第7話 穏やかな日常
城内に2階にある中央階段の踊り場にはある噂がある。
その噂は南に位置している中央階段の踊り場にある大きな鏡を深夜1時に見ると自分の未来が見えるという。
数ヶ月前。私はそんな噂がある場所に訪れ、深夜1時になった所で突如として鏡がまばゆい光を放ち、バランスを崩して鏡の中の世界に入り込んだのである。
色々あって元の世界に帰ることはできたのだが、時折ふと思い馳せてしまう。
あの緑深いて森林で出会った喋るチャシャ猫、そしてチャシャ猫の知り合いである白ウサギは元気にしているだろうかと。
「殿下、入ってもよろしいでしょうか?」
仕事の合間の休憩中。
ぼんやりと部屋にある窓から外の景色を見つめていたが、執務室の部屋のドアの前で聞き慣れた声がした為、ハッと我に返った。
「ええ、入っていいわよ」
「失礼致します」
ドアの前にいたであろう私の専属騎士である青年は、執務室のドアをゆっくりと開けて部屋へと入ってくる。
黒髪に黒い瞳。容姿もそこそこで、背も180cmはあるであろうこの青年は私の専属騎士の中でも非常に優秀な騎士だ。
「休憩中でしたか? すいません」
「ええ、いいのよ。気にしないで」
「はい。あの、実は少しご報告したいことがありまして」
「報告? 公務に関することかしら?」
「はい。本日予定されていた領地からの嘆願についてですが、先ほど担当者より報告がありまして」
グイードは手にしていた書類を静かにアリシアに差し出した。
「こちらに詳細をまとめております。お目通しいただけますでしょうか?」
「ええ、わかったわ」
グイードから手渡された書類を受け取った私は机の上にそっと書類の束を置いたのを確認したグイードは静かに口を開く。
「では、私は失礼致しますね」
「ええ、」
部屋から出ていくグイードの背を見送ってから、私は再び窓の外の風景を見つめ始めたのであった。
✧
その夜。
私はもう一度、あの世界に行けるかを試したくて、数ヶ月振りに中央階段の踊り場にある大鏡の前に足を運んだ。
「あと少しで1時になるわね……」
中央階段の踊り場の壁にかけられている大時計はあと2分程で1時になる。
私は窓から差し込む月明かりが照らす鏡にそっと触れて1時になるのを待った。
静かな夜の静寂の中、チクタク、チクタクと大時計の秒針は刻む音だけがその場に響く。
2分間という短い時間が、何故かとても長く感じられた。やがて白い壁にかけられている時計を見れば1時になっていた。
「1時になったわね」
時刻を確認してから、再び目の前にある鏡に目を戻すと鏡が眩しくらいに光り始めていた。
あまりの眩しさに私は目を細めながらも、鏡に触れていた両手が鏡の中へと入っていきそうな感覚に気付き、鏡の中へと入る為に足を前へと踏み出した。
すり抜けるような感覚を感じながら私の視界は一瞬、眩しい光と共に白く染まり、私は思わず目を瞑った。
数分後。恐る恐る目を開けた私の瞳に映り込んできたのは私が先程見ていた中央階段の踊り場にあった鏡ではなく、見たことのある緑豊かな木々な立ち並ぶ森林の風景だった。
「私、また来れたのね……!」
再び鏡の中の世界へと来れたことに感動しながら、私は緑深い森林を歩き出した。




