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第十話 夢と少女と旅日記

 L.E.1012年、6月5日。


 朝。


 目を覚ました。


 夢は見なかった。


「……」


 少し。


 残念だと思った。


 そのことに。


 自分で驚いた。


     ◇


「ネルさん!」


「はいはい」


「取れました!」


「何が?」


「指輪!」


 右手を見る。


 薬指。


 何もない。


「あ」


 昨日。


 女神様へ。


 ウェイクリングを返した。


 事件が終わった以上。


 もう。


 持っている理由はない。


「……」


「寂しいです?」


「まさか」


 指。


 軽い。


「やっとですよ」


 最初は。


 この指輪を外すために。


 夢魔退治へ。


 付き合った。


「せいせいしました」


「本当に?」


「本当です」


 嘘ではない。


 ただ。


 右手を見る癖は。


 しばらく。


 抜けそうにない。


     ◇


 私。


 エメラルドさん。


 サンデーさん。


 サファイアさん。


 四人で。


 朝食を食べた。


 いつもなら。


 ローラさんと。


 ルビーさんも。


 いた。


「……」


 空いた席を。


 今日は。


 ちゃんと見た。


 それから。


 パンを食べた。


     ◇


「それじゃあ」


 サンデーさんが。


 荷物を背負う。


「私たちも行きます」


「旅芸人に戻るんですね」


「はい」


「今度」


 私は言う。


「ちゃんと芸を見せてください」


「……」


 サンデーさん。


 少し。


 目を丸くした。


「顔じゃなくて」


「……はい」


「『美少女芸人』でもなくて」


 私を見る。


「芸を?」


「ええ」


「……絶対ですよ」


「お金取る?」


「当然です!」


「値切れます?」


「値切らないでください!」


 笑う。


「じゃ」


 手。


 出す。


「また」


「はい」


 握る。


「また」


     ◇


「サンデー!」


「分かってるよ」


「知らない人について行かない!」


「子供じゃないよ!」


「十二歳は子供でしょう!」


「ネルさん」


「はい?」


「サファイアどうにかしてください」


「無理です」


「即答!?」


「そういうものは」


 サファイアさんを見る。


「本人が自分で何とかするしかないでしょう」


「ちょっと待ちなさいよ!?」


「ではお元気で」


「話を終わらせるな!」


 最後まで。


 騒がしかった。


     ◇


 エメラルドさんと。


 二人。


 残った。


「……」


「……」


「何です?」


「いや」


「食べ歩き?」


「違います」


「じゃあ何です?」


「ちょっと」


 行きたい場所がある。


     ◇


 ハンターギルド。


 正直。


 もう。


 用はない。


 夢魔事件。


 終わった。


 私たちと。


 ギルド。


 契約もない。


 それでも。


 最後に。


 一度だけ。


 見ておきたかった。


「うおおおおおお!」


 見なくてもよかったかもしれない。


「ナイトメアを倒したのは俺だ!」


「嘘を吐け!」


「この牙を見ろ!」


「俺は爪を持っているぞ!」


「こっちは毛だ!」


「……」


 ギルド前。


 大騒ぎ。


「ネルさん」


「はい」


「何です、あれ」


「自称英雄」


「英雄?」


「たぶん」


 昨日。


 ナイトメアが倒れた。


 それと同時に。


 世界中のエターナルドリーマーが。


 次々と目を覚ました。


 当然。


 誰かが。


 原因を倒した。


 そう。


 考えられる。


 でも。


 夢の世界から。


 証拠は。


 持ち帰れない。


「なので」


 私は言う。


「作り放題です」


「証拠を?」


「はい」


 角。


 爪。


 毛。


 牙。


 そもそも。


 ナイトメアさんが。


 普段は。


 少年の姿だったと。


 知らない人たち。


「何か」


 エメラルドさんが。


 呆れている。


「私たち」


「はい」


「あんなに大変な思いをしたのに」


「はい」


「あの人たち」


「はい」


「何もしてないですよね?」


「でしょうね」


「腹立ちません?」


「少し」


 でも。


「勝手にすればいいですよ」


「え?」


「本当に倒した人間は」


 知っている。


 私。


 エメラルドさん。


 サンデーさん。


 サファイアさん。


 女神様。


 そして。


 ローラさん。


 ルビーさん。


 ロレッタさん。


 アイトさん。


