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第九話 夢から覚める時間

 L.E.1012年、6月4日。


 一睡もしていない。


 なのに。


 妙に頭は冴えていた。


「ネルさん」


「はい」


「パン」


「食べてます」


「日記」


「書いてます」


「どっちかにしてください」


「朝食を食べる時間と日記を書く時間を同時に消化すれば、実質的に時間が二倍になります」


「そういう考え方するから寝る時間なくなるんですよ!」


 エメラルドさんがうるさい。


 でも。


 いつも通り。


 それが。


 今は少しありがたい。


 テーブルの向こう。


 サンデーさんも朝食を食べている。


 サファイアさんは。


 相変わらず不機嫌そう。


 たぶん。


 本当に不機嫌なのだろう。


 ローラさん。


 ルビーさん。


 二人分。


 席が空いている。


「……」


 見ない。


 ではなく。


 見ても。


 大丈夫。


 昨日までとは。


 少し違う。


     ◇


 ローラさんたちを襲った女性について。


 新聞には。


女性が突然錯乱し、二名を殺害。


 と書かれている。


 でも。


 違う。


 あの人自身が。


 殺したわけではない。


 チェルシーに。


 身体を使われていた。


「そのこと」


 私は言う。


「いずれ証言しないといけませんね」


「はい」


 サンデーさんが頷く。


「あの人まで犯人にされたら」


「ローラさんも嫌でしょうし」


 ただ。


 今。


 こちらから大きく動くのは危険だ。


 チェルシーの居場所も。


 ナイトメアの居場所も。


 分からない。


「それと」


 私は。


 昨日から考えていた。


「チェルシーって」


「はい?」


「ナイトメアの命令でローラさんを殺したんでしょうか」


「……」


 エメラルドさんが。


 止まる。


「ナイトメアさん」


 私は。


 もう一度。


 あの少年の言葉を思い出す。


人間を幸せにする。


 歪んでいる。


 勝手。


 迷惑。


 でも。


 あの言葉自体は。


 たぶん。


 本気。


「ナイトメアさん自身は」


 人間を。


「殺したいわけじゃない」


「……じゃあ」


 サンデーさんが言う。


「チェルシーさんが勝手に?」


「多分」


 ミンティアさん。


 ナイトメアに逆らった。


 チェルシー。


 ナイトメアを慕っている。


 でも。


 そのためなら。


 本人の意思にも反する。


「夢魔って」


 組織というより。


「……家族?」


「え?」


「いや」


 違う。


 少なくとも。


 ナイトメア本人は。


 そう思っていない。


「子供が」


 思いつきで始めた遊びに。


 それぞれ事情のある人たちが。


 勝手についてきている。


 そんな感じ。


「それで」


 人が死んだ。


「……いい加減」


 終わらせないと。


 その瞬間。


「おい!」


 部屋の中に。


 声が響いた。


「いつまで朝飯食ってんだ!」


「うわっ!?」


 振り返る。


 金髪。


 白いドレス。


 女神様。


「女神様!?」


「迎えに来た」


「どうやって入ったんです?」


「扉から」


「鍵掛けてましたけど」


「女神に鍵が通用すると思うな」


「犯罪者みたいな台詞ですね」


「細かいことはいい!」


 女神様が。


 笑った。


「準備ができた」


「……」


 一瞬。


 意味が分からなかった。


「ナイトメアを」


 女神様が。


 拳を握る。


「今日、倒すぞ」


     ◇


 天界。


 以前とは。


 違う場所。


 窓のない小さな部屋。


 ベッドが六つ。


「仮眠室だ」


「天使も寝るんですね」


「寝るに決まってるだろ」


「もっと神秘的な存在かと」


「働けば疲れる」


「夢がないですね」


「夢魔と戦ってる奴が夢を語るな」


 もっともだ。


「それで?」


 私は。


 ベッドを見る。


「ここで何を?」


「これだ」


 女神様が。


 小さな瓶を出した。


「睡眠薬?」


「魔法のな」


「犯罪臭が増してきましたね」


「黙って聞け!」


 説明。


 簡単に言えば。


 この薬を飲むと。


 必ず六時間。


 眠る。


 そして。


 普通なら。


 眠った人間自身の心から。


 夢が作られる。


 でも。


 この薬は。


 夢の内容まで。


 ある程度。


 指定できる。


「へえ」


「反応薄いな」


「最近、夢の中に入りすぎて」


 感覚が。


 麻痺している。


「で」


 女神様が。


 サンデーさんを見る。


「サンデー」


「は、はい」


「寝てくれ」


「……」


「……」


「今?」


「ああ」


