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エピソード レイニ



「レイニ。次はこれ着てね。」


レイニは今、王都にある服屋に訪れていた。軍服に慣れきってしまったせいで私服がないという理由と、ここの服屋の店員カーシャとは以前、ルールカからの紹介からの顔見知りでもある。それに加えて、ミルキと共同出資してmルキという名のファッションブランドを立ち上げ、ルールカ、エリーゼ、レイニ、リナはファッションモデルとして様々な服を着ることが義務つけられている。


支払いはもちろん無料なのだが、一度ここに訪れるたびに着せ替え人形のごとく、あれこれと着替えさせられるわけだ。レイニは今日出来上がった服を取りに来ただけなのだが、かれこれ2時間ほど経過している。


真新しい服を着るのはとても新鮮で楽しいのだが、いかんせん女性ものばかりを着せられる。男性であることは伝えたはずなのだが、おかしい・・・特に水着系はかなり困った。


「レイニ。次はこれね。」


言われるままに、為すがままに着替えるレイニだ。胸がないのでスレンダー系が多いが、詰め物をいれて強行策もじさないカーシャである。


「僕、男の子ですよ。」


「えぇ。男の娘だって、もちろん知ってるわ。」


これだ。もうお任せでお願いすることにする。諦めたともいえる。


****************************************


「はい。お疲れ様。これアイスティー。」


差し出された飲み物で喉を潤す。意外と着替えるだけでも喉が渇くものだ。アイスティは程よく冷えていて、口内から染み渡るように体のほてりも和らげてくれる。


窓の外を眺めれば、王都のメイン通りらしく、色んな種族の人たちが行き交い、様々な店が立ち並んでいる。その中でいかにも冒険者といった。いで立ちの団体に目が留まる。mルキのコンセプトはパッ見、ゴツゴツした鎧や盾などを装備していなくとも、確かな防御力と柔軟性を備えた、お洒落でファッション性を追求した服装だ。


ルールカは、エロカッコいい系で、露出度が高くミニスカートが基本のデザイン。


エリーゼは、お嬢様然とした。白系統ワンピースドレス系。


リナは、可愛らしさを。ショートパンツにゆるっとしたパーカー。


僕は、クラシカルなロリーター風で。フリルがついたゴスロリだ。


素材については企業秘密らしいが、ミルキがわざわざマルセイダ共和国まで行って許可を得て来たらしい代物だ。パッ見は綿や絹のようで、柔軟性と伸縮性に優れ動きやすい。それでいて、刃物で斬られても、衝撃を受けても、攻撃をはじき返してくれる。


もちろんお値段は高い。この素材を手にするまでの工程に時間がかかるらしく、僕たち?私たちを見て購入を決めたお客様には、レプリカも販売する予定だそうだ。特に、王侯貴族の女性陣にまずは売り出したいらしい。なにせ戦乙女の中心的な存在だった彼女達を慕う者達が多いので、護身用も兼ねているのもあり売れる。とミルキとカーシャの鼻息が荒い・・・


アイスティを飲み終わり、自分の格好が世間一般と遜色がないことに安堵の息を漏らし、


「カーシャさん。御馳走様でした。」


「こちらこそありがとうございました。またこれで創作意欲が沸いたわ。」


笑顔のカーシャ。彼女はデザイナーも手掛けているので、こうして出来上がった衣服を着用してもらう事によって、アイデアが次々と湧いてくるらしい。


新調したゴスロリに着替えて、いざ王都の街並みに躍りでる。今日はゴーンド商会に行く予定も含まれている。といってもお店側ではなく、倉庫側だ。ついに完成した自分専用の戦闘機。昼過ぎからは余裕があるから、午前中はカーシャの店にお邪魔していたわけだ。


どうしても冒険者という稼業は朝から出かける者達が多い為、お店が込むとのことだ。


****************************************


相変わらずの人通りは、昼時という事も相まって。大いに賑わっている。レイニも昼食をどこかでとろうかと思ったが、1人だと入りづらい。別に昼食を摂らないことなどしょっちゅう経験しているので、「まぁ。いいか」と自嘲気味に笑い、そのまま歩き出す。


それにしても・・・行き交う人波を縫うように通り抜けていくのだが、やたらと視線を感じる。亜人、獣人、人、冒険者などなど男性からだ。装いはゴスロリといっても、同じような服装な方々は見かける。店を出る前にチェックは済ましているし、特段おかしなところはないはずだ・・・そう言い聞かせて、目的地に歩を進めると、


「ねぇ。お姉さん。いい店知ってるんだ。お昼まだなら一緒にどうだい?」


行きたい方向を塞ぐ形で、3人の男が立ち塞がる。


「パスタが最高に美味いんだよ。」


「ちょっと路地の中に入ったところでさ。穴場的なお店なんだよ。」


「お姉さん。知っておいて損はしないよ。後で、友達なんかに教えてあげたらいい。自慢できるよ。」


いきなり顔も知らない男たちに声を掛けられて、唖然とするレイニに向かって彼らは言い募る。何?この人たち。というのがレイニが受けた第一印象だ。


身なりは冒険者風といえばいいのか、鎧とか剣や槍なんかを持っている。ただ強そうには見えないのは、どうしてだろうか?


