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永遠に咲く花を君と。  作者: ChaCha


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一目惚れ

目の前で、超絶どタイプの美女が――

俺だけを見て、微笑んでいた。


……破壊力。


理解するより先に、身体が反応した。


たぱ……

たぱたぱ……


赤い雫が落ちる。


「あっ――!」


澄んだ声が、驚きに跳ねる。


「だ、だ、大丈夫!?

 え、あれ!?

 こっちの国だと、治癒魔術の作用に違いがあったっけ……?」


慌てた調子なのに、声はやけに落ち着いていて、耳に心地いい。

その音を聞いた瞬間、心臓が一段強く跳ねた。


たぱたぱたぱ……


「うっ、あっ……ハンカチ!」


視界がぐっと近づく。

顔を抑えられ、思った以上の力で圧迫された。


ぐっ…あっ…わぷっ……


「再び死ぬっ!!」


思わず叫ぶ。


「ご、ごめん! 血が……!」


はぁ、はぁ、はぁ……。

鼻を塞がれたせいで、呼吸が追いつかない。

肺が苦しくて、頭がぼうっとする。


彼女は慌てて手を離し、すぐに真剣な顔に切り替えた。

指先に魔力が集まり、淡い光が揺れる。


「……落ち着いて。もう一回、ちゃんと診るね」


その声に、なぜか逆らえなかった。


彼女は俺の身体に手をかざす。

触れていないのに、体内を覗かれている感覚があった。


正確には――

俺の中を流れる魔力を、じっくりと追われている。


どくん、どくん。


心臓の音が、やけに大きい。

顔が熱い。

息の仕方を、忘れたみたいだ。


「……うん。たぶん……大丈夫。……多分」


多分、が 2回も付いた。


「ごめんな? その……」


俺は視線を逸らしながら、正直に言った。


「鼻血、まだ止まってなくて……」


彼女は一瞬きょとんとして、それから小さく笑った。


「うん。……でも、生きてるから大丈夫!」


その言葉に、胸の奥がじんとした。


俺は、改めて彼女を見た。

金色の髪。碧い瞳。

近くで見ると、想像以上に綺麗だ。


……やばい。


胸の奥に溜まっていた息を、ゆっくり吐き出す。

まだ少しふらつくけど、立てている。

それだけで、十分だった。


「……ありがとう」


自然に、言葉が出た。


「俺を助けてくれて。

 君は……命の恩人だ」


少し照れくさくて、最後は声が小さくなる。

でも、誤魔化したくなかった。


彼女は目を瞬かせ、それから大きく頷いた。


「どういたしまして!」


その返事が、やけに明るい。

重く受け取られなかったことに、なぜかほっとする。


「正直、びっくりしたよー」


彼女は周囲を見回しながら、身振りを交えて話し始めた。


「遺跡、ちょっと観光しようかなって進んだら、

 あ、ここダンジョン化してる!って気づいて……」


一拍、間を置く。


「やばい! 引き返そう!って思ったんだけど、

 奥から戦闘音が聞こえてきて……」


視線が、ほんの一瞬泳ぐ。


「その……好奇心で……」


言い切らずに、語尾が消えた。


俺は思わず、息を漏らした。


「……君の好奇心に、救われたわけだ」


冗談めかして言ったつもりだったけど、

声は思ったより真剣だった。


彼女は一瞬きょとんとしてから、くすっと笑った。


「結果オーライ、だね!」


その笑顔を見て、胸の奥がきゅっと縮む。

理由は分からない。

でも、目が離せなかった。


「とりあえず……脱出しよ?」


そう言って、彼女は先を指差す。

あまりにも自然で、まるで最初から一緒にいたみたいだった。


「ああ」


剣を納め、姿勢を正す。


「俺はクオン。戦闘魔術師だ」


名乗ると、彼女は胸の前で手を合わせた。


「私はトワ。ルクス王国から旅をしてきたの」


「……ルクス?」


思わず声が裏返る。


「え、めちゃくちゃ遠い場所から来たんだね」


海を越えた先。

長命種の国。

地図でしか見たことがない。


「ふっふっふー!」


彼女は少し誇らしげに胸を張る。


「赤子から成人して、学園も卒業!

