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兎と猫  作者: 藤原 智


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十五話 伝説の一歩

 私達は、魔王を倒し、現実へ帰るために動き始めた。

 魔王の居場所に辿り着くには、まずメインクエストを進める必要があるらしい。


 猫の言葉を信じることにした。

 希望値を百にして戻って来てほしい。そう言った以上、少なくとも、そのために私を騙すような真似はしないだろう。

 そんな妙な確信があった。


 けれど、リンクと華菜と直哉の三人は、職業マスターのところへ行くことに反対した。


 理由は単純だった。

 まずは自分たちの力だけで、行けるところまでやってみようということだ。


 クランホームのリビングで、私たちはそれぞれウィンドウを開く。

 そこに表示された“街に戻る”の文字が、やけに重たく見えた。


「じゃあ、私達の伝説の第一歩といきますか」


 華菜が、胸を張って言う。


「おう」

「行くか」


 リンクと直哉が、それぞれ短く答えた。

 少しだけ不安だった。

 頭にあるのは、ポリスのこと。

 また何かしてくるんじゃないか。そんな嫌な予感が、胸の奥に小さく残っていた。

 けれど、三人の顔を見ると、不思議とその不安も薄れていく。


「行こー!かなり!行くぞー!」


 私がそう叫ぶと、三人も笑いながら声を合わせた。


「おーっ!」


 そして、四人同時に“街に戻る”を押す。

 次の瞬間、視界が白く弾けた。

 転送された先は、街の中央広場。

 噴水の前――クラン受付NPCのすぐ近くだった。


 見慣れたはずの景色なのに、今日は少しだけ違って見える。

 ここから、本当に全部が始まるのだと思った。

 その時、直哉がわざとらしく咳払いをひとつした。


「魔王を倒し、伝説となったクラン『かなり。』」


 急に始まった語りに、私は思わず直哉を見る。


「何か、始まったんだけど?」


 直哉は気にした様子もなく、どこか遠くを見るような顔で続けた。


「そのメンバー、リンク、うさぎ、華菜、そして俺、直哉」

「ナレーションかと思ったら、まさかの自分語りだった」

「だまらっしゃい!華菜。今いいとこだろ」


 華菜のツッコミを受けても、直哉は咳払いして立て直す。


「しかし、その英雄たちの第一歩は、実に小さなものだった」

「おお」

「様々な苦難、困難、絶望、そして理不尽に立ち向かい、それでもなお進み続け、やがて英雄と呼ばれる者たちの物語は、今、ここから始まるのであった」

「おお!すごくダサッ!!」


 そういいながら華菜が拍手する。

 私もつられて拍手した。

 リンクは呆れたように笑いながら、


「で、語り終わったか?」

「終わった」

「じゃあ行くぞ、英雄様」

「おうよ・・・ダサくねえだろ!浪漫だろ!」


 そうして私たちは、少しだけ笑いながら歩き出した。

 私達は、横一列に並び、胸を張って歩いていた。

 直哉のナレーションのせいか、皆、英雄になったつもりでいた。

 その姿が可笑しくて笑った。


 私達の伝説の一歩が、まさか、牢獄から始まるとは思わなかった。


 今、私達は街の地下牢で、一人ずつ別々に閉じ込められていた。


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