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第三話 夢の中でも、走りたい

 L.E.1012年、5月3日。


 私は夢を見ない。


 眠れば、次に目を開けたときには朝になっている。


 少なくとも、覚えている限りでは。


 だから他人が、


「昨日こんな夢を見た」


 なんて楽しそうに話しているのを聞くと、少しだけ不思議な気分になる。


 夢なんて見て、何が楽しいんでしょうね。


 現実じゃないのに。


     ◇


「本当に受け取ってくださらないの?」


 朝。


 ティアナさんから差し出された五万Gを見て、私は少しだけ悩んだ。


 五万G。


 五万Gである。


「ネルさん?」


「……いりません」


「今、ものすごく苦しそうな顔してませんでした?」


「うるさいですよ、エメラルドさん」


 五万Gは惜しい。


 非常に惜しい。


 でも。


「フローラル家を立て直すのにもお金が必要でしょう。そっちに使ってください」


「でも、あなたは命懸けで私を――」


「宿代と食事はいただきましたし」


 昨夜はティアナさんの家へ泊めてもらった。


 元大富豪だけあって、没落したとはいえ私が普段泊まる安宿よりずっと立派だった。


 何より夕食が美味しかった。


 それで十分。


「……ありがとうございます」


「そんな顔しないでください。私だって毎回ただ働きするつもりはありませんから」


 ティアナさんの隣には、メシティカさんがいる。


 昨日とは少しだけ距離が近い。


 それだけ確認して、私は二人に別れを告げた。


     ◇


「それじゃあ、今日はロレッタさんのところですね!」


「そうですね」


「昨日行けませんでしたから、早く向かいましょう!」


「その前にパトちゃんです」


 厩舎へ預けっぱなしだったパトリシアを迎えに行く。


 ロレッタという名前しか分からないので、ついでに厩舎の人へ聞いてみることにした。


「ロレッタ?」


 厩舎で働いている青年が首を傾げる。


「ロレッタ・ローリングスのことか?」


「え?」


 その名前には聞き覚えがあった。


「騎手の?」


「なんだ、知ってるじゃねえか」


「知ってますよ!」


 私は競馬が好きだ。


 馬を見るのも好きだし、金が増える可能性のあるものはもっと好きだ。


「大きな大会じゃあまり名前を見ませんでしたけど」


「まあな。才能はあったと思うんだけど、身体がな」


「身体?」


「心臓が悪いんだよ」


 青年が少し声を落とした。


「もう何年もまともにレースへ出てない。最近じゃ馬に乗ることすらできなかったって聞く」


 エメラルドさんと顔を見合わせる。


「エターナルドリーマーになったのは?」


「そっちは最近だ。だが、正直どっちが原因で死んでもおかしくないって話だぜ」


「……」


「医者には、いつ死んでもおかしくないって言われてるらしい」


「家、分かります?」


     ◇


 ロレッタさんは、自宅にいた。


 病院ではない。


「本人の希望なんです」


 母親が言った。


「どうせ最期が近いのなら、自分の家で迎えたいと」


 ベッドに眠るロレッタさんは、痩せていた。


 額には汗。


 呼吸も浅い。


「昨晩から、急に苦しそうになって……」


 エメラルドさんが私を見る。


「ネルさん」


「分かってます」


 三日連続。


 正直、夢の世界へ入る感覚にはまだ慣れていない。


 でも、そんなことを言っている場合でもない。


 私はロレッタさんの手を取った。


「行きますよ」


「はい」


 指輪が光る。


     ◇


 目を開けた瞬間。


「危ない!」


「え?」


 蹄の音。


 顔を上げる。


「うわっ!?」


 馬がいた。


 目の前に。


 私は慌てて飛び退こうとして、そのまま尻餅をついた。


 馬は寸前で止まる。


「大丈夫か!?」


 騎手が飛び降りた。


 女性だった。


「怪我は?」


「あいたた……。いえ、自分で転んだだけなので」


「手を」


 差し出された手を握る。


 立ち上がる。


「すまなかった。いきなりコースの真ん中に現れるとは思わなくてな」


