6.大人
朝の礼拝を終えると、三人のシスターは職員室へ集まった。
机の上には、学校の帳簿、成績表、健康診断書が並んでいる。
それぞれが、違う書類を見つめていた。
第一のシスターがため息をつく。
「来月は王室の視察があります。」
帳簿を閉じる。
「昨年より寄付金も減っています。学園の評価を落とすわけにはいきません。」
修道院学校は寄付によって成り立っている。
王室や有力貴族から見放されれば、学校は存続できない。
「メアリーは礼儀正しく、奉仕活動にも熱心です。」
「王室の方々にも、きっと良い印象を与えてくれるでしょう。」
第一のシスターは安心したように頷いた。
第二のシスターは成績表から目を離さない。
「ですが、卒業論文の進みが少し遅れています。」
「外国語もあと少し伸ばしたいですね。」
「資格試験も控えています。」
赤いペンで予定表に書き込む。
「優秀な成績で卒業してもらわなければ。」
第三のシスターは、健康診断書を静かに見つめていた。
「最近、少し痩せましたね。」
二人が顔を上げる。
「疲れが顔に出ています。睡眠時間を十分に取れているでしょうか」
第一のシスターが言う。
「卒業前ですから、多少は仕方ありません。」
第二のシスターも頷く。
「もう少しです。我慢すれば乗り越えられるでしょう。」
第三のシスターは小さく首を振った。
「頑張り過ぎる子ほど、自分から『休みたい』とは言えません。」
部屋に静寂が流れる。
「一度、休ませてあげた方が……。」
第一のシスターは困ったように微笑んだ。
「王室視察まで、あと一か月です。」
第二のシスターも予定表を閉じる。
「資格試験も終われば、ゆっくり休めます。」
第三のシスターは窓の外を見た。
中庭では、メアリーが大きな教材を抱えて走っている。
「……どうか、間に合いますように。」
その祈りだけが、誰にも聞こえないまま、静かに礼拝堂の鐘の音へ溶けていった。




