王国と教会とギルドと④
ギルド前にて。
アーサーとメアリーは、ギルドの入口の前に立っていた。
目の前には、腰ほどの高さの両開きの扉――スイングドアがある。
扉越しに軽く中を覗いてみると、冒険者たちが集まって依頼書を吟味したり、酒を飲んだり、食事をしたりと、思い思いに過ごしているようだった。
冒険者というだけあって、誰もが勇ましい雰囲気を纏っている。
なんというか、完全にアウェーだった。
アーサーは意を決して、スイングドアを押し開けた。メアリーもその後に続く。
途端に、周囲の視線が二人に集まった。
荒くれ者だらけのギルドでは、清楚な修道服姿のメアリーと、小綺麗な身なりをした片腕のない男は、ひどく目立つらしい。
アーサーたちは受付の前に立つと、そこにいた糸目の男へ声をかけた。
「すみません。緊急の依頼があって来ました。」
糸目の男はモノクルの位置を正すと、アーサーへ視線を向け、次いでメアリーへと目を移した。
「……教会の方でしょうか? いかがなさいました?」
荒っぽい雰囲気のギルドには似つかわしくない燕尾服を着た、痩せ型の男だった。
白い手袋をはめた両手をへその辺りで重ね、丁寧な口調で尋ねてくる。
アーサーは用件を伝えた。
「慈善活動のお手伝いをしてくれる冒険者はいますか?」
その言葉に、男は意外そうに目を見張った。
「おや、教会から直接そういったご依頼をいただくのは初めてですねぇ。基本的には民間の団体からのご依頼が多いのですけれど。」
「……少し、事情がありまして……。」
言葉を濁しながら、アーサーは続けた。
「すみませんが、こういった依頼の場合、報酬の一部をギルドが補填してくれるという認識で合っていますか?」
「あぁ、合っていますよ。ちなみに、依頼料は最低でも30000ルクスからになりますが。」
結局、足は出るのか。
アーサーは思わず眉をひそめた。
その表情を見た受付の男は、さらににんまりと口角を上げ、アーサーへ顔を近づけた。
「この30000ルクスというのは、ギルドからの補填を差し引いた後に、依頼人様にお支払いいただく金額でございます。お気をつけくださいませ。」
「……あまり、お金がないのです。その、もう少し安く引き受けてくれる冒険者はいないのでしょうか?」
「……30000ルクスが最低額ですので。」
「そこを何とかできないでしょうか。」
なおも食い下がるアーサーに、受付の男はすっと姿勢を正した。
「30000ルクスは、依頼人様にご負担いただく最低料金でございます。冒険者の生活と待遇を守るため、それ以下の金額でのご依頼はお受けできません。ギルドの管轄外となってしまいますので。」
「……そうですか。分かりました。30000ルクス、お支払いします。」
ギルドの管轄外となるのは、非常に困る。
何せ、こちらは女所帯だ。万が一、無法者に当たってしまえば、悲惨なことになりかねない。
アーサーはそれ以上の交渉を諦め、身元が明確なギルド所属の冒険者に依頼することを選んだ。
「アーサーさん、お金は大丈夫ですか?」
メアリーが心配そうにアーサーの顔を覗き込む。
アーサーは困惑を表に出さないようにしながら、答えた。
「……大丈夫。本当は予算内に収めたかったけど、仕方ないよ。」
「ご理解いただけて助かりました。では、ご案内いたします。」
受付の男はそう言って、にこやかに受付台の下から分厚い本を取り出すと、ぱらぱらとページをめくり始めた。
「半年前にギルドに入った男がおりまして、いまだにノルマをこなしていないのですよ。」
「は、はぁ……。」
「ちなみに、お仕事の内容についてお伺いしてもよろしいでしょうか?」
受付の男は本から顔を上げ、アーサーたちに尋ねた。
アーサーは少し呆気に取られながらも、答えた。
「明日、王都から離れた村で、教会の炊き出しが行われるんです。」
すると、メアリーが言葉を継いだ。
「神父様が腰を痛めてしまって、男手が足りなくなってしまったのです。大教会から派遣される男性は、基本的にいい加減な方ばかりで、嫌気が差してしまって……。」
メアリーがそう言うと、受付の男は納得したように頷いた。
「なるほど、そういった事情がございましたか。」
バン、と手にしていた本を見開いたまま受付台に置くと、男は勢いよく続けた。
「僥倖僥倖。ならば、先ほど申したノルマ未達成の冒険者がちょうど良いかと!」
訝しげに受付の男を見つめるアーサーとメアリーに、男は受付台の本を指し示す。
「少し前のめりなきらいはありますが、与えられた仕事はきっちりこなし、評価も上々。ただ、態度がそっけないのが玉に瑕ですが。」
アーサーとメアリーは、指し示されたページを覗き込んで、その名前を目にした。
"スコル・ヴァルガン"
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