十話 スキル披露
リンクと私は、その場に腰を下ろして休憩していた。
さっきまで霊体のモンスターと戦っていた場所とは思えないくらい、あたりは静かだった。
木々の隙間から差し込む光が揺れていて、風も穏やかだ。
私達は、しばらく言葉を交わした。
話したのは、現実のことだった。
これまで互いに踏み込まずにいた話題だけに、かえって今がちょうどよかったのかもしれない。
私は東京の出身で、今は仕事の都合で名古屋にいることを話した。
リンクは静岡にいると言った。
年齢の話にもなった。
私が十九だと答えると、リンクは二十五だと返した。
それから、現実ではどんな生活をしていたのか、どんなふうに毎日を過ごしていたのか、ぽつりぽつりと話し合った。
この世界の話ではなく、元いた場所の話をしているはずなのに、不思議とそちらの方が今の自分には遠く感じられた。
そこへ、華菜と直哉が戻ってきた。
二人もそのまま話に加わる。
華菜は二十一歳、直哉は二十二歳だった。
華菜も東京に住んでいて、直哉は北海道、札幌だという。
住んでいた場所も、年齢も、それまで過ごしてきた日々も、皆ばらばらだった。当たり前かもしれないけれど。
現実なら、きっと知り合うことすらなかったかもしれない。
それでも今は、こうして、この世界に飛ばされて、同じ場所に座り、同じ話をしている。
奇妙なものだと、私は思った。
「そんな事よりー!直哉が・・・いえ、直哉様の新スキルお披露目会を開催しまーす!いえーーい!」
シーン、と場が静まった。
「ちょっ、なんでそんなノリ悪いのよ!」
「いや、今ちょうど現実の話してて、ちょっとしんみりしてたから。ねー?」
「そうだな。華菜、お前もしかして空気読めない属性か?」
「属性って何よー。ノリ悪っ!つーか直哉もノリ悪い!」
「しょうがない。そこまで言うなら見せてあげますか。僕の新スキルを」
直哉がすっと立ち上がる。
どこか舞台役者みたいに胸を張ったその姿に、自然と全員の視線が集まった。
「死んだフリ!!」
次の瞬間、直哉はその場にばたりと倒れた。
目はかっと見開かれ、顔からさっと血の気が引いていく。みるみるうちに顔色は土気色になり、本当に死体みたいになっていった。
「えーと・・・え?これだけ?」
「みたいだけど?」
「おい、どうすんだよ。この空気」
三人で倒れたままの直哉を見下ろす。
「直哉?」
「おい、もういいだろ?」
「反応しないね?」
冗談半分だった空気が、少しずつ本気の心配に変わりかけた頃、
直哉が、何事もなかったようにむくりと起き上がった。
「どうだった?すごくない?」
「え?すごいの?リンク?」
「は?なんで俺に振るんだよ、華菜?」
「え、うん、えっと・・・うん?」
「お前ら何だよ!使用中はマジで死んでるんだぞ!」
「マジ?」
「本当だよ!死ぬ体験ができるんだぞ?お前ら、死んだ事ないだろ?」
「そりゃねえよ」
「まあな」
「ちっ、浪漫を知らない奴らだ」
直哉がふてくされたように鼻を鳴らす。
すると今度は華菜が、待ってましたとばかりに前へ出た。
「じゃ、次は私!」
自慢げに仁王立ちし、胸を張る。
「刮目せよ!」
そう言うと華菜は中腰になり・・・
「うええええええっ」
びちゃっ、びちゃっ、びちゃっ、と真っ赤なものを口から吐き出した。
「は?」
「何だよそれ?」
「だな。何だ?」
「はぁ?わからないの?吐血よ、吐血!」
「あははは!くだらなー!」
「はあ!?うさぎ!くだらなくないでしょ!」
「いや、くだらないよな」
「いや、浪漫だろ」
「おっ、分かってるじゃないですか。直哉さん」
華菜がにやっと笑い、直哉の肩に腕を回す。
直哉も得意げに肩を組み返した。
「これが・・・」
「私、俺、の浪漫だ!」
声を揃えて言い切る二人に、もう耐えられなかった。
「あははは!くだらなー!」
「ハハハ!くだらねえな!」
つられるようにリンクと私も肩を組んで笑う。
今日も、平和な一日だった。