仕草や、纏う覇気みたいなもの、素備品に至っても歴戦を思わせる刃こぼれや、損傷すら見当たらない。貴族ではない。兵士でもない。知り合い?なわけがない・・・それらを全て総合して導きだした答えが。


「もしかして、ナンパですか?」


レイニにとっては初めての経験だった。服装には無頓着でこの新調されたゴスロリを着るまでは、適当な男性用の服を着ていたのもあるし、基本的に軍服しか着用していなかった。しかもあまり出かけない。普段は暇さえあれば射撃の練習だった。だからだろうか?男性なのに男性にナンパされることは今までなかった。


「えっと・・・そう言われるとそうなんだが・・・」


男の1人が困ったようにそう呟く。やっぱり!と、レイニはことさら皆にナンパには気を付けなさいよ。といった言葉が脳裏に蘇る。しかも碌な事がないとも言い含められているので、


「昼食は済ましてますので・・・」


結構です。と言おうとしたところで、相手は遮るように言葉を挟んで来る。


「なら、お茶だけでもどう?そこもお洒落で人気あるんだよ。」


「いえ、約束があるので・・・」


穏便に済ませようと、断るつもりなのだが、


「まぁまぁ。そう言わずに。そんなに時間は取らせないさ。ちょっとだけでいいからさ。」


なおも食い下がる。


そう言えば言ってたな・・・ナンパは断固として断る姿勢を見せなければ相手は、付け入る隙をついてくるから、しつこい。なので、


「またの機会で。」


そう全拒否の意味を込めて告げる。


「またの機会だって?これは運命の出会いだと思いません?ここで出会ったことによって始まる恋愛小説のような展開があなたに訪れるかもしれないというのに・・・」


「いえ、そういったのも遠慮したいので。」


きっぱりと言い切る。本当なら「僕、男の子ですが?」と言いたいところだが、さすがにこの格好でそれを言うのはまずい気がしたので、ここは黙っている。


「なるほど、深い失恋をしたのですね?ならなおさら、自分達と一緒に遊びましょう。そうすればきっと新たな恋愛に前向きになれますよ。」


キラキラとした笑顔でそうのたまう男。


ちっ。思わず心の中で舌打ちをしてしまったレイニ。さすがにしつこい。


「だから、嫌だって言っているのが、わかりませんか?」


「あん?」


さすがに意味が通じたのか、男たちが剣呑な雰囲気を醸し出した。


「こっちが下手に出ていれば、言い気になりやがって!お前!その綺麗な顔傷つけるぞ。」


と、剣を鞘から抜く仕草を見せて、凄んでくる。


敵意を感じ取ったレイニは、瞬間的に動く。


まずは一番手前の男からだ。顔を近づけた分だけ、顎ががら空きだ。すかさず拳を打ちこみ。1人目の男が倒れ伏す。


そして、この事態についてこれない2人目の男の鳩尾を蹴り上げる。続けざま。最後の1人に回し蹴り。で撃沈。


手加減したとはいえやりすぎたかな?と危ぶんだが。


「「「おお!!」」」


と、通行人たちからの拍手喝采。よくわからないけど、なにか褒められているようだ。照れながらその場を後にして、そそくさと移動する。そう言えば、あの3人はどうなるんだろう?と後になって思い至ったが、ともあれ倉庫に向かう事にした。


****************************************


昼時を過ぎた頃に、レイニはゴーンド商会の倉庫にたどり着くことが出来た。この倉庫はダンジョン内地下1階にあり、冒険者達が戦利品を持ち帰って店側に向かう手間を省くのと、中には大きな獲物を持参してくる輩もいるので、都合がいいというわけだ。


ダンジョン内に入るのにレイニは癖でついつい軍側から入って来てしまったが、通常は冒険者用の出入り口から入ることになる。今回はレイニがまだ軍人だったことを覚えてくれていた兵士が気を使って入れさせてもらえることができた。本当はダメなのだが、ルールカ、エリーゼ、レイニ、リナはまだ国との関係を維持している。


エリーゼは相談役に、ルールカは剣術指導、レイニは射撃指導、リナはマスコット?ではなく近接戦を想定した格闘戦だ。そういった理由もあるので入れないわけではないが、軍に用がないのにこの出入り口を使うのは避けようと思う。


