もう生活が始まっている
あったかい。
それから、頭が痛い。
喉が、やばいくらい渇いている。
……生きてるよな、俺。
もぞもぞと身じろぎして、
無意識に何か柔らかいものに触れた。
ふに。
ん?
ゆっくり、目を開ける。
――金色。
……は?
次の瞬間、跳ね起きた。
「……え?」
頭が真っ白になる。
布団。
枕。
近すぎる距離。
……事後!? いや、待て!
記憶が、ない。
まったく、ない。
(ちくしょう!!覚えてない!!)
必死に脳を掘り返す。
飲んだ。
笑った。
騒いだ。
……それ以上が、ない。
「……ん」
背後から、小さな声。
心臓が、嫌な音を立てた。
「……おはよう、クオン」
隣で、彼女が目をこすっている。
「……お、おはよう」
声が裏返りそうになる。
「……俺たち、その……昨日は……」
言葉が続かない。
彼女は欠伸をひとつして、
そのままベッドの上で大きく伸びをした。
「ふぁー……」
……いや、服。
ちゃんと着てる。
俺も。
冷静になる。
断片的な記憶が、ようやく繋がる。
飲みすぎた俺。
ふらふら。
介抱される。
水。
布団。
……うん。
「……せ、責任、取ります!」
思わず、口が先に出た。
「……責任?」
きょとん、とした顔。
……違うな。
違う。これ。
俺は深く項垂れた。
ずーん……。
「……介抱してくれて、ありがとう」
絞り出すように言うと、
彼女はにこっと笑った。
「どういたしまして」
……可愛い。
「んんっ! 俺はただいま、盛大に二日酔いです」
「ぷはっ!」
吹き出すように笑って、
彼女は水差しを手に取った。
「水飲もうね。水!」
差し出されたコップを受け取る。
「感謝……いのちの水……」
生き返る。
身支度を整え、朝食を取りに階下へ降りた。
「今日の予定は?」
「まずはギルドで変成魔術師に拠点作成を依頼する。それから生活用品の買い出し」
「わー、新生活感!」
楽しそうに笑う。
……胸が、忙しい。
ギルドで手続きを済ませると、
数日はかかるという話だった。
まあ、そうだろう。
そのまま二人で街を歩く。
生活用品。
食料。
細々としたもの。
途中で立ち寄った本屋で、
時空魔術に関する書物を片っ端から抱え込んだ。
「勉強熱心だね」
「帰るためだからな」
彼女はそれ以上、何も言わなかった。
「この街で有名な食べ物、食べてみたいな」
「昔からある菓子なら、酒入りのクルミクッキーが美味い」
「わ! 食べたい!」
買い食いしながら歩く。
……これ、デートじゃないか?
「シュタットのお城も街も、大きいよね」
「今は首都が移ってるけどな。昔、戦争で王国が消えかけたことがある」
足を止めて、砦を見上げる。
「この街に女神さまが舞い降りて、王を選んで……一日で王国を復活させたって話がある」
嘘みたいな史実だ。
「へー……女神さま、会ってみたかったな」
「トラップ踏んだら、会えるかもな」
「現実的!」
笑う。
……ほんとにな。
宿に戻ると、
彼女は買ってきたものを丁寧に整理し始めた。
俺は机に向かい、魔術書を開く。
しばらくして、ふと香りがした。
顔を上げると、
彼女が紅茶を差し出している。
「……ありがとう」
湯気の向こうで、にこにこ笑う。
……好きだ。
言葉にしなくても、
胸の奥で、はっきりと分かる。
一緒にいてくれて。
ありがとう。