「朝起きたばかりですけど」


「薬だから寝られる」


「何だか納得いかない……」


 サファイアさんが。


 前へ出る。


「ちょっと待って」


「何だ?」


「どうしてサンデーなの?」


「別にネルでもいい」


「じゃあネルにしなさいよ」


「私、昨日から寝てないので適任ですよ」


「お前はむしろ普通に寝ろ」


「正論」


「理由は単純だ」


 女神様が。


 サンデーさんを見る。


「今回作る夢は」


 サンデー自身の夢ではない。


「ナイトメアが普段いる夢に」


 限りなく。


「似せる」


「……」


 ナイトメアにも。


 本体がある。


 そして。


 彼自身が眠っている夢。


 夢から夢へ移るとき。


 必ず。


 一度。


 そこを経由する。


「なるほど」


 私は。


 ようやく理解した。


「偽物の駅を作る」


「駅?」


「いつも乗り換えに使う駅とそっくりな場所を作って」


 間違えて。


「降りてもらう」


「まあ、そんな感じだ」


 そして。


 一度入ったら。


 結界。


「逃がさない」


「そういうことだ」


「……」


 いい。


 かなりいい。


「じゃあ」


 私は。


 聞く。


「中に入ってきたナイトメアさんを」


「私が倒す」


「私が倒しても?」


「話聞いてたか?」


「聞いてますよ」


「結界を作るのに二、三分かかる」


 その間。


 私と。


 エメラルドさん。


 二人で。


「足止め」


「そうだ」


「その二、三分の間に倒したって」


「構わんが」


 女神様が。


 少し。


 言葉を止めた。


「無茶はするな」


「……」


「あいつは」


「女神様」


 私は。


 遮る。


「あなたとナイトメアさんに」


 何があるのか。


「今は聞きません」


「……」


「でも」


 私たちにも。


 ある。


 ケビンさん。


 ティアナさん。


 ロレッタさん。


 アイトさん。


 ミンティアさん。


 ローラさん。


 ルビーさん。


「私」


 昨日。


 決めた。


 誰かに。


 言われたからではなく。


「自分で」


 ここまで来た。


「だから」


 最後も。


「できるだけ自分でやります」


「……」


 女神様は。


 しばらく。


 私を見ていた。


「分かった」


「ありがとうございます」


「ただし死ぬなよ」


「善処します」


「そこは断言しろ!」


     ◇


「私は?」


 サファイアさん。


「サンデーの身体を見てる」


「当然」


 即答。


「夢遊病みたいに操られる可能性がある以上」


 眠っている身体も。


 安全とは限らない。


「私が守る」


「お願いします」


 サンデーさんが。


 ベッドへ横になる。


「……何か」


「はい?」


「緊張します」


「寝るだけですよ」


「ネルさんは中で戦うからいいじゃないですか!」


「私は私で緊張してます」


「全然そう見えません」


「顔がいいので」


「関係ないです!」


 少し。


 笑う。


 サンデーさんも。


「それじゃ」


 女神様が薬を渡す。


「飲め」


「はい」


 一口。


「苦い……」


「薬だからな」


 数分。


 目を閉じる。


「ネルさん」


「はい?」


「絶対」


 もう。


 声が眠そう。


「帰ってきてくださいね」


「もちろん」


「約束ですよ」


「はい」


 眠った。


「行きますか」


「はい!」


 エメラルドさん。


 手。


 サンデーさん。


 手。


 ウェイクリング。


 光。


     ◇


 甘い。


「……」


 匂いが。


 甘い。


「何ですか、ここ」


 森。


 ただし。


 木の幹。


 チョコレート。


 葉っぱ。


 クッキー。


 地面。


「スポンジケーキ?」


 歩く。


 沈む。


「歩きにくい」


「ネルさん!」


 エメラルドさんが。


 上から。


 何かを持ってきた。


「見てください!」


「何です?」


「雲!」


「……」


「綿菓子です!」


 食べている。


「何してるんですか」


「おいしいですよ?」


「最終決戦の直前ですよ」


「糖分補給です」


「妙にもっともらしい」


 私は。


 周囲を見る。


 生き物。


 いない。


 鳥。


 虫。


 風さえ。


 ほとんどない。


「ここ」


 夢なのに。


「死んでますね」


「え?」


「形だけ」


 木。


 空。


 森。


 お菓子。


 楽しい。


 かわいい。


 子供が。


 好きそうな。


 世界。


 でも。


 誰もいない。


「……ナイトメアさんの」


 根城。


 本人の夢。


 それと。


 よく似た世界。


「こんなところに」


 ずっと。


 一人?


