4.火種
春。
聖エーデル修道院学校に、初めて男子生徒たちがやって来た。
校門の前は朝から大騒ぎだった。
「見て見て! あの子、背高い!」
「こっちの子、すごくイケメンじゃない!?」
「修道院学校に男子がいる……なんか変な感じ。」
女子生徒たちは、廊下の陰や窓際からこっそり新入生を観察している。
そんな中、ひときわ視線を集める少年がいた。
金色の髪。整った顔立ち。
背筋を伸ばして歩く姿は、まるで絵本から抜け出してきた王子様のようだ。
「あの人、デジレ王子だって。」
「本物の王子!?」
「えっ、王族なの!?」
ざわめきが広がる。
メアリーは自席で本を読んでいた。
すると担任のシスターが教室に入ってくる。
「皆さん、静かに。今日から新しいクラスメイトを迎えます。」
教室が一気に静まり返った。
「デジレ君、どうぞ。」
例の少年が教室へ入ってくる。
「デジレ・アルヴァンです。よろしく。」
その声だけで、何人かの女子が小さく悲鳴を上げた。
シスターが席を指差す。
「メアリーの隣です。」
周囲から羨望の声が漏れる。
デジレはメアリーの隣に座り、にこりと笑った。
「よろしく、メアリー。」
「う、うん。よろしく。」
最初は普通だった。
だが、次の質問にメアリーは面食らった。
「ところで、君のお父上はどんな方なんだい?」
「え?」
「王様? それとも公爵?」
「ち、違うよ。」
「じゃあ伯爵かな。領地はどのくらいある?」
メアリーは首をかしげた。
「分からない……。」
デジレは気にせず続ける。
「僕の父はアルヴァン王国の国王なんだ。人口は二千万人。王国連合でも有数の大国でね。」
少し胸を張る。
「鉱山も港もあるし、半導体や金融が主要産業だ。最近はAI産業にも力を入れている。」
「は、はあ……。」
「君のお父上は、何人くらいの民を治めているの?」
「私……修道院で育ったから、お父さんのことも知らないの。」
「知らない?」
デジレは目を丸くした。
「自分の父親がどんな身分で、どれだけの領地を治めているかも?」
「うん……。」
「そうか。世間のことを教わる機会がなかったんだね。」
悪気はなさそうだった。
だが、メアリーの胸には小さな違和感が残る。
彼女は塔の横で出会った動物たちを思い出していた。
彼らは、誰が王様かも、どれだけ土地を持っているかも気にしない。
困っている仲間がいれば木の実を分け合い、寒い夜には寄り添って眠る。
メアリーにとって大切なのは、そういうことだった。
「変な人……。」
小さく呟く。
「ん? 何か言った?」
「ううん、何でもない。」
デジレは爽やかに笑った。
その笑顔に、周囲の女子たちはまた騒ぎ始める。
だがメアリーだけは、机に頬杖をつきながら思った。
(見た目は王子様みたいだけど……中身は、ちょっと苦手かも。)




