第4話「勇者パーティーを作ろう(前編)」
アタリウス――魔王ヴァルアンの秘書。眼鏡っ子でサキュバス。性別は女性。
ヴァルアン――魔王。勇者に殺害予告されてから勇者に殺される夢を毎日見ている。
――あの勇者の騒動から一週間が経過した。勇者は静かにパーティーの完成を待っている。まあ、吾輩達が何も仕掛けていないということもあるが、きっとサタルージがなんとか止めているだろう。
吾輩は手元にあるコップを持ち、コーヒーを口に運ぶ。
「魔王城に来られないですね、勇者」
「ゲホゲホゲホ」
アタリウスが軽口を叩くおかげでむせてしまった。喉が少し痛い。
「冗談よしてくれ、アタリウス」
「失礼します」
アタリウスは静かに飛び散った液体を布巾で拭き取った。たまにある彼女の軽口はどう反応すればいいのか未だにわからない。
扉の向こう側から叩く音が三回連続で鳴った。誰かが吾輩に要件があるみたい。今日は商談もないのに誰が吾輩に尋ねてくるのだろうか?
「誰でしょう? 私、確認してきます」
アタリウスはそう言って、扉を少し開けて、何やら話している。吾輩からはアタリウスの後ろ姿しか見えない。誰が来訪してきたのだろう。
「お久しぶりです。ヴァルアンさん」
アタリウスの前に一人の女の子が出てきた。
「なっ、ナタリー?」
吾輩の膝小僧ぐらいの身長で白いワンピースを着ているのは、サタルージ王の娘――ナタリーだ。どうして、魔王城に来たのだろう。不思議だ。
「これを渡してきてと父上に言われました」
ナタリーからもらったのは筒状のもの――巻物だ。ここには機密情報が書いてある。そういえば、最近も貰ったな。確か、昨年のサタルージ王の生誕祭の案内だったな。どうして巻物で渡してきたのか困惑したな。
この巻物は特殊な魔法をしないと開けることはできない。その魔法を発動できるのは吾輩とアタリウス、サタルージ王とシェルリア。ちなみにこの魔法の文言がわかってもこの四人しか開かない。
「『ペラリタペラペラポー』」
吾輩は魔法を唱え、巻物が自動的に開かれた。
巻物のなかにはサタルージ側で決まった戦士、僧侶の詳細が載っていた。
「もう決まったの?」
「はい、勇者が積極的に決めてたおかげで早めに終わりました」
「なるほど……」
勇者が選ぶ基準がこの巻物から読み取れない。まず、戦士。性別は女性で、鍛えられた肉体を持ち、姉
御肌。口調は軽い。誰とでもすぐに話が打ち明けられて、勇者曰く「ギャル戦士」と呼ばれていると書いてある。ギャルって何だろう? 吾輩の知らない魔法を扱う人たちって意味かな。
「このギャルってどういう意味かわかる?」
吾輩はナタリーに尋ねた。この意味がわかれば、勇者を倒すきっかけになると思ったからだ。
「しらなーい。今、初めて見た。ギャルって何だろうね」
「何だろうね……」
吾輩はうっすら笑い、巻物に書いてある僧侶の方に視線を落とした。
性別は男性。声量が小さく、何を言っているのか聞き取りづらい。おまけに人と話すことを極端に嫌う。しかし、魔法の腕は一級品と書かれてある。これを見るに勇者は物好きと窺える。もし自分がパーティーを作るならある程度似たもの同士を選ぶ。その方がチームワークを発揮しやすいし、仲間割れを起きづらいと考えるからだ。
「ヴァルアンさん。勇者のパーティーはどんな状況ですか?」
「それは――」
吾輩は口をつぐむ。最終段階に入ったのだが、この巻物を見ると、もう一度やり直したい気持ちが強くなる。吾輩達は勇者が選ぶ基準を予想して選んできた。魔法使いは後方支援だから遠距離が強い者ではいけないとかね。しかし、勇者はそんなことを考えていないようにも見える。魔法使いなのに、武術を得意する者、変装が得意とかの吾輩達が除外してきた者のほうが勇者パーティーにふさわしい。そうなると、吾輩達が使った労力は無駄に思える。
「私が説明します」
それを見たアタリウスがすかさず説明を始めた。「今、賢者……? と言っていいでしょうか、魔王様」
「いいと思います?」
「なんでそんな煮え切らない言い方は?」
「だって……本当の賢者がいないから」
「それは……どういうことですか?」
ナタリーは首を傾げた。
「私たちが考えた賢者は第一線で魔法研究をしている研究者たちですが、研究が忙しいと断られてしまいました。しかし、めげずに何度か交渉をした結果、一年目の研究者に参加させていたいただくことにななったんです」
「それでもいいんじゃない? 賢い人たちですし」
「それでは賢者とは言えないです。深い知識、経験があってこそですから」
「ふーん……」
ナタリーは巻物にある一文に指を差した。
「『賢者は僧侶と似ている役割のため、いなくてもいいです』って書いてあるから賢者は省いていてもいいんじゃない?」
「え……? そんなこと書いてあるの?」
「うん……」
吾輩はナタリーが指を差したところを読んだ。確かに書いてある。
「では、賢者は現れなかったってことにしましょうか、魔王様」
「アタリウスの言うとおり。そうしようか」
これで賢者の問題は片付いた。これでよかった。アタリウスの話だと研究者の多くは嫌がっていたと聞く。
「さて、魔法使いはどうしようかな?」
「まだ決まってないんですか?」
「えっ、えっ、え?」
吾輩の口からこぼれた言葉をナタリーが聞き返してきた。驚きのあまり、頭が真っ白になる。
「あっ、言い忘れてました。今の状況で勇者が見て選びたいと父上が伝えてと言っていました」
「え? いいの?」
「いいですよ……?」
「じゃ、お願いしちゃおうかな」
「なんか魔王様変ですよ」
吾輩の態度にナタリーは嫌がっているそぶりを見せた。この反応になるのも仕方がない。頭の大半が勇者パーティーにこの者がふさわしいかがあった。それが今無くなったのだ。へんな態度になるのも仕方がない。
「では、アタリウス。勇者パーティー候補とナタリーの送迎を頼む」
「かしこまりました、魔王様」
「そのことなのですが――」
ナタリーはもじもじし始めた。