『聞こえるか』


 女神様。


 頭の中。


「はい」


『まだ来てない』


「了解」


『長くて五時間だ』


「長っ」


『我慢しろ』


「お菓子食べ放題だと思えば」


「ネルさん、さっき衛生面を気にしてませんでした?」


「五時間もいたら考えは変わります」


     ◇


 二時間後。


「暇」


「暇ですね」


「もう一回悪口言います?」


「誰に?」


「ナイトメアさん」


「ここにいないんですよ!」


「聞こえるかもしれない」


「第7話と同じ!」


 そんな。


 くだらない話をしていた。


 から。


 最初。


 気付くのが遅れた。


「……ネルさん」


「はい?」


「岩」


 目の前。


 正確には。


 キャンディー。


 その上。


 空間。


 歪む。


『来るぞ!』


 女神様。


 声。


「はい!」


 黒い穴。


 広がる。


 一人。


 少年。


 現れる。


「……」


 ナイトメア。


 そして。


「メア様」


 もう一人。


「……チェルシー」


 彼女も。


     ◇


「おや」


 ナイトメアが。


 私を見る。


「君」


「どうも」


「確か」


「美少女旅商人ネル・パースです」


「そこまで聞いてない」


「覚えていてくれたんですね」


「嫌でもね」


「光栄です」


「僕は」


「トワイライトメア」


「お」


「呼びませんけど」


「何で!?」


 いつも通り。


 喋る。


 その間にも。


 数える。


 一。


 二。


 三。


 結界。


 あと。


 二、三分。


「罠だろ?」


「……」


 ナイトメア。


 笑った。


「何のことです?」


「僕の夢に似せた」


 周囲を見る。


「偽物」


「偽物って」


 私は。


 笑う。


「あなたが言います?」


「……」


「夢魔も」


 夢の世界も。


 全部。


 偽物だって。


「自分で言ってたでしょう」


「……相変わらず嫌な女だね」


「お互い様です」


 チェルシー。


 こちらを見る。


「あんたのことは」


 目。


 冷たい。


「絶対忘れない」


「私もです」


 ローラさん。


 ルビーさん。


「忘れません」


 胸。


 痛い。


 でも。


 立っていられる。


「……あら」


 チェルシーが。


 気付く。


「もう」


 包丁。


 出す。


「震えないのね」


「ええ」


「克服した?」


「いいえ」


 怖い。


 思い出す。


「多分」


 これからも。


 怖い。


「でも」


 怖いまま。


「動けます」


「……」


「それで十分です」


     ◇


「メア様」


 チェルシー。


「先に」


 私を。


「始末します」


「別にいいよ」


 ナイトメアは。


 興味なさそう。


「僕の相手は」


 どこか。


 上。


「女神だ」


「……」


 その声。


 少し。


 違った。


「女神」


 嫌い。


 というより。


「……」


 何だろう。


 そこまで考える暇は。


 なかった。


「来ます!」


 エメラルドさん。


 チェルシー。


 速い。


「《夢幻創造》!」


 金。


 ただし。


 今度は。


 棒ではない。


 壁。


「っ!?」


 巨大な金塊。


 盾。


 包丁。


 弾く。


「でかっ!」


「金は大きいほどいいんですよ!」


「そういう話!?」


 チェルシー。


 横へ。


「もう一枚!」


 金。