 ミンティアさん。


 ほか。


 この事件で。


 何かを選んだ。


 たくさんの人。


「一人で倒したわけじゃないですし」


「……」


「誰が英雄かなんて」


 正直。


 どうでも――。


「ネルさん?」


 声。


 男。


「……?」


 振り返る。


「やっぱり」


 知っている。


「アイトさん」


     ◇


「探したよ」


「私を?」


「ああ」


「借金の取り立てじゃないですよね」


「何でだよ」


「私、誰かに貸したかなと思って」


「貸す側なんだ」


「当然です」


「ネルさん!」


「冗談です」


 アイトさん。


 以前より。


 少し。


 痩せているように見えた。


 でも。


 顔色は。


 悪くない。


「話がある」


「はい」


「夢の」


 少し。


 笑う。


「話なんだ」


     ◇


 今朝。


 アイトさんは。


 夢を見た。


 妹の部屋。


 そこに。


 一人。


 少女。


 ベッドへ。


 座っていた。


     ◇


「ニム?」


     ◇


 少女は。


 首を振った。


     ◇


「違うよ」


     ◇


 笑う。


     ◇


「私はミンティア」


     ◇


 夢魔。


 ミンティア。


     ◇


「……」


 私は。


 何も言わず。


 続きを聞いた。


     ◇


『生きてたのか?』


『分からない』


『分からない?』


『ナイトメア様に否定されて』


 身体。


 壊れた。


 夢。


 消えた。


『ずっと』


 暗いところ。


 漂っていた。


『でも』


 突然。


 また。


 アイトさんの。


 夢へ。


 来られた。


『多分』


 最後。


『お別れを言いに来たんだと思う』


     ◇


『嫌だ』


     ◇


 アイトさんは。


 言った。


     ◇


『最後じゃない』


     ◇


『でも』


『また来いよ』


『……』


『夢なんだろ?』


     ◇


 少し。


 笑う。


     ◇


『だったら』


 いつでも。


『会いに来ればいい』


     ◇


『でも』


     ◇


『俺はもう』


 夢に。


 閉じ籠もらない。


     ◇


『ニムの分まで』


 生きる。


     ◇


『お前の分まで、とは言わない』


     ◇


 ミンティアさん。


 少し。


 驚いた。


     ◇


『だって』


     ◇


『お前は』


 まだ。


『生きてるかもしれないんだろ?』


     ◇


『……』


     ◇


『なら』


 自分の分は。


『自分で生きろ』


     ◇


『……お兄ちゃん』


     ◇


『また来い』


     ◇


『うん』


     ◇


『今度は』


 妹のふり。


 しなくていい。


     ◇


『ミンティアとして』


     ◇


『……うん』


     ◇


『またね』


     ◇


 そこで。


 目が覚めた。


     ◇


「ただの夢だったのかもしれない」


 アイトさんが。


 言う。


「……」


「俺が」


 もう一度。


 会いたい。


 そう思ったから。


「自分で作った夢」


「そうかもしれません」


 私は。


 答える。


「でも」


 少し。


 笑う。


「違うかもしれません」


「……」


「それでいいんじゃないです?」


「……ああ」


 アイトさんも。


 笑った。


     ◇


 ミンティアさんが。


 本当に。


 生きているか。


 分からない。


     ◇


 でも。


 昨日。


 私は。


 分からないことを。


 分からないまま。


 受け入れてもいい。


 そう思った。


     ◇


「また」


 アイトさん。


 言う。


「会えるかな」


「さあ」


「そこは嘘でも、会えるって言ってくれよ」


「商人は信用が大事なので」


「昨日まで嘘吐きまくってたじゃないか」


「よく覚えてますね」


「忘れるか」


 笑う。


     ◇


 別れる。


     ◇


 歩き出して。


 私は。


 一度だけ。


 後ろを見る。


     ◇


 アイトさんも。


 こちらを見ていた。


     ◇


 手を振る。


     ◇


 今度は。


 ちゃんと。


 前へ向く。


     ◇


 L.E.1012年、6月11日。


     ◇


 エメラルドさんとの。


 最後の日。


     ◇


「おはやうございまふ……」


「何です、その顔」


