第六十六話 冒険の仲間
重大な案件を相談する為に、イルメッタに会いにカリビング家の屋敷に来ていた王国宰相ヴァルデムは、思いがけない形でその目的を果たす事が出来た。
魔王アーゼルが支配する、魔の王国への挑戦。
それを望んだ相手、『忍者ハイマスター』ライガ・ツキカゲは、十五年の沈黙を破り、冒険者として復帰する決断を下した。
彼と共に試練の迷宮に挑む、新たな英雄候補と呼べる子供達とも出会う事が出来た。
懸念の一つが漸く解決され、多忙な宰相は、宮殿に帰る事になった。
「それでは、迷宮探索の件は君達に任せる。迷宮へ通じる入り口の場所は、既にフェルセイス達が知っている。迷宮へは自由に出入り出来るよう、君達の事も、警護の騎士達には通達して置く。それと使命達成の報酬だが……、今検討中なのは、金銭と身分だ。これはいずれ解禁されるだろう、一般冒険者への報酬と同じになる。おそらく、かなりの大金と、貴族に準じる身分をロルドニア王国から報奨として与えられる事になるだろう」
迷宮の攻略条件は、『魔王の討伐』と『魔力の心臓』の回収。
それを成し遂げた者達には、ロルドニア王国から褒美が与えられる、と宰相ヴァルデムが保証する。
「了解しました、宰相閣下。迷宮攻略の冒険は、僕達にお任せ下さい」
パーティのリーダーに選ばれたセディルは、背筋を正して、宰相に依頼の受諾を告げる。
ヴァルデムは、その少年を見つめた。
彼が復帰を望んだライガにリーダーを断られ、代わりにパーティを纏める役を担う事になった十二歳の忍者少年。
まだレベルは2だと言うが、底の見えない『何か』を少年が身の内に秘めている事に、ヴァルデムも気付き始めていた。
「……これは言って置くが、魔王国に挑むパーティは、君達だけではない。我が国の騎士団からも精鋭を派遣し、魔法学院や寺院とも合同で、迷宮の調査は今後も続けられるだろう」
「当然の事ですよね。こんな事態ですから、優秀なパーティはいくつあっても足りないくらいです。でも、最有力パーティは間違いなく、僕達に成ると思います」
宰相が放つ政治家としての鋭い眼光を、セディルは笑顔で受け流す。
誰がそれを成し得るか判らない以上、王国として数を撃つのは、当然。
セディルはこの冒険に、ライバル冒険者がいっぱい現れるであろう事は、予想している。
そして、彼はその全ての冒険者達を、凌駕するつもりでいるのだった。
「……ライガよ、頼んだぞ」
「ああ……」
かつての仲間であり、友人である男からの重要な頼みに、ライガは適当な返事をする。
二人の間の遣り取りは、それで十分なのであった。
「……一つ、確認して置こう、エリーエル嬢」
帰り際、宰相は振り返り、セディルの横に居たエリーに問い掛ける。
「確認とは、宰相様?」
唐突にそう訊ねられ、エリーが可愛く小首を傾げた。
「先程、君が言った話を、私は立場上鵜呑みにする事は出来ない。仮にそれが事実であったとしても、ジーネボリス帝国との友好関係上、それを深く追及する愚は冒せない。それだけは、理解して置いて貰いたい」
国家の重責を担う宰相としては、友好関係を維持したい隣国で起こった事件に、無暗に関わる訳には行かない。
彼女が何を言おうとも、ロルドニア王国が動く事はないのだ。
「……そうですわね、一国の宰相としては、それは当然の判断だと……、わたくしも思いますわ」
己の理性と知性を恨むように、エリーは視線を床に落とし、拳を握り締める。
彼女のそれらは宰相の言葉を肯定するが、彼女の感情は、隣国からも見捨てられたように受け取ったからだ。
そんな少女を前に、宰相ヴァルデムは少しだけ表情を和らげて話を続けた。
「しかし、我が国としては、君にこれ以上の干渉を行なう予定は無いよ。今の君の立場は、祖国から追放された流れ者で、只の冒険者という事になる。それだけは保障しよう」
