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永遠に咲く花を君と。  作者: ChaCha


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出口のその先にある世界

前方に、淡い光が見えた。


闇の奥に、輪郭だけが浮かぶ。

それが出口だと分かった瞬間、胸の奥が一気に緩んだ。


「……」


言葉にならない息が、喉から零れる。


俺は無意識に、手を差し出していた。


一瞬の間。

それから、彼女の指が触れる。


ぎゅっと、握り返された。


その温度が、はっきりと伝わる。


(ああ……)


生きてる。

ちゃんと、外に出られる。


それだけで、十分だった。


それから俺たちは、最後まで慎重に進んだ。

魔物を避け、必要なら屠り、互いの動きを確かめながら。


そして――


外に出た。


「……助かった」


吐き出すように言った、その直後。


ふと、頭に浮かぶ。


(……先輩たち)


無事だろうか。

転送されたのは、俺だけだったのか。


視線を巡らせる。


……痕跡が、ない。


戦闘の跡も、足跡も、

人が出入りした形跡が、何も残っていない。


「……?」


嫌な感覚が、背中を這い上がる。


周囲を、もう一度見る。


支柱が、倒れていない。

蔓も、雑草も、絡みついていない。


本来なら、遺跡に覆い被さるはずの大樹が――

倒れていない。


(……待て)


心臓が、嫌な音を立て始める。


ゆっくりと、もう一度、景色を確かめる。


「……そんな馬鹿な話、あるか?」


独り言みたいに呟いた、その時。


「お腹すいちゃったね! 昼食にしようか?」


明るい声。


一気に、空気が変わる。


昼食。


……昼食?


俺たちは、朝からダンジョンに入った。

途中で、ちゃんと昼食も取っている。


一日も、掛かっていない。

……はずだ。


「どうしたの? ぼーっとして」


「あ、いや……うん」


違和感を、言葉にできなかった。


腰を下ろし、食事を広げる。


「すっっっごく美味しいー!!」


彼女が目を輝かせる。


「クオンは料理の天才だったんだね!?」


「いや、どこにでも売ってるドライフードだぞ」


「へー! アグナス王国すごい!」


その一言が、胸に引っかかる。


……何が、すごいんだ?


笑顔を見ていると、

その疑問すら、どうでもよくなりそうになる。


(……だめだ)


目を逸らし、息を整える。


「……あの、さ」


言葉を選ぶ。


「図々しいとは思うんだけど……」


彼女は、箸を止めてこちらを見る。


「うん?」


「俺、多分……トラップで魔力干渉を受けたせいか、

記憶がちょっと曖昧なんだ」


喉が、少しだけ痛む。


「ギルドへの報告とか……

その……助けてほしい」


彼女は、間を置かずに頷いた。


「いいよー!」


軽い声。


「私には、時間は有り余ってるからね」


その言葉に、胸の奥がじんと温かくなる。


優しい。

……好きだ。


昼食を終え、歩き出す。


シュタットの街が見えてきた。


――はず、だった。


(……あれ?)


足が、自然と緩む。

目に入ってくる景色に、微かな違和感が混じる。


道が、違う。

建物の配置が、違う。


知っているはずの景色が、

知らない形をしている。


やばい。


理由を探す前に、感覚が先に警鐘を鳴らしていた。

ひたすら、やばい。


隣を歩く彼女は、楽しそうだ。


「クオンの街、活気があって良い街だよね」


その笑顔が、胸を締めつける。


……まだだ。


今は、まだ。

彼女が、ここにいる。


それだけで、踏みとどまれている。


でも――


世界が、静かに、

軋み始めている気がした。


……本当に、ここはシュタットなのか。


足を止め、改めて街を見回す。

胸の奥に、言葉にならないざわめきが広がる。


俺の、生まれ育ったシュタット。

何度も走り回った通り。

目を閉じても歩けるはずの街。


――なのに。


違う。


街並み。

行き交う人々。

知っているはずの道が、知らない道へと、自然に繋がっている。


建物の配置が違う。

高さが違う。

石畳の色すら、微妙に違う。


(……そんな、はずが)


隣を歩く彼女は、穏やかな表情のままだ。


その存在が、わずかに呼吸を整えてくれる。

けれど、違和感は消えない。


やがて、建物が見えてきた。


ギルド。


……違う。


外壁の装飾。

紋章の位置。

入口の造り。


俺の知っているギルドとは、

まったく別物だった。


(……理解、するしかないのか)


深く息を吸い、扉を押す。


中の空気も、違う。

人の数。視線の向き。

ざわめきの質。


受付カウンターへ歩み寄り、声をかけた。


「古代遺跡ダンジョンの調査について、ギルド長へ報告したい」


ギルドカードを差し出す。


職員はそれを受け取り、目を落としたまま、固まった。


……?


沈黙。


「……?」


長すぎる。


(は?)


いや、いやいやいやいや。


「……頼む。ギルド長と話がしたい」


声が、わずかに強くなる。


職員は一度、俺の顔を見て、

それから奥へと視線を送り、無言で頷いた。


通されたのは、応接室だった。


扉が閉まる音が、やけに重い。


椅子に腰を下ろし、待つ。


やがて、入ってきたのは見知らぬ男。

だが、纏う空気で分かる。


――ギルド長だ。


「それで……我々に、何を求める?」


淡々とした声。


俺は、考えていた言葉を、そのまま口に出した。


「次元がズレて、

まったく別の世界に来たのか……

それとも……

俺……帰れますかね?」


男は、ギルドカードに目を落とし、

小さく息を吐いた。


「……別世界ではない」


その一言で、背筋が伸びる。


「君のカードが示す歴から判断して、

ここは――1000年前だ」


「……は?」


一拍、遅れて、意味が落ちてくる。


「……1000年……前……?」


「新アグナス歴2393年発行。

現在は、新アグナス歴1394年だ」


数字が、頭の中で噛み合わない。


「……えーっと……」


無意識に、指を折る。


「女神さまが舞い降りた建国日から……

1394年目……だから……」


言葉が、途中で止まった。


「1000年だ」


淡々と、事実だけが重ねられる。


「時間軸に干渉する類のトラップは、

ギルドの記録には存在しない」


男は続ける。


「仮に、理論上あり得たとしても……

同じ罠を再び踏めば、

次は394年に跳ぶ可能性がある、という程度だな」


……ガーン。


頭の中で、何かが崩れ落ちる音がした。


「……時間は、前に進みたいんです」


声が、掠れる。


「俺……」


男は椅子から立ち上がり、こちらへ来た。


そして、何も言わずに――

肩に、ぽん、と手を置いた。


その重みで、ようやく気づく。


――俺。


泣いてた、らしい。


視界が、滲む。


隣から、そっと差し出される感触。

ハンカチ。


顔を上げると、彼女が静かに見ていた。


何も言わない。

ただ、そこにいる。


「あんまりじゃないか……」


喉が、震える。


「神様……」


胸の奥が、きしむ。


俺……

ぼっち……じゃんか……



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