「寝不足でふ……」


「何で?」


「別に……」


「今日でお別れだから眠れなかった?」


「ち、違います!」


「はいはい」


「ネルさんこそ!」


「私はぐっすりでしたよ」


 嘘。


     ◇


 朝食。


 パン。


 スープ。


 卵。


 エメラルドさんには。


 パンの耳。


「私、ネズミじゃないですよ」


「知ってます」


「もっといいところください」


「真ん中?」


「はい」


「高いです」


「同じパンでしょう!?」


 笑う。


     ◇


 宿。


 出る。


     ◇


 私は。


 隣町へ。


 エメラルドさんは。


 天界へ。


     ◇


 町の門まで。


 一緒に。


 歩いた。


     ◇


 何も。


 話さなかった。


     ◇


 一ヶ月。


 ずっと。


 うるさかったのに。


     ◇


 今日だけ。


 静か。


     ◇


「……」


     ◇


 言いたいこと。


 山ほど。


 あった。


     ◇


 指輪。


 落とすな。


     ◇


 人の袋で。


 寝るな。


     ◇


 勝手に。


 人助けへ。


 巻き込むな。


     ◇


 情報。


 ちゃんと。


 先に説明しろ。


     ◇


 それから。


     ◇


 ありがとう。


     ◇


 言えない。


     ◇


 門。


     ◇


 馬小屋。


     ◇


 パトちゃん。


     ◇


 跨る。


     ◇


「……もう」


 口から。


 出る。


「お別れですね」


「……」


 エメラルドさん。


 泣きそう。


「何です、その顔」


「……」


「世界の終わりじゃないでしょう」


「……」


「事件は」


 終わった。


「めでたい」


 お別れ。


「私も」


 笑う。


「せいせいします」


「……」


「毎日毎日」


 この。


「うるさい妖精の声を」


 聞かなくて。


「済むんですから」


     ◇


 声が。


 震えた。


     ◇


「あれ」


     ◇


 涙。


     ◇


「……おかしいな」


     ◇


 拭う。


     ◇


「ネルさん」


「見ないでください」


「でも」


「見ないで」


     ◇


 強い人間。


 でいたかった。


     ◇


 昔から。


     ◇


 泣いたって。


 何も。


 変わらない。


     ◇


 お金があれば。


 何とかなる。


     ◇


 誰にも。


 頼らない。


     ◇


 私は。


 冷たい人間。


     ◇


 そう。


 思っていた。


     ◇


 でも。


「……」


 泣く。


     ◇


 止まらない。


     ◇


「私」


 笑う。


「こんなに泣き虫でしたっけ」


「知りませんよ」


 エメラルドさんも。


 泣いている。


「私」


 ネルさんと会って。


「一ヶ月しか」


 経ってないですから。


「……そうでしたね」


     ◇


 ずっと。


 一緒だったような。


 気がする。


     ◇


「ネルさん」


「はい?」


「あと」


 少し。


「一緒にいちゃ」


「駄目です」


「即答!?」


「駄目」


     ◇


 それ以上。


 一緒にいたら。


     ◇


 本当に。


 行けなくなる。


     ◇


「門までって」


 決めた。


「……」


「自分で」


 決めたんでしょう。


「……はい」


「なら」


 守る。


     ◇


「でも」


 私は。


 言う。


「エメラルドさんが動けないなら」


「……」


「私が行きます」


「え?」


「ここにいてください」


「……」


「私の背中が」


 見えなくなるまで。


「ずっと」


 そこに。


「いていいです」


「……」


「私は」


 振り向かない。


     ◇


 パトちゃん。


 歩く。


     ◇


 一歩。


     ◇


 二歩。


     ◇


「ネルさん」


     ◇


 聞こえる。


     ◇


 振り返らない。


     ◇


 前。


     ◇


 また。


 一歩。


     ◇


「ネルさん!」


     ◇


 泣き声。


     ◇


 聞こえる。


     ◇


 でも。


 進む。


     ◇


「ネルさぁああああああああん!」


     ◇


 うるさい。


     ◇


「絶対!」


     ◇


