つ。青水だ。
なぜわざわざ一度閉めた?
「実はね、あの本には出版社も著者も書いていなかったの」
「著者?」
近づいてくる青水に対し、甘太郎が疑問を投げかける。
「そうよカンちゃん。あの本には発行年数等の書籍情報が載っているはずの奥付がなかったの。」
「今では無いことも多いのですが、バーコードもなかったデす」
「そうだったのか。全然気にもしていなかった。」
「背表紙もまっさら。どこで販売されてるかもわからない。寄贈品や無料配布されたものという線も考えたのだけれど」
「出版元や会社名が書いてないハズがないんですヨね。」
「じゃあ、あの本は誰かが個人でつくったって事か?」
甘太郎が腕を組んで頭をひねっている。
「そこがクララのアンテナに引っかかっているのデす。」
「私達の協議の結果、早く続きを読みましょうってことになったのよ」
えらい短絡的だな。
「で、モモの家に直接行ってみると。」
「別にいいけど…小春が今日見つけて持ち帰ってくるって保証もないぞ?」
「ふむん、もし本がなかったらその時は弟君に直接話を聞いてみたいわ」
クララもこくこくとうなずいている。
家に来るくらい別にいいか、今日は部活もないし。
「オッケー、じゃあ放課後モモんちな!」
「なんで甘太郎が言うんだよ!うん、いいよ。大丈夫なんだけどさ...」
まぁ、クララが顔をほころばせているので良しとしよう。
「じゃあ私は戻るわね。百束邸、楽しみにしておくわ」
「普通の一戸建てだぞ。」
振り返らずに去っていく青水。その後すぐ予鈴が鳴り、再び授業が始まった。
ホームルームが終わると同時に青水が教室に入ってくる。
「行くぞ諸君」
「おい青水、頼むから空気を読んでくれ。」
チラリとキバちゃんの方に目をやると、案の定ジロリとこちらを見ていた。
「気にするなミスター。私は気にしていないぞ」
「俺が気にするんだよ!」
いつまた呼び出されるかもわからないしな!
「ほらさっさと行くぞー。」
「いきまショう!」
話してる間にクラスも喧騒を取り戻し、クララと甘太郎も準備ができたようだ。
「それじゃあ出発デす!」
昇降口を出てハイテンションのクララが前を歩いていく。
「クララちゃん楽しそうだな。でもお前んち分かるのか?」
「いや、知らないと思うけど」
「ふむん。おもし…せっかくだからこのまま歩かせてみましょう」
青水と甘太郎がこちらに向かって親指を立てる。まあ俺もちょっと見てみたいしいいか。
2人に親指を立てて先導するクララを見守ることにした。
軽い足取りで前を歩くクララ。顔は見えないが楽しそうだ。
校門を出て少し歩き、先週途中まで一緒に帰った曲がり角まできた。
この後はどうするんだろうか…と思ったが、迷うことなく俺の家方面に向かって歩き続ける。
「多分この辺りまでしか知らないと思うんだけど」
小声で二人に話しかける。
「ふっふ、クララちゃんのアンテナはあらゆるオカルトに通じているのよ。オカルト靴下の家なんてすぐ見つかるわ」
そういえばまだ口切のことを話していなかった。
まだ靴下が消えるのを怪現象だと思っているようだが、今は話さなくていいだろう。
「アンテナってあの頭頂部の毛のことか?」
甘太郎の口から口切の件が出ないよう目配せする。
「...そういや靴下のことがバレたときもアンテナが、とか言ってたような?」
アイコンタクトでなんとなく察してくれたらしい甘太郎。適当に流してくれたな、さすが親友。
更に後ろを追って歩いていると、クララが急に立ち止まった。
「むムむ。なにやら2方向に大きな反応を感じマす。」
「反応?なんだそれ。」
「しっ!ミスター静かに」
頭に人差し指を当てて悩んでいる様子のクララ。ちなみにうちはこの十字路を右だ。
「う〜〜〜ンと、こちらの反応の方が大きいでスね!」
そういって指をさしたのは左。残念、ハズレだ。
「クララ、残念だが家はこっちだ。」
「え〜〜そんナぁ!」
「そんなに悔しがることないぞクララちゃん、むしろここまでわかっただけすごいぜ。」
甘太郎と一緒に頷く。
その時だった。クララが指さしていた左の角から、ひょっこりと小春が出てきた。
「あれ?にいちゃん?」




