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第8話「勇者VSドラゴンじゃんけん対決」

 私は自室に戻り、クローゼットを開ける。

 

「うーん……」

 

 クローゼットの中には、自分で用意した服とサタルージ王側の選んだ服が並んでいる。自前の物は少し渋めの緑のワンピース二着に、紫のズボンに藍色のローブ。魔法使いといえばと選んだものだ。対して、サタルージ王側が選んだものはドレスのような見た目でスカートの丈は短く、明るい色のピンクやオレンジ色のドレス。サタルージ王側は、私のことを妖精さんだと思っているに違いない。こんな派手目のものを魔界に住んでいるものは選ばない。なぜなら魔界の獰猛な生物に目立ってしまうからである。でも、用意してくれたし、夕食と朝食と部屋も提供してもらった。感謝の気持ちで着てみるのもいいし、私の新たな一面が見られる良い機会かも。

 

「えい!」

 

 私はピンクと白のドレスを手に掴んだ。せっかくだしサタルージ王側が選んでくれたものを着てみよう。

 ドレスを着るのは何年ぶりだろう。五年……七年も着ていない。私のお母さんは元々サタルージ王が統治している国の出身で、子供が三歳になると華やかなドレスを着る伝統があって、それで着た覚えがある。初めて着たときは、お姫様になったんじゃないかと錯覚するほど美しかった。


 ドレスに袖を通し床に置いてあった杖を持って、鏡の前で魔法を放つポーズをとってみた。蒸気が出てしまうほど顔が熱くなり思わず目を背けてしまう。こんなに恥ずかしかったっけ?


 「さあ、入るわよ」

 

 部屋に入ってきたのは戦士のリタだった。


 「それにしたんだ……」

 

 彼女は少し引き気味でこちらを見ている。もしかして……選んではいけなかったのかも。


「もしかして……選んじゃいけなかったですか?」

「いや……イアナが良いって思うなら」

「もしかして、派手でしょうか?」

「派手ではあるかな。でも……勇者パーティーに華やさって大事じゃん。あーしだけ華やか担当だと荷が重いし、イアナも担ってくれるからいいと思うよ」

「あ……りがとうございます」

「か、感謝なんかしなくて良いよ……」


 リタは手と顔を横に振り、まんざらでもない表情を見せた。


「あとは待つだけ……」


 私は壁に立てかけられている時計を眺めた。出発まであと一時間ある。


「このドレスにその髪はどうなの?」

「え?」

 

 鏡を見ると、ボサボサの髪が写っている。起きてから髪の毛を整えるのを忘れていた。普段はお母さんがやってくれるからそんな事はなかったけれど、今回は自分でやらないといけない。

 

「このドレスと似合う髪型にしてあげる」

「お……お願いします」


 リタは串を取り出し、私の髪を解かし始めた。


「結構、絡まっているね」

「少し癖っ毛なんですよ」


 リタは苦戦しているみたいで、私の髪を解すたびに吐息が聞こえてくる。


 「痛っ!」

 突然髪の毛が引きちぎられた。


「ごめん。勢いでいっちゃった」


 リタの持っている串を見ると引きちぎった髪の毛が見えた。


「もう慎重にやってくださいよ」

「はい、はーい」


 リタはそっけない返事をし、髪の毛を解し続ける。


 「これから結んでいくよ」


 リタは串で全体を通し終えてから呟いた。どんな髪型にしてくれるのだろう。彼女は髪の毛を半分ずつ束ねて耳より高めに結んだ。


「ツインテールですか?」

「どうでしょうね……」


 リタは結んだ髪の毛を編み始めた。やっぱり三つ編みツインテールをやるつもりだろう。お母さんがあまりやりたがらない私の好きな髪型。自分がやるときは少し変になってしまうのだけれど、リタは普段やっているのかかなり上手い。両方の三つ編みが終わってから、丸め始めた。どんな髪型になるか想像できない。


