故郷への帰路
寝不足のまま迎えた翌朝、ルールカを先頭にして5人は森林の中を海岸沿いに進んで1時間。喉が渇きを訴えてきたところで、目的の場所にたどり着いた。
「あれよ。」
ルールカに促されて、森の中から出て行った3人は、そこにあるシルエットに目を丸くした。
馬が繋がっていない馬車に羽が生えたようなそんな乗り物。
「これが魔導艇・・・?」
好奇心に目を輝かせたレイニが速足で近づいていく。そのあとを追おうとしたミルキを引き留めて、エリーゼが後ろから警告した。
「待ちなさい。まだ敵が潜んでいるかもしれない。だから警戒して。夜明け前に来た時に始末しているから大丈夫だろうけど、慎重になるにこしたことはないわ。」
それを聞いたレイニは急に歩みを緩めて近寄った。馬車のそばに死体が2体転がっているのを見てレイニの顔が青ざめた。
「死んでいる・・・」
「えぇ。捕虜にしてこれを動かしてほしかったんだけれど、抵抗されてしまったので仕方なくね。仕組みはなんとなく理解しているから動かすだけなら問題ないわ。」
「すごい。どこで学んだんですか?」
「独学よ。」
きっぱりと言い切るエリーゼに、あるものは称賛を送り、あるものは訝しんだ。
「要は魔力で動かす空飛ぶ乗り物。あとは方向を決めてそっちに向かうだけ。どう簡単でしょ。」
「それが出来るのは訓練した空軍の兵だけ。知識だけじゃ魔物や強風なんかに対応できないわ。」
ルールカが反論して、ミルキとレイニは唸った。冷静になって見てみると空を飛ぶことが出来たとしても果たして王国に辿りつくことが出来るのか?はたまた落下して海のど真ん中に放り出されるのか?でもこのままじゃどちらにせよ帰れない。なかなかの難題だ。
けれどエリーゼは軽い調子でふる。
「いやそんなに難しい操作じゃないわ。幸いにも魔力は結構残っているみたいだし、ハンドルをきれば進みたい方向に向かっていくわ。」
「しかし魔物はどうするのだ?」
眉間にしわを寄せる姫に、エリーゼは底意地悪そうな笑顔を向けた。
「姫様。そういうときは逃げるんですよ。多分、結界の術式が施されているはずだから魔力を流すだけでいいはずです。でも、あのクラーケンのような事態になった場合はどうするか?それは逃げの選択しかありません。」
「習うより慣れろってことかしら?」
レイニとミルキがゾッと表情を硬くしている中、ルールカはいち早くエリーゼの意図を察した。
「そうよ。このままここにいたって帰れるわけじゃない。救援を待つのも手だけれど自力で叶う術があるのなら使うわ。どうする?姫様が先に言っていた言葉を思い出して。話し合いましょう。」
それから30分後。エリーゼたちを乗せた魔導艇は王国に向かって西へ跳んでいた。四方八方から魔物の気配を感じているが、距離はまだ遠い。
「思った以上に快適ね。空を飛べるなんて夢を見てるみたいだわ。」
運転席でハンドルを操りつつ外の景色を楽しむエリーゼにルールカが同意する。
「えぇ。本当にね。天気が良くて何より。頬を撫でる風が、地上のそれとは違う、清冽な香りを運んでくるわ。」
「空を飛べる乗りものって動かすのが難しいって思っていたんですが、案外簡単な操作で出来るんですね。動力の微かな振動が、心地よく体に響くわ。」
「風が気持ちいい……。髪がなびくのを感じるたびに、自由になったような気がする。」
「あ、王国の兵士が出てきたな。手を振ってみよう。」
仲間たちからの感想を聞いたエリーゼは得意げに鼻を高くしている。
その後の着陸には全員が背筋を凍らす事態になったが、幸いにも怪我はなく無事とはいえないけれど帰還を果たした。
シルヴィ姫が本物だと認められると5人は礼をつくした扱いで王国領内へと運ばれていく。




