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7. 理想

その日、聖エーデル修道院学校の講堂には、全校生徒が集められていた。


壇上には、王都から招かれた女性の講師が立っている。


「皆さん。この国のジェンダーギャップ指数は、近隣諸国と比べても低い水準にあります。」


講堂の後方には、グラフが映し出される。


「女性だからという理由だけで、挑戦を諦める時代は終わらせなければなりません。」


生徒たちは真剣な表情で耳を傾ける。


「これからの時代は、女性も学び、働き、社会で活躍することが求められます。」


講演は一時間ほど続いた。


拍手の中、講師は壇上を降りていく。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


講堂を出ると、メアリーとデジレは並んで歩いていた。


「すごい先生だったね。」


メアリーがぽつりと呟く。


デジレは頷いた。


「僕も、あの先生の考えには賛成だよ。」


「そうなんだ。」


「例えば経理の仕事って、男女半々くらいだよね。」


メアリーは頷く。


「でも、税理士や公認会計士みたいな難しい資格を目指す人は、まだ男性の方が多い。だから女性ももっと挑戦すればいいと思う。」


「挑戦?」


「うん。」


デジレは穏やかに笑った。


「男性と同じように勉強すれば、きっともっと活躍できるはずだから。」


悪意はまったくない。


本気で励ましているのだ。


「僕は、女性だから無理なんて思ってほしくない。」


その言葉が、メアリーの胸へ静かに積み重なる。


講師やシスターの言葉が頭の中で響く。


女性も活躍しなければならない。


社会に貢献しなければならない。


パソコンもAIも使いこなせるようにならなくてはならない。


修道院の仕事もある。


卒業論文もある。


資格試験もある。


外国語もある。


ボランティアもある。


(努力⋯⋯、挑戦⋯⋯)


視界がゆっくり揺れ、足元がふらつく。


「メアリー?」


デジレが振り向く。


メアリーは何か言おうと口を開いた。


しかし言葉にならない。


膝から力が抜ける。


「お、おい!」


その身体が、ゆっくりと廊下へ倒れ込んだ。


「大丈夫か!」


デジレは慌ててメアリーを抱き起こした。


「誰かシスターを呼んでくれ!」


メアリーを抱えて、救護室へ運ぶ。


その様子を一羽のカラスがイチイの木の枝から見つめていた。


「カァ。」


羽を広げる。


黒い影は森を抜け、古びた石造りの塔へ向かった。

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