「こっちこそすみません」


 私は女性を見る。


 騎手服。


 短く整えられた髪。


 現実のベッドで眠っていた女性より、少し若く見える。


「ロレッタさん」


 口に出してから、しまったと思った。


「……何故、私の名を?」


「あー」


 エメラルドさんが私から目を逸らした。


 薄情者。


「ファンなんですよ」


「そうか」


「はい。騎手名鑑でお顔を」


「嘘だな」


「早いですね!?」


 即答だった。


「いや、私を知っているのは本当かもしれない。だが、それだけではないだろう」


「……」


「君はさっき、突然空中から現れた」


 ロレッタさんが私を見る。


「そして君の横には妖精がいる」


「……」


「何か事情があるんだろう?」


 誤魔化せそうにない。


「ロレッタさん」


 私は息を吐いた。


「今から言うこと、ちょっと変な話ですけど」


「聞こう」


「ここ、あなたの夢の中です」


 ロレッタさんは黙った。


 私は続ける。


「現実のあなたは眠っています。エターナルドリーマーって呼ばれてる状態で」


「……そうか」


 驚かなかった。


「信じるんです?」


「むしろ納得した」


 ロレッタさんが自分の胸へ手を置く。


「本当の私は、もう馬に跨がることすらできない」


 その顔には、汗が浮かんでいた。


 夢の中でも。


「なのに今は走れる。身体も軽い。少し胸が苦しいくらいでな」


「……現実の身体の影響でしょう」


「そうだろうな」


「だったら」


 私は言った。


「戻りましょう」


 ロレッタさんが私を見る。


「現実へ」


「何故?」


「何故って……」


「私が死にかけているからか?」


「そうです」


「戻れば治るのか?」


 答えられなかった。


「母から聞いたんだろう?」


「……」


「あとどれくらいだ」


「今夜が山かもしれないと」


「そうか」


 ロレッタさんは、驚くほど静かに頷いた。


 そして馬の首を撫でる。


「なら、なおさらここにいたい」


「……」


「私はずっと、もう一度走りたかった」


 馬が鼻を鳴らす。


「治療もした。薬も飲んだ。医者の言うことも聞いた。復帰できるなら何だってするつもりだった」


 ロレッタさんが笑った。


「だが駄目だった」


「でも」


「ここが偽物だということは、今知った」


 私を見る。


「それでも、この馬の背中で感じた風まで偽物だったとは思えない」


「……」


「少なくとも私にはな」


 何も言えなかった。


 昨日なら言えたかもしれない。


 夢の世界なんて偽物だ。


 現実へ戻れ。


 前を向け。


 そんなことを。


 でも。


 この人には全部分かっている。


 現実を知らないわけではない。


 逃げているわけでもない。


 死ぬかもしれないことまで理解している。


 そのうえで、


走りたい。


 と言っている。


「すまない」


 ロレッタさんが言った。


「私の好きにさせてくれないか」


 私はしばらく答えられなかった。


「……分かりました」


「ネルさん!?」


 エメラルドさんが振り返る。


「ただし」


 私はロレッタさんを見る。


「三十分ください」


「何をする?」


「せっかく最後まで走るつもりなら」


 私は笑った。


「一人で走るの、つまらないでしょう?」


     ◇


 現実へ戻る。


 エメラルドさんはすぐに私を問い詰めた。


「いいんですか!?」


「何がです?」


「ロレッタさんを起こさなくて!」


「じゃあ、無理やり起こします?」


「それは……」


「本人はここが夢だって知った。それでも残るって決めた」


「でも夢魔に騙されて――」


「最初はそうでしょうね」


 そこは許すつもりはない。


「でも今は違います」


 知ったうえで選んだ。


 そこまで取り上げて、


あなたのためだから。


 と現実へ連れ戻すのは、本当に正しいのだろうか。


「救うって」


 口にしてから、自分でも少し驚いた。


「本人の選択を無視して引きずってくることなんですかね」


 エメラルドさんが黙る。


「……でも」


「分かってますよ」


 私はロレッタさんの寝顔を見る。