入り口を入れば、石碑があり、それに冒険者証をかざすと行きたい階層に転移出来る。ただし、1度訪れたことがない階層にはいくことは出来ない。これはどんな高ランクの冒険者や軍の階級の高いお方でも同じで、地下1階層から下層に行くしかない。


ただ、このダンジョンは階層の出入り口に石碑があるので、帰りたいとき、階層を変更したいときは石碑を目指せばいいので、日帰りでも問題なく階層を進めることが可能だ。しかし、階層は広いのでしっかりと石碑の場所を覚えておかないと、遭難する。冗談ではなくよく迷子になって、あまりにも帰りが遅くなると家族や恋人、仲間、友人が捜索願いをギルドに依頼することも多々ある。


「すみませ~ん」


と、倉庫前から声を掛けると。作業着に身に纏ったドワーフがその声に反応して現れた。


ここの責任者であるドロイが、いきなり会えるとは思わず、レイニは少し戸惑いを覚えたが、彼に会いに来たわけで話が早く助かるな、と切り替えて、


「ドロイさん。出来上がったと聞いてやってきました。」


待ち望んでいた思いを込めて、笑顔を煌めかせるレイニだ。


期待に満ちたその瞳を直視して、ドロイは面食らったが、そのまま倉庫の中に招き入れてくれる。そのまま彼の後を付いて行き、どれも見た目同じの戦闘機がずらりと並ぶ壮観に感動を覚える。


「レイニさん。こっちに並んでいるのが軍用の正式名称が決まって、魔導空騎です。レイニさんのとは少し仕様が異なりますが、基本的な構造は変わりません。」


以前は魔装銃を取り付けていたが、それを改良して魔導空騎本体の先端部分に魔装バルカン砲が組み込まれている。魔力の動力で束ねた銃身をグルグルと高速回転させながら連射する。1本の銃身だと、熱がこもり限界点に達すると撃ち続けられないというのと、数発ずつ区切って撃つのが基本になる。


バルカンは1発撃って回転させてクールダウンさせることが可能で、数千発を連射できて、銃身の持ちがはるかにいいのが利点だ。ただし重い。銃身を何本も束ねているので当然で燃費は悪い。


しかし、連射が出来ることによって狙い撃つ技術が大幅に減り、射程内で弾幕を張れるのでバルカンが採用されたそうだ。レイニみたいに狙った獲物を確実に仕留めるのは普通に至難の業ともいえる。


魔導空騎が並ぶ列の奥にお目当ての物が視界に入る。


「これがレイニさんの魔導空騎は軍用語になりますので、市販用のスカイ・コルトです。」


魔導空騎と同様の、地を這うようなロー&ロングの重心。前方に長く突き出たフロントカウルからリアの推進ノズルに至るまで、無駄のない強硬な装甲版で覆われている。


跨れば自然と前傾姿勢になるそのシルエットは、流麗でありながら、獰猛なメカニカルな美を放っていた。


地面に吸い付くような低く長い車体に、無理のない一対の可変翼を取り付けたデザイン。色は、軍用は赤に対して、市販用、レイニの機体は黒だ。調度ゴスロリの衣装と相まっている。


ドロイはそのままレイニに跨るように言う。それに従いシートに備え付けのベルトで身体を固定させると。


「では、操作の説明を致しますね。実際聞くよりやってみた方がいいでしょう。」


と、ニカッと笑うドロイだ。もう早く乗りたがっているレイニに気遣いも含まれている。


「右にあるアクセルは分かりますね?親指にあるスイッチを押せばバルカン砲が発射します。その先にあるレバーを引くことによって、右翼が上を向きます。反対に左側のレバーを引けば左翼が上に向きます。そしてこの2つのレバーを同時に引けば急制動する仕組みです。」


レイニは試しにレバーは操作してみれば確かに右翼、左翼が動き出す。


「そして、左手の親指に当たるところにスイッチを押せば、逆さまになります。」


「わわっ。」


押してみればその場で、逆さまになり慌てるレイニ。もう1度押せば元に戻った。


「次に、足先にあるペダルです。右のペダルを踏むことによって、機首をあげ、左で機首が下がる。これが基本的な操作方法であって、あとは進行方向に向かって身体を傾けると急旋回させることができますが、最初はこの機体に慣れてから行う様にしてください。怖いですから・・・」


自嘲気味にドロイは笑う。空の上で身体を傾けるのがどれほどの恐怖心を煽るのか・・・身をもって理解しているらしい。


レイニは何度も何度も言われたことを確かめてひと段落を見せると、


「では、これは企業秘密に当たりますので内密でお願いしたいのですがよろしいですか?」


そう前置きをして、レイニが頷くのを確認すると話し始めた。


「レイニさんは戦場で経験があるのでお分かりだと思いますが、このスカイ・コルトは手足の操作と体重移動によってフルに活躍する魔導機体です。我々の理想とするのは、操縦は本人が行いますが、操縦者の限界を超えた時に、バランス制御や操作、魔力の循環を行える安全装置の構築を考えております。そこでこのスライムです。」


