16.紋章
黒竜の巨体が大地を踏みしめる。
衝撃で湖畔の地面が揺れ、小石が跳ね上がった。
デジレは横へ飛び、黒竜の前脚をかわす。
砕けた地面から土煙が舞い上がる。
黒竜は尾を大きく振り抜いた。
轟音とともに木々がなぎ倒される。
デジレは身を低くしてかわし、そのまま間合いを詰めた。
「『シンガン』!」
第三の妖精から授かった祝福が発動する。
世界の色が一瞬だけ変わった。
黒竜の身体に、四つの赤黒い光が浮かび上がる。
位置は四か所。
両膝、両翼の付け根の中間、うなじ。
デジレは小さく息を吐く。
「そこが急所か。」
黒竜が口を開く。
漆黒の炎が一直線に放たれた。
デジレは横へ転がってかわし、炎の切れ目を狙って駆け出す。
一気に黒竜の脚元へ飛び込んだ。
「今だ!」
両手が黒い鱗をつかむ。
第二の妖精の祝福――『ムゲンノアクリョク』。
どれほど暴れようと、その手は決して離れない。
デジレは腕の力だけで黒竜の脚を登る。
黒竜が身体を激しく揺らすが落ちない。
巨大な脚が暴れるたび、湖畔が震える。
それでもデジレはよじ登り続けた。
膝へ妖精の剣を突き立てる。
鱗が砕け、内皮に刻まれた紋章が姿を現した。
「そこだ!」
剣を振り下ろす。
――パリン!!
赤黒く光る紋章がガラスのように砕け散り、空中で溶けていく。
黒竜が苦しげに咆哮した。
続けて反対側の脚へ飛び移る。
再び剣が閃く。
――パリン!!
二つ目の紋章も粉々に砕けた。
黒竜は膝を折り、巨体を大きく揺らす。
次の瞬間、大きく翼を広げた。
猛烈な風圧が湖面を波立たせる。
黒竜は巨体を浮かせ、一気に上昇する。
風が全身を打つ。
地面がみるみる遠ざかる。
デジレはなおも鱗へしがみついていた。
黒竜は身体を激しくひねり、何度も急降下と急上昇を繰り返す。
それでもデジレの手は離れない。
背中を這い上がる。
翼の付け根、その中央に埋め込まれた赤黒い輝き。
デジレは妖精の剣を強く握ると、全身の力を込めて突き刺した。
――パリン!!
三つ目の紋章が砕け散る。
その瞬間、翼から力が失われる。
黒竜の身体が大きく傾いた。
バランスを失い、巨体が空から落ちていく。
湖面が迫る、そして――
巨大な水柱が空高く噴き上がった。




