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2.塔の横

それから十五年の歳月が流れた。


王女オーロラは、メアリーと名を変えて、王城から遠く離れた聖エーデル修道院学校で育てられていた。


王国で彼女の正体を知る者は、ごくわずか。


三人の妖精は修道女(シスター)となり、修道院学校の教師としてオーロラを守り続けていた。


「メアリー、今日は裏庭の掃除当番ですよ。」


第一のシスターが箒を手渡す。


「はい、シスター。」


メアリーは修道服ではなく、灰色の掃除用エプロンに着替え、裏庭へ向かった。


落ち葉を集め、水桶を運び、石畳を磨く。


修道院では、身分に関係なく全員が掃除をする決まりだった。


自分が王女であることを知らないメアリーにとって、それは当たり前の日常だった。


だが、その日常には一つだけ秘密があった。


メアリーは辺りを見回す。


第一のシスターは礼拝堂。


第二のシスターは食堂。


第三のシスターは畑の手入れをしている。


「今なら……。」


彼女は箒を壁に立て掛けると、裏庭の隅にある古いイチイの木へ駆け寄った。


枝に足を掛け、塀によじ登る。


そして軽やかに向こう側へ飛び降りた。


森の中を少し歩くと、古びた石造りの塔が見えてくる。


誰も近づかない、忘れられた塔。


その横には、小さな広場があった。


「メアリーだ!」


「待ってたよ!」


「今日もパキってる!」


塔の陰から、次々と動物たちが姿を現す。


リスが肩へ飛び乗り、ウサギが足元を跳ね回り、キツネが尻尾を振る。


木の上ではカラスが鳴き、フクロウが眠たそうに片目を開けた。


「みんな、お待たせ。」


掃除用エプロン姿のメアリーは、その場に腰を下ろす。


修道服ではないので、動物たちも気兼ねなく話しかけてくる。


「今日はシスターに見つからなかった?」


「うん、大丈夫。」


「また怒られるぞ。」


「その時はその時。」


メアリーは笑った。


リスが大きく口を開けて舌を出す。


「いえーい」


「お口の中、真っ青ね」


動物たちは皆、それぞれ事情を抱えていた。


親が厳しすぎて家を飛び出した子。


家に帰っても誰もいない子。


家族が離ればなれになってしまった子。


どこへ行っても居場所が見つからなかった子。


だから彼らは、この塔の横へ集まってくる。


「メアリーはいいよなあ。」


ウサギがぽつりと言った。


「帰る場所があって。」


メアリーは少し困ったように笑う。


「……でもね、私、本当のお父さんとお母さんに会ったことがないの。」


その言葉に、動物たちは顔を見合わせた。


「えっ?」


「そうなの?」


「うん。物心ついた時から、ずっと修道院で暮らしてるの。」


リスが小さく頷いた。


「じゃあ、メアリーも仲間だ。」


「え?」


「家族に会えないんだろ?」


キツネも笑う。


「だったら、ここがお前の居場所でもある。」


メアリーは思わず笑みをこぼした。


「ありがとう。」


塔の横には、今日も行き場をなくした仲間たちが集まる。


そして、その場所はメアリーにとってもまた、決まりだらけの息苦しい生活を抜け出し、本当の自分でいられる唯一の居場所だった。

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