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兎と猫  作者: 藤原 智
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二十二話 復元 クラン脱退

「ここか?」

「たぶん」


 始まりの街から南へ下った先、森の奥深くにある神殿の前に、私たちは立っていた。


 この場所とスキルの情報は、キルアさんから直哉とリンクが教えてもらったものだ。

 私は、ショックで、ずっと部屋に引きこもっていた。

 その間、リンクと直哉は、華菜のために何かできることはないかと、始まりの館でスキルの情報を調べていたらしい。


 そんな時、物資の補給のために街へ来ていたヴァルハラのメンバーを見つけ、声をかけたという。

 その後、リンクと直哉はヴァルハラのホームへ招かれ、キルアさんのもとへ案内された。


 そこで事情を説明すると、この神殿の中に〈復元〉のスキルがあるらしい、と教えられたそうだ。


 らしい、というのは、キルアさんたち自身はそのスキルを得られなかったからだった。

 何か特別な条件があるのか、彼らには無理だったらしい。


 それでも、私とリンクはその話に賭けることにした。

 華菜の腕を治せるかもしれないのなら、行かない理由なんてなかった。


 私は、華菜の腕が治ればクランを抜けるつもりだ。

 このまま居れば、ギクシャクすると思う。

 この三人は、本当に良いチーム、それを壊したくなかった。


 リンクと二人できたのは、華菜を一人にするわけにはいかない。

 今は直哉が、彼女のそばについてくれている。


「行くか」

「うん」


 いつもみたいに軽口を叩く気分には、とてもなれなかった。

 私とリンクは静かなまま、神殿の中へ足を踏み入れた。

 華菜の腕が斬られたあの瞬間の光景が、何度も頭の中によみがえる。


 神殿の内部を、私とリンクは慎重に歩き続けた。

 モンスターが現れてもおかしくないと警戒していたのに、不思議なことに何も出てこない。

 気配すらなかった。


 中は迷路のように入り組んでいて、何度も同じ場所を通っている気がした。

 どれほど歩いただろう。

 やがて私たちは、ひときわ広い空間へと出た。


 そこには、中央に女神を模したような像が立っていた。

 私とリンクがその部屋に足を踏み入れた瞬間、像が淡く光った、そんな気がした。


 次の瞬間、部屋中に声が響き渡る。

 まるで、像そのものが話しているようだった。


「よく来ました。スキルを得るために来ましたか?」

「ああ」


 リンクが短く答える。

 だが、像は反応を示さない。

 ただ沈黙したままだった。


「スキルを取得したい」


 リンクがもう一度、はっきりと言う。


「分かりました。あなた方の情報を取得します。ウィンドウを開いてください」


 私とリンクは、すぐにウィンドウを操作した。

 すると、部屋の床が緑色に発光し始めた。


「おお。詩韻兎様、貴女が現れるのをお待ちしておりました」


 何故、私の名を?と思う前に、猫の顔が浮かんだ。

 リンクが私を見ると、私は猫とだけ答えた。


「スキル取得は、リンク様でよろしいですね?それでは、リンク様には試練を与えます」


 そう言うと、私とリンクの前に、黒い棒の様な物が床の上に現れる。


 私は、それを知っている。

 あの倉庫で猫に握らされた棒。

 リンクを見る。

 リンクは、不思議そうにその棒を眺めている。

 

「リンク様、それで、詩韻兎様、自身、どちらかの腕を切り落としなさい。それを当てると簡単に腕が切り落とされます」

「は?」


 リンクの素っ頓狂な声が響く。

 私は、別によかった。

 華菜の腕が切られた時の光景が頭をよぎった。

 私は、左腕を上げ。


「リンク、私の腕を」

 

 リンクが私を睨む。


「馬鹿か!!出来る訳ねえだろ!!」


 私は、大丈夫だと確信があった。

 あの猫は、必ず私に都合のいい世界にしていると思っていた。


「大丈夫だから」

「何が大丈夫なんだよ!」


 私は、リンクを見つめる。

 リンクは、観念したのか、わかったとだけ言いい、ウィンドウを開く。

 