 うるさい。


     ◇


「また会いますからねええええええ!」


     ◇


 馬鹿。


     ◇


「絶対ですからぁあああああああ!」


     ◇


 本当に。


 馬鹿。


     ◇


 振り返りたくなる。


     ◇


 だから。


 代わりに。


     ◇


 右手。


 上げた。


     ◇


 背中を。


 向けたまま。


     ◇


 大きく。


     ◇


 手を振った。


     ◇


 返事。


     ◇


「はい!」


     ◇


 聞こえた。


     ◇


 それで。


 十分。


     ◇


 これは。


 別れではない。


     ◇


 次に。


 会うまで。


     ◇


 少しだけ。


 離れるだけ。


     ◇


     ◇


     ◇


 ――さて。


     ◇


 ここで。


 一つ。


     ◇


 今まで。


 隠していたことがある。


     ◇


 というより。


     ◇


 ここまで読んだ方なら。


 そろそろ。


 変だと思っていたかもしれない。


     ◇


「第1話では」


     ◇


「第3話で」


     ◇


「第7話のとき」


     ◇


 私は。


 これまで。


 何度も。


 そんな書き方をした。


     ◇


 変ですよね。


     ◇


 だって。


 事件が起きていた当時。


     ◇


 私は。


 自分の人生が。


     ◇


 全十話で。


 終わるなんて。


     ◇


 知るはずがない。


     ◇


 まして。


 ローラさん視点。


 サンデーさん視点。


     ◇


 私が。


 その場にいなかった。


 出来事まで。


     ◇


 どうして。


 こうして。


 書けるのか。


     ◇


 答えは。


 簡単。


     ◇


 あなたが今まで読んでいた文章は、私が事件の最中につけていた日記そのものではありません。


     ◇


 日記を。


 元に。


     ◇


 事件が。


 すべて終わったあと。


     ◇


 私が。


 書き直したものです。


     ◇


 L.E.1012年、7月18日。


     ◇


 こんにちは。


     ◇


 美少女旅商人。


 ネル・パースです。


     ◇


 ここまで。


 全十話。


     ◇


 読んでくださって。


 ありがとうございました。


     ◇


 現在。


 私は。


 とある宿屋で。


 ノートパソコンを開きながら。


 この文章の。


 最終確認をしています。


     ◇


 画面。


     ◇


『夢と少女と旅日記』

第十話 夢と少女と旅日記

公開予約


     ◇


「……同じタイトル」


 最終話。


 作品タイトル。


 同じ。


「まあ」


 いいでしょう。


     ◇


 今回。


 ネットで。


 公開するにあたり。


     ◇


 昔から。


 旅の途中で。


 書いていた日記。


     ◇


 事件中の。


 メモ。


     ◇


 エメラルドさん。


 サンデーさん。


 サファイアさんから。


 聞いた話。


     ◇


 ローラさんが。


 残していた。


 手帳。


 通信記録。


     ◇


 そのほか。


 事件関係者の。


 証言。


     ◇


 全部。


 集めた。


     ◇


 もちろん。


 会話を。


 一言一句。


 覚えているわけではない。


     ◇


 だから。


 意味を変えない範囲で。


 再構成した。


     ◇


 私が。


 その場にいなかった部分。


     ◇


 たとえば。


 ローラさんが。


 私を休ませて。


 一人で広場へ向かったとき。


     ◇


 あの人が。


 本当に。


 何を考えていたのか。


     ◇


 私には。


 永遠に。


 分からない。


     ◇


 だから。


 残された記録と。


 あの人を知る人たちの話を。


 組み合わせて。


     ◇


多分。


 こうだったのだろう。


     ◇


 そういう形で。


 書いた。


     ◇


 つまり。


     ◇


 これは。


 日記であり。


     ◇


 証言であり。


     ◇


 記録であり。


     ◇


 少しだけ。


 物語でもある。


     ◇


 そして。


     ◇


 話数を。