「だから、もう一度行きます」


「え?」


「まだやることがありますから」


     ◇


「ネルさん……」


「何です?」


「これ、本気だったんですね」


「冗談で連れてきませんよ」


 家の中にパトリシアがいる。


 ロレッタさんのお母さんは驚いていた。


 当然だ。


 ユニコーンを寝室へ連れ込ませてくれと言われて、即答で了承する母親がいたらそっちの方が怖い。


 事情は説明した。


 夢の世界へパトリシアを連れていけば、その分だけロレッタさんの身体への負担が増える可能性があることも。


 母親はしばらく眠る娘を見た。


 そして。


「お願いします」


 と言った。


「娘は、走りたいんでしょう?」


「はい」


「だったら」


 母親は少し笑った。


「最後まで、あの子らしくいさせてあげてください」


     ◇


「おお」


 夢へ戻る。


 ロレッタさんの目が輝いた。


「ユニコーンか」


「パトリシアです」


「速そうだ」


「自慢の相棒です」


 パトちゃんが得意げに鼻を鳴らした。


「ロレッタさん」


「なんだ?」


「一周」


 私はパトリシアへ跨がる。


「勝負しません?」


 ロレッタさんが笑った。


「素人が私に?」


「ユニコーンですよ」


「面白い」


 ロレッタさんも馬へ跨がった。


「後悔するなよ」


「負ける前提で話さないでもらえます?」


「ネルさん、乗馬はできても競馬は素人でしょう!?」


「うるさいですね。エメラルドさんは審判です」


「ええー!?」


「よーい、ドンって言うだけです」


「審判を舐めないでください!」


     ◇


 スタート地点へ並ぶ。


 隣を見る。


 ロレッタさんの顔つきが変わっていた。


 さっきまで話していた人とは思えない。


 前だけを見ている。


「準備はいいですか?」


「ああ」


「では」


 エメラルドさんが手を上げる。


「よーい――」


 一瞬。


 静寂。


「ドン!」


 駆ける。


 パトリシアが飛び出した。


「うわっ!」


 速い。


 想像以上。


「パトちゃん! ちょっと! 落とさないでくださいよ!」


 返事の代わりに速度が上がった。


「いや上げろとは言ってない!」


 横を見る。


 ロレッタさんは後ろ。


「……?」


 思ったより差がついた。


 まさか。


 体調が。


 振り返る。


 目が合った。


「――っ」


 違った。


 ロレッタさんは笑っていた。


 楽しそうに。


 まだだ。


 そう言われた気がした。


「……そういうことですか」


 私は前を向いた。


 後方待機。


 彼女の得意な戦い方だ。


 病気になっても。


 夢の中でも。


 最後の一走でも。


 自分の走り方は変えない。


「だったら」


 手綱を握る。


「こっちも本気で行きますよ、パトちゃん!」


 第一コーナー。


 第二コーナー。


 まだこちらが前。


 第三コーナー。


 蹄の音が近づく。


「来た……!」


 第四コーナー。


 横。


 ロレッタさんがいる。


 笑っている。


 その顔を見た瞬間。


 私は勝ちたくなった。


 勝敗なんてどうでもいい。


 最後に気持ちよく走らせればいい。


 そんなことを考えていた。


 馬鹿だった。


 相手は本気なのだ。


 だったら。


 本気には本気で返すしかない。


「パトちゃん!」


 最後の直線。


 並ぶ。


 半馬身。


 首。


 また半馬身。


「くっ……!」


 ロレッタさんが前へ出た。


 そのまま。


 ゴール。


     ◇


「……負けた」


 一馬身以上。


 完敗だった。


「ははっ」


 ロレッタさんが笑う。


「ユニコーンに勝ったぞ」


「騎手の差ですよ」


「負け惜しみか?」


「事実です」


「そういうことにしておこう」


 悔しい。


 でも。


 妙に気分がよかった。


「ロレッタさん」


 私はパトリシアを近づける。


「いいレース――」


 その身体が傾いた。


「……え?」


 落ちる。


「ロレッタさん!」