 私は、歯を食いしばり目を閉じる。

 その時、リンクの小さな呻き声が聞こえ、


「ヒール!」


 目を開けると、リンクの左腕が肘から落ちていた。


「リンク」


 声を掛けると、


「切り落としたぞ!」


 像が反応する。


「試練は、終わりました。もしも、詩韻兎様を傷つけていた場合、リンク様、貴方の首は切り落とされてた事でしょう。さあ、受け取りなさい。私の役目は終わりました」


 像は、そう言うと静かになった。

 リンクが声を漏らす。


「おお」


 すぐに、リンクはウィンドウを操作して、おそるおそる言う。


「復元」


 一瞬だった。

 言った瞬間に、リンクの左腕が何ごともなかったかの様に元に戻る。

 床に落ちていた、腕も消滅していた。


「おお!これで華菜も」

「うん!」

「でも、あの宮殿でやらないといけないのかもしれん」

「何で?」

「説明が、『体の欠損を復元するには、その世界で使用する事、別世界で使用しても効果は無い』となっているが?」

「とりあえず」

「だな」


 私達は、すぐにクランのホームに戻った。

 ホームに着くと、ソファで直哉が華菜を抱きしめて頭を撫でていた。


 私は、声を掛ける事が出来ないでいた。

 

「華菜、大丈夫だ」


 リンクがそう言うと、華菜と直哉は振り返る。

 その瞬間に、リンクは、華菜に向けて、復元スキルを使用した。

 リンクと同じ様に、華菜の腕が元に戻った。


 「おお!!」


 直哉が叫ぶと、華菜は嬉しいのか、泣き出して、小さな声で言った。


「ありがとう、ありがとう」


 私も、涙が落ちた。

 リンクと直哉は、笑顔で華菜の頭を撫でていた。

 わたしは、胸に手を当て息を吸うと、ウィンドウを開いて、クランの項目を出し、クラン脱退を表示して、話を切り出す。


「リンク、ごめんなさい」


 私は、頭を下げた。

 リンクが怪訝そうに私を振り返り、見つめる。

 直哉も、私を見るが華菜は、俯いたままだった。


「直哉、ごめんなさい」


 頭を下げたまま言う。


「何言うんだ。もう大丈夫だ。謝る必要ねえよ」


 直哉がそう言うが、もう、私は、決心していた。


「華菜...華菜さん、ごめんなさい。そんな風に思ってたとは、気が付きませんでした。申し訳ございませんでした」


 華菜に向けて頭を下げた。

 リンク、直哉は、困惑している。

 直哉がボソっと何でさん付けなんだよと言う。


 華菜が頭を上げ私を見た。

 目を見開き、何を言いそうになっていたが、私は、話を続ける。


「クランに誘ってくれて、ありがとうございました。本当に楽しかった。幸せだった。リンク、ありがとう。直哉、華菜さんとお幸せに」

「うさぎ何言ってるんだ?」


 リンクが困惑して聞くが、耳に入らなかった。

 私は、少しソファに足を進めて、頭を下げた。

 涙が溢れ出て、床に落ちる。


「華菜さんの気持ちを分からずにすいませんでした。でも、本当に楽しかったです。お元気で。これで、抜けます」


 そう言うと、涙でクシャクシャな顔で精一杯の笑顔を作ってクラン脱退を指で押す瞬間に、華菜の声が聞こえた。


「まって!!」


 私は、街に転送された。


 涙が止まらない。

 私の名前の上には、何も表示されていない。

 クランに入ってから今までの思い出が頭を巡る。

 涙を拭っても溢れ出てくる。


 行く当てなどなかった。

 しかし、私は、何か行動したかった。

 疾風のスキルを使うと、街の外に飛ぶ様に駆けて行った。

 

 街の人達が、私を見ていた。


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