私もあなたを
彼は、また深い眠りへ落ちてしまった。
それから、さらに一ヶ月。
回復するどころか、魔力の巡りは弱まり続けている。
泣き腫らした目は、もう限界だった。
瞬きをするたび、視界が滲む。
ひゅー……ひゅー……
浅く、細い呼吸音。
「……?」
瞼が、わずかに揺れた。
「……クオン」
「……泣、く、な……」
掠れ、途切れ途切れの声。
「……惚れ、た……女、が……
……泣く、の……見、たく……ない……」
ああ――
神様。
急いでポーションを取る。
口元へ、そっと。
ぐっ……がっ……
噎せて、こぼれ落ちる。
「ごめんなさい……!」
慌ててタオルで拭い、呼吸が落ち着くのを待つ。
もう一度、今度は、ほんの少しずつ。
「……大丈夫。
私が、そばにいる」
ずっと。
ずっと離れない。
「……ああ……」
「また、一緒にピクニック行こう」
だから、元気になって。
諦めないで。
「……と、わ……
……あい……してる……」
握った手に、力が返る。
そのまま、口付けを落とす。
彼が、微かに笑った。
胸の奥を、ぎゅっと掴まれる。
お願い。
少しでいい。
ヒントを。
「ねえ……時を、もっと遅くする魔術陣は――」
言い切る前に、呼吸が遠のく。
……また、深い眠り。
魔力回路は焼き切れ、治癒で繋ぎ直せない損傷。
どうすれば……。
研究資料を、書を、手当たり次第に開く。
治癒魔術を流し続けながら、目を走らせる。
ポーションも、食料も、心許ない。
――詰む。
誰か。
助けて。
半日。
彼の「時」を、半日だけ止められたら。
街へ行ける。助けを呼べる。
必死だった。
どうして。
どうして、もっと彼の研究に関わらなかった。
治癒魔術師でも、魔術陣と魔力があれば展開はできる。
相性で威力は変わるとしても。
――もっと、そばで。
時間は、容赦なく過ぎる。
さらに一ヶ月。
身体は、かつての面影を失っていた。
筋肉は落ち、骨と皮ばかり。
頬はこけ、血の気も薄い。
考えたくない瞬間が、迫っている。
「……う……」
喉が鳴る。
「……よかった……」
寄り添い、治癒を重ねる。
「……と……わ……?」
「うん。
そばに、いる」
「……お、れ……
……どう……なっ……て……」
唇の端から、赤が零れる。
タオルで、そっと拭う。
「……魔力回路が……
焼けちゃった、みたい」
嘘は、つけなかった。
一緒に、考えたかった。
彼が、ぎゅっと目を閉じる。
「……と、わ……」
「……お、れ……
……死ん、だ……から……って……」
「死なせない」
即答だった。
震える。
それでも、離さない。
彼が、笑った。
「……お、れ……
……以外、の……男、に……
……惚れ……たら……」
「……その、男……
……必ず……呪い……殺す……」
「……呪詛!」
思わず声が出る。
それでも、彼は笑った。
いつもの、私に向ける笑顔で。
真剣な声音。
「……愛してる……」
「……私も……
クオンを……愛してる」
愛してる。
本当に。
だから――
置いていかないで。
呼吸が、また深くなる。
眠りへ、落ちていく。
「……また、眠った……?」
大丈夫。
私が、時を止める。
助けを呼びに行く。
――必ず。
私が……