「これで完成」

「……か、可愛い」


 そこには角ではないものが二つ付いていた。


「ツインお団子にしてみました」

「これが……お団子」


 自分の可愛さがより増している。お風呂の時に解すのがもったいない。


「よし。これでドラゴン討伐に行けるね」

「はい! ありがとうございます」


 私はとびっきりの笑顔で感謝をした。


 「準備は終わったか……」


 扉の向こう側からタシールの声が聞こえた。


 「「はーい、終わりました」」

 

 私たちは同時に返事をし、床に置いてある武器を拾った。


「さあ、行きましょうか」

「はい」

 

 私は部屋の扉を開けた。


「お前たち仲良いんだな」

 

 タシールは首を傾げながら聞いてきた。


「「まあ女の子同士ですから」」

 

 私たちはタシールに向かって笑顔を振りまいた。


 

                      □□□□□□

 

 思ったよりも早く峡谷に着いてしまった。地図上では危険エリアが峡谷の前にあり、かなり苦戦をするはずだったが、その危険生物が現れなかった。簡単に峡谷に行けて、勇者は拍子抜けしていたが私は恐怖を感じていた。あまりにも静かで何かにおびえて隠れているような雰囲気を感じ取った。もしかしたら、ドラゴンがその原因だったりして……。


「先頭に立っているのが勇者かな?」

「ああ、俺が勇者だ」


 勇者は普段と変わらない様子で返事をした。私はあまりのドラゴンの威圧に杖をついて立つことがやっとなのに。


「来るがいい、勇者よ」


 と言うと、勇者はドラゴンの元へ歩き始めた。


「『フィールド:オープン』」


 ドラゴンは勇者が目と鼻の先に来ると、両手を広げて、自分と勇者を閉じ込める魔法を放った。


「何をした?」

「わしたちの特設戦場を用意しただけだよ」

雷撃玉(らいげきだま)


 試しに勇者を閉じ込めた膜に向けて撃ってみたが、はじかれてしまい魔法が自分に返ってきた。


「まずい……」


 あまりにも早く自分の魔法が返ってくる。防御魔法を撃つ隙も与えないほどに。


「おらあああ」


 けたたましい声を上げ、リタは大きい剣で私の魔法を叩き切った。


「た、助かりました」

「どうやらあーし達は見守ることしかできないようね」


 リタはそう言ってドラゴンと勇者を見つめていた。


「ここではじゃんけんという攻撃手段しか使えない」

「じゃんけん?」

「じゃんけんを知らないのか?」

「いや……知っている。俺の世界と一緒であれば」

「なるほど……」


 ドラゴンは少し考えた後、勇者に向かって尋ねた。


「じゃんけんはグー、チョキ、パーがあることは、勇者の世界にもあるか?」

「それなら俺の知っているじゃんけんだ」

「なら同じだ」

「それならじゃんけんで勝てば峡谷から離れるってことだな?」

「それでは面白くない」

「面白くない……?」

「私のやろうとするじゃんけんは、それはそれは……刺激的なもの」

「それは楽しみだ」


 勇者はにやりと笑う。


「では手短にルールを説明しよう。勝敗はどちらかが降参と言うまで。じゃんけんに負けたら、勝った側に合わせて攻撃が来る。グーで勝ったなら締め付け攻撃。チョキで勝ったなら斬撃攻撃。パーで勝ったなら打撃攻撃が来るを出せば」

「理解した。用は……じゃんけんに負けなければ攻撃を一方的に与えられるって事だな」

「左様……では一戦目」

「「じゃんけーん」」


 とお互いが声高かに言い、腰を捻りじゃんけんの構えをとる。


「グー」


 勇者は握りこぶしをドラゴンの元に出す。そのとき、フィールド内に半透明な大きな手が握り拳が現れた。対して、ドラゴンは手を広げる。こっちにも大きな半透明な手が現れて――。


