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兎と猫  作者: 藤原 智
20/43

二十話 メインクエ開始

 その後、見物に来ていた人たちの中から、二人の男女が前に出てきた。


 二人の話では、現実世界でそれぞれ弁護士と裁判官をしているらしい。

 今後は街にちゃんとしたルールを作り、皆と協力して、この世界を立て直していきたい。

 そう申し出てきた。 


 ポリスの連中は、とりあえず全員、監獄へ入れることになった。

 リンクは、相手が弁護士と裁判官だと聞くと、一度だけ小さく頷き、


「なら、任せる」


 とだけ言った。


 見物に来ていた人たちは、私たちに向かって拍手していた。

 けれど、私達はなんだか急に恥ずかしくなってしまって、何度も頭を下げながら、逃げるように街の外へ出た。


 いつもの場所へ着くと、私たちはそのまま草の上に寝転がる。

 そして、誰からともなく笑い出した。

 大笑いして、笑い疲れて、ようやく少し落ち着いた頃。

 直哉がむくりと起き上がって言った。


「じゃあ、魔王倒しに行くか」


 その言葉に、私たちは同時に声を上げた。


「おー!」


 それから本格的に、メインクエストを進め始めた。

 基本的には、リンクと直哉が流れを調べる。

 私と華菜は、その二人の言うことを聞きながら、ついていく形が多かった。


 街の中でのお使い。

 モンスターからのアイテム集め。

 中ボス討伐。

 洞窟へ行き、山を越え、海を渡る。


 いくつもの街を巡りながら、私たちは少しずつ先へ進んでいった。


 途中、とても綺麗な景色にも出会った。

 現実では見たこともないような、幻想的な空や湖や森。

 そういう場所へ辿り着くたびに、私たちはしばらく何も言わず、飽きるまで眺めていた。


 くだらないことで小さな喧嘩をしたり、またすぐ笑い合ったりもした。

 とても楽しかった。


 もちろん、大変なこともあったけれど。


 特に酷かったのが、船での移動だ。

 四人そろって船酔いし、四人そろって吐いた。

 今思い出しても、あれは本当にひどかった。


 そんなふうにメインクエストを進めていた、ある日。

 とある山道で、道を塞ぐみたいに大勢の人が座り込んでいるのが見えた。

 全員の頭の上に、同じクラン名が浮かんでいる。


【ヴァルハラ】


 それを見たリンクが、小さく言った。


「最大クランだ」


 私は思わず、座り込んでいる人たちを見回した。

 数が多い。

 しかも、皆どこか余裕のある顔をしていた。

 その全員が、私たちを見ている。

 私たちは軽く会釈し、その横を通り過ぎようとした。

 すると、一人の男が声をかけてきた。


「よう。君たちもメインクエか?」


 その男は、座ったまま気さくに笑っていた。


「こんなところまで来る奴なんて、そういないからな」

「まあ」


 リンクが短く答える。

 すると男は立ち上がり、自分の胸を親指で指した。


「俺は、このクランのマスター、キルアだ」

「俺は、リンク。かなり。ていうクランのマスターだ」

「で、君たち何人でやってる?」


 リンクが少しだけ間を置いて答える。


「四人だ」

「ははは!」


 キルアは、わかりやすく吹き出した。


「四人!?四人じゃ無理だろ!」


 その声に、周囲のヴァルハラの連中も一斉に笑い出す。

 キルアは、まるで自慢するみたいに両腕を広げた。


「俺んとこは八百三十人いる。魔王は俺たちが終わらせる」


 そして、背後の仲間たちを振り返る。


「なあ、皆!」


 山道にいたヴァルハラのメンバーたちが、どっと笑った。

 私たちが露骨に嫌な顔をしたのか、キルアはすぐにそれに気づいた。

 すると、軽く頭を下げる。


「笑って、すまない」


 私たちは、思わず目を見開いた。

 その瞬間、どうしてこの人が最大クランのマスターなのか、少しわかった気がした。

 ポリスも、こういう人たちだったらよかったのにと、ふと思う。

 キルアは、そのまま私たちに提案してきた。


「君たちも、俺たちのクランに入らないか?」


 私は少し考えた。

 でも、リンクは即答だった。


「すまない。誘ってくれるのはありがたいが、俺たちはこの四人でやりたいんだ」

「四人だと大変だろ。じゃあ、俺たちがそっちに移るってのは?」

「え?」


 今度は、さすがにリンクが動揺した。

 キルアは、あっさりと言う。


「クランとか関係ない。俺たちは魔王を倒して現実に帰る。それが目的だ。目的を果たせるなら、何だってするつもりだ」


 よく出来た人だと思った。

 けれど、それでもリンクは首を横に振る。


「あなたの考えは、すごいと思う。けど、俺たちはこの四人でやりたい」


 そう言ってから、リンクは少しだけ口元を上げた。


「まあ、八百人もいたら移動は大変だろ?その隙に俺たちの方が先に行くぜ。そっちに勝ってやる」

「ははは!面白い!」


 キルアが楽しそうに笑う。


「負けねえ!」


 リンクとキルアは、まっすぐ笑い合った。

 そうして私たちは別れた。

 別れ際、自己紹介をした。

 キルアたちは回復薬やら何やら、いろいろな物を分けてくれた。

 私たちは何も返せる物がなくて、そのことを伝える。

 するとキルアは、気にした様子もなく笑った。


「いいさ。その代わり、必ず魔王戦で会おうぜ」


 ヴァルハラのメンバーたちも、笑いながら口々に言ってくる。


「負けねえからな!」

「お前達の出番はないからな!」

「魔王の前で会おうぜ!」


 そんなふうに見送られて、私たちは再び歩き出した。


 絶対に勝つ。


 絶対に、私たちの方が先に行く。

 そう意気揚々と胸を張りながら、私たちはクエストを続けていった。


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