 それから二年、旅をしてます!」


……待て。


頭の中で、学園制度と年齢をざっと並べる。

長命種だから…えーっと、計算が、わからない。


「俺は生まれも育ちもアグナス王国。

 学園を卒業してから一年だ」


言いながら、首を傾げる。


「……同世代、みたいなもんか?」


一応、口には出さなかった。

なんとなく。


彼女は楽しそうに頷く。


「うんうん! 近い近い!」


笑顔が、近い。


「……タメ口でいい?」


恐る恐る聞くと、彼女は声を上げて笑った。


「あはは! いいよ!

 一年くらい、誤差だもんね!」


誤差。

その言葉に、妙に納得してしまった。


胸の奥が、あたたかい。


――彼女の笑顔が好き。


まだ言葉にもしていないのに、

そんな感覚だけが、はっきりと残った。


彼女が、こちらへ一歩踏み出した。


躊躇いは、ほんの一瞬。

差し出された手は細くて、けれど迷いがなかった。


「行こ」


短い言葉。

それだけで十分だった。


俺はその手を取る。

握った瞬間、指先に熱が伝わる。


――視線が、絡んだ。


近い。

思ったより、ずっと。


彼女が、にこっと笑う。


……だめだ。


胸の奥を、がしっと鷲掴みにされる感覚。

心臓が、逃げ場を失ったみたいに暴れる。


(好き)


即断だった。


念のため、鼻に意識を向ける。

……よし。血は出てない。


深呼吸。


彼女はすでに前を見ていた。

肩越しに、指で合図を送る。


――手信号。


(……似てるな)


アグナス王国と、ルクス王国。

細部は違うのに、意味は同じ。


思わず、口元が緩む。


彼女もそれに気づいたのか、

ちらりとこちらを見て、目を細めた。


笑ってる。


一緒に壁際へ身を寄せる。

気配が近づく。


合図。

同時に、走る。


彼女の手が、俺の袖を掴む。

引かれる。


次の瞬間、俺は彼女を抱き留めていた。


息が、重なる。


目が合う。

近すぎて、世界が狭い。


何も言わず、頷き合う。

また、動く。


……不思議だ。


ダンジョンを脱出しているはずなのに、

まるで、踊っているみたいだった。


潜み、進み、すれ違い。

止まって、確かめて、また歩く。


呼吸の速さ。

視線の高さ。

足音の間隔。


全部が、自然に揃っていく。


ふと、壁画が目に入った。


女神と王が、手を取り合い、

静かに舞っている姿。


(……ああ)


俺たちも、同じだ。


目線が絡み、

動きが重なり、

次の一歩が、分かる。


彼女が笑う。

俺も、笑う。


―― 一目惚れだ。


これは、もう……

否定しようがない。


魔物をやり過ごした先で、

ふっと、静寂が落ちた。


俺は、息を整えてから口を開いた。


「……一目惚れしたんだ」


声が、少しだけ震える。


「抱かせてください!!」


しまった。完全に間違えた。


あわてて口を押さえ、コホンと咳払い。


「トワ。俺と……付き合ってくれないか?」


彼女は一瞬、きょとんとして――


「ぷはっ」


吹き出した。


その音と同時に、

空気が、揺れた。


――気づかれた。


魔物が、こちらを向く。


「っ……!」


判断は、一瞬。


剣を抜き、踏み込む。

魔術陣が足元に展開される。


(守る)


理由は、それだけ。


牙を弾き、

爪を避け、

魔力を叩き込む。


横合いから、淡い光。


治癒魔術が降り注ぎ、

削れた感覚が、即座に塞がる。


(……速い)


彼女は後方で、的確に支えている。

視線を送ると、頷きが返ってきた。


最後の一体。


剣を振り抜く。

血を払って、納める。


「……ふう」


返事。


――そうだ。返事。


彼女の方を見る。


……いた。


いた、けど。


しゃがみ込んで、

さっきまで襲ってきていた魔物から、

手慣れた様子で素材を採取している。


夢中だ。


「……」


さっきの告白、

見事に忘れられている。


俺は、天井を仰いだ。


(……まあ、いいか)


胸の奥は、なぜか軽い。


好きだ。

それだけは、もう確かだった。


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