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俺の靴下が片方ないっ...!!  作者: 三食咖哩
14/29

14足目 アルバイターと靴下

店の前に到着すると、大量のスタンドフラワーは既に消えていた。圧巻の光景だったので、少し物悲しさを感じる。


「にいちゃん、ぼーっとしてないで入ろうよ!」


「ああ、ごめんごめん」 


ソワソワしていた小春に続いて店に入る。


「いらっしゃいませー。」


やる気のなさそうな声。店長さん以外にもスタッフがいたんだな、と目を向けると、そこにはエナトスの制服を着た口切の姿があった。思わず口を開けて固まってしまう。


「こんにちは〜!2人です!」


事情を知るはずもない小春が元気に告げると、


「こちらへど...うわ!」


明らかに俺の顔を見て言ったぞ今の。


「ど...どうぞ」


嫌そうな顔で案内される。

その後メニューと水を置くと、逃げるように他テーブルの片付けへと向かっていった。ここでアルバイトしてるのか...。


「にいちゃん小春これ食べたい!」


目を輝かせながら指を指したのはチョコパフェ。


「せめてご飯食べてからデザート決めてくれ...」


「じゃあこっち!」


「ハンバーグオムライススパゲティ?ボリュームありそうだけどまぁいいか」


俺は明太クリームのパスタにでもしておこう。


「すいませーん」


昼のピークが過ぎて客もまばら。呼んでみるがこちらを見ようともしない。露骨すぎるだろ。


「すいませーーん!」


大きめの声を出す。これはどうだ?


「...」


シカトかい!小春もどうしたんだろうねぇと首を傾げている。


「...口切〜!」


「ちょっと、わざわざ名前呼ばないでくれる!?」


すぐに反応した。ズカズカと近づいてきたが逆キレ気味だ。


「めぐるちゃん?どうしたの〜?」


その時、前回同様カウンター下から店長さんが出てきた。


「あら、百束くん。来てくださったんですね〜!」


「こんにちは。」


「こんにちはー!」


小春も元気に挨拶する。


俺と口切を交互に見て、うーんと首を傾げる。


「めぐるちゃん?」


「はい!?」


声がうわずっている。


「百束くん達が何かしたんですか?」


「い、いえ何も!」


「友好的にお願いします。と言っていますよね〜?」


「すみません...」


シュンとする口切。他の客にもこんな応対をしているのだろうか。


「失礼しました。めぐるちゃん、こちらに来て日が浅いんですよ。」


「はぁ。」


違う県から引っ越しでもしてきたのかな。


「店長さん注文お願いしまーす!」


「あら小春ちゃんごめんなさいね〜。めぐるちゃんお願いできる?」


「はいっ!お伺いします!」


動きがぎこちない。無理してるなあ。


注文を済ませると、オーダーを店長さんに伝えて仕事に戻っていく口切。


「あの店員さん面白いね?」


「おい小春聞こえるぞ。」


目をやると口切と目が合う。何故か俺が睨まれる、完全にとばっちりだ。



小春と少し話していると店長さんが料理を運んできた。


「お待たせしました〜、ハンバーグオムライススパゲティは百束くんでよかったかな?」


「小春だよー!」


「あらごめんなさい、小春ちゃんいっぱい食べるのね〜」


小春の前にゴトリと皿が置かれた。遠目でも思ったが、やはり結構なボリュームだ。小春が残した分は頑張って食べよう...。いや、食べきれるか?


