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11.三つの祝福

歩く塔は、森を抜けた先にある静かな湖畔で足を止めた。


ゆっくりと石の脚が縮み、巨大な腕も塔の中へ吸い込まれていく。


やがて、始めからそこにあったかのように古びた石造りの塔が湖のほとりに馴染んだ。


塔の頂上にある物見やぐらから、黒い霧が静かに立ち上る。


霧は風に乗り、王国中へ広がり始めた。


冷たく、重く、どこか悲しみを帯びた瘴気だった。


−−−−−−−−−−−−−


塔の前まで駆け付けていた動物たちは、空へ広がる黒い霧を見上げた。


「なんだ、あれ……。」


ウサギが耳を震わせる。


霧はゆっくり空から地上に降り、森を覆う。


リスが叫ぶ。


「何か、嫌な予感がする!」


その瞬間、歩く塔の石壁が静かに内側に開いた。


まるで動物たちを招き入れるように。


「中に入れってこと?」


「急げ!」


動物たちは次々と塔の中へ飛び込む。


最後にカラスが飛び込むと同時に、扉は勝手に音を立てて閉じられた。


−−−−−−−−−−−−


瘴気は修道院学校にも到達した。


校庭にいた生徒の一人が、大きなあくびをする。


「なんだか……眠……い……。」


そのまま芝生へ倒れ込んだ。


続いて、もう一人。


また一人。


廊下でも、教室でも、生徒たちが次々と眠り始める。


「みんな!」


デジレが肩を揺する。


返事はない。


まるで深い眠りへ落ちたようだった。


第一のシスターが空を見上げる。


「あれは……カラボスの瘴気。」


第二のシスターが息をのむ。


「とうとう始まってしまいました。」


第三のシスターはデジレを見た。


「急がなければ。」


三人は顔を見合わせ、小さく頷く。


次の瞬間、三人の身体が柔らかな光に包まれた。


修道服が光の粒となって舞い上がる。


現れたのは、十五年前、王女へ祝福を授けた三人の妖精だった。


デジレは驚いて立ち尽くす。


「シスター……じゃなかったんですか。」


「説明は後です。」


第一の妖精が静かに杖を掲げる。


「デジレ王子。あなたには昔、一つの祝福を授けています。その祝福のおかげで、瘴気の眠りはあなたには及びません。」


デジレは目を見開いた。


「僕に……祝福が?」


第一の妖精が微笑む。


「カラボスを打ち倒し、メアリー、いえ、オーロラ姫を救い出せるのはあなたしかいません。」


「オーロラ姫だって!?そうか、メアリーはこの国の王女だったのか。」


「そして、今、新たな祝福を授けます。」


杖の先から黄金の光があふれる。


光の中から一本の剣が現れた。


柄には妖精の紋章が刻まれている。


「妖精の剣です。魔法を断ち切る力があります。」


続いて第二の妖精が杖を振る。


「『ムゲンノアクリョク』。」


光がデジレの両手を包み込む。


拳を握ると、不思議な力が全身へ流れ込んだ。


「どんな場所でも、決して手を離してはなりません。」


最後に第三の妖精が、そっとデジレの額へ触れた。


「すべての真実を見抜く力、『シンガン』です。これで敵の急所を見破ることができるでしょう。」


三人の妖精は真剣な眼差しでデジレを見つめた。


「メアリーを助けてください。」


「……お願いします。」


デジレは妖精の剣を強く握る。


森の向こう、湖畔に立つ塔を見据えた。


「必ず助けます。」


そう言い残すと、デジレは駆け出した。


その背中を、三人の妖精は静かに見送っていた。

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