三十九話 魔王 絶望値 現実へ
それから二日、同じことを繰り返した。
けれど、キルアさんたちの出番はもうなかった。
一度目でヴァルハラは全滅したことになっている。ここでまた出てしまえば、さすがに茶番だと勘づかれるかもしれない。
……まあ、仮に見られたところで、モンスターを従えているなんて、誰も思わないだろうけれど。
だから街に残したのは、ヒーラーの人たちだけだった。
二度目には、街が壊されるよりも早く、誰かが私の名を叫んだ。
三度目には、悲鳴の中にすら期待が混じっていた。
ウタウサギさんが来る。
あの人が来れば大丈夫だ。
始まりの街では、もう誰もがそう信じていた。
狙い通りに、全ては進んでいた。
そして、街の人たちに「必ず魔王を倒す」と告げて、街を出た。
頑張って、と背中を押す声もあった。
けれどそれ以上に多かったのは、行かないでくれ、という声だった。
また街が襲われたら、もう終わりだ。
今度は耐えられない。
あんたしかいないんだ、と。
向かった先は、メインクエストの続きじゃない。
ホームだった。
もう、魔王のもとへ行くために、回り道をする必要はなかった。
準備は全部、終わっている。
ホームへ戻ると、キルアさんたちが待っていた。
「キルアさん、これで終わりにします」
「そうか……」
キルアさんは、少しだけ寂しそうに笑った。
「寂しくなるな」
「必ず、キルアさんたちが戻れる方法を探してみます」
「ま、期待しすぎずに待ってるさ」
「キルアさん、また会えて嬉しかったです」
「ああ。俺たちもだよ、うさぎちゃん」
その言葉のあと、皆が〈マテリアルライズ〉で実体化していく。
一人ずつ抱きしめた。
温かい。
ちゃんと、触れられる。
それが、ひどく悲しかった。
「さあ、うさぎちゃん。おっ始めようか?」
「はい」
まず、もう一度モンスターに街を襲わせた。
ただし今回は、人間を襲わず、街そのものを壊すように命じた。
モンスターたちは一斉に始まりの街へ向かい、外壁を破壊し始める。
キルアさんたちは森の中で待機。
私は、宮殿の玉座へ向かった。
玉座に手を置く。
次の瞬間、景色が切り替わった。
魔王のいる場所だった。
視界の端では、ウィンドウが光っている。
魔王戦中継開始のアナウンス。
きっと、街の皆が見ている。
魔王を見上げて言った。
「今から、私を攻撃しているふりをして。何度かやり合ったあと、私が“今”と言ったら、あなたの瘴気を私に纏わせて。できる?」
「かしこまりました」
魔王は即座に剣を振り上げ、斬りかかってくるふりをした。
ナイフでそれを受ける。
中継されていることを意識しながら、私はわざと派手に弾かれ、息を乱した。
そして、
「今!」
魔王が手をかざす。
その瞬間、私の体から黒い蒸気のようなものが立ち上った。
私は続けて命じる。
「私を操っているように演技して。あなた自身と私を、始まりの街の外まで転送して。今すぐに」
魔王は両手を伸ばし、まるで私の意志を奪ったかのような仕草をする。
中継を意識して動きを止め、その場で俯いた。
景色が歪む。
次の瞬間、私と魔王は始まりの街の外へ転送されていた。
目の前に広がっていたのは、半ば破壊された街だった。
崩れた壁。
上がる悲鳴。
逃げ惑う人々。
そこへ、森の奥からキルアさんたちが姿を現す。
魔王に命じた。
「大きな声で、私の言う通りに言って」
「かしこまりました」
魔王は私の後ろに立ち、街へ向かって咆哮するように叫んだ。
「この者と、この者の配下は、すべて我が臣下となった!!
この者を使い、今から貴様ら人間を根絶やしにする!!
行け、ウタウサギ!!」
その声が響いた瞬間、私は〈ナイフ乱舞〉を使った。
その瞬間だった。
ウィンドウが激しく明滅する。
白く、強く、視界を埋め尽くすように光ったかと思うと、次の瞬間、どこか別の場所に立っていた。
「やあ。おかえり」
聞き慣れた声がした。
「残念だよ……」
顔を上げる。
そこは、私の部屋だった。
ロイが、心底残念そうな顔でこちらを見ていた。
「はぁ……」
ロイは深いため息をついていた。