皇帝殺害犯の身内という事になるエリーに対し、ロルドニア王国が手を出す事は無い、と宰相は明言した。
「その上で、一つ訊ねたい。ミルファウス陛下を殺害した『真犯人』は、誰なのだね?」
彼女の言葉を、立場上、容易には信じないと言ったヴァルデムだが、これだけは知って置く必要があった。
彼は、この国の宰相であるのだから。
「……宰相様は、陛下の事をご存知なのですか?」
「二十年程昔かな、外交使節の一員として、ジーネボリス帝国を訪れた際、お会いした事がある。立派なお方だったよ。それに、君の父君とも、その時に知り合った」
「えっ!?」
父とも面識があると言われ、エリーは父の人脈の広さに驚いた。
まさか、隣国の宰相とも知り合っていたとは。
「オーネイル殿が、新帝陛下の下で宰相に成る筈だったとは、私も後で知った情報だ……」
そう言って、ヴァルデムは遠くを見る目で過去を思い返す。
「彼となら、宰相同士で両国にとって良い仕事が出来る筈だった……」
「………………」
罪人にされてしまった父を偲び、その死を悼んでくれるヴァルデムを見て、エリーはキュッと唇を噛み締め、顔を上げた。
彼らの話を聞き、ヴァルデムも心の中では既に自身の疑問に答えを見い出しているのだ。
自分の知るクレイム伯爵は、主君を殺すような男では無い。
ならば、真犯人は別にいるのだと。
宰相としての彼は、冷徹に現実に相対しなければならない立場にあるが、その立場を離れれば、知人の死を悲しむ一人の人間であった。
「……ミルファウス陛下を殺害し、お父様に濡れ衣を着せた真の悪人は、ウォルドーズ伯爵ですわっ!」
憎しみを吐き出すように、エリーはその名をヴァルデムに告げる。
全ての元凶。
それは、仮面の伯爵にして錬金術師の男にあるのだった。
「ウォルドーズ伯爵、か……」
その名を聞き、ヴァルデムは思案顔をして顎を撫でる。
彼は既に、その名に訊き覚えがあるらしい。
「その人物……、エンドレイス新皇帝陛下の即位によって、引き続き宰相を務める事になったイクミウス・オードナー殿の補佐役に抜擢されたらしい。……事実上の副宰相、という訳だな」
提供された情報に対し、ヴァルデムは北の帝国の最新情報を一つ提供してくれた。
エリーが復讐を誓った相手は、今や西方三大国の権力の中枢にいるのだ。
「そ、そんなっ!?」
敵の思わぬ出世を知り、愕然とするエリー。
彼女の父を陥れ、地位まで上げた敵に対し、怒りと屈辱の炎が彼女の中で、再び燃え上がらんとして来る。
「それと君の一族郎党は、北方山岳地帯にある流刑地に送られたそうだ。夏は短く実りは少ない、冬は寒さが厳しい、現地民にとっても過酷な土地だよ」
唯一人逃げ延び、国外追放処分とされたエリーとは違い、彼女の一族は最悪の境遇に叩き落されていた。
そこは緩慢な死が忍び寄る、極寒の地。
今度の冬を乗り越えられる者が、どれだけいるのか。
(くうっ、うう……)
そこへと送られた筈の、クレイム家の一族。
その一人一人の顔を思い出し、エリーは込み上げて来る涙を堪える。
彼女が泣いて、それでどうにかなるような問題ではないからだ。
宰相ヴァルデムが宮殿に帰った後、カリビング家の屋敷では、イルメッタが皆に風呂と夕食を用意してくれた。
旅の疲れもあると同時に、複雑な人間関係や重大事案にまで遭遇し、確かに皆疲れていたのだ。
今夜は屋敷に部屋を借り、泊まる事になった。
そして風呂と夕食の後、普段着に着替えた彼らは、二階の居間に再び集まっていた。
結成した冒険者パーティ、その確認と今後の打ち合わせの為に。
「それでは改めまして、この冒険者パーティのリーダーに成りました、セディル・レイドです。年齢は十二歳、職業は忍者、レベルは2、属性は『混沌』です」
