お隣さんは古代遺跡
生きるには、拠点が必要だ。
それはもう、選択肢ですらなかった。
遺跡から少し離れた場所に立ち、俺は周囲を見渡す。
……森だ。
見渡す限り、木。
木、木、木。
太い幹が折り重なり、下草が絡み、陽光すらまともに届かない。
遺跡の荘厳さとは対照的に、生命力だけがやたらと強い。
古代遺跡ダンジョン。
そして、そのすぐ隣に広がる、手つかずの森。
「……なるほど」
思わず、乾いた笑いが出た。
「まずは……ここを平地にするところから、だな」
言葉にしてみて、ようやく実感が湧く。
ああ、これはもう――生活を始める前提だ。
彼女は、興味津々といった様子で周囲を見回している。
遺跡の外壁に手を当て、石の感触を確かめ、時折、空を仰ぐ。
その様子を見ていると、
ここが“危険地帯”だという事実が、少しだけ薄れる。
まずは、平地を作る。
戦闘魔術師にできる、最も雑で確実な方法で。
魔力を集め、詠唱を短縮する。
火炎。
ドォン、と音を立てて地面が焼けた。
「それはダメでしょ!?」
慌てた声が飛ぶ。
確かに、黒く焦げた地面を見れば、否定もできない。
今度は鎮火だ。
水球を生成し、叩きつける。
バッシャァン!!
「やり方!!」
水たまりができた。
なら、乾かす。
風を叩きつける。
ブワァァ――!!
「強制的すぎる!!」
彼女の反応が、いちいち可愛い。
俺は、思わず笑った。
「戦闘魔術師に、変成魔術を展開できるわけないだろ」
少し開き直って言うと、彼女はむっとする。
「……私だって、治癒魔術しかできない!」
「知ってる」
それが余計に可笑しくて、二人で笑った。
冷静になって考える。
ちゃんとした拠点を作るには、変成魔術師が必要だ。
「この時代、変成魔術師っているのか?」
「いるよ。でも……」
彼女は首を傾げる。
「私、この辺の出身じゃないから」
……そうだった。
彼女は旅の途中だった。
この場所に根を張っていたわけじゃない。
「住処、どうする?」
「テントと一戸建てなら?」
一拍。
「一戸建て一択じゃない?」
「……ですよね」
結論が早い。
問題は、そのための条件だった。
ギルド長の言葉が、頭をよぎる。
数日でどうにかなる話じゃない。
研究にしろ、拠点にしろ。
「……金」
声に出してから、勢いがついた。
「金! 金がいる!! 研究するにも、まず金だ!!」
彼女が目を丸くする。
「……急に、超現実的!」
その言い方が可笑しくて、顔を見合わせて笑った。
マジックバッグの中身を、思い出す。
未来の品々。
特に、保存食。
「……これ、売れるよな」
「売れると思うよ?」
遺跡で狩った魔物の素材もある。
それに、未来の加工技術が施されたドライフード。
「じゃあ……換金とか、手続きとか……また街に戻るのか」
シュタット。
あの街。
「今夜は、宿を取って寝るか」
そう言った瞬間、彼女が軽く手を挙げた。
「私、部屋借りてるよ?」
――ドキッ。
心臓が、変な跳ね方をした。
「……それって、返事?」
交際、始まってた!?
そんな思考が一瞬で駆け抜ける。
彼女は、きょとんとした。
……違う。
ただの善意だ。
(警戒心……)
正直、心配になる。
攻撃魔術も使えないのに、
よく二年も一人で旅できたな。
……俺が、守らないと。
シュタットでの換金は、想像以上だった。
素材も、保存食も、飛ぶように売れた。
多分、いや確実に――ボロ儲けだ。
「急に大金持ちになったクオン君! 一言どうぞ!」
調子に乗って、俺は胸を張る。
「トワを養ってやる! 俺についてこい!」
「アイアイサー!」
二人で、馬鹿みたいに笑った。
そのまま、目についた居酒屋に突入。
「豪遊三昧だ! 飲むぞー!!」
「イェーイ!!」
結果。
盛大に酔っ払い、
彼女の部屋で、そのまま潰れて爆睡した。
……濃すぎた。
遺跡調査初日。
トラップを踏み、死にかけ、
美女に助けられ、一目惚れし、
1000年前に飛ばされたと知って絶望。
加減せずに飲んだのは――
仕方ない、だろ……?