 私は飛び降りた。


 駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」


「少し……無茶したな」


 全身が汗で濡れていた。


 呼吸が浅い。


「エメラルドさん!」


「はい!」


「現実へ戻します!」


 ロレッタさんの手を取る。


「やめろ」


「何言ってるんですか!」


「もう、いい」


「よくありません!」


「ネル」


 初めて。


 名前だけで呼ばれた。


「……いいレースだった」


「……」


「ありがとう」


「そんなこと、あとで言ってください」


「本気で走れた」


「だから!」


「夢だったとしても」


 ロレッタさんが笑う。


「私が本気だったことまで、夢にはならないだろう?」


 言葉が止まった。


「……」


「なら、それでいい」


 私は彼女の手を握ったまま、何も言えなかった。


「母に」


 小さな声。


「ありがとう、と」


「自分で言ってくださいよ」


「それから」


「……」


「勝った、と」


 そこで。


 手から力が抜けた。


「……ロレッタさん?」


 返事はなかった。


 もう一度呼んだ。


 返事はなかった。


     ◇


「何で」


 私は立ち上がった。


「いるんでしょうね」


 ロレッタさんが乗っていた馬を見る。


 馬は動かない。


「ロレッタさんは死んだ」


 近づく。


「だったら、もうこの世界を維持する必要もない」


「ネルさん?」


「なのに」


 馬の目を見る。


「あなたはまだいる」


 馬が。


 笑ったように見えた。


 その輪郭が崩れる。


 四本の脚が二本になる。


 銀色の長髪。


 タキシード姿の男。


「ご慧眼にございます、マドモアゼル」


「やっぱり」


 私は右手を握る。


「夢魔」


「アルフォートとお呼びください」


「夢幻創造」


 金塊。


 そのまま殴る。


 避けられた。


「おやおや」


「黙ってください」


「話くらい聞いていただけませんかな?」


「ロレッタさんを殺しておいて?」


「それは誤解です」


「何が」


「彼女を殺したのは病です」


 私はもう一度金塊を構えた。


「そして」


 アルフォートは言う。


「彼女は幸せだった」


「……」


 否定できなかった。


「貴女も見たでしょう?」


「見ましたよ」


「ならば――」


「幸せだったから、何なんです?」


 アルフォートが口を閉じる。


「ロレッタさんが最後に幸せだったことは認めます」


「ほう」


「あのレースが本物だったことも」


 夢だった。


 でも。


 あの人は本気だった。


 私も本気だった。


 だから、そこまで偽物だと言うつもりはない。


「でも、それはロレッタさんが選んだからです」


「……」


「あなたが夢の中へ閉じ込めたことが正しかった証明にはならない」


 アルフォートの笑みが僅かに消える。


「最初から全部説明したんですか?」


「何を?」


「ここは夢ですよ。あなたはもう目を覚ませません。現実の身体が死ぬまでここで過ごすことになります。それでもよろしいですか、って」


「……」


「聞いてないでしょう」


「人間は皆、幸福を望みます」


「勝手に決めないでください」


 言葉が強くなる。


「ロレッタさんは、全部知ったあと自分で選んだ。だから私は止めませんでした」


 正しかったのかは、分からない。


 今でも分からない。


「でもあなたたちは違う。弱っている人間のところへ勝手に入り込んで、都合のいい夢を見せて、戻れなくする」


「それによって救われる人間もいる」


「いるでしょうね」


 否定しない。


「だから厄介なんですよ」


 アルフォートが目を細めた。


「……貴女は、これまでの人間とは少し違いますな」


「褒めても何も出ませんよ」


「ならば、一つ質問を」


「嫌です」


「もし」


 アルフォートは構わず続けた。


「貴女自身が、二度と会えないほど大切な者に会えるとしたら?」


 心臓が跳ねた。


「……」


「例えば」


「やめて」


「亡くなられた」


「やめろ」


「ご両親に――」