居間に集まった者は、七人の客と屋敷の女主人イルメッタ、使用人のベルジアだった。
その彼らの前で、セディルは自分の【ステータス】を、『ステータスカード』で確認する。
レベル:2
名前 :セディル・レイド
HP :46/46 MP :44/44 状態 :正常
職業 :忍者 年齢 :12 性別 :男 種族 :半人間 属性 :混沌
筋力 :33 敏捷 :39 魔力 :37
生命 :33 精神 :33 幸運 :44
スキル
【絶対天与】【能力強化】【忍装備可】【秘伝忍術】【盗賊能力】
【回避能力】【攻撃強化】【奇襲攻撃】【即死攻撃】【二刀流可】
【二回行動】【HP増強】【MP増強】
魔法
一般系レベル:10 忍者系レベル:1
装備は全て【大袋】に仕舞い込んでいるので、『特殊装備品』は表示されていないが、これが今のセディルの【ステータス】。
レベル2の冒険者としては、異常に高い能力値と二桁に達するスキルを持つ出鱈目さだった。
「わたくしは、今年十二歳に成りました。今はエリー・レイド、と名乗っております。属性は『混沌』で、『天空神ウル・ゼール』を信仰するレベル2の賢者にして天使ですわ」
エリーも、自分の『ステータスカード』を取り出して、その【ステータス】を浮かび上がらせた。
レベル:2
名前 :エリーエル・レイド
HP :11/11 MP :40/30+10 状態 :正常
職業 :賢者 年齢 :12 性別 :女 種族 :天使 属性 :混沌
筋力 : 9 敏捷 :12 魔力 :19
生命 :14 精神 :19 幸運 :13
スキル
【精神強化】【魔力強化】【古代魔術】【神聖魔術】【不死退散】
【MP増強】【物品鑑定】
魔法
一般系レベル:8 魔術師系レベル:1 僧侶系レベル:1
特殊装備品
『魔力の耳飾り』
エリーの【ステータス】では、MP最大値の伸びが特に高い。
MPが増え易い魔術師系の職に加え、天使の生まれで得た【精神強化】【魔力強化】という種族スキルの影響。
さらに精神の能力値のボーナス、賢者の職業スキル【MP増強】、そして『魔力の耳飾り』の効果もあり、レベル2とは思えない数値と成っている。
「アタシは、セディナ・レイド。アニキの双子の妹さ。レベル2の人斬りで、後は、歳も属性も種族も、アニキと同じだ」
セディナが、イルメッタに貰った『ステータスカード』を眺める。
レベル:2
名前 :セディナ・レイド
HP :20/20 MP :13/13 状態 :正常
職業 :人斬り 年齢 :12 性別 :女 種族 :半人間 属性 :混沌
筋力 :17 敏捷 :16 魔力 :16
生命 :16 精神 :16 幸運 :17
スキル
【能力強化】【侍装備可】【妖装備可】【二刀流可】【攻撃強化】
魔法
一般系レベル:3
セディナの能力値は、兄ほど異常な数値ではないが、平均を上回る水準で全ての能力が高い。
特に、セディルと同じ【能力強化】の種族スキルによって、全能力値に補正が発生し、それはHP、MPの最大値の伸びにも影響する。
「フェルセイス・ダークウッド、混沌属性の闇僧侶よ。種族は『ハーフダークエルフ』、年齢は二十五歳ね。信仰する神は、『夜を照らす月の女神イルテスラ』」
黒い肌の美女フェルセイスも、自分の『ステータスカード』を取り出した。
レベル:15
名前 :フェルセイス・ダークウッド
HP :129/129 MP :131/183 状態 :正常
職業 :闇僧侶 年齢 :25 性別 :女 種族 :半闇エルフ 属性 :混沌
筋力 :22 敏捷 :20 魔力 :25
生命 :24 精神 :28 幸運 :20
スキル
【魔力強化】【生命強化】【神聖魔術】【不死退散】【攻撃強化】
