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第6話「勇者パーティーの面接(後編)」

今回はアタリウス視点の話です

 魔王様は大丈夫だろうか。二日前の大掃除で大規模な魔法を使って、今も寝ている。魔王様がここまでことを一人でやらなくても良かったのにと思ってしまう。もしかしたら自分に責任を感じていたのかもしれない。あの何も使ってない部屋、厳密に言えば、先代の魔王にここは何も置くなと言われた部屋を倉庫に使ってしまったことを。それでも私に一言言ってくれれば何かしたというのに。はあ……むかついてきた。起きたら、文句の一つや二つ言ってやります。


「すいませーん、遅れました」


 思い切り部屋の扉が開き、小柄な女の子――イアナがこちらに走ってきた。


「へにゃ!? げひゅ」


 イアナはつまづいて、顔面から盛大に転んだ。


「大丈夫ですか?」


 私はすかさず手を差し伸べる。


「いや……あの?」


 イアナは両手をスカートで必要以上に拭いている。彼女の手はそこまで汚れていないのに。


「えへへ、大丈夫です」

「イアナさん……」

「なんでしょう?」

「サキュバスの尻尾見えてます」

「え……? 解けてますか?」

「ええ」


 フィルシは心の中で尻尾を隠す魔法を唱えたみたいで、尻尾は徐々に見えなくなっていた。


「まさか、憧れのアタリウスさんの前でこんな痴態を晒すことになるんて……」


 イアナは目元を手で隠し恥ずかしがった。


「さて、皆さん揃ったことですし、行きますよ。手を繋いでください」


 みんなで手を繋ぎ私は「テレポーション」を唱えた。

 到着したのは、会場の控え室。昨日まで、王宮のほうに移動しようとしていた私だが、サタルージ王に

「いい会場を用意したので、そこの控え室に飛んでほしい」と言われ、一回下見をし、今日に至る。控え室には大きい机と人数分の椅子と茶菓子が用意されている。


「ほう、めったに口にすることはない茶菓子たちだ」


 いつも口に茎わかめを咥えているライトウが茶菓子を見ながら呟く。彼の発言から見るにあまり茶菓子を召し上がらないようだ。

 控え室の扉が開いた。


「アタリウスさん初めまして――」


 肩まで伸びた金髪に毛先がピンク色で男のような肉体を持ち、おしゃれに鉄鎧を着こなしている女性が握手を求めてきた。


「どっ、どうも……」


 私の声は静寂の中へと消えていいった。彼女の真っ直ぐとした眼に少し戸惑ってしまう。


「よろしくね」


 彼女はもう一度握手を求めてきた。


「よ……ろしくお願いします……」


 私は握手を返した。彼女の手は温かく、包まれているような感じ。しかし、少し痛い。彼女が本気で握ったら私の手は使い物にならなくなってしまうだろう。


「私、勇者の戦士をやることになったリタって言います」

「ああ! あの、ギャル戦士と呼ばれている」

「そうなんですよ。ギャル、ギャルって勇者に言われてね。わたしもギャルって何? って感じ」

「はあ……」


 あの巻物通り口調が軽い。


「……実は私、小さい頃に魔王に会っていて、肩車をやってもらったことがあるの」


 リタはペンダントを外しながら言う。


「これがその写真で――」


 リタはペンダントを手の平に乗せて上部にあるボタン押した。開くとそこには先代の魔王様と肩車している幼いリタさんの写真があった。


「これ、預かっといて。返す時は勇者を天界に帰したときでいいから」


 リタは私の手を開き、ペンダントをそこに置いた。


「承りました……」


 私はペンダントを握りしめた。このペンダントのいっときの別れは彼女の覚悟を表すものでそれは質量以上に重くのしかかっていた。


「それと、今から勇者と共に面接みたいなことをして見守ってもらうけれど、その格好で大丈夫?」

「はい……?」


 私は目を丸くした。送迎だけでいいと聞いたからまさか、勇者に会うことになるなんてことが。


「ごめんね。勇者が付き添いの方にも勇者パーティーが完成を見守った方が良いって」

「……わかりました『デコレケーション』」


 私はタキシード姿の人に化ける。


「では案内するね、勇者がいる部屋に」


 私は思わず息を呑む。魔王を殺したいと日頃考えている乱暴な人に会うことになる。一つでも魔王と親しくしている話をすれば私の命は潰える。あまり勇者とは話さないようにしよう。そして、リタの手は体が動いてしまうほどの怪力で、さすが勇者に戦士に選ばれたことだけある。