 付けたのも。


     ◇


 私です。


     ◇


「第一話」


     ◇


 あの。


 道端で。


 指輪を拾った日。


     ◇


「第二話」


     ◇


 ティアナさんと。


 メシティカさん。


     ◇


「第三話」


     ◇


 ロレッタさん。


     ◇


 そう。


 一つずつ。


     ◇


 あとから。


 分けた。


     ◇


 なので。


     ◇


 途中で私が、


「第3話でロレッタさんが」


     ◇


 などと。


 平然と。


 書いていたのも。


     ◇


 別に。


 未来予知ではありません。


     ◇


 ただの。


 編集です。


     ◇


 騙された方。


     ◇


 申し訳ありません。


     ◇


 ……まあ。


     ◇


 別に。


 重要な嘘でもないでしょう。


     ◇


 それより。


     ◇


 何故。


 こんなものを。


 わざわざ。


 ネットへ。


 公開するのか。


     ◇


 そちらの方が。


 重要。


     ◇


 理由。


 一つ目。


     ◇


 世間には。


 未だに。


     ◇


ナイトメアを倒したのは自分だ。


     ◇


 そう。


 名乗っている人が。


 たくさんいる。


     ◇


 あれから。


 各国が。


 調査を始め。


     ◇


 かなりの人は。


 嘘だと。


 判明した。


     ◇


 当然。


     ◇


 本物は。


 私たちなのだから。


     ◇


 先日。


 私と。


 サンデーさんは。


     ◇


 ヴァルバラッド国。


 アレクサンダー王へ。


     ◇


 事件の。


 一部始終を。


 説明した。


     ◇


 女神様側からも。


 確認が取れたらしく。


     ◇


 少なくとも。


 私たちが。


 事件解決へ関与したこと。


     ◇


 そして。


 これから公開する記録が。


 大筋において。


 事実であること。


     ◇


 国から。


 保証をもらった。


     ◇


 だから。


     ◇


 書く。


     ◇


 誰が。


 倒したか。


     ◇


 という。


 手柄のためではない。


     ◇


 むしろ。


 私一人が。


 倒したみたいに。


 書かれたら。


 困る。


     ◇


 私だけでは。


 何も。


 できなかった。


     ◇


 エメラルドさん。


     ◇


 サンデーさん。


     ◇


 サファイアさん。


     ◇


 女神様。


     ◇


 そして。


     ◇


 ローラさん。


     ◇


 ルビーさん。


     ◇


 二人は。


 もう。


     ◇


「私も戦いました」


     ◇


 そう。


 言えない。


     ◇


 だから。


     ◇


 私が。


 書く。


     ◇


 少なくとも。


 彼女たちが。


     ◇


 何も。


 しなかったことに。


 されないように。


     ◇


 誰かの。


 嘘の武勇伝の。


 脇へ。


 追いやられないように。


     ◇


 ローラ・モーガン。


     ◇


 ルビー。


     ◇


 確かに。


 そこに。


 いた。


     ◇


 戦った。


     ◇


 笑った。


     ◇


 生きた。


     ◇


 そのことを。


 残す。


     ◇


 それが。


 この文章を。


 公開する。


     ◇


 一つ目の。


 理由。


     ◇


 そして。


     ◇


 二つ目。


     ◇


「……」


     ◇


 これは。


 別に。


 世間には。


 言わなくても。


 いい。


     ◇


 でも。


     ◇


 最後まで。


 読んでくれた人には。


     ◇


 少しくらい。


 話しても。


 いいでしょう。


     ◇


 私は。


     ◇


 忘れたくない。


     ◇


 ケビンさんの。


 ドラゴン。


     ◇


 ティアナさんの。


 お城。


     ◇


 ロレッタさんとの。


 レース。


     ◇


 ローラさんの。


 魔法。


     ◇


 サンデーさんの。


 能面。


     ◇


 アイトさんと。


