四十一話 死にたいのに死ねない。殺したいのに殺せない。
自殺しようとする描写があります。十五歳以下の方の閲覧は御遠慮ください。また、苦手な方はお気をつけください。
「そろそろ、落ち着いたかい?」
泣き声がやんだ頃を見計らったように、声をかけてきた。
私は答えなかった。
立ち上がると、物置からロープを取り出す。
カーテンレールに結び、下にバケツを置いた。
その上に立って、首にロープをかける。
そして、そのまま足を踏み外した。
けれど。
苦しくならなかった。
私は、宙に浮いたままだった。
首が締まる感覚もない。
落ちもせず、ただ、引っかかってぶら下がっているだけだった。
「……え?」
しばらくそのままでいてから、震える手でロープを外す。
床に落ちた私は、呆然としながら何度も息を吸った。
「何で……?」
声が掠れる。
「何で!何で!何で!何で!!」
「無理だよ」
ロイは、つまらなそうに言った。
「君は死なない。窒息も、落下も、飢えも、焼死も、死ねないよ?僕が君を死なせるわけないじゃないか」
頭が真っ白だった。
もう、何も考えられない。
「どうやったら死ねる!!」
「簡単だよ」
ロイは笑った。
「君にその力を与えた者を殺せばいい」
その言葉で、時間が止まった気がした。
力を与えた者。
コイツを…。
こいつを殺せば、死ねる。
死にたいのに、死ねない。
殺したいのに、殺せない。
「くそ……くそ……くそおおおおお!!」
私は包丁を掴み直し、宙に浮かぶ小指の印へ何度も突き立てた。
けれど傷つくのはテーブルだけだった。
「くそ!くそ!くそ!!」
包丁を投げ捨てる。
テーブルの上に転がる小指も、まとめて払い落とした。
ロイを睨む。
死ぬためには、こいつを殺すしかない。
「……もう一度、あの世界に行かせろ」
「そう言うと思っていたよ」
猫は楽しそうに目を細めた。
「今回はもう、用意してある。すぐに希望値を百にしてきてよ」
「必ず、お前を殺す」
そう言った瞬間、視界が歪んだ。
次の瞬間には、私は始まりの館に立っていた。
すぐに、声が聞こえた。
「うさぎちゃん、来たか」
見ると、キルアさん達がいた。
「何で?」
「また、街に飛ばされていたからな。あ、うさぎちゃん来るなと思ってな」
キルアさん達に会い、少し落ち着いた。
「で?今回は、何をするんだ?」
「前回と同じで、しかし、試したい事があって、暫く一人に」
「了解!全て終わったら声を掛けてくれ。ここにいるからな」
「ありがとうございます」
「いいってことよ」
そう言うと、名前を登録して、クランを作成する。
そして、名前登録で希望の光を入力し、あの部屋で全てのスキルをマスターして、レベルもカンストさせ、ホームに行く。
ソファに腰を下ろし、スキルを眺める。
アイテムマスターのスキルのストック。
説明文に、違う世界に持って行けると書いてある。
魔王の場所と思っていたけど、現実も別の世界。
もしかしたら?
試す価値はあった。
そして、あとは一択だった。
マテリアルライズ。
霊体を実体化出来る。
これを現実世界へ持ち込む事が出来れば。
始まりの館に行く。
キルアさん達に、転職したら、前回と同じ事をしたいと伝えると、了解してくれた。
そして、ヒーラーを選ぶ。
マスターした職業の中からアイテムマスターのストックを選び、引き継ぐ。
ストックは、ウィンドウマークの下に表示された。
ストックをなぞると、スキルをセットしてくださいと出る。
下に、ヒーラーのスキルが表示される。
その中から、マテリアルライズを選んだ。
ウィンドウの下のストックは、
ストック[マテリアルライズ]
と、表示されている。
一回使うと、消滅するみたいだった。
これで、現実世界に持って戻る事が出来れば……。
猫を殺せる!
キルアさんに声を掛けて、前回と全く同じ事をやって、絶望値を100にした。
その瞬間、部屋に戻った。
「はぁ……。またかい?残念だね」
ロイの言葉は、無視して、笑いが込み上げる。
「あはははははは!!」
不思議そうに、私を見つめている。
ウィンドウマークは消えている。
しかし、視界には……。
ストック[マテリアルライズ]
と、表示されていた。
殺せる!コイツを!!!
床に落ちている包丁を拾うと、マテリアルライズをなぞり、ロイに向けて放った。
視界にあったストック[マテリアルライズ]は消滅する。
ロイに光が当たるのを確認した。
「何だい?この光は?」
答えの代わりに包丁をくれてやった。
一瞬で、猫の首を真横に切り裂いた。
「死ね!!死ね!!死ねええええええええええええ!!あはははははははははははは!!!!!!」
ロイの首から血が噴き出した。
やった!
そう思った、次の瞬間だった。
裂けた首元から、ぺろりと皮がめくれた。
そのままロイの全身が脱げ落ちる。
テーブルの上には、抜け殻みたいな皮だけが残っていた。
目を見開いた。
まるで、脱皮したみたいに、皮の下に猫の姿が現れた。
「何で!!」
包丁を猫に投げつけると、新しく現れたロイの身体を包丁は、すり抜けた。
その場に崩れ落ちた。
さっきまで腹の底で燃えていたものが、一瞬で冷え切っていく。
もう、どうすればいいのか分からなかった。
涙だけが勝手に落ちた。
「実体化させたのかい?無理だよ?実体化させてもね。元々の存在が霊体だからさ……ね?」
ロイはテーブルの上から私を見下ろしていた。