「タケル、付き添いの方を連れてきたよ」

「ありがとう」


 勇者が私の姿を舐め回すように見ている。まるで私の正体を知っていて、粗がないか探っているかのようだ。


「君、勇者のパーティーに入らないか? 君なら良い魔法使いになれると思うんだ」


 勇者から意外な言葉が飛んできた。私を勧誘している? 今までこういうことがなかったので「魔王を殺す人でなかったらときめいていただろうに」と変な後悔が心の中に出てきた。


「お断りさせていただきます私は、ま――」


 魔王様と言いそうになったのでここで口を閉ざす。散々他の人に魔王と親しくしていることを言ってはいけないと伝えているのに私自身が言いそうになるとは情けない。


「真新しい組織の長に秘書として雇ってもらっていますので、お断りさせていただきます」


 まどころしい文になってしまったが、瞬時の対応としては魔王から褒められるほど良い回答である。


「それなら仕方がない。君が来てくれたら魔王なんか赤子をひねるも同然だったのにな」

「ごめんなさいね……」


 勇者の最後の言葉に否定したい気持ちは強くあったが、ここで言ってしまったらさっきまでの誤魔化しが意味が無くなるので、この返答で止めておくの丁度いい。


「タケル、放浪者のリュウエンが扉の前に待っているってさ」


 私を助けるようにリタは勇者に言った。ありがとう、リタ。このあと一言がなかったら空気が悪くなるいっぽうだったから。


「どうぞ」


 勇者が言うと、扉が開き放浪者のリュウエンが入ってきた。


「では、自己紹介をお願いします」

「自己紹介? 俺は……リュウエン。タツマイト生まれでサムライです……」


 突然のことで彼の表情には戸惑いが見える。


「サムライ……!」


 勇者は目を輝かせる。この四文字に一体に何を勇者の心を焚きつけるのか。


「それはサムライ道みたいなのはあるんですか?」

「あなたの世界との同じサムライ道ではないとは思いますが、こちらの世界にもサムライ道はあります。え……何事も感謝する……最初から信用するなど」

「……いいですね」

「しかし、放浪の旅をして思いました。それは同じ文化圏か同じ教育水準があってこそ。サムライ道は他の地域に行った時、ほぼ作用することはない」

「でも……今でもサムライ道を歩まれているんですよね?」

「そんなことしていたら現世にいませんよ。自分の処世術を身につけたほうがよっぽどいいです」

「口に咥えているのは何?」


 リタが勇者とリュウエンの話を遮るように尋ねる。もうちょっとタイミングを計っても良いのではと思ってしまうが、気になるのも仕方が無い。集まる時から咥えているのだから。


「これか……?」

「そうそう」

「茎わかめさ」

「茎わかめ!?」


 リタの驚く声は部屋に響いた。そこまで声を張り上げる必要はあったのだろうか。誰が見てもわかる代物のはず。彼女の視点で考えたら、そんな物を常に咥えている驚きがこの大きさを生んだと考えれば納得はいく。


「茎わかめか……」


 勇者は感傷に浸るような表情を浮かべながら呟いた。


「タケル? 何か茎わかめに思い出があるの?」

「ああ。父がよ車の運転で咥えていたから」


 勇者の父は馬車を操縦する御者(ぎょしゃ)なのだろう。そんな父と一緒に馬の手綱を握る様子を見ていた思い出を思い出したという感じかな。

「これを咥えていると心が落ち着くんですよ。おしゃぶりみたいでね」


 空気が一瞬凍る。リュウエンは驚いた様子で周りを見る。きっと、彼にとっては締めの言葉のようなもので、共感されると思ったら真反対の反応で戸惑っているのだろう。前文で収めておけばこんな状況にならなかったのに。


「――では、リュウエン。あなたの腕前を見せてください」


 勇者が空気を変えるため口を開く。


「演舞ですか……いいでしょう」


 リュウエンは鞘から剣を抜き、技を放った。


「痺れ桜」


 リュウエンは残像が見える速度で空気を斬っていく。リュウエンの前には斬撃が見え、少しの稲妻が見えた。


「こんなもんですかね」


 リュウエンは鞘に剣を収め、次の技を放った。


雷雨(らいさめ)