 ミンティアさん。


     ◇


 エメラルドさんの。


 頭突き。


     ◇


 女神様の。


 右アッパー。


     ◇


 最後の二つは。


 忘れたくても。


 忘れられない気もする。


     ◇


 それでも。


     ◇


 全部。


     ◇


 書いておきたい。


     ◇


 人間は。


 忘れる。


     ◇


 だから。


 書く。


     ◇


 私は。


 旅商人。


     ◇


 これから。


 また。


 旅をする。


     ◇


 町。


 変わる。


     ◇


 人。


 変わる。


     ◇


 景色。


 変わる。


     ◇


 そのうち。


     ◇


 今回のことも。


 昔話に。


 なる。


     ◇


 それでいい。


     ◇


 でも。


     ◇


 なかったことには。


 したくない。


     ◇


 だから。


     ◇


 旅の途中で。


 書いていた。


 日記を。


     ◇


 物語に。


 した。


     ◇


 タイトル。


     ◇


 最初は。


     ◇


『エターナルドリーマー事件記録』


     ◇


 に。


 しようと思った。


     ◇


「……堅い」


     ◇


 却下。


     ◇


『美少女旅商人ネル・パースの華麗なる夢魔討伐記』


     ◇


「……」


     ◇


 悪くない。


     ◇


 でも。


 サンデーさんに。


 見せたら。


     ◇


『ネルさんしか出てこないみたいです』


     ◇


 と言われた。


     ◇


 失礼な。


     ◇


 事実。


 その通り。


     ◇


 それで。


     ◇


 最終的に。


     ◇


『夢と少女と旅日記』


     ◇


 に。


 した。


     ◇


 夢。


     ◇


 説明。


 不要。


     ◇


 今回の。


 事件。


 そのもの。


     ◇


 旅日記。


     ◇


 これも。


 そのまま。


     ◇


 私が。


 旅の途中で。


 書き続けた。


 日記。


     ◇


 では。


     ◇


 少女。


     ◇


「……」


     ◇


 これだけは。


 少し。


 恥ずかしい。


     ◇


 多分。


     ◇


 私。


     ◇


 なのだと思う。


     ◇


 昔から。


     ◇


 私は。


 自分のことを。


     ◇


 強い人間だと。


 思っていた。


     ◇


 正確には。


     ◇


 そう。


 思うことに。


 していた。


     ◇


 お金。


 好き。


     ◇


 人。


 信用しない。


     ◇


 泣かない。


     ◇


 誰にも。


 頼らない。


     ◇


 そういう。


 人間。


     ◇


 だと。


     ◇


 でも。


     ◇


 泣いた。


     ◇


 怖かった。


     ◇


 誰かに。


 助けられた。


     ◇


 誰かを。


 失った。


     ◇


 誰かと。


 離れたくないと。


 思った。


     ◇


 それでも。


     ◇


 前へ。


 進んだ。


     ◇


 たぶん。


     ◇


 強いとか。


 弱いとか。


     ◇


 そんな話では。


 なかった。


     ◇


 私は。


     ◇


 最初から。


     ◇


 ただの。


 十七歳の。


     ◇


 少女だった。


     ◇


 それで。


     ◇


 よかったらしい。


     ◇


 だから。


     ◇


 夢と。


     ◇


 少女と。


     ◇


 旅日記。


     ◇


 これで。


 いい。


     ◇


 さて。


     ◇


 最後に。


 一つだけ。


     ◇


 事件が終わって。


 しばらく経った。


     ◇


 ある夜。


     ◇


 私は。


 夢を見た。


     ◇


 珍しい。


     ◇


 両親が。


 死んでから。


     ◇


 ほとんど。


 夢というものを。


 覚えていなかった。


     ◇


 でも。


     ◇


 その日は。


 少しだけ。


