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兎と猫  作者: 藤原 智


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十九話 ざまあみやがれ!!

 それから、ポリスの幹部たちは怒り狂っていた。

 顔を真っ赤にして怒鳴り散らし、今にも飛びかかってきそうな勢いだった。

 一言だけ聞く。


「まだ暴れてもいい?」


 その瞬間、ぴたりと静かになった。

 さっきまであれだけ喚いていたのに、まるで喉を潰されたみたいに黙り込む。

 その反応が少し可笑しくて、思わず笑いそうになった。


 そうして私たちは、街の中央広場へ連れて行かれることになった。

 今度は誰も暴れない。

 私たちも大人しく従った。

 その途中、私たちを囲んでいたポリスの一人が、訝しげな顔で聞いてきた。


「お前、スキル使ってないか?」

「普通に使ってるよ?」

「そんなわけあるか。街の中だぞ?」


 思わず、その男を見た。

 いや、そっちが聞いてきたんじゃん。

 聞いておいて、答えたら信じない。

 その方が、こっちには信じられなかった。


 やがて中央広場に着く。

 そこには、すでに大勢の人が集まっていた。

 噴水の周りは人で埋まり、ざわざわとした声が広場じゅうに広がっている。

 どうやらポリスたちは、街で裁判をすると告知していたらしい。


 そのせいで、見物人がこんなにも集まっているのだとすぐにわかった。

 その光景に少しだけ息を呑んだ。


「今や、この裁判も娯楽になってるんだろうな」


 リンクが、人々を見渡しながら低く言った。 


「黙れ」


 すぐ横にいたポリスの一人が吐き捨てるように言う。

 私たちは、そのまま噴水の横に設置された舞台の上へ上がらされた。

 板張りの簡素な舞台だったが、見世物にするには十分らしい。

 上がってみると、周囲をぐるりとポリスたちが取り囲んでいた。

 見た感じ、街にいるポリスたちはほとんど全員集まっているようだった。

 そのさらに外側を、大勢の人たちが取り囲み、群衆でひしめき合っている。

 皆、遠巻きに私たちを見ていた。


 好奇心。

 不安。

 面白がるような目。


 いろんな視線が混じっていて、落ち着かなかった。

 その中から、不意に声が飛ぶ。


「あれ、あいつら蜘蛛じゃね?」

「え?」


 思わず小さく声を漏らした。

 どうやら私たちは、いつも同じ場所で蜘蛛を狩っていたせいで、いつの間にか“蜘蛛”と呼ばれていたらしい。

 少し遅れて、別のところからも声が上がる。


「リンクさん……」

「ほんとだ」

「なんで、リンクさんがあそこに……」


 リンクは、ヒーラーとして街でボランティアみたいな活動をしていた。

 だから、知っている人も多いのだろう。

 リンクは、手を上げて、その声に応えていた。


 ちらりと直哉を見ると、直哉は下を向いたまま、落ち着きなく足を鳴らしている。

 今すぐ動きたくて仕方がないのだろう。


 やがて、ポリスの幹部四人が舞台へ上がってきた。

 私たちの顔を見渡し、一番中央に立った男が大声で告げる。


「これより、ポリスメンバーに対する恐喝、暴行、傷害についての裁判を始める!」


 先ほどまでざわついていた広場が、すっと静かになった。


「被告はこの四名。被害者は三名」


 そう言うと、あの和食屋で私たちに金を払えと言ってきた三人が舞台へ上がってくる。

 そして、そのうちの一人が、白々しい顔で語り始めた。


「俺たちは和食屋で静かに食事をしていただけです。そこへこいつらが入ってきて、金を出さないと殺すと脅してきました」

「断ったら突然暴力を振るわれて」

「命の危険を感じました」


 思わず、口が半開きになる。

 何を言ってるんだ、こいつら。

 さらに、その場にいたという数名が証人として舞台へ上がり、口々に言った。


「間違いありません」

「私も見ていました」

「被害者の証言通りです」


 そこで、


「あはははははは!」


 華菜と直哉が、同時に吹き出した。


「こいつら、ほんと腐ってるわ」


 直哉が腹を抱えながら言う。


「黙れ!」


 幹部の一人が怒鳴る。

 直哉は肩をすくめ、両手を広げて「やれやれ」とでも言いたげな仕草をした。


 そして幹部は、間髪入れずに叫ぶ。


「判決は、処刑とする!」


 裁判でも何でもなかった。

 最初から、私たちに発言権なんて存在していなかった。

 その瞬間、見物人の中から声が上がる。


「ふざけんな!お前ら、そうやって何人殺したんだ!」

「私の友達も殺された!」

「またかよ!」


 あちこちから怒声が飛ぶ。

 私たちが毎日蜘蛛を狩っていた間に、街ではそんなことが起きていたのだと、その時ようやく知った。


「黙れ!今、喋った奴は侮辱罪で捕まえるぞ!」


 幹部の一人が喚くと、広場はまた静まり返った。


 狂っていた。

 権力を持つと、人はこんなふうになるのだろうか。


 そう思った瞬間、胸の奥が少し冷えた。

 さっきの私も幹部の喉元にナイフを突きつけて、少しだけ刃を押し込んだ。

 血が流れるのを見ても、何も感じなかった。


 スキルを使える優越感なのか。

 私の中にある狂気じみた何かなのか。


 気をつけないといけない。

 そう、強く思った。


「なあ。もういいだろ。早くやろうぜ」


 直哉が、堪えきれないように言う。

 リンクが小さく頷いた。

 華菜は目を閉じ、頭の中で作戦をなぞっているみたいだった。


 リンクが、一歩前に出る。

 幹部の一人が、手をかざして制しようとする。

 けれどリンクは、その手ごと叩き切るような声で叫んだ。


「これが裁判か!?皆、どう思う!!」


 一瞬の間のあと、群衆の中から声が返ってくる。


「裁判なわけないだろ!」

「そうだ!」

「ただの処刑じゃねえか!」

「ふざけんな!」


 不満の声が、一気に広がっていく。

 リンクは、手を上げて群衆を静めると、そのまま高らかに言い放った。


「ポリスは、やりすぎだ!こいつらは最早ポリスじゃない!ただの殺人者だ!」


 広場が、どよめく。


「これよりポリス全員に対して、裁判を行う!」

「何を言っている!!」

「今すぐ捕まえろ!!」


 幹部たちが喚き散らす。

 けれどリンクは、その言葉を最後まで聞かなかった。


「フライ!」


 スキルが発動する。

 次の瞬間、リンクと私と華菜の身体が、ふわりと浮き上がった。


「えっ!?ちょ、え、ええっ!?」


 華菜が空中でじたばたし始める。

 私たちは、そのまま広場全体を見下ろせる高さまで浮かび上がった。

 下では、群衆もポリスも、呆然とこちらを見上げている。


「スキル使ってるぞ!?」

「なんで街の中で!?」

「浮いた!?浮いたぞ!?」


 驚きの声があちこちで上がる。

 下を見ると、直哉がこっちに向かって親指を突き上げていた。

 その横で、華菜は半泣きみたいな顔でぶつぶつ言っている。


「えーと、えーと、こっから私は」

「あははは」


 思わず、私とリンクが同時に笑ってしまう。


「何よ!ちゃんとできるから!」


 華菜が頬を膨らませる。


「疾駆!」


 リンクが、今度は直哉へ向かってスキルを飛ばした。

 素早さを一時的に上げる支援スキル。

 その瞬間、直哉の動きが一段、鋭くなる。


「バルーン!!」


 華菜が叫ぶ。

 すると、空中から大量の風船が広場いっぱいに降り注いだ。

 白、赤、青、黄、緑。

 色とりどりの風船が、視界を埋めていく。


「うおっ!?」

「何だこれ!?」

「風船!?」


 ざわめきと歓声が入り混じる。

 ポリスたちは風船に手を取られ、顔の前に来たそれを払いのけるだけで精一杯になっていた。

 中には、何が起きているのかわからず、ただ手で弾いている奴までいる。


 華菜は休まず、何度も〈バルーン〉を連発した。

 その風船の壁に紛れるように、直哉が走る。

 地面に手をつき、何かを刻み込んでいく。


 罠士である直哉のスキルだ。


 リンクの〈疾駆〉で加速した直哉は、ポリスたちの間を縫うようにすり抜けながら、広場の床にも、舞台の床にも次々と罠を設置していく。

 そして一通り刻み終えると、直哉は舞台の上からこちらを見上げ、にやりと笑って親指を立てた。

 リンクが即座に叫ぶ。


「フライ!」


 直哉の身体も浮かび上がり、次の瞬間には私たちの横へ並ぶ。

 その下では、広場が完全に風船だらけになっていた。

 幹部たちが何か喚いているけれど、混乱したポリスたちはもう統制を失っていて、誰もその声を聞いていない。

 そして、直哉が静かに言った。


「捕縛」


 一瞬だった。

 地面と舞台の床から無数の縄が噴き出し、ポリスたちの足首、胴、腕へと一斉に巻き付く。


「うわっ!?」

「何だこれ!?」

「離せ!!」


 縄に絡め取られたポリスたちは、次々と体勢を崩して倒れていく。

 舞台の上にいた幹部の一人は、そのまま舞台の端から転げ落ちた。


 華菜が、最後にぱんっと手を叩く。

 同時に、広場中の風船が一斉に割れた。


 破裂音。


 そして、その直後に訪れる、妙な静寂。

 何が起きたのか、誰もすぐには理解できなかったのだろう。


「ふざけんな!」

「これを解け!!」


 地面に転がったポリスたちが怒鳴る。

 私たちは、ゆっくりと舞台へ降り立った。

 リンクは、そんな怒声をまるで聞こえないみたいに無視して、群衆へ向かって叫ぶ。


「これより、ポリス全員に対して裁判を行う!!」


 しばらく、誰も声を出さなかった。

 けれど次の瞬間。

 見物に来ていた人々の中から、ひとり、またひとりと拍手が起こる。

 その拍手はすぐに広がり、広場全体を包んだ。


「ポリスはやりすぎだ!」

「そうだ!」

「こいつらのやってることは人殺しだ!」

「裁け!」

「やれ!!」


 怒りと熱気が、一気に広がっていく。

 リンクは、倒れている幹部たちを見下ろして言った。


「ポリス全員を処刑する。そう言ったら、どう思う?」


 皆が息を呑む。

 縄で縛られた幹部の一人が、顔を真っ赤にして怒鳴った。


「これのどこが裁判だ!!ふざけるな!!」


 リンクは、その男のそばまで歩み寄ると、ゆっくり屈み込んで顔を近づけた。

 声は静かだった。

 でも、その静けさが逆に怖かった。


「そうだよ」


 幹部の目を、まっすぐ見て言う。


「ちゃんとわかってるじゃないか」


 リンクの口元に、冷たい笑みが浮かぶ。


「今までお前たちがやってきたことを、今度はお前たちが受ける番になっただけだ。お前たちが、俺たちにしたことは裁判か?どうなんだ?答えろ」


 幹部は、何も言えなかった。

 リンクは、そこで立ち上がり、倒れているポリス全員を見渡して叫ぶ。


「おい!どうなんだ!!俺たちにしたことは裁判か!?答えろ!!」


 誰も答えなかった。

 広場は、妙に静かだった。

 さっきまであれだけ偉そうに喚いていたポリスたちも、縄に縛られたまま黙り込んでいる。


 リンクが、ゆっくりと立ち上がる。

 そして、これ以上ないってくらい、いい笑顔を浮かべた。

 その横で、華菜が小さな声でぼそっと言った。


「ねえ本当にやるの? ダサすぎて恥ずいんだけど」

「当たり前だろ」


 リンクが即答する。


「俺の決め台詞だぞ」

「浪漫だろ?」


 直哉が、にやりと笑って口を挟む。


「お?」


 リンクがそっちを見る。


「直哉くん、よくわかってますな」

「だろ?」


 二人は、その場でぱんっとハイタッチした。


「あははは」


 それが可笑しくて、思わず笑ってしまう。

 そして、駆け出す前みたいに左足一歩前へ出した。

 すると、リンクも、華菜も、直哉も、自然とそれに合わせる。

 リンクが、にやりと笑って右手を上げ、その中指が、まっすぐポリスたちへ立てられた。

 

 私も手を上げる。

 華菜は顔を赤くしながら、でもしっかり中指を立てた。

 直哉は楽しそうに笑っている。

 リンクと直哉は、見たこともないくらい晴れ晴れした顔をしていた。

 華菜は恥ずかしそうにしながらも、口元は笑っている。

 私も、笑った。


 そして、クラン【かなり。】の四人で、声を揃えて叫ぶ。


「ざまあみやがれ!!」



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