 壁。


 逆。


「もう一枚!」


 三枚目。


 出す。


 一枚目。


 消えた。


「……なるほど」


 上限。


 三つ。


「不便ですね!」


「今知ったんですか!?」


「夢幻創造って説明書ないですから!」


     ◇


 攻撃。


 防ぐ。


 また。


 防ぐ。


 私は。


 勝てない。


 分かる。


 チェルシーの方が。


 圧倒的に速い。


 でも。


 倒す必要はない。


「……」


 時間。


 稼ぐ。


 それだけ。


「苛つく!」


 チェルシーが。


 跳ぶ。


 右。


 金塊。


 左。


 金塊。


 上。


「エメラルドさん!」


「はい!」


 避ける。


 その一瞬。


「あ」


 チェルシー。


 方向。


 変えた。


「エメラルドさん!」


「え?」


 掴まれる。


 小さな身体。


 左手。


 首元。


 包丁。


「動かないで」


「……」


「ネル」


 チェルシーが。


 笑う。


「夢幻創造もやめて」


「……」


「この子」


 刃。


 当てる。


「死ぬわよ」


「ご、ごめんなさい」


 エメラルドさん。


「ネルさん」


「謝らないでください」


「でも」


「最悪」


 私は。


 言う。


「首が飛ぶだけです」


「物理的に最悪ですよ!?」


「この状況で突っ込めるなら元気ですね」


「ネルさん!」


 よし。


 大丈夫。


「で?」


 チェルシーを見る。


「人質を取って」


「夢から出て行きなさい」


「……」


「あんたが消えれば」


 女神が来ても。


「二対一」


 なるほど。


「分かりました」


「ネルさん!?」


 時間。


 十分。


 稼いだ。


 そろそろ。


 結界。


 なら。


 私が出ても。


 あとは。


 女神様。


「……ちょっと待ってください」


 エメラルドさん。


 低い声。


「何?」


「さっきから」


 怒っている。


「二対一」


「……」


「二対一って」


「エメラルドさん?」


「私」


 チェルシーの手。


 掴まれている。


「数に入ってます?」


「……」


「ずっと!」


 チェルシーの。


 指。


 噛んだ。


「いっ!?」


「私だって!」


「ちょ、この!」


「戦ってるんですよ!」


「離しなさい!」


「嫌です!」


 ぶんぶん。


 振られる。


「エメラルドさん!」


「負けません!」


 そして。


 手。


 緩む。


「今!」


 脱出。


 飛ぶ。


「うおおおおおおお!」


 頭。


 チェルシーの顎。


 ごん。


「がっ」


 倒れた。


「……」


「……」


「……」


「エメラルドさん」


「はい?」


「今」


「はい」


「チェルシー倒しました」


「……」


「……」


「私が?」


「あなたが」


「……」


 エメラルドさん。


 両手を上げる。


「やったあああああ!」


「すごい!」


「私、強い!」


「多分たまたま!」


「そこは褒めてください!」


     ◇


 笑い声。


「ふふ」


 ナイトメア。


「くく」


 笑う。


「何です?」


「はは」


「笑い方多いですね」


「面白いんだよ」


 倒れた。


 チェルシーを見る。


「何が?」


「それ」


「……それ?」


「役に立たない」


 ナイトメアが。


 近づく。


 蹴った。


「ただの」


 チェルシーを。


「人形」


「……」


