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第9話「決着」

「俺は死んだのか?」

「ええ……そうね」


 私は静かに嘘を吐く。そうしたほうが無駄話をせずに本題に入りやすいからだ。


「まだ俺は……憎き魔王を殺していない!」


 勇者はうつむき手が震えるほど握る。そこまで彼は魔王を殺し損ねたことを後悔している。この状況であたしの失態を話し始めないといけないことに心苦しいが、これを伝えないと勇者はまたあの平和な世界に勇者が戻ってしまう。


 それだけは避けたい。


 あそこの魔王は平和主義であたしが本来転生させる所にいる魔王とは天と地ほど差があるし、あの魔王とは今度お茶会の用事を入れたばかりで楽しみにしているのだから……勇者に殺させたくない。


「実はね……方丈尊さん。あの世界は勇者がいなくてもいい。平和な世界なの!」

「俺がいなくてもいい世界?」


 勇者は顔を上げあたしを見つめる。


「さて何処から話した方がいいのか……」

「最初からでお願いします」

「わかったわ。最初に転生させたかった世界はあなたも見ているよね」

「はい……見難い現実が映っている。バッドエンド間近のところですよね」

「そう。その世界に転生するのは間違ってはいない。しかし、私がくしゃみをしてしまい別の世界に転生させてしまったの」

「それが、あの世界……」

「そうなの。本当に申し訳ないことあの世界にいる住民にしてしまった」

「俺に関しては?」

「申し訳ないと思っているわ」

「ということは……俺があの世界の魔王に宣言したことって」

「ただの殺人予告をした人ってことになるね」

「今から謝りに行けますか?」

「魔王はあなたのことを怯えているから。あたしが代わりに伝えておくわ」

「……そのほうがいいですね」


 あたしは杖を召喚し勇者の足下に魔法を放った。足下には星形の紋章が現れ勇者が光の粒子となっていく。


「本来の転生先に召喚するんですね」

「そうよ」

「もうバッドエンドになっている魔王を俺は倒せるのでしょうか?」

「そこは安心してちょうだい。大女神様によって時間停止しているから、最初に転生する時と同じ状態よ」


「なら安心しました。ルイナ様」

「こほん。改めまして、勇者方丈尊(ほうじょうたける)。あなたにはこのハービララットを救いに行ってください」


 あたしは魔法の杖を床に叩いた。


「わかりました。今までの想いをぶつけてきます」


 (たける)は光の粒子になって消えていった。


 ようやくこれで長い後始末が終わった。尊が物分かりのいい子で本当に良かった。これであの世界に戻ってしまったらどうすればいいかわからなかったから。


                     



                     ◆◆◆





 ――あれからちょうど二年が経とうとしていた。

 

 勇者はバッドエンド間近のハービララットを救い色々な国の復旧作業の旅を出ているみたい。そして、あたしはあの世界の魔王と取り付けたお茶会の席に座っている。


「ルイナ……険しい顔だけど、もしかして魔王を殺しに勇者がまた来るの?」

「いやいや来ない来ない。さっきの話を聞いていたでしょ」

「もちろん聞いていました。これはナタリージョークってやつです」

「はあ……」


 ナタリーってこんな人だったっけ? 二年を経っているとどんな人だったかわからなくなる。


「さて皆さん集まったことですし今からお茶会を始めます」


 魔王の開始宣言とともにあたしは、フォークでケーキを刺し口に入れた。オレンジの香りとほのかに甘いクリームが合わさり口の中が幸せだ。


「そういえば女神様。勇者があーしたちに……いや魔王に何か伝えることはなかったですか?」

「え……っと」


 リタの指摘に全神経を注ぎ込み考える。確か……何か言われたような。


「あっ!」


 あたしが代わりに勇者の謝罪を言うのを忘れていた。本来だったら二年前に終わっているはずだけれどこの後女神の仕事が立て続けにきてそんな機会が失ったんだった。


「皆さまにご迷惑を掛けてしまい申し訳ございませんと言っておりました」

「ふぅーん。それなら良い……ですよね? 魔王様」

「まあ……謝ってくれるだけでありがたいよ」


 ヴァルアンはあたしの目を見ながら頭を少しだけ下げた。そこには感謝の意味も含まれているような気がした。


「皆さんは二年間の間に何か起こりましたか?」


 天界に戻ってからこの世界を見る機会がなくなったので、ここにいる者たちがどんな二年間を過ごしたのか気になる。


「私とタシールとナタリーは魔界にある名門校ラグラリアルというところで魔法の勉強をしています」


 最初に口を出したのはサキュバスのイアナだ。見た目からは人間の女の子しか見えない。本当にサキュバスが化けているとは思えない。


「タシールさんは凄いです。私なんかよりも飲み込みが早くてもう上級者向けの魔法を放てたりするんです」

「いやいや……イアナだって自然を我がものとしたオリジナル魔法を会得しているじゃないか」

「あれは魔法ではありません」

「そうですね……教科書にあるのが魔法だもんね」

「なんですか? その言い方は」


 イアナとタシールはお互いものすごい剣幕で睨みつけている。何か話題を変えた方がよさそう。


「リタさんは……二年間の間に何か起きましたか?」

「あーし?」

「はい……」


 ちょっと無理かもしれない。普段真面目な方ばかり対応していたからいかにも自分のペースにしてしま

う人に少しだけ腰が引けてしまう。


「可愛いの旅に出てます」

「可愛いの旅?」

「世界には色んな可愛いがあります。それを集めてたり、感じたりする旅です」


「楽しそうで何より……ですね。あそこの……剣を腰に差しているリュウエンさんでしたっけ?」


「ええ、リュウエンで間違いないです。女神様」

「あなたが二年間何をしたか、聞かせてくれる?」

「では話させていただきます」


 リュウエンの口から出る渋い声は一瞬で場を沈めた。彼からどんな二年間を聞かせてくるのだろう。


「わたしは……ゴブ郎さんのもとで剣術の教えを説いております」

「なるほど……」


 出会ったときに先生をやっていると魔王か秘書のアタリウスが言っていた気がする。


「それで、ゴブ郎さんはどんな二年間を?」

「僕はスライムを使役した方法をまとめた論文作成を二年間の間にしました。世間の人に発表したとき称賛よりかは驚愕のほうが大きかったですけれど」


 あのスライムを使役する魔法ってこの世界では凄いことをしてたんだ。てっきりそういうのは常識であたりまえだと思っていた。


「魔王ヴァルアンと秘書のアタリウスは、二年の間で何かありましたか?」

「……吾輩は何かというほど大きく変わっていないな」

「つまんないね」


 あたしはうつろな表情を魔王に見せた。


「しっ……仕方ないじゃないか。勇者が起こしたことなんて才低限のことで自分の環境を著しく変わることなんてなかったのだから」


「アタリウスはどう?」

「私も……魔王様と同意見です」

「二人ともつまんないね」


 再びうつろな表情を二人に見せつけた。魔王と秘書のアタリウスは苦笑いをし、場を和ませようとしている。


「まあ……そういうものよね」


 と、自分しか聞こえない小さい声で呟いた。あたしの失態が世界を大きく揺るがすことはなかったからこそ平穏な日常が戻ってきたのだろう。


 ――勇者を無事に天界へ送り返せたことに、改めて心の中で感謝した。

この作品読んでくれた皆様、本当にありがとうございました!

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