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兎と猫  作者: 藤原 智
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二十七話 ヴァルハラVS魔王

 ヴァルハラと別れてから、数日後のことだった。

 私たちはホームで、いつものようにだらだらと過ごしていた。


 特にやることもなく、のんびりした空気が流れていた、その時、ウィンドウが光った。


「あれ?」


 最初は私だけかと思った。

 けれど、リンクも、華菜も、直哉も、同じようにウィンドウを見ている。

 おそらく、この世界にいる全員のウィンドウが光っているのだろう。


 私はウィンドウを開いた。

 すると、画面にメッセージが流れる。


「これより、魔王戦を配信します。このままウィンドウを開いてください」

「お、ついにか。現実に帰る日が来たか」


 リンクがそう言った。

 けれど、その声とは裏腹に、表情は少しだけ硬い。


「だな。帰ったら、みんなすぐ電話な」

「うん!」


 華菜が元気よく頷く。

 私も、小さく頷いた。

 けれど心の中では、別のことを考えていた。


 ただ戻るだけじゃ、多分だめだ。

 戻って、すぐに、お願いを聞けば……。


 そこまで考えて、私はふと胸の奥が重くなるのを感じた。


 現実に帰れる。

 そのはずなのに。

 この世界を離れるのが、少し寂しい。


 リンクや華菜や直哉と、こうして過ごす時間が終わってしまうのだと思うと、胸の奥がきゅっとした。

 気づけば、言葉が口から漏れていた。


「……寂しくなるね」


 その一言で、部屋の空気が少しだけ変わった。

 さっきまで軽口を叩いていた三人も、急に黙り込む。

 誰も何も言わないまま、短い沈黙が落ちた。

 その時だった。

 ウィンドウに、映像が映し出される。 


「お?ヴァルハラだ」

「おお、これ……全員行ってね?」

「だねー。すごい人数いる。魔王ちょっと可哀想」

「だね」


 私たちは、最初は気楽にそんなことを言い合っていた。

 ヴァルハラの面々が映っている。

 まるで、この世界の総力戦みたいだった。


 けれど。

 映像の中の皆の様子は、どこかおかしかった。

 皆、慌てている様だった。


 次の瞬間、魔王が片手を上げた。

 空間に、見たこともない巨大な魔法陣が幾重にも展開する。

 直後、無数の光が降り注いだ。

 轟音が響く。

 爆発。悲鳴。血飛沫。

 最前列にいたプレイヤーたちが、一瞬で消し飛んだ。


 私は、息を呑んだ。

 十人、二十人じゃない。

 数十人が、たった一撃で死んでいた。

 ウィンドウの向こうで、誰かが叫んでいる。

 誰かが逃げている。

 誰かが倒れた仲間の名前を呼んでいる。 


 おかしい。


「何で……」


 私の口から、声が漏れた。

 誰も、スキルを使っていなかった。

 あれだけ大人数がいるのに、誰も魔法を撃たない。

 誰も補助を使わない。

 誰も回復しない。

 ただ、走って、叫んで、剣を振って、そして死んでいく。


「何やってんだよ!!」


 リンクが叫ぶ。


「バカじゃないの!?ヒールは!?防御は!?」


 華菜も悲鳴みたいな声を上げる。

 直哉は、顔を強張らせたまま映像を睨んでいた。


 その時だった。

 頭の奥で、猫の声が蘇る。


 ーー街の中でも、魔王のいる場所でもね。そうしないと、君、死ぬかも知れないからさ。まあ、魔王のいる場所にスキルを持っていけるスキルもあるけどね


 私は、全身の血が引くのを感じた。


「……あ」


 思い出す。

 あの時、何気なく聞き流しかけた言葉を。


 魔王のいる場所でも、使えるようにしておく。

 スキルを持って行けるスキルもある。


 つまり。

 つまり、今あそこにいる人たちは...


「皆、スキルが……ない……」


 呟いた瞬間、自分の声がひどく遠く聞こえた。


「は……?」


 リンクが私を見る。


「魔王の場所じゃ……普通は、スキルが使えないんだ……。」


 誰も、何も言わなかった。


 ウィンドウの向こうでは、第二波が始まっていた。

 魔王が、また指を動かす。

 今度は地面そのものが割れ、黒い杭のようなものが無数に突き上がる。

 逃げ遅れた者たちの身体が、次々に串刺しになった。

 

 前衛が崩れ、後衛が潰れ、回復役らしき者たちも成す術なく倒れていく。

 戦いですらなかった。

 一方的な虐殺だった。


「嘘だろ……」


 直哉が、かすれた声を出す。

 その時、映像の中に、キルアさんの姿が映った。


「キルアさん!」


 思わず身を乗り出す。

 キルアさんは、血だらけになりながらも立っていた。

 剣を構え、周囲に何かを叫んでいる。

 たぶん、撤退しろ、とか、散れ、とか、そんなことだ。


 魔王が、ゆっくりとキルアさんの方を向く。

 片手が持ち上がる。


「やめろ……」


 リンクが、低く言った。

 次の瞬間。

 閃光が走った。

 キルアさんの上半身が、弾け飛んだ。

 腰から上が、消えた。

 そして、残った下半身だけが崩れ落ちる。


「キルアああああああ!!」


 リンクの叫びが、ホームに響いた。

 華菜が息を呑む。

 直哉は、言葉を失っていた。

 私は、何も言えなかった。


 ウィンドウの向こうでは、まだ虐殺が続いている。

 逃げる者。

 泣き叫ぶ者。

 立ち向かって、何もできずに死ぬ者。

 知っている顔が、一人、また一人と消えていった。

 

 皆、皆、死んでいく。

 誰一人として、魔王に届かない。

 届く前に、殺される。

 

 映像の中に残ったのは、血に濡れた床と、積み重なる死体だけだった。


 その中央に、魔王が一人で立っている。

 まるで、最初から勝負にすらなっていなかったかのように。


 ホームの中は、静まり返っていた。

 誰も、動けなかった。

 誰も、声を出せなかった。

 私は、震える指でウィンドウを見つめながら、ようやく理解した。

 

 ヴァルハラなら勝てるとか。

 大勢で行けば何とかなるとか。

 準備すれば、きっと攻略できるとか。


 そんなものは、全部、間違いだった。


 数日前、皆で一緒に騒いでいた。

 キルアさんとは、携帯番号を交換したのに。


 皆、死んだ。

 その事実を受け止めることは、出来なかった。


 リンクは、泣いている。

 私は、リンクを抱きしめて泣いている。

 直哉も華菜も...


 私達は、泣く事しか出来なかった。


 私は、大きな過ちを犯していた。

 猫の話しを思い出し、スキルの事を、キルアさんに伝えていたら?

 何故、思い出さなかった?

 伝える機会は、いくらでもあった。

 それなのに...

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