 もう一度。


 蹴る。


「やめてください」


「何で?」


「あなたのために」


 戦った。


「勝手にね」


「……」


「僕は」


 チェルシーを見る。


「来いなんて言ってない」


「だから?」


「僕が作ったものだよ」


「……」


「壊れようが」


 何だろうが。


「僕の自由だ」


     ◇


「……」


 胸。


 ざわつく。


 何故。


 ここまで。


 腹が立つ。


「ミンティアさんも」


「うん?」


「そうやって」


 殺した。


「道具だから?」


「そう」


「チェルシーさんも?」


「そう」


「……」


 だったら。


「あなた」


 私は。


 ナイトメアを見る。


「寂しくないんですか」


「……は?」


 今度は。


 向こうが。


 止まった。


「何の話?」


「だって」


 この世界。


 誰もいない。


 お菓子。


 かわいい。


 理想。


「一人」


 夢魔。


 作った。


 たくさん。


「なのに」


 誰一人。


「仲間だと思ってない」


「必要ない」


「……」


「僕には」


 人間がいる。


「人間を幸せにする」


「その人間とも」


 一緒に。


 生きない。


 眠らせて。


 夢を与える。


 それだけ。


「人間のことも」


 見ていない。


「……」


「夢魔のことも」


 見ていない。


「……」


「あなた」


 誰と。


「一緒にいたいんです?」


「黙れ」


 初めて。


 ナイトメアの。


 笑顔が消えた。


     ◇


『ネル』


 女神様。


 声。


『もう少しだ』


 結界。


 あと。


 僅か。


「聞こえてるんでしょう」


 ナイトメア。


 空を。


 睨む。


「女神!」


 声。


 怒り。


「出て来い!」


「……」


「僕は」


 拳。


 握る。


「お前と決着をつけに来たんだ!」


 女神様。


 やっぱり。


 知っている。


「ナイトメアさん」


「何?」


「女神様と」


「君には関係ない」


 即答。


「……」


「どうせ」


 口元。


 歪む。


「あと少しで会える」


     ◇


 チェルシーさん。


 気を失っている。


「降参します?」


「何で?」


「手下」


「だから」


 苛立った声。


「手下じゃない」


 もう一度。


 蹴ろうとする。


「やめろ!」


 私。


 声。


 思った以上に。


 大きい。


「その人は」


「人じゃない」


「知ってます」


「なら」


「だから何?」


 私は。


 前へ出る。


「人間じゃなきゃ」


 心がない?


「あなた」


 神なんでしょう。


「だったら」


 人間じゃない。


「あなたの心も」


 偽物ですか?


「……」


「違うでしょう」


 ナイトメア。


 睨む。


「チェルシーさんも」


 ミンティアさんも。


「自分で」


 考えた。


 選んだ。


「それを」


 自分の思い通りじゃないから。


「出来損ないって」


 呼ぶ。


「あなたが」


 誰より。


「他人の心を」


 決めつけている。


「黙れ」


「嫌です」


「黙れ!」


「嫌!」


     ◇


 ナイトメアの。


 身体。


 変わる。


「ぐ……」


 背中。


 膨らむ。


 腕。


 太く。


 爪。


 牙。


「ネルさん」


「下がって」


 少年。


 消える。


 熊?


 虎?


 狼?