 覚えている。


     ◇


 家。


     ◇


 昔の。


 家。


     ◇


 父。


     ◇


 母。


     ◇


 私。


     ◇


 三人。


     ◇


 食卓。


     ◇


 何を。


 食べていたのか。


 覚えていない。


     ◇


 何を。


 話したのかも。


     ◇


 覚えていない。


     ◇


 ただ。


     ◇


 父が。


 笑っていた。


     ◇


 母も。


     ◇


 私も。


     ◇


 昔みたいに。


     ◇


 それだけ。


     ◇


 朝。


     ◇


 目を開けた。


     ◇


 父はいない。


     ◇


 母も。


 いない。


     ◇


 私は。


     ◇


 一人。


     ◇


 宿屋。


     ◇


 天井。


     ◇


 現実。


     ◇


「……」


     ◇


 悲しい。


     ◇


 少し。


     ◇


 でも。


     ◇


 戻りたいとは。


 思わなかった。


     ◇


 夢の中へ。


     ◇


 もう一度。


     ◇


 眠って。


     ◇


 あの家へ。


     ◇


 ずっと。


     ◇


 そうは。


 思わなかった。


     ◇


 ただ。


     ◇


「いい夢だったな」


     ◇


 そう。


 思った。


     ◇


 それだけ。


     ◇


 夢は。


     ◇


 現実ではない。


     ◇


 だから。


     ◇


 現実の代わりには。


 ならない。


     ◇


 でも。


     ◇


 現実ではないから。


     ◇


 価値がない。


     ◇


 わけでもない。


     ◇


 夢の中で。


 父と母に。


 会った。


     ◇


 あれが。


 本物の二人だった。


     ◇


 とは。


 思わない。


     ◇


 母の。


 最後の言葉の。


 答えを。


     ◇


 教えてもらった。


 わけでもない。


     ◇


 父の。


 最後の気持ちも。


     ◇


 分からないまま。


     ◇


 それでいい。


     ◇


 夢は。


     ◇


 答えを。


 くれるために。


     ◇


 見るものでは。


 ないのかもしれない。


     ◇


 過去を。


 消すためでもない。


     ◇


 現実から。


 逃げるためでもない。


     ◇


 時々。


     ◇


 立ち止まって。


     ◇


 忘れていたものを。


     ◇


 拾って。


     ◇


 また。


     ◇


 目を覚ますため。


     ◇


 そういう。


 夢も。


     ◇


 あるのかもしれない。


     ◇


「……」


     ◇


 公開。


     ◇


 ボタン。


     ◇


 クリック。


     ◇


『夢と少女と旅日記』


全十話 公開完了


     ◇


 これで。


     ◇


 終わり。


     ◇


 いや。


     ◇


 正確には。


     ◇


 この話が。


 終わるだけ。


     ◇


 私の旅は。


     ◇


 明日も。


 続く。


     ◇


 この文章を。


 最後まで。


 読んでくださった。


     ◇


 あなたへ。


     ◇


 夢を見ることを。


 怖がらなくても。


 いい。


     ◇


 でも。


     ◇


 ちゃんと。


     ◇


 朝になったら。


     ◇


 目を覚ましてください。


     ◇


 私も。


     ◇


 そうします。


     ◇


 それでは。


     ◇


 皆様。


     ◇


 良い夢を。


     ◇


 美少女旅商人。


 ネル・パースより。


     ◇


 P.S.


     ◇


 商売のご依頼につきましては。


     ◇


 下記リンクの。


 連絡先より。


     ◇


 随時。


 受け付けております。


     ◇


 ……物語は終わっても。


     ◇


 商売は。


 終わりませんので。

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