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王国と教会とギルドと②

 翌日に控えた炊き出しの準備で、教会は朝から大忙しだった。

 子供達も炊き出しの大切さを身にしみて理解しているのか、幼いながらも積極的に協力してくれている。

 調理場では子供達が少し崩れた野菜を洗い、シスター達が皮を剥き、手際よく包丁を動かしていた。


 一方、アーサーは食糧庫と調理場を行ったり来たりしていた。

 片腕では細かな作業に不自由するが、荷物の運搬は出来る。

 野菜の詰まった木箱を右腕と、残った左腕で抱え込み、慣れた足取りで運んでいく。


 アーサーが木箱を抱えて、廊下に出た時玄関の方からカランとベルの音がした。

 視線をそちらに向けると、司祭服を着た神父ヨハンがそこにいた。


「おやおや、アーサー、起きていたのか。おはよう。」

「おはようございます、神父様。寝坊して申し訳ありません。」


 荷物を一旦床に下ろしながら、アーサーは話を続けた。


「王都の教会へのお使いは終わったのですか?」

「あぁ、終わったとも。これでようやくワシも準備に協力できるよ。」


 ヨハン神父は月に一度、王都の大教会、つまりルミナーレ信仰の総本山にお使いに行く決まりがある。

 お使いは時々によって内容は変わるが、今回は定例報告なのだとか。

 それがたまたま、準備するこの日に重なってしまったのだ。

 ヨハンは白く蓄えたヒゲを撫で付けながら、


「どれ、それを持って行こうか。」


 アーサーが床に置いた野菜が入った木箱を持ち上げようとした。


「あガッ!?!」


 ぱき。


 嫌な音がした。


 そして、不自然な前屈姿勢のまま、動かなくなった。

 小さな悲鳴と、その音でアーサーは何が起きたかを理解し、


「……神父様………。」

「………。」

「やりました?」

「……こ、腰がっ………。」

「……はい………。」


 神父に聞こえない大きさで小さくため息をついた。


 ・・・


「え、神父様が?」


 子供達とシスターが野菜の処理を一通り終えたのは十時半になった頃だった。

 アーサーは、神父様をベッドまで静かに送り届け、作業が落ち着いたこの段階でシスター達に声をかけた。

 話すのはそう、男手の話。

 以前は、炊き出しなど重労働になる活動の際、大教会から使者を派遣してもらっていた。


 なので、通常は大教会に連絡して応援を依頼するのだが、シスター達は皆揃って嫌そうな表情をする。


 訳を聞けば、王都の大教会から来る使者は、シスターの言うことなど聞きやしない横暴な男達だったと言うではないか。

 例えば、男手の応援を要求したのに何もしない。表にだけ立って、笑顔を貼り付けて信者と交流するだけ。

 例えば、金銭を要求する者。教会間での金銭のやり取りは禁止されているはずなのにも関わらず、だ。


 こういった、例えば、がシスター達の口から出るわ出るわ。

 かなり鬱憤が溜まっていたのだろう。二年教会にいて初耳だったので、アーサーは唖然とした。


「アーサーさんにお手伝いしてもらうようになって、そういったことが無くなったので……わざわざ蒸し返すのも腹立つし。」

「そうそう、神父様も大教会にかなり苦情言ってくれたけど、改善しなかったのよね。」

「……今回も、そうね……頼むしかないのでしょうかね。」


 シスターの間に重い空気がのしかかる。

 準備段階ではアーサーだけでどうにか済んでいたが、当日になったらそうはいかない。

 大量の料理や、水、重い鍋などは、片腕のアーサーだけで持ち運ぶのは困難だった。

 アーサーは考えた。シスター達は大教会からの使者をものすごく嫌がっている。出来れば避けてあげたい。それに、来ても男手として機能するか分からない博打などする時間がない。

 みんなで頭を悩ませていると、ふと、アーサーはとあることを思い出した。


「……ギルドは、どうですか……。」


 淀んだ空気の中で、アーサーがポツリと口を開いた。

 その一言に、シスター達の視線が集まる。


「ギルド、ですか?」


 シスターメアリーが、不安そうに続ける。


「報酬が必要ですよね。この教会にはそんな余裕はないですよ……。」

「そうね、ギルドに頼るにもお金が……。」


 アーサーは、その言葉に首を振って答える。


「王都のギルドに新しく登録した冒険者は、必ず一度慈善活動をする決まりがあるって聞いたこと、あります。」

「えっ!?」


 シスター達は驚いたように顔を見合わせた。

 アーサーは続ける。


「もちろん冒険者も無償では働くわけではありません。でも、ギルドが費用の一部を負担してくれるので、普通よりずっと安く依頼できるそうです。」

「ちなみに、おいくらとか……までは?」

「……すみません、そこまでは………。」


 アーサーは申し訳なさそうにそう言った。アーサーの知識はそこまでだった。詳しいことはギルドで確認するしかない。


「とりあえず、使える予算を確認してからギルドへ行ってきます。値段の交渉もしますが……緊急事態なので、最悪、僕も出します……」

「アーサーさん……」


 メアリーが感激したように、そっと口元を押さえているのが見えた。


(これで朝の寝坊、チャラにならないですかね)


 ・・・

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