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兎と猫  作者: 藤原 智
16/33

十六話 牢屋

 私たちは、広場から街の出口へ向かって歩いていた。

 最初に気づいたのは、リンクだった。


「つけられてるな」


 その声に、私もさりげなく後ろを振り返る。

 少し離れた場所を、数人のポリスたちが歩いていた。

 露骨に隠れる気もなく、ただこちらを監視するように、一定の距離を保ってついてきている。

 嫌な予感がした。


「うわ、めんどくさ」


 華菜が小さく呟く。

 直哉は、もうあからさまに顔をしかめていた。


「何だよ、あいつら」

「無視して進もう」


 リンクが短く言う。

 私たちはそのまま歩き続けた。


 けれど、嫌な予感は当たった。

 一本横道を抜けたところで、前方にもポリスたちが現れる。

 横からも、後ろからも、ぞろぞろと人が集まってくる。

 気づけば、私たちは数十人のポリスに取り囲まれていた。


「お前ら、ついてこい」


 前に出てきた男が、当然のように言う。

 頭の上には、ポリスの文字が浮かんでいる。


「はあ?何でだよ」


 直哉が一歩前に出る。

 けれど、その腕をリンクがすぐに押さえた。


「待て」

「あ?」

「ここで暴れても、向こうの思う壺だ」


 リンクは低い声で言ったあと、正面の男を見据える。


「理由を聞かせてもらえますか?」

「話は後だ。とにかく来い」

「それじゃ筋が通らないだろ」


 リンクが言い返す。

 

「俺たちは逃げるつもりはない。だから、そっちもきちんと説明してくれ」


 華菜も、頷いていた。

 けれど、直哉だけは納得していない顔で舌打ちする。


「こんな連中に従う必要ねえだろ」

「直哉」


 華菜が、なだめるようにその腕を掴んだ。


「今は我慢しよ」

「でもよ」

「ここで手をだしたら、余計に面倒になる」


 直哉は不満そうに眉を寄せたままだったが、最後には小さく舌打ちして黙った。


 こうして私たちは、ポリスたちに囲まれたまま、街の奥へと連れて行かれた。

 連れて行かれた先は、ポリスたちの拠点らしい建物だった。


 石造りの大きな建物で、入口の雰囲気だけ見れば、役所か何かにも見える。

 けれど、中に入った瞬間にわかった。ここは、監獄だと。


 壁際には武器が立てかけられ、あちこちにポリスの連中がいる。

 笑い声も聞こえるのに、空気は妙に冷たかった。


 まず私たちは、入口近くの待合室みたいな場所に座らされた。

 長椅子がいくつか並び、机があるだけの、殺風景な部屋だった。

 けれど、出入口には見張りが立っている。


「面倒くさ」


 直哉が苛立ちを隠さずに言う。

 華菜が不安そうに辺りを見回す。

 私は黙ったまま、膝の上で手を握りしめていた。

 リンクだけが、比較的落ち着いていた。


「とにかく、言うべきことはちゃんと言う」

「通じると思うか?」

「通じなくても、筋は通す」


 直哉の問いに、リンクは短く答えた。

 それから、しばらく待たされた。

 どれくらい時間が経ったのかわからない。

 誰もほとんど口を利かなくなった頃、ようやく見張りの一人が声をかけてきた。


「来い」


 私たちは立ち上がり、そのまま廊下の奥へと連れて行かれる。

 通された先は、妙に整った部屋だった。

 机や棚が並び、書類らしきものが積まれている。

 本当に役所みたいな雰囲気だった。


 そして、一番奥。

 そこに、四人の男が座っていた。

 他のポリスたちとは明らかに空気が違う。

 偉そうに椅子へふんぞり返り、何か話していたその四人を見て、私はすぐに思った。


 あれが、このポリスを作った連中なんだ。


 私たちは、その四人の前まで連れて行かれた。

 真ん中に座っていた男が、つまらなそうに私たちを見る。


「こいつらか」

「はい。例の件の四人です」


 後ろにいたポリスが答える。

 リンクが、一歩前へ出た。


「事情を説明したい」


 できるだけ冷静に、筋を通そうとする声だった。

 けれど、男は片手を軽く上げて、それを遮った。


「話は後だ」

「ですが」

「後で裁判をする」


 その言い方は、まるで最初から結論が決まっているみたいだった。

 リンクの表情がわずかに険しくなる。


「裁判?その前に、こっちの話を」

「黙れ」


 低い声が、部屋の空気を切った。

 一番奥の男が、冷えた目でリンクを見る。


「牢に入れとけ」


 その一言で、後ろにいたポリスたちが一斉に動く。


「ちょ、ちょっと待ってください!」

「話くらい聞けよ!」


 華菜が声を上げ、直哉が怒鳴る。

 私も思わず叫びそうになる。

 けれど、ポリスたちは聞く耳を持たない。

 乱暴に腕を掴まれ、私たちはその場から引きずるように連れ出された。


 リンクだけは最後まで抵抗せず、悔しそうに奥歯を噛みしめていた。

 きっとまだ、話せばわかると思っていたのだろう。

 こいつらは、最初から何も聞く気なんてなかった。


 そのまま私たちは、建物のさらに奥、地下へと続く階段を下ろされていく。


 湿った空気。

 冷たい石の壁。

 鉄格子の並ぶ薄暗い通路。

 そこは、本物の牢屋だった。


「一人ずつ入れろ」


 ポリスの声が響く。


 鉄格子が閉まる音が、ひとつ、またひとつと響く。

 そして最後に、私の牢も閉じられた。


 ガシャン。


 重たい音がして、外と遮断される。

 私は唇を噛んだ。


 こうして、私たちの伝説の第一歩は、牢獄から始まった。


 だいぶ前、リンク達の言っていた事が頭を巡る。

 裁判もなしに処刑した話を。

 かなり、不安になっていた。


 しかし、ふと、猫の話を思い出した。


 あ、そういえば、スキル使えるって・・・。


 牢屋の周りを確かめると、別に見張りがいる気配はなかった。

 多分、この場所の出入り口一つしかないから、出入り口だけ見張っているのかな?と考えた。


 登録しているスキルマークを見ると、マークは、外に出た時と同様に光っていた。


 本当に使える・・・。

  

 猫の顔が浮かんだ。

 この状況、猫が仕組んだ事なんだろうか?

 しかし、人を操る事なんて出来るのだろうか?

 

 暫く、そんな事を考えていた。

 考えてもわからないので、考えるのをやめた。

 そこで、気がついた。

 物音一つもしないくらい静かだと。


 あの三人が、こんな状況なのに、大人しくしている事が、可笑しくて笑いそうになる。


 左手は、小指のみにスキルを登録している。

 パッシブスキルの落下ダメージ無効。

 

 人差し指、中指にシーフのスキルを登録する。

 

 ・開錠

 ・忍び足


 見つかっても何とかなるかと、開錠スキルを使用した。


 カチャッ


 音が小さく響く。


 牢屋の扉を押すと、外に扉が開く。

 

 私は、コソっとするわけでもなく、堂々と歩く。

 コツコツと靴が床を叩く音が響いている。


 歩き回っていると、直哉がいた。

 大人しく膝を抱えて、膝に頭をつけて座っていた。


「あははは」


 直哉のその姿が可笑しくて笑った。

 直哉は、頭を上げてこちらを見ると、目を見開き私を見ると、何か言いそうになるが、私は、指を口に当てて、静かに、のジェスチャーをすると、直哉は、小さく頷いた。




 

 

 

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