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俺の靴下が片方ないっ...!!  作者: 三食咖哩
12/29

12足目 雑貨屋と靴下

幸いなことに気を失っていた時間は短かったようで、ほとんど時間が経っていなかった。


本日3回目の保健室で氷嚢をもらい、後頭部を冷やしながら帰路につく。


今週は散々だったな。問題しか起きていない気がする。

...だがそれも今日までだ。まだ分からないことは残っているが、来週からは全力で守りに行くからな。





「ただいま〜」


小春の迎えがなかったので自分で鍵を開けて家に入る。


リビングの前まで来たところで、小春が誰かと話している声が聞こえる。

友達でも来ているのだろうか。


「小春?ただいま...」


ドアを開けて入るとそこには小春の姿しか無かった。


「あ、にいちゃんおかえり!」


「ただいま、誰かと話してなかったか?」


「うーんと。うん。ひとりごと!」


独り言か。


「そっか。遅くなっちゃってごめんな、お昼つくろうな」


「小春おにぎり作って食べちゃった!」


「1人で作ったのか、偉いなぁ。」


ニコニコする小春の頭を撫でてキッチンへ向かう。


「にいちゃんもおにぎりにしとこ」





「小春。行きたいところはあったか?」


つくったおにぎりを食べながら、小春に話しかける。


「うーんお散歩?」


「なかなか渋いな。お散歩ならついでに兄ちゃんの買い物にも行っていい?」


「うん。いいよー!」


持っていかれた分の靴下もタダではない。買い足しておかないと。





「しゅっぱーつ!」


「鍵閉めるからちょっと待ってな」


無邪気に玄関を出た小春に続く。


「にいちゃんの用事から済ませちゃおうな」


「うん!」


商店街の一角に学校指定品を取り扱うお店があるため、まずはそこへ向かう。


「小春。あの借りてきた本って続きあるの?」


「つづき?どうだったかなぁ。ぬんちゃんが見つけてくれたから!」


また出た。ぬんちゃんは一体どんな子なんだろうか。


「そっか。じゃあ月曜にでも聞いておいてくれるか?また見つけてくれるかもしれないし。」


「はーい!にいちゃんあの本気に入ったの?」


手を上げて返事をした後、そんな質問が飛んできた。


「そうだなぁ、にいちゃんより友達が気に入ったんだってさ」


「えー!どんな人??」


目を輝かせて聞いてくる。前見て歩かないと危ないぞ。


「クララっていうクォーターの女の子。オカルトっていう...不思議なものが好きな子かな」


「へー!くおーたーってなに?」


「簡単に言うと身体の1/4が日本人ってことかなぁ。」


「ほー!じゃあオカルトっていうのは?」


「小春の友達の、ぬんちゃんが好きなもの...って言えば分かるか?」


「あ、なんとなく分かった!」



少し話しているうちに目的の店に到着する。


もう取られるつもりは全くないが、もしもという時の為に靴下を多めに買い足す。

学校の指定があると適当なところで買えないのが面倒だよなぁ。


「にいちゃん靴下そんなに買うの?」


「あ、ああ。すぐ穴開くし汚れちゃうからな。」


「そっかぁ、にいちゃんも大変だ〜。」


苦し紛れに答えたが小春もなんとなく思っただけのようで、それ以上の追求はなかった。



会計を済ませ店の外へ出る。


「次は小春の番だな。散歩って言ってたけど何か行きたいところとかないのか?」


「じゃあ雑貨屋さん行きたい!お店の前がすごいんだよ!」


「雑貨屋って駅前の通りにあるお店?」


「うん!!」


確かアンティーク系の雑貨を取り扱っている場所...だったと思うんだが何があるんだろうか。





「ほら、みてこれ!にいちゃんに見てほしかったんだ〜!」


「うわぁ確かにすごいな!」


ショーウィンドウに飾られていたのは美しい人形たちだった。


近づいてそのうちの一体をまじまじと見つめる。目がくりっと大きく、引き込まれそうなほどに鮮やか。深みのある髪は綺麗に手入れされ、俺よりよっぽど毛艶もいい。あと服。俺の着ている服より断然お高そうだ。