魔法
一般系レベル:10 僧侶系レベル:10
特殊装備品
『僧侶の指輪』『火炎の指輪+3』『闇妖精のアミュレット』
人間とダークエルフとの混血児であるフェルセイスは、人間の【生命強化】とエルフの【魔力強化】という、二つの種族スキルを所持している。
世間的には余り歓迎されない異種族ハーフではあるのだが、その能力は両親のスキルを受け継ぐ事により、特に高い力を示す。
フェルセイスが信仰する神イルテスラは、月を象徴する女神であり、彼女を信仰するレベル11以上の僧侶は、『特殊僧侶魔法』【月光看破】の力を与えられる。
この魔法によって作り出された月の光を浴びせる事によって、隠された物、姿を偽る者は、その真実の姿を暴き出されるという。
「では私、ライトレインの番ですね。見ての通り、只のエルフで、職業は吟遊詩人、属性は中立、レベルは15であります。十五の歳に故郷を飛び出して来て、早十年。今は冒険者兼放浪者です」
ライトレインも改めて自己紹介をし、皆の前で一礼すると、『ステータスカード』で自分の【ステータス】を確認して見せる。
レベル:15
名前 :シルマリス・ブルーフォレスト
HP :114/114 MP :53/129 状態 :正常
職業 :吟遊詩人 年齢 :25 性別 :男 種族 :エルフ 属性 :中立
筋力 :20 敏捷 :24 魔力 :28
生命 :24 精神 :25 幸運 :25
スキル
【魔力強化】【盗賊能力】【古代魔術】【呪歌習得】
魔法
一般系レベル:10 魔術師系レベル:10 詩人系レベル:7
特殊装備品
『炎の呪印+3』『炎の呪印+3』『護りの指輪+3』『吟遊詩人の指輪』
『ライトレイン』と名乗る彼は、マスターレベルに到った吟遊詩人である。
盗賊系に分類されるこの職は、各技能で本職よりも見劣りする為、器用貧乏とも称されるが、魔術師系の魔法を習得し、【盗賊能力】による密偵術も使いこなす。
さらには、『呪歌』という魔法の歌を楽器の演奏と共に歌う事で、敵味方に様々な効果を齎す事も可能とする多芸な職であった。
「……ライガ・ツキカゲ、属性は混沌、レベル22の忍者だ」
語る事はそれだけだと言わんばかりに、ライガはぶっきらぼうにそれだけ言うと、自分の【ステータス】を見る。
レベル:22
名前 :ライガ・ツキカゲ
HP :261/231+30 MP :186/186 状態 :正常
職業 :忍者 年齢 :60 性別 :男 種族 :人間 属性 :混沌
筋力 :32 敏捷 :36 魔力 :32
生命 :34 精神 :33 幸運 :35
スキル
【生命強化】【忍装備可】【秘伝忍術】【盗賊能力】【回避能力】
【攻撃強化】【奇襲攻撃】【即死攻撃】【二刀流可】【二回行動】
魔法
一般系レベル:10 忍者系レベル:10
特殊装備品
『混沌の魔除け』『忍者の指輪』『生命の腕輪』『収納鞄+4』
忍者ハイマスターの【ステータス】。
それはマスターレベルであるフェルセイス、ライトレインと比べても、さらに高い。
ライガの場合、一度マスターレベルに到った下忍から転職した為、レベル1の忍者と成った時の初期値が高かった事が影響しているのだ。
「さて、後はアンナさんもですね、はいっ!」
六人の【ステータス】確認を終え、残ったのは半ば一般人のアンナ一人。
そのアンナに、自分の『ステータスカード』を渡すセディル。
「……あのね、セディル君。私は……」
「アンナさん、言いたい事は判りますけど、まずは自己紹介ですよ」
困った様子で抵抗しようとするアンナの言葉を遮り、セディルは彼女に【ステータス】の確認を求める。
それに釣られ、アンナもふとカードの魔石に触れ、自分の【ステータス】を見てしまう。
レベル:4