 どれでもない。


 ただ。


 巨大な獣。


「……」


 夢。


 自分の心が。


 形になる世界。


「それが」


 私は。


 金塊を出す。


「あなたのなりたかった姿?」


「黙れえええええ!」


 突進。


「来ます!」


 金。


 口。


 挟む。


「ぐっ!」


 重い。


 腕。


 痺れる。


「エメラルドさん!」


「はい!」


 横。


 体当たり。


 効かない。


「全然!」


「効いてません!」


「分かってます!」


 でも。


 二秒。


 三秒。


 五秒。


 それでいい。


「お前らなんか!」


 ナイトメア。


 吠える。


「何も知らないくせに!」


「知りませんよ!」


 私は。


 叫び返す。


「だから!」


 金塊。


 受ける。


「勝手に決めないって言ってるんでしょう!」


「……っ!」


「人の幸せも!」


 押し返す。


「人の気持ちも!」


 もう一枚。


「あなたが!」


 決めるな。


     ◇


 光。


     ◇


「よう」


 女神様。


「待たせたな」


「遅いですよ!」


「二分だぞ!」


「戦ってる側には二十分です!」


「元気そうで何よりだ!」


 女神様。


 ナイトメアを見る。


「……」


 笑顔。


 消える。


「久しぶりだな」


「……」


 ナイトメア。


 獣のまま。


 低い声。


「女神」


「そう呼ぶんだな」


「……」


「ダイアモンド」


 名前。


 呼ぶ。


 憎しみ。


 それだけではない。


 何か。


 もっと。


 古い。


「今日で終わりだ」


 女神様が。


 前へ。


「お前の夢」


「……」


「私が醒ましてやる」


「ふざけるな」


「ふざけてねえよ」


「お前に」


 獣。


 吠える。


「何が分かる!」


 突進。


「全部は分からん」


 女神様。


 両腕を。


 広げる。


「だから」


 待つ。


「今度は」


 逃げない。


「お前が吐き出すまで」


 全部。


「受け止めてやる」


「遅いんだよおおおおおおおお!」


     ◇


 衝突。


 する。


 そう思った。


     ◇


 轟音。


     ◇


「……え?」


 ナイトメア。


 いない。


 いや。


 上。


「……」


 空。


 飛んでいる。


「……何したんです?」


 女神様。


 拳。


 振り上げている。


「右アッパー」


「……」


「右アッパー」


「それは見れば分かります」


 ナイトメア。


 落ちる。


 どさ。


 動かない。


「……」


「……」


「終わり?」


「終わり」


「一発?」


「一発」


「……」


 エメラルドさん。


 目。


 輝く。


「女神様すごーい!」


「だろ?」


「今までの私たちの戦い何だったんですか!?」


「時間稼ぎ」


「分かってますけど!」


 いや。


 知っていた。


 女神様。


 めちゃくちゃ強い。


 でも。


 さすがに。


 これは。


「最初から来てくださいよ」


「結界が完成しなきゃ逃げられるだろ!」


「そうでした」


「お前、頭いいのか悪いのか分からんな」


「褒め言葉として受け取ります」


     ◇


「終わった」


 女神様が。


 言う。


「結界も完成した」


 ナイトメア。


 気絶。


 チェルシーさんも。


「外から」


 他の夢魔。


「もう来ない」


「……」


「私たちの勝ちだ」


 私たちの。


 勝ち。


「……」


 実感。


 ない。


「ネルさん」


「はい」


「勝ったんですよ」


「そうですね」


「もっと喜びましょうよ!」


「いや」


 嬉しい。


 はず。


 これで。


 エターナルドリーマー。


 助かる。


 新しい被害。


 止まる。


 でも。


「一つ」


 聞きたい。


「女神様」


「何だ?」


「ナイトメアさん」


 倒れている。


 少年へ。


 戻っている。


「あなたの」


 何なんです?