ドロイがそう言って、スライムを見せる。ただのスライムではないのはわかるが、何がどう違うのかはわからない。


「このスライムをスカイ・コルトに装着して頂きますと、魔力の残量、魔弾の残数、現在の速度、風速、風向き、天気、機首の上がり具合、翼の開き具合が表示されます。いわばコンソールの代わりです。」


「へ~。」


とレイニは関心を抱く。


「そしてこのスライムにスカイ・コルトの情報を覚えさせます。レイニさんが魔獣、魔物との戦闘で得る膨大な情報をこのスライムが学び、成長し、進化させます。その進化の先に操縦者をナビゲーションし、なおかつ自動運転が出来るようにしたいのです。」


「ほぉ・・・凄い・・・」


「とはいえ、必ずしもそうなるという保証はないのですが・・・可能性はあるのです。ですので、レイニさんはこのスライムと獣魔契約を結んでいただき共にしていただきたいのです。」


「うんうん。なるほど、いいよ獣魔契約しよう。」


「ありがとうございます。」


ドロイはその言葉を聞いてほっとする。空騎スライム(仮名)が予想通り進化を遂げれば瞬く間に魔導空騎の性能は他の追随を許さなくなる。レイニの経歴なら適任で申し分ない。彼とスライムがどう共存しあうのかが、楽しみで仕方ない。


「では、早速。」


そう言って、トロイは準備よろしく獣魔契約をすました。難しいことはなく、契約書をレイニの名前と血印を押し、それをスライムに与える。これで契約は成り立った。本来は同調

・信頼による合意、強制的な隷属契約、血の契約での主従関係。今回は血の契約に近い簡易的なものだ。


スライムが契約書を体内に取り込むと、名前と血印だけがスライムの体内で発光しながら取り込まれていく。完全に吸収が終わると、スライムの表面に


ユーザー名レイニ認証完了。マニュアルが起動します。問い合わせはありますか?


とメッセージが浮き上がる。


「え?え?」


「獣魔契約は完了したようですね。このスライムは特殊な行程を経てこのようにスカイ・コルトに関する情報を聞き出せるのです。先ほどの私の説明でわからないことがあれば、このスライムに問い合わせてください。マニュアル内でしかお答えできませんが、これからのレイニさんの活躍によって変化が生じるはずなのです。」


ドロイの話を聞き、先ほどのスカイ・コルトの操作を聞き出せば確かに文字で表示してくれる。試しに全く関係ない事を問い合わせば無反応だった。


「な。なるほど・・・これはもしかして、途轍もないことになるのでは?」


「そう願っています。なにせまだ実験段階なので、想定通りに事が運べば幸いなのですが」


「わかりました。僕も頑張ってこのスライムに沢山の情報を送れるように努めます。」


「ありがとうございます。惜しみなく援助は致しますので、何か不都合が生じればお伝えください。」


「はい。」


レイニはそう応えてスライムを抱き上げる。


「最後に贈り物があります。ゴーグルとパラソルです。これらはmルキからなのですが・・」


トロイは少し躊躇いがちに言う。


「レイニさんはその恰好でスカイ・コルトに乗るのですよね?」


「はい。そのつもりです。」


スカイ・コルトに跨るゴスロリファッションの猫獣人だ。非常にロマン溢れる仕様なのだが、ドロイは生粋の職人でもある。空気抵抗が半端ないその恰好で本当にいいのかと疑念を抱くのは当然のことだ。だが、レイニはこの服装を変えるつもりはない様子だ。


「・・・このゴーグルはお分かりにように、飛行するにあたって必需品になります。で、このパラソルなのですが・・・」


ゴーグルは遠視と照準の効果が効いた魔道具だ。パラソルには、中心のシャフトをそのままロングバレルの魔装銃として仕込まれているので、中、長距離狙撃にも活用できる。


パラソルを開けば、盾の効果が含まれていることと、もしもの落下した際にパラシュートの役目も担ってくれる。根本的な疑問はなぜ?パラソルなのかというと、パラシュートは絶対に不可欠なものだ。だからといって、リュックを背負ったゴスロリはどうかという問題が発生する。


そこで思いついたのがパラソルというわけだ。普段は日傘にでも使えるし、射撃もこなせて盾にもなる。しかも黒ベースのレースやフリルが施されていて、ゴスロリファッションとの調和が完璧に成り立っている。


そこまでこだわりますか?と聞けばそれがmルキのコンセプトです。と返事