名前 :アンナ・ハーベルス
HP :30/30 MP :29/29 状態 :正常
職業 :厨房師 年齢 :27 性別 :女 種族 :人間 属性 :中立
筋力 : 9 敏捷 :15 魔力 :17
生命 :12 精神 :12 幸運 :12
スキル
【生命強化】【料理習得】【厨装備可】
魔法
一般系レベル:8 料理系レベル:2
「……私は、アンナ・ハーベルスです。年齢は二十七歳、属性は中立で、レベル4の厨房師になります」
アンナの【ステータス】は、敏捷と魔力がやや高い以外は、凡人のものだ。
彼女はあくまで一般人であり、特別な才能に恵まれている訳でもないのである。
「これで、全員【ステータス】を確認出来ましたね。うん、属性の相性も混沌が五人に、中立が二人だから問題無い。前衛は、僕と師匠とセディナの三人が務められる」
各人の魔素の属性を表す、『秩序』『中立』『混沌』の表示は、冒険者がパーティを組む時に、特に重視されるポイントだった。
魔素が澱む、古代の遺跡や地下迷宮に挑む時、『秩序』と『混沌』の属性を持つ者同士がパーティを組んでいると、お互いの魔素が反発し合い、戦闘能力の低下を引き起こすからだ。
その為、冒険者は魔素の相性に影響を受けない『中立』の属性の者を中心に、それぞれ秩序と混沌のパーティを編成するのだった。
「セディル、お前は本気でアンナも冒険者にして、一緒に試練の迷宮に挑ませる気ですの?」
そのパーティを組む計算に、一般人のアンナもしっかりと組み込まれている事に、エリーが文句を言う。
口ではどう言おうとも、エリーはアンナを慕っているので、その彼女が自分達と共に危険な場所に行く事には、反発があるのだ。
「基本は、僕達六人でパーティを組むよ。でも、迷宮探索を行うなら、もしもに備えてパーティの予備要員が欲しいんだ。アンナさんは、その一人目。出来れば、もう一人か二人は確保して置きたいね」
順調に迷宮を探索する為には、柔軟にメンバーを入れ替え、休息にも時間を取れるようにしたい、というのがセディルの考えだった。
その為には、アンナ以外にも誰かを仲間に欲しい。
「でも、セディル君。私は厨房師よ。厨房師は『魔素料理』を作る事しか出来ないから、私には、戦う力なんて無いのよ」
アンナはそう説明し、冒険への参加に彼女を望むセディルに理解を求めた。
厨房師の能力は、魔力を付与した料理を作り、それを食べた者に、HPやMPの回復効果を齎したり、一時的にスキルを付与したりといった効果を与える。
だが、言ってみればそれだけであり、当然魔法による攻撃などは出来ない。
『職人系』とも呼ばれるこの系統の職は、非戦闘員として冒険者を支える事で力を発揮する職なのである。
「そのアンナさんの作る料理こそが、僕はこの冒険の要に成ると思っているんですよ。アンナさんの力は、絶対に僕達の役に立ちます。その為にも、僕達と一緒にレベルを上げましょうっ!」
しかしアンナの期待に反して、セディルの意向は揺るがなかった。
試練の迷宮に挑み、魔王を倒すには、彼女の料理は必要不可欠。
彼は、そう確信しているのである。
「戦いに関しては、心配ありません。確か、師匠が良い物を持っていました。『あれ』を借りましょう」
とはいえ、冒険では戦いに参加しない者は、レベルアップに必要な『魔素』を倒した敵から得られない。
冒険に行く以上は、アンナにも敵との戦いを経験して貰う必要がある。
「良い物? まさか、これの事か?」
話を振られたライガは、腰の『収納鞄』から、一つの武器を取り出した。
それは、『魔弾の石弓』。
帝都の地下で、セディルが『ワイト』との戦いに使用した、ライガ所有の魔法の武器。
天使との戦いを繰り広げた古の寺院で、ライガが手に入れた品物であった。