 天井から小雨が降り、そこに斬撃が降り注ぐ。技を放った時、リュウエンの姿は消えていた。おそらく、私が目にする前に移動しているのでどこに行くのかわからないということだろう。


「こんな感じでよろしいでしょうか?」


 リュウエンは剣に付いた水滴を振り払い鞘に剣を収めた。


「ええ。どれほどの強者かわかりました」

「これからよろしくお願いします」

「ありがたき幸せでございます」

「ではこちらの席に座ってください」


 リュウエンは私の隣に座り、私の耳元で尋ねる。


「意外と勇者は良い奴なのか?」

「まあ……そうね」


 勇者を悪い奴として認識していなかった。ただ平和な世界を維持している魔王を殺すと言っている以上、敵として排除しないといけないと思っていただけだった。他の者も悪い人と思っているのだろうか


「私、魔法使い候補の一人、呼んでくるね」


 リタは部屋を飛び出していった。


「勇者よ、茎わかめはいるか?」

「もらいます……」


 勇者はリュウエンから新しい茎わかめをもらい、口に運んだ。


「あっ……意外と好きな味」


 勇者は手で口を押さえ、驚いた姿を見せる。その様子は子どものようでかわいらしかった。


「呼びにきたよ。狐の獣人のファルくん」

「よろしくお願いします」 


 この驚くほど爽やかな受け答えをするのは九尾の末裔で変装と火の魔法を得意とする。魔王との関わりを避けるため変装を勧めたが、素の姿のほうが帰ってバレることが少ないのではと提案され、毛並みがふさふさの姿で勇者に会っている。


「獣人……?」


 勇者の反応から元いた世界には獣人がいないのだろうと推察できる。あの戸惑いの眼差しに体が動いてしまうほどの興味は自分たちのいた世界にはいなかった証拠になるからだ。


「では、何かしてもらいましょうよ」


 リタは手を合わせ勇者に申し出た。


「さっきの演舞みたいな感じか……そうしよう」


 勇者は少し考え、了承した。


「私のところでは魂を鎮魂するため、ある舞を踊ります。そちらをお見せしてもよろしいのでしょうか?」

「是非お願いします」


 ファルは片足を出しくるりと一回転をする。周りに火の円が現れ、その中で舞う。いつの間にか、音が耳に届く。その音はおおらかで癒やしを与えるものだった。


「こちらでいかがでしょうか?」


 ファルがそう言うと火は塵のように消えていった。


「良かった!」


 勇者は立ち上がり手を叩く。それを見た私たちも立ち上がり手を叩いた。


「皆さんありがとうございます。これは見たいな思う魔法とかあれば見せることは可能ですがいかがしましょうか?」

「そうですね――」


 勇者は口を閉じた。これは他の魔法使い候補のことも考えての葛藤だろう。一人目でこんなに素晴らしい者が来たらぽんぽんと言いたくなるが他の魔法使い候補よりも有利になってしまう。平等の観点からここは……。


「他の魔法使い候補もいらっしゃいますので、ここで締めましょうか」

「それもそうですね」


 その後、ファルは私たちの席を見て「次の魔法使い候補の方をお呼びしましょうか?」と提案する。勇者は快く快諾し、ファルは部屋を後にした。


「あたしの名前はチャルリンよ」

 部屋の扉を勢いよく開けて自己紹介する気の強い女性はゴブ朗の教え子だ。彼女はゴブリンから人の女性に変装している。この前情報がなければ彼女の姿がゴブリンという判断はできないほどの変装が上手い。


「では、演舞をしてもらいましょう」

「演舞……?」


 チャルリンは一瞬考え、魔法で杖を取り出した。「あたしのが演舞になるかわからないけれど、やってみるね。風の精霊よあたしに応えて」


 杖を使って魔法を床に放った。そこに白くて小さな人型のシルエットが現れた。彼女は微笑み、杖を二回床に叩き、彼女は歌い出した。白くて小さな人型のシルエットは私たちが手に置いている机に飛び移り走る。端まで走ると、チャルリンが手を差し伸べると、彼女に腕に移り、杖の持っていない手の方向に行きそこで踊り出した。終わり際になっていくと人型のシルエットは腕や足を膨らまして強靱な肉体を見せたり、竜巻姿になったりと変幻自在であることを私たちに見せ、最後に彼女の手のひらで決めポーズをした。


