14. 三つ目の魔法
カラボスは杖を肩に担ぎ、小さく息をついた。
「さて。今日はもう、あと一つしか魔法は使えん。」
リスが首を傾げる。
「あと一つ?」
「私が一日に使える祝福か呪いは三つまでだ。」
カラボスは指を三本立てた。
「さっき『オオゴエ』の祝福と呪いを使った。だから、残りは一つ。お前達に決めさせてやろう」
ウサギが目を輝かせる。
「いいの?」
カラボスは頷く。
「ただし、私は妖精ではない。祝福よりも、呪いの方が得意だ。」
動物たちは輪になって相談を始めた。
「メアリーを元気にしてほしい!」
リスが真っ先に言う。
火の精霊は鍋をかき混ぜながら鼻を鳴らした。
「それは俺の仕事だ。薬も飯も用意してる。魔法に頼ることじゃねぇ。」
「そっか……。」
リスは少し残念そうに肩を落とす。
今度はキツネが尻尾を振った。
「じゃあ、塔の横界隈のみんなのために。」
「最近、仲間が何人も死んでる。」
部屋の空気が重くなる。
「自分で命を絶つ子が増えてるんだ。だから、『シ』を呪ってくれ。」
カラボスはゆっくり首を横へ振る。
「……それはできん。」
「どうして?」
「死は、生き物の理だ。魔法で遠ざけられるほど単純じゃない。」
誰も次の言葉が見つからない。
考え込む動物たち。
ベッドに座っていたメアリーが、おずおずと口を開く。
「あの……。」
全員の視線が集まる。
「死そのものじゃなくて、死にたいと思う気持ちに、呪いを掛けることはできませんか?」
カラボスの眉がわずかに動く。
「ほう。」
メアリーは言葉を続けた。
「自己否定感⋯⋯とか。自分には価値がないとか、生きていても意味がないとか。そういう気持ちを反転できたら。」
部屋は静まり返った。
「みんな、少しだけ生きやすくなるんじゃないでしょうか。」
火の精霊が感心したように笑う。
「さすが王女様。勉強してるだけある。」
「だから王女じゃないって。」
メアリーは困ったように苦笑した。
カラボスは静かに目を閉じる。
「面白い。」
小さく笑った。
「発想は悪くない。」
杖をゆっくり掲げる。
「試してみよう。」
杖の先から黒い光が溢れ出す。
カラボスは厳かに唱えた。
「――『ジコヒテイカン』。」
黒い光は霧となり、部屋いっぱいに広がる。
やがて霧は動物たちの身体へ静かに溶け込んでいった。
リスが瞬きをし、ウサギが胸に手を当てる。
「なんだろう……。」
フクロウは窓の外を見つめ、小さく呟いた。
「さっきまで胸につかえていたものが……消えた気がする。」
キツネは照れくさそうに笑う。
「なんか、明日はいい日になる気がする。」
部屋には、久しく忘れていた穏やかな空気が流れていた。
カラボスはそんな動物たちを見て、心の内でつぶやいた。
(……失敗か。だが気休めにでもなればいい)




