二十三話 ヴァルハラへ
うさぎがクランを抜け、強制的に街へ転送されたあとリンクと直哉は、何が起きたのか理解できずにいた。
「私が悪いの……!私が、うさぎに酷いこと言ったの……。どうしよう……どうしよう……」
華菜はそう言うと、顔を両手で覆い、そのまま泣き崩れた。
「何があったんだ?」
リンクが低い声で尋ねる。
華菜は泣きながら、途切れ途切れに全部を話した。
腕を返せ。
顔を見たくない。
クランから出て行け。
自分が、うさぎにそう言ってしまったことを。
「うさぎは……悪くないのに……。私は……」
震える声でそう言って、華菜はまた俯いた。
「華菜、お前が悪い」
直哉がはっきりと言う。
華菜は反論することもできず、ただ俯いたまま泣いていた。
「でもよ」
リンクが、華菜と直哉を見た。
「俺は、うさぎがいなくなるのは嫌だ」
「俺もだ。華菜は?」
華菜は涙で濡れた顔のまま、小さく頷く。
「私も……嫌……」
「なら、やることは一つだな」
「探しに行くか」
リンクと直哉は、すぐに立ち上がった。
◇
私は、行く当てなんてなかった。
それでも、誰かのそばにいたかった。
ひとりでいたら、きっと余計なことばかり考えてしまう。
気づけばメインクエストの道を歩いていた。
しばらく進んだところで、ヴァルハラのメンバーを見つける。
私はすぐに駆け寄って声をかけ、キルアさんのところまで連れて行ってもらった。
案内された先は、華菜が腕を失った、あの宮殿だった。
「うさぎちゃん、どうした?」
キルアさんが不思議そうに首を傾げる。
「色々あって……」
「クランは? 喧嘩でもしたか?」
「いや……」
私は、それ以上は言えなかった。
キルアさんは一瞬だけ私の顔を見たが、それ以上は何も聞いてこなかった。
私は、宮殿内部にいるボスの情報をキルアさんに話した。
「ありがとう。助かった。華菜ちゃんの腕は?」
「治りました。〈復元〉のスキルの情報、ありがとうございました」
「いいってことよ。それより、その情報は本当に助かる。知らないまま中で遭遇してたら、死人が出てたかもしれねえ」
そう言ってキルアさんは、宮殿前で作業しているメンバーたちに指示を飛ばし始めた。
「今、探索で何人か中に入ってるからな。ボスの情報があるのはでかい」
私は、その背中を見つめながら、ぽつりと口を開いた。
「キルアさん。私を、クランに入れてくれませんか?」
キルアさんは、困ったように笑った。
「うーん。君を奪ったら、リンクに殴られそうだな」
「そんなこと……」
「いや、あるだろ」
キルアさんは、くくっと笑う。
「うさぎちゃんと話してる時のリンク、わかりやすかったぞ。気にして、何回もちらちら見てたしな」
そんな事を話しながらでも指示を休めない。
初めて会った時、この人は、かなり。に移動してもいいと言っていた。
もし、そうなっていたら、リンクがクランマスターで、私、華菜、直哉は、幹部となっていたと思う。
しかし、キルアさんの指示の下、リンク、私、華菜、直哉が働いていただろうと思った。
その姿が簡単に想像出来た。
そんなことを考えた瞬間、堪えていたものが一気に溢れた。
「えっ、お、おい。大丈夫か?」
キルアさんが慌てる。
「もしかして、リンクと別れたとかか?」
「違います……っ。そんなんじゃないです……」
私は涙を拭いながら、必死に首を振った。
「リンクのことは……普通に好きです……」
言ってしまってから、自分で何を口にしたのかわかって、余計に涙が止まらなくなる。
「そうか……」
キルアさんは少しだけ困った顔をしたあと、仕方ないなというように息を吐いた。
「とりあえず、正式な加入は今はやめとくか。客人扱いなら入れてやれる。それでどうだ?」
「……はい」
私は黙って頷き、ウィンドウを開いた。
すぐに、クラン加入要請が届く。
私は、迷わず承認を押した。
私の名前の上に、【ヴァルハラ】の文字が浮かぶ。
「ようこそ、ヴァルハラへ」
「ありがとうございます」
「うさぎちゃんは、何もしなくていい。俺達のやり方を見ててくれ」
「はい」
ヴァルハラの皆は、私を歓迎してくれた。
クランのホームに行ってみたが、部屋がある場所は、とんでもない事になっていた。
アリの巣?
と、思うくらいに何階層にもなっていた。
ヴァルハラは、宮殿前で数日の間、準備をしていた。
皆、役割を持っていた。
物資班。
武器防具班。
探索班。
攻撃班。
防御班。
補助班
等様々に分かれている。
皆、役割ごとに動いていた。
準備は、念を入れすぎるくらいにしていた。
物資、武器防具、等を必要とした三倍くらい集め、宮殿内部のボスの部屋前で部屋内を観察し、扉の位置、玉座の位置など内部構造を調べ上げると、宮殿の外、地面にボス部屋の構造、扉、玉座、ボスがいる位置の印をつけ、攻撃班、防御班、補助班、回復班、等が集まり、どの位置に罠を仕掛けるか、どのスキルを使うか等話し合い、実際に、ボス役をたてボス役は、シーフの疾風を使い、本番さながらに、予行演習をしていく。その演習に五日を要した。
そして、いよいよ攻略する事となった。