「いかがかしら?」

「すっ……すごい」


 勇者は静かに手を叩いた。この反応になるのも無理はない。彼女の技は独自に編み出したもので独創性が強く感銘は受けるけれど、わかりやすいものではないので反応に困る。


「最後の方を呼びに言ったほうがいいかしら?」

「あっ、お願いします」


 チャルリンは部屋の扉を静かに締めた。一番最初の行動を反省しているのだろう。


 ちょっとずつ扉が開く。こちら側にも緊張が伝わる。


「ど……どうも皆さん」


 小柄な女の子――イアナが杖を持ちつつ恥じらいながらこちらに向かってきた。彼女は私と同じサキュバスで魔法はあまり得意でないが変装はできる不思議な子だ。履歴書の方に私を憧れの人と書いていて特に注目している。彼女の持っている杖は初心者用で威力や自分に合った技が出にくい。そこをどう乗り切るのか見所だ。


「わ、わわわ私は……魔王に村を襲われました。幸い父と母は生き残りました。魔王の恨みは誰よりもあります。私を勇者パーティーに参加させてください」

 彼女は同情作戦に躍り出た。この話を聞いて同情しない人はいないし、健気な女の子の心の叫びに何かしてあげようとしたいと思うはず。


「では、その気持ちをこちらに見せてください」


 勇者がそう言うと、イアナは杖を握りしめた。


(らい)(げき)(だま)!」


 イアナが部屋に包む声を出した後、杖の上部に稲妻が走った丸いものが出現した。


「はあああ……」


 稲妻が走った丸いものは次第に大きくなり彼女を包むほどに大きくなり、杖が震えた。イアナはもう一つの手を添えるが震えは収まらず強くなっていく。そして、気づけば勇者の前に杖を向けていた。

 勇者は絶体絶命の表情を見せ、硬直していた。これを勇者に直撃できれば天界に帰せる。


「ごめんなさーい。勇者様!」


 イアナは撃とうとするが、杖が負荷に耐えられず木っ端微塵に砕け散った。


「へえ……?」


 イアナは慌てて周りを見渡した。彼女が一番勇者を追い込んだ。褒めたいところだが、勇者がいるこの状況でそんなことはできない。


「危うく逝くところだったぜ」

「ごめんなさい、勇者様」

「いやいや……イアナの気持ちがこれほどものだと思わなかったから」


 勇者は苦笑いをする。


「勇者様、他の魔法使いを呼びますね」

「ああ……お願いします」


 イアナは逃げるように部屋を飛び出した。勇者は顎に手を当て考えていた。


「この人かな……」


 勇者はそう呟き微笑んだ。どうやら、勇者パーティーの魔法使いが決まったようだ。誰を選んだのだろう。三人とも魅力的で甲乙付けがたい。


「連れてきたよ」


 イアナが先に部屋に入り声高に言った後チャルリンとファルが入ってきた。

 三人は勇者の前に横並びに並ぶ。一番の右のファルは自信に満ちあふれていた。真ん中のチャルリンは二人を見て苦い顔をして、一番右のイアナは不安な表情を浮かべ俯いている。


「勇者パーティーにふさわしい魔法使いは……イアナさんです」

「わ、わわわわわわわ私!?」


 ファルはすかさず手を挙げた。


「納得いきません。理由を聞いてもいいですか?」

「いいでしょう。魔王を倒すには意外性が大事です。イアナさんは魔法使いとしては初心者ですが伸びしろがあると感じました。この伸びしろは魔王を倒すうえで大事です。それに演舞の最中、俺を殺しそうな魔法を撃とうとしていたとこも理由ですね」

「勇者を殺す可能性があった?」

「まあ……そうですね」

「それならこれ以上、悔しくなる必要が無いですね」

「それはどういうことですか?」


 勇者が尋ねるとファルは首を傾げながら周りを見る。私たち勇者以外は余計なことを言うなとアイコンタクトを送る。


「溜飲が下がったという意味です」

「ああ……そういうことね」


 私たち勇者以外は胸を撫で下ろした。


「私とファルさんとチャルリンさんはこちらで失礼しますね」

「アタリウスさんって言いましたっけ?」

「はい……」

「魔王について何かありましたから何か言ってください。力になりますから」

「その時はお願いします……」


 そんなことは起きないよ勇者。あなたがこの世界からいなくなれば済む話なのだから。

次の話は勇者パーティーの魔法使い視点でドラゴンを倒す話になります

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