「うん!いただきまーす!」


キラキラと目を輝かせて食べ始める。


「もし食べきれない場合は持ち帰り用の容器をお渡ししますので言ってくださいね〜」


「ありがとうございます。」


思わず胸をなでおろす。


ムシャムシャと勢いよく食べ始めた小春を見ながら、ゆっくりと自分の分を食べ始めた。





「にいちゃん、ギブアップ」


勢いがあったのは最初だけ。結局半分も食べないうちに、小春が音を上げる。かと思えば、


「ケーキ食べたーい!」


「しょうがないな...パフェじゃなくていいのか?」


「今はパフェの気分じゃなくなっちゃった。」


「そうかい。」


店長さんを呼び、持ち帰り容器をもらうついでに仕方なくケーキを注文する。


いつの間にか客は自分たちだけになり、口切の姿も見えなかった。休憩にでも入ったのだろうか。


「ケーキ!ケーキ!」


「さっきまで苦しんでたのは演技か?」


「違うもーん。」


程なくして店長さんが近づいてくる。


「おまたせしました、チーズケーキと容器です。」


「わぁい!チョコのケーキも乗ってるよ?」


「オマケです。食べてみてね〜」


「ありがとうございまーす!」


ケーキを食べ始める小春。


「オマケまでいただいてありがとうございます...」


店長さんに頭を下げ、俺はもらった容器に小春の食べ残しを詰め始める。


すると、すぐ隣の卓に座りこちらを見る店長さん。


「百束くんちょっと話をしたいんですが...」


「どうかしたんですか?」


「めぐるちゃんとはうまくやってますか?」


「口切と?うまくって何でしょう」


「え?何も話してないんですか?私達のこととか」


さっぱり話がつかめない。ポカンとしていると、店長さんが立ち上がり耳打ちしてきた。


「靴下についてなんですが」


ふんわりとした店長さんのハチミツに似た甘い香りが鼻を掠め、耳元で囁かれる。なんとも言えない多幸感に襲われたが、すぐに正気に戻る。


「く、靴下!?」


「にいちゃん?靴下がどうかしたの?」


「いや、なんでもない。今日は靴下いっぱい買っちゃったな〜〜って。」


「そうだね〜!」


ケタケタと笑いながらケーキを再び食べ始めたので、店長さんに目配せする。


「小春、にいちゃんあっちで店長さんと話してるからゆっくり食べててくれ」


「はーい!」


カウンターに移動すると、向かい合った店長さんが困ったような顔をしていた。


「百束くん、めぐるちゃんと初めてお話したのっていつですか〜?」


「えーっと...金曜日、一昨日ですね。」


頬に手を当て、ため息をつく店長さん。


「じゃあ最近靴下をめぐるちゃんに渡したりとか...」


「渡す、というか取られてますね。」


「...そっかぁ。もう、しょうがないなぁ〜めぐるちゃん」


口調は変わらないが、明らかに怒気を含んでいる。


「店長さん?」


「あ、ごめんね〜。5分だけ待っててくれる?めぐるちゃん連れてくるから。」


「は、はい。」


ニコニコした顔は崩さないまま、喫茶店の奥へスーッと消えていった。


店長さんは口切が俺の靴下を持っていたことを知っていた?なぜ?


考えていると、店の奥から物音と話し声が聞こえてきた。

なにを話しているかまでは聞こえなかったが――


「――様!ゆる――ぁああははは!!」


騒がしいな、大丈夫かな。

やがて声と物音が聞こえなくなると、奥から店長さんと口切が現れる。


「おまたせしました〜。ほら、めぐるちゃん?」


「はぁ、はぁ」


顔を赤くして息を切らす口切。 


「息切れしてるが大丈夫か?」


「気にしないで。はぁ...靴下を取ったことは事実よ。その、ごめんなさい。」


「ああ。理由は教えてくれるのか?」


「ええ。端的に話すと、私たちにはあなたの靴下が必要なの。はぁ。」


「うん。なんで?」


口切はチラッと店長さんの方を見てから、再びこちらを見据えた。


「ふぅ。――どんな理由があってもあなたみたいな変態と仲良くするつもりはないから!」


そういって店を飛び出す口切。


「こら〜!めぐるちゃ〜ん!?」


チリン。と扉が閉まり、静けさだけが残った。


「店長さん。」


「はい?なんですか?」


「俺の靴下が必要ってどういうことなんですか?」


当然の疑問をそのまま聞く。


「う〜〜ん。こればっかりはめぐるちゃんにお話してもらいたいんですよね〜。当事者として。」


「えぇ...?」


「というか百束くん、めぐるちゃんに何かしたんですか〜?あの子、人をここまで避けることはなかったんですが。」


「えっと、直接はなかったと思うんですが...。」


「間接的に変態と呼ばれるようなことをしてしまったんですね〜?」


「事故みたいな事件なんです!」


「にいちゃん何の話してるの?」


突然真横から小春が参加してきた。


「うわ!びっくりした!食べ終わったのか?」


「うん!すっごくおいしかった!店長さんごちそうさまでした!」


「喜んでもらえて何よりです。」


小春が入り込んで来てくれたおかげで助かった。が、靴下の件を詳しく聞けなくなってしまった。


どうしようか考えながら会計を終えると、店長さんから切り出してくれた。


「百束くん、後日ちゃんと説明するようめぐるちゃんに言っておきますね〜。」


「お願いします。」


「うん〜。あと私からもごめんね。多分これからも迷惑かけちゃうと思うから。」


「え?」


まだ続くんですか??この靴下騒動?


「2人にはサービスしますから、またいつでも来てくださいね〜。」


「店長さんありがと〜!また来ま〜す!」


笑って手を振りあう二人の様子をみていたら、食べ過ぎかストレスか分からない痛みが胃を襲い始めた。



店を出てすぐ、聞いた話を整理しようと顎に手を当てていると小春に服を引っ張られる。


「にいちゃん?帰ろ?」


「ごめんごめん。」



とにかく頭の中を整理したい。そう思った俺は、小春に競争を持ちかけることで素早く帰宅することに成功した。

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