5.努力
朝五時。
まだ鐘も鳴らないうちに、メアリーは目を覚ました。
礼拝堂の掃除、朝の祈り、授業の予習、卒業論文、英語検定、第二外国語、放課後は修道院の仕事、そして週末のボランティア活動の準備。
「今日も忙しいな。」
そう呟くと、メアリーは小さく笑った。
努力すれば、きっと報われる。
そう信じていたからだ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「デジレ君、また満点です。」
シスターが答案を返す。
「ありがとうございます。」
デジレは笑顔で受け取った。
「そういえば英語検定一級も合格したそうですね。」
「はい。」
「勉強は大変でしたか?」
「前の日の夜、一時間くらい過去問を見ただけです。」
教室が静まり返る。
「小さい頃に外国で暮らしていましたから。」
デジレは不思議そうな顔をした。
「英語は母国語みたいなものです。」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
昼休み、中庭でメアリーはサンドイッチを頬張りながら資格試験の参考書を開いていた。
デジレが覗き込む。
「勉強してるの?」
「再来週、試験だから。」
「試験の直前に短時間で集中してやる方がいいよ。」
「私はそうはいかないから。」
「え?」
「何回も問題を解いて、間違えたところを覚えて……。」
デジレは首を傾げた。
「効率が悪いんじゃない?」
悪気はない。本気でそう思っているのだ。
「あなたは才能があるから、できるのよ」
「才能じゃなくて、やり方の問題だと思うけどな。」
「⋯⋯そうかもしれないね。」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
体育の授業。
校庭の片隅には、高い人工岩壁が設けられていた。
今日はボルダリングの実習である。
「無理はしないように。一人ずつ挑戦してください。」
生徒たちは慎重に岩へ取り付く。
「うわっ。」
「高い……。」
みんな途中で落ちていく。
そんな中、デジレの番になった。
彼は軽く手を合わせると、迷いなく壁へ飛び付く。
デジレは足場を探す様子もなく、まるで登る道筋が最初から見えているかのように身体を動かした。
指先だけで体を支え、腕の力に頼らず、しなやかに登っていく。
女子生徒たちがざわめく。
「デジレ君、すごい!」
「かっこいい!」
「頑張ってー!」
黄色い歓声が校庭に響く。
デジレは最後は片腕だけで身体を支えながら、あっという間に頂上へ到達した。
シスターも思わず拍手を送る。
「見事でした。」
デジレは照れくさそうに頭をかいた。
「子どもの頃から木登りが好きだっただけですよ。」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
放課後、メアリーは制服に腰エプロンを付け、視聴覚室で雑巾掛けをしていた。
デジレが通りかかる。
「まだ仕事?」
「今日は私の当番だから。」
「その後、ボランティアだよね?」
「うん。」
「卒論もあるんでしょ?」
「あるよ。」
「外国語も勉強してるよね?」
「うん。」
デジレは笑った。
「大変だね。」
そして、励ますつもりで言った。
「でも、努力をすれば何とかなるよ。」
メアリーは返事をしなかった。
アンジェラスの鐘が響く。
メアリーは目を閉じ、手を組んで祈りを捧げた。