「……」


     ◇


 沈黙。


「やっぱり」


 私は。


 続ける。


「知り合いでしょう」


「……」


「第4話から」


 とは言わないけれど。


 ずっと。


 気になっていた。


 危険度E。


 だった。


 事件。


 それを。


 女神自ら。


 追っていた。


「ただの」


 敵じゃない。


「……はは」


 女神様。


 困ったように。


 笑う。


「そこまで分かるか」


「商人ですから」


「関係あるか?」


「人を見る仕事です」


「そうかよ」


 女神様。


 ナイトメアを見る。


「こいつの」


 名前。


「クリスタル」


「……」


「私の」


 少し。


 言葉に。


 時間。


「弟だ」


「弟!?」


 エメラルドさん。


 叫ぶ。


「女神様に弟が!?」


「いた」


「いた?」


「天界では」


 もう。


「いないことになってる」


     ◇


 先代の神。


 引退。


 次の神。


 候補。


 ダイアモンド。


 クリスタル。


 二人とも。


 名を連ねた。


 ただし。


「候補って言っても」


 女神様。


 自嘲する。


「勝負になってなかった」


 姉。


 強い。


 頭も回る。


 支持もある。


 弟。


 若い。


 実績。


 ない。


「天使どもは」


 クリスタルを。


ダイアモンドに何かあったときの予備。


 そう。


 見ていた。


「……」


 スペア。


「本人にも?」


「直接言った馬鹿もいた」


「……」


「私は」


 女神様。


 眉間。


 皺。


「止めなかった」


     ◇


 姉と。


 比べられる。


ダイアモンドなら。


姉なら。


お前はまだ。


次がある。


いつか。


 いつか。


 いつか。


「こいつ」


 女神様が。


 倒れている弟を見る。


「人間が好きだった」


「……」


「少なくとも」


 本人は。


「そう言ってた」


 自分の方が。


 人間を考えている。


 だから。


 自分こそ。


 神になるべき。


「誰も」


 聞かなかった。


 実績。


 能力。


 経験。


「姉より劣る」


 それだけ。


「最後には」


 誰も。


 クリスタルへ。


 つかなかった。


     ◇


 天界。


 出た。


 地上。


 降りた。


 そして。


 見た。


 戦争。


 飢餓。


 貧困。


 搾取。


「初めは」


 女神様が。


 言う。


「こいつなりに何かしたんだと思う」


「……」


「でも」


 一人で。


 世界は。


 変えられない。


「そこで」


 諦めた。


現実が変えられないなら。


夢の中だけでも。


幸せにすればいい。


「それで」


 夢魔。


 作った。


     ◇


「……」


 私は。


 チェルシーさんを見る。


 倒れている。


「女神様」


「何だ?」


「クリスタルさん」


「……」


 初めて。


 その名前で。


 呼ぶ。


「ずっと」


 スペア。


 だったんですね。


「……そうだ」


「誰かの」


 代わり。


「そうだな」


「役に立つかどうかで」


 見られていた。


「……」


「誰にも」


 自分自身を。


「見てもらえなかった」


 女神様。


 何も。


 言わない。


「だから」


 私は。


 チェルシーさんを見る。


「夢魔のことを」


 道具って。


「呼ぶんですかね」


「……」


「自分が」


 されたこと。


「そのまま」


 自分の作った人たちに。


「してる」


     ◇


 空気。


 静か。


     ◇


「……皮肉だな」


 女神様。


 呟いた。


「ですよ」


「私には」


 気付けなかった。


「姉として?」


「……」


「女神として?」


「両方だ」


     ◇


「私は」


 女神様。


 ゆっくり。


 座る。


「こいつの悩みを」


 小さいものだと。


「決めつけた」


「……」


「思春期のガキが」


 姉に。


 負けたくない。


 ただ。


 それだけ。


「そのうち」


 勝手に。


 立ち直る。


「そう思った」


 誰かの。


 気持ち。


 勝手に。


 決める。


「……」


 ナイトメア。


 クリスタル。


 同じ。


 ことを。


 していた。


「似た姉弟ですね」


「殴るぞ」


「図星でしょう」


「……否定できん」


     ◇


「でも」


 私は。


 言う。


「女神様」


「何だ」


「全部」


 あなたのせい。


「ではないですよ」


「……」


「クリスタルさんが」


 何をするか。


「最後に決めたのは」


 クリスタルさん。


「……」


 第8話。


 サンデーさんに。


 言われた。


ローラさんの選択まで、あなたのものにしないで。


「女神様が」


 気付けなかった。


 それは。