値段は...『ask』。これは高いぞ〜。


「にいちゃん、お店入ってもいい?」


「いいけど頼むから商品壊したりしないでくれよ」


は〜い!と返事をしながら店内に突撃する小春に続く。


「いらっしゃいませ!」


「こんにちはー!」


「あらこんにちは。今日一緒に来てくれたのは...お兄さんかな?」


「あ、こんにちは。兄です。」


なんだ、小春は顔見知りだったのか。


三冬(みふゆ)お姉さん、今日もお人形綺麗だね〜!」


「ふふ、ありがと小春ちゃん。お兄さんも来てくれてありがとう。」


「小春に見てほしいものがあると言われまして...」


「小春ちゃん、よく遊びに来てくれるんです。にいちゃんも連れてきたいな〜って言ってたからそれが叶ったのね。」


「えへへ〜!」


三冬さんと呼ばれた店員と俺の顔を交互に見てはニコニコする小春。


「俺も見れてよかったです!すごく綺麗ですけど何という人形なんですか?」


「球体関節人形っていうんです。関節が自由に動くのでポーズも取りやすいんですよ。」


「へぇ〜。それであんなに活き活きとしてるんですね。」


「そう見える?ならよかった。あの人形たち、実は私が作ったものなの。」


「あの人形を!?すごい...。三冬さん、作家なんですか?」


「え!私が作家なんてとんでもない!独学で作った子たちよ」


「小春、お姉さんがお人形作ってるの横で見たりしてるんだ〜!」


いいでしょ、と言わんばかりに胸を張る。


「ご、ご迷惑じゃなかったですか?」


「むしろ助かったわ。ひとりで作業してると息が詰まっちゃうから。」


「いっぱいおしゃべりしてるんだよ〜!」


「「ね〜」」


本当に仲が良さそうだ。


「なんで人形を作ろうと思ったんですか?」


「あー、それはね。このお店を継ぐ前の話になるんだけど...聞きます?ちょっと恥ずかしいなぁ。」


「小春もまた聞きたーい!」


すみません、と目で訴える。


「...私、世界を回って旅をしてたの。お店を継ぐための勉強、といえば聞こえはいいけど実際はほとんど観光でしたけどね。」


「とある街のドール専門店が、ショーウィンドウで一体の人形を展示していたの。その人形を見た瞬間、心が跳ねたわ。」


「運命だと思った。でも、当時の私はとても手の出せない値段でね。その国を離れるまでお店の前に毎日通ったわ。お店の人に頼んでスケッチも許してもらったんです。」


「その後はどうなったんですか?」


「帰国してお店と人形の勉強を始めたわ。何年か経った後、もう一度そのショップに行ってみたら既に買われちゃってたんですけどね。」


「そうですか...」


「あの一点物は手に入らなかったけど、まだ諦めてないの。それで人形を作り始めたんです。」


大切そうに紐が結んであるスケッチブックを取り出す。


「お姉さん、絵も上手なんだよ!」


「小春ちゃんなんでも褒めてくれるから私照れちゃう。」


開いて見せてもらったページには美しい人形が描かれていた。


「綺麗ですね...このお店に飾ってあるのと同じくらい。」


「ありがとう。でもね、私の絵も人形も、当時私が見たあの人形には到達していないんです。」


「え...充分美しい人形だと思うんですが。」


「もし完成したら小春に最初に見せてくれるんだって!」


「「ねー」」


理想が高いなぁ。こうして職人が生まれていくんだろうか。


その時、壁にかかっていた一際大きい時計が鳴り始めた。

不思議な心地よさを感じる低めの音だ。

チラリと見ると地球がモチーフの時計のようだ。


「にいちゃん、時計が鳴ったから帰ろ!三冬お姉さんまたねー!」


「あ、ああ。冷やかしみたいになってしまってすみません。」


三冬さんに向かって頭を下げる。


「いいのいいの!むしろ小春ちゃんのおかげでお客さん増えてるくらいですから。」


「そうなんですか?」


「華があるとお店も助かるんです。お兄さんも是非また遊びに来てね。」


「ありがとうございます。次は他の商品も見せていただきます。」



店の外に出ると、日が傾き始めている。


「さ、今日は帰ろうか。」


「うん!」


小春と手を繋ぎ、家までの道をゆっくり歩いて散歩を楽しんだ。

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