「パーだ」


 勇者はじゃんけんに負けた。剣を構え、防御の体制をとる。大きな手は小さな手に分散し、勇者に当たった。


「うっ……」

「気持ちいいね。さて、二戦目に行こうか」


 ドラゴンは拳を握り勇者の前に出す。


「いいね。準備運動はここまでかな」


 勇者は余裕な表情を見せる。


「「じゃーんけーん」」


 お互いがじゃんけんの構えを取り声高に言う。


「「グー」」


 お互いの半透明の手が攻撃をしだすがどれも引けを取らない。じゃんけんのルールでいえば、ここでもう一回になる。あいこによって勇者が有利に働いてほしい。


「「あいこでしょ」」


 勇者は天を仰ぐようにチョキをだし、ドラゴンはグーを出した。


「弱いのお」


 ドラゴンが言った後、勇者は半透明の手に締め付けられ吐血した。そして、その手は勇者を地面に投げ落とした。


「ここでキミが負けを認めるのも吉じゃぞ」


 ドラゴンは勇者に向かって提案を持ちかけた。


「へへ、誰がやるかそんなこと。俺は魔王を殺す勇者だぞ」


 勇者はなんとか地面に剣を差し、立ち上がった。


「いいだろう。三戦目だ」

「「じゃーんけーん」」


 お互いがじゃんけんの構えをとる。お互いが同時に出した。


「パーだ」

「チョキでーす」


 ドラゴンの方の半透明の手が打ち勝ち、勇者の方に飛んでいく。半透明の手は斬劇に変わり、勇者を切り刻んでいく。


「さあ、もう一戦といきますか、ドラゴン!」


 ――あれから九十六回目のじゃんけんがあった。依然、勇者は勝っていない。次で百回目で勇者は虫の息でかろうじて立っている。次の勝負で勝敗が分かれそうだ。


「では百回目」

「「じゃーけーん」」


 ドラゴンもじゃんけんの構えをとる。今回は百回目というのもあって、重苦しい雰囲気だ。


「グー」

「チョキだ」


 お互いが手を出すタイミングで思わず目をつぶってしまった。痛いものを目が避けているようだった。少しの期待を乗せて、目を開ける。大きい手が握り拳を出していた。そして、その拳を出していたのは勇者だった。


「はあはあ……やっと……勝てたぞ」

「おめでとう……甘んじで受け入れよう」


 ドラゴンはフィールド内で大きくなる手にドラゴンは手を仰いだ。大きい手はドラゴンに向かって落ちていく。


「もう満足じゃ、負けを認める」


 ドラゴンは勇者にそう言い、飛び去った。


「あーし達出番無かったね」


 リタはぼそっと呟いた。


「ドラゴン……を追っ払ったぞ」


 勇者は親指を立て、私たちに微笑んだ後、地面に倒れ込んだ。


「こ、これは……?」


 私は驚きのあまり立ち止まってしまう。


「みんな、喜ぶ前に勇者を見に行かないと」

「そ……そうですね」


 急いで向かうと、勇者は気絶していた。これは天界に帰る準備ができたということだ。


「こ、これはどうしましょう?」


 タシールはリタに尋ねる。


「と、とりあえず魔王城に行きましょう」

「そうですね……皆さん、手をつないでください」

「わかった。とりあえず魔王城に行って、委ねますか」


 リュウエンの言うとおり、あとは魔王様やそこに住んでいる女神様に任せるしかない。


「『テレポーション』」


 私たちは魔王城の前に移動した。


「あのーもしかし勇者一向ですか?」


 後ろから女の子の声が聞こえた。


「あっ……はい」


 後ろを振り返ると、サタルージ王の娘と同じくらい身長の女の子が話しかけてきた。


「それに抱えているなって、もしかして勇者?」


 一人の女の子が勇者に指をさしていた。


「そうです……よ」

「あとは任せてちょうだい」


 女の子は勇者に触れると、光の粒子になって消えてしまった。

次回6月10日(水)に最終話

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