 事実。


「でも」


 人間を。


 勝手に眠らせることを。


「選んだのは」


 この人。


「そこまで」


 背負ったら。


「クリスタルさんの人生まで」


 女神様の。


「ものになっちゃいますよ」


「……」


 女神様。


 少し。


 笑った。


「十七のガキに説教されるとはな」


「美少女旅商人です」


「そこはどうでもいい」


     ◇


 地面。


 揺れる。


「うわっ」


「ネルさん!」


「大丈夫」


 世界。


 崩れる。


 お菓子の木。


 欠ける。


 空。


 白く。


「夢の主が」


 倒れた。


「そろそろ終わる」


 女神様。


 言う。


「じっとしてれば」


 現実へ。


 戻る。


「……」


 私は。


 チェルシーさんを見る。


「女神様」


「何だ?」


「この人」


「……」


「どうなります?」


「分からん」


「助けられない?」


「夢魔は」


 クリスタルの。


 魔力。


 そこから。


 生まれた。


「私には」


 どうにも。


 できない。


「……」


「でも」


 女神様。


 続ける。


「消えると」


 決まったわけでもない。


「え?」


「こいつらは」


 確かに。


 クリスタルから。


 生まれた。


「だが」


 そこから先。


 何を。


 考えたか。


 何を。


 選んだか。


「全部」


 クリスタルが。


 決めていたわけじゃない。


「……」


 ミンティアさん。


「だったら」


 クリスタル自身が。


 ほんの少しでも。


「こいつらを」


 自分とは。


 別の何かだと。


「認められたなら」


 夢と夢。


 その隙間。


「残ることも」


 あるかもしれない。


「……」


「可能性の話だ」


「十分です」


     ◇


 私は。


 チェルシーさんを見る。


 憎い。


 今でも。


 ローラさん。


 ルビーさん。


 殺した。


 許す。


 つもり。


 ない。


 でも。


「生きててください」


 それと。


 これは。


 別。


「できれば」


 いつか。


 ちゃんと。


「自分の身体で」


 文句。


 言わせてください。


     ◇


 世界。


 白くなる。


「ネルさん」


「はい?」


「終わったんですね」


「多分」


「多分?」


「だって」


 まだ。


 サンデーさん。


 起こす。


 エターナルドリーマー。


 どうなる。


 夢魔。


 どうなる。


 クリスタル。


 どうなる。


「分からないこと」


 いっぱい。


「でも」


 少なくとも。


 今日。


 一つ。


 終わった。


「ナイトメアさんの」


 夢。


「覚めました」


     ◇


 L.E.1012年、6月4日。


 追記。


     ◇


 私たちは。


 勝った。


     ◇


 でも。


 今日。


 一番。


 印象に残ったのは。


 女神様の右アッパーではない。


 ……いや。


 あれも。


 相当。


 印象には残っている。


     ◇


 クリスタル。


     ◇


 姉の。


 予備。


 誰からも。


 自分自身を。


 見てもらえなかった。


     ◇


 それで。


 夢魔を。


 作った。


     ◇


 そして。


 その夢魔たちを。


自分の道具。


 と呼んだ。


     ◇


 人間は。


 嫌だったことを。


 他人には。


 絶対しない。


     ◇


 そんな。


 綺麗な生き物では。


 ないらしい。


     ◇


 むしろ。


     ◇


 自分が。


 そう扱われたからこそ。


     ◇


 それ以外の。


 扱い方を。


 知らなくなることも。


 ある。


     ◇


 でも。


     ◇


 ミンティアさんは。


 逆らった。


     ◇


 チェルシーさんも。


 頼まれていないのに。


 ついてきた。


     ◇


 作った本人の。


 思い通りには。


 ならなかった。


     ◇


 それは。


 失敗?


     ◇


 私は。


 そうは。


 思わない。


     ◇


 自分の思い通りに。


 ならないからこそ。


     ◇


 他人。


     ◇


 なのかもしれない。


     ◇


 クリスタルさんが。


 それに。


 気付く日は。


 来るのだろうか。


     ◇


 分からない。


     ◇


 でも。


     ◇


 夢から。


 覚めたばかりなのだから。


     ◇


 考えるのは。


     ◇


 これからでいい。


     ◇


 では。


 私も。


 少し寝ます。


     ◇


 さすがに。


 眠いです。

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