13足目 剪定と靴下
入浴後、スマホを覗くと何件かの通知が来ていた。
「弟さんに聞いていただけましたか?」
クララからだ。月曜に探してきてくれるという小春情報をそのままクララにKINEで伝える。
続いて園芸部のグループトーク。肥田さんが明日の午前中、残りの剪定を終わらせるつもりらしい。
間木さんが手助けに行くと言っているようだったが、「俺が行きますよ」と伝える。
いつも頑張らせてしまっている先輩の為。ここは俺がやらせてもらおう。
「じゃあモモちゃんお願いね♡」
肥田さんからハート付きで返ってきた。集合時間と週明けの活動予定もそれとなく聞く。
先程から甘太郎のトークがポップアップで表示されて邪魔だ。
まぁ口切のことを話したかったしちょうどいいだろう。
「よお、KINEみた?今日さぁ――」
「甘太郎ストップ。その話あとで聞くからまず靴下の話させてくれ。」
「つれないなぁ。ま、それも聞くつもりだったしいいや。」
「サンキュ。」
それから隣のクラスにいる口切めぐるという女子が靴下を持っていたこと、強奪されたことをぼかして話す。
「場所とか曖昧でイメージしづらいんだけど?」
事故とはいえ女子と接触したなんて、コイツが知ったら後が面倒なのが目に見えている。
「甘太郎の宇宙的想像力でカバーしてほしい」
「こいつなんか隠してんな怪しい」
鋭いな。言わないけど。
「理由も方法は分からずじまい、にしても犯人がわかっただけいいのか?」
「口切だけに気をつけておけばいいわけだから前よりはマシだと思うんだけど」
「ハハ、もう1人や2人奪いに来るかもしれないぞ」
「まさかぁ。お宝でもあるまいし...」
軽口をたたいて2人で笑う。
「んで、これからどうするんだ?」
「やっぱり本人に聞いてみるしかないよ。」
「助けがほしいときは言ってくれ。まぁ他の奴に聞き込みで調べるくらいしかできないけどな」
「ありがてぇ」
「じゃあ次は俺の番だな!」
忘れてた。こいつの話面白いけど長いんだよなぁ...
それから約2時間ほど喋り倒し、風呂に入ると言って切っていった。自由な奴だ。
小春の部屋を覗くと既に明かりを消して寝ているようだ。
ふと、机の上あたりでほんのりと光るものを見つける。入り口から目を凝らしてみるが暗闇でほとんど見えない。
光るおもちゃか?それともナイトランプ的なものだろうか。そもそもそんなもの持っていただろうか?
まぁいいか。
あくびをしながら自分の部屋へと戻る。ベッドに入ると瞬く間に眠りへ落ちていった。
朝、学校に着くと早速雄叫びが聞こえる。運動部の掛け声ではない。
もう始まっているようだ、はやく準備をしなくては。
早速着替えて一輪車を押し走る。小春のためにも早く終わらせなくては。
「肥田さーーん!!おはようございまーす!!」
「あらぁおはよ〜!今日もよろしくねぇ〜!」
挨拶をしながらも凄まじい動きで剪定を続ける肥田さん。流石だ。
「よろしくお願いしまーす!」
肥田さんのウインクを躱し、散らばった枝葉を一輪車に積み始める。放課後にした時よりも身体が軽い。これならどんどん運べるぞ!
ところが焼却炉まで数回往復したところで肥田さんがはしごから降りてきた。
「モモちゃん、少し休憩。水分取りましょ」
「俺だけでも動きますよ?まだ始めたばかりですし...」
「ワタシが1人じゃ寂しいの。ちょっと付き合ってちょうだい?」
言われるまま、水筒を持って中庭の芝に座り込む。
「あ〜疲れたわぁ。」
そういって大の字に転がる肥田さん。
「いつから始めてたんですか?」
「言っても1時間前くらいかしら」
「なんかすみません...」
「いいのいいの!モモちゃんが来る前にできるだけ進めておきたかっただけだから、気にしないで。」
「そうですか...」
そうはいうものの、先輩が先に来て作業をしていたということに気後れしてしまう。
「ふふ。モモちゃんも先輩になったら気持ちがわかるわよぉ」
「そんなものですかね?」
「そうよぉ。...それより靴下の件はどうなったのかしら」
ムクリと起き上がりこちらを見つめる肥田さん。
うーん、犯人が見つかったって言ったら本当に締め上げに行きそうで怖いな...。
「まだ見つかってません。」
「そう...ちなみにストーカーは続いてるの?」
「ま、まぁ。でも黄葉先生にも伝えてみました!」
事故に事故が重なった結果だったけれども。
「あら、キバちゃんに伝えられたのね。なら大丈夫かしら」
「おそらくは。」
「ワタシもストーカー探しに協力したいんだけど心当たりはないのかしら?」
「心当たり、ですか。うーん」
そういえば考えたことなかったな。今更ながらなんでだろう。
「まずストーカーはね、気づいてほしい!すきすきぃ!だけじゃないのよモモちゃん。」
「そうなんですか?」
「えぇそうなの、例えばすごく嫌いな相手に粘着して嫌がらせするのもストーカーよ」
「へぇ〜!...あ〜なるほど。」
「あら、心当たりあった?」
あそこまで嫌われている理由、か。
考えてみれば青水靴下吸入事件より前から靴下を取られている。
変態呼ばわりされるより前に何か嫌われることをしていたのだろうか...?
「いえ、何も。本当に心当たりがなくて頭がパンクしそうです。」
「そう...。じゃあ身体を動かして頭もスッキリさせましょ!」
膝を叩いて立ち上がる肥田さん。
「はい!」
元気に答えて立ち上がる。口切を頭の片隅に追いやり、再び一輪車を押し始めた。
校内樹木の剪定が全て終わり、一輪車押しも今フィニッシュ。なんとか昼前に終わってよかった。
「モモちゃんおつかれ〜!ほんとに助かっちゃったわぁ!」
「いえいえ。先輩はもう帰るんですか?」
「そうね、ワタシも帰るわ。張り切りすぎて疲れちゃった。」
お疲れ様でした、と挨拶した後2人で更衣室へと向かう。
ポケットの靴下確認。
よし、今日は両足とも入ってるな。
ロッカーを開け、着替える最中も目を話さないよう必死に靴下を睨み続ける。
「目つきがすごいことになってるわよ?」
「あはは...つい。」
前回は一瞬の間にロッカーの中から出てきて取られたんだよな。...もしや今日もロッカーの中にいる...?
試しに件のロッカーの前に立ち、取っ手に手をかける。
引っ張ってみる――が、鍵も刺さっていないのでそもそも開かない。
「モモちゃん?そのロッカーがどうかしたの?」
「いえ、何か音が聞こえた気がしたんです。」
もちろんしていない。ただ確認したかっただけだ。
「でも鍵もないですし、中にしまったホウキ達が倒れたりしただけかもしれません。」
「あらそう。」
今度こそ靴下が無事なまま着替えを終え、更衣室を出る。
肥田さんと一緒に職員室へと鍵を戻し帰路についた。
「にいちゃんおかえりー!」
「ただいま、小春。」
「お外でお昼楽しみだなー!何食べようかなー!」
無事に約束が守れそうでひと安心。だが、その前に。
「にいちゃん汗かいちゃったから、エナトス行く前にシャワー浴びてくる。」
「はーい!はやくねー!」
そういってリビングでテレビを観始める小春。
俺もお腹が空いたしサッと入ってしまおう。
「小春、おまたせ。」
シャワーと着替えを済ませ、玄関でスタンバイしていた小春に声をかける。
「もーにいちゃんおそいよ!」
とプリプリしながら早速靴を履き始める小春。
ごめんごめんと言いながら、その横で俺も靴を履く。
「今日は外食にしゅっぱーつ!」
「おー」
いざエナトスへ。小春は満足してくれるだろうか。
「にーいちゃんとおっひる、えーなとすおっひる!」
...さっきまでの怒りはどこかへ飛んでいってしまったらしい。即興で歌を歌い、踊るように跳ねる小春の後を、やや早足で追いながら店へと向かった。