「勝手に人の中を覗くな!!」


 自分でも驚くほど大きな声が出た。


 金塊を投げる。


 アルフォートは消えた。


 白い空間に声だけが残る。


「いつか分かりますよ」


「何が!」


「人は現実だけでは、生きられない」


 景色が消える。


     ◇


 目を開ける。


 ロレッタさんは。


 もう息をしていなかった。


 母親が娘の手を握っている。


 泣いていた。


 私は何を言えばいいのか分からなかった。


「……最後は」


 母親がこちらを見る。


「どんな様子でした?」


「走ってました」


「そうですか」


「ずっと」


 喉が詰まる。


「最後まで、走ってました」


 母親が少し笑った。


「勝ちましたか?」


「……はい」


 私は答えた。


「完敗でした」


 母親は泣きながら笑った。


     ◇


 眠れない。


 だから日記を書いている。


 私は夢を見ない。


 正確には。


 十年前から、夢を見た記憶がない。


 七歳の頃。


 父と母が死んだ。


 父は昔から母へ暴力を振るっていた。


 最初の頃は、私も止めようとしていた。


 父の脚へしがみついて。


「やめて」


 と泣いた。


 そのうち、やめた。


 何を言っても届かなくなったから。


 学校が終わってもすぐには帰らなくなった。


 寄り道をした。


 少しでも家にいる時間を減らした。


 いつか何とかなる。


 そう思っていた。


 夢を見ていた、と言ってもいいのかもしれない。


 でも。


 あの日だけは、何故かすぐ家へ帰った。


 玄関には二人分の靴があった。


 居間には誰もいなかった。


 父の書斎から物音がした。


 扉を開けた。


 血があった。


 父が倒れていた。


 母が包丁を持っていた。


「お母さん……?」


 母は私を見ると、包丁を置いた。


 そして私へ近づいた。


 肩を抱いた。


「ごめんね、ネル」


 泣いていた。


「どうして……?」


「ごめんなさい」


「どうして、こんなことに……」


 母は答えなかった。


 ただ。


「ネル、あなたは――」


 そこまでだった。


 母の胸から、刃が生えた。


 父だった。


 まだ生きていた。


 最後の力で立ち上がり、母を刺した。


 そして父も倒れた。


 私は二人とも失った。


 母が最後に何を言おうとしたのか。


 今でも分からない。


 十年考えても。


 まだ分からない。


 だから。


 アルフォートの言葉を思い出す。


ご両親に会える。


 そんなのはいらない。


 夢の中で父と母に会ったところで。


 それは父でも母でもない。


 私が勝手に作った、都合のいい二人だ。


 そんなものと話して。


 母が最後に何を言おうとしたのか聞いて。


 それで何になる。


 答えは現実の中にしかない。


 私はそう思う。


 そう思っている。


 でも。


 今日、ロレッタさんは夢の中で走った。


 あの競馬場は偽物だった。


 あの馬も偽物だった。


 観客だっていなかった。


 それでも。


 ロレッタさんが笑ったことは、偽物だったのだろうか。


 私が負けて悔しかったことも。


 あの一周も。


 夢だから全部なかったことになるのだろうか。


 ……分からない。


 こんなことを考えるのは嫌だ。


 今までなら、


夢は夢。現実は現実。


 それで終わった。


 今日は、そう簡単には書けない。


 ただ一つだけ。


 ロレッタさんが最後に私へ言った言葉は覚えておこうと思う。


夢だったとしても、私が本気だったことまで夢にはならない。


 ロレッタ・ローリングス。


 最後のレース、一着。


 ネル・パース。


 パトリシアという反則みたいな相棒を使っておきながら、完敗。


 ……次に会ったら絶対リベンジしてやろうと思ったけど。


 もう会えないんですよね。


 それが現実です。


 だから私は、今日のことをここに書いておく。


 夢の中にしかなかったレースを。


 現実に残すために。

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