十七話 牢屋の中で合流
私は、直哉の牢を開錠した。
鉄格子が開く音と同時に、直哉が目を見開く。
「うさぎ!?何で?」
「説明は後でね。華菜とリンク探そ?」
「お、おう」
直哉を連れて、薄暗い通路を走る。
左右に並ぶ牢を一つずつ確認していくと、すぐに華菜を見つけた。
華菜は、壁際に背を預けるように座り込み、泣いていた。
その姿を見た瞬間、私と直哉は思わず顔を見合わせる。
そして、なぜか同時に笑ってしまった。
「見ーつけた」
「いたいた」
華菜が、はっと顔を上げる。
涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、信じられないものを見るみたいに私たちを見た。
「え!?何で!?」
「助けに来たに決まってるでしょ」
「うさぎが開けたんだよ」
「えええっ!?」
私はすぐに華菜の牢の鍵も開ける。
華菜は外に出るなり、慌てて目元を拭った。
「めっちゃ泣いてるし」
「退屈であくびしただけじゃん!」
そんなやり取りをしながら、今度はリンクを探す。
リンクは、少し奥の牢にいた。
鉄格子越しにこちらを見た瞬間、驚いたように目を見開く。
「お前ら」
「来たよー」
「静かにして。今開ける」
鍵を外し、私たちはそのままリンクの牢の中に入った。
「何で?」
華菜が、まだ信じられないという顔で聞いてくる。
リンクも、不思議そうに私を見る。
「うさぎ、どうやったんだ?」
「俺も、うさぎが来た時マジでビビったぞ」
直哉が言う。
私は、小さく息を吐いた。
「猫の話、思い出したの」
「話?」
「私たち、街の中でもスキル使えるって言ってた」
一瞬、三人が固まる。
「マジか?」
「え、ほんとに!?」
「おお」
三人は慌ててウィンドウを開き、自分のスキルを確認する。
そして、すぐに顔を見合わせた。
「おお……」
「マジだ……」
「ほんとに使える……!」
華菜が、ぱっと顔を明るくする。
「じゃあ、早く逃げよー!」
「うん」
直哉もすぐに頷く。
けれど、リンクだけは腕を組んだまま、黙って考え込んでいた。
私は、リンクが口を開くのを待つ。
華菜と直哉も、それに気づいたのか、何も言わずにリンクを見る。
しばらくして、リンクが低い声で言った。
「なあ……少し懲らしめないか?」
びっくりした。
まさかリンクの口から、そんな言葉が出るなんて思わなかった。
華菜と直哉も同じだったみたいで、二人とも目を丸くしている。
私は思わず笑って、リンクの肩を軽く叩いた。
「いいじゃん。私も、少し頭にきてたんだよね」
「だねー。私を泣かせるなんてさ」
華菜がむっとした顔で言うと、直哉がすかさずその肩を叩く。
「ほら、やっぱ泣いてた」
「うるさい!」
華菜が睨みつける。
けれど、そのやり取りに少しだけ空気が和らいだ。
「で?どうする?」
直哉が、リンクに向かって聞く。
私は、そこで勢いのまま言った。
「私のスキルで、あいつらをボッコボコに!」
三人が、ぴたりと動きを止めた。
それから、信じられないものを見るみたいな顔で、一斉に私を見る。
「……うさぎが、そんなこと言うとはな」
リンクが、心底驚いた顔で言う。
「だよねー……」
「たしかに、びっくりだわ」
華菜と直哉まで頷いていた。
言われてみれば、その通りだった。
人をボコボコにする、なんて。
この世界に来る前の私なら、絶対に口にしなかった言葉だ。
これが、スキルを使えることからくる妙な高揚感なのだろうか?
それから私たちは、小声で計画を話し合った。
誰がどう動くか。
使えるスキルは何か。
どのタイミングで仕掛けるか。
必要なスキルも、全員でひとつずつ確認し合う。
けれど、話し合いが進むうちに、この作戦では私の出番はほとんどないのだとわかった。
少しだけ残念だった。
でも、それがたぶん一番いいのだろうとも思う。
「ねえ」
私は、にやっとしながら言った。
「今から上に行ってさ、“裁判まだですか?”って聞きに行こうよ。絶対、皆びっくりするよ」
「ふふっ」
「それ、いいな」
「顔見てえわ」
三人も笑った。
それで、そのまま行くことになった。
その前に、全員でもう一度スキルを見直して、使うものを再セットする。
リンクが、最後に私たちの顔を順番に見渡した。
「よし。行くか」
そこで少し間を置いて、リンクは真面目な顔のまま続ける。
「懲らしめた後の台詞、わかってるよな?」
「あのダサいやつ?」
「あれは、ダサい」
華菜と私が即答すると、リンクが眉をひそめた。
「ダサくねえだろ」
「いや、ダサいって」
「直哉風に言えば、浪漫だろ?」
「一緒にすんなよ」
直哉がすぐに言い返す。
「直哉のナレーションも大概ダサかったけど?」
「は?何言ってんだ、うさぎ」
「どっちもダサいと思うけど?」
「だよね?」
華菜が即座に乗ってくる。
「お、気が合いますな、うさぎさん」
「でしょ?」
私と華菜は、その場でパチンとハイタッチした。
「お前らなあ」
「浪漫がわからんとは」
「いや、わかるけどダサいよ?」
「そうそう。わかった上でダサい」
そこから、私と華菜対リンクと直哉で、ダサいかダサくないかで小さな言い合いになった。
牢屋の中で。
このあとポリスを懲らしめようとしているのに。
こんなことで言い合っている状況が、なんだか可笑しくてたまらなかった。
「さて、行くか」
リンクがそう言うと、私達は頷き、牢屋を出て階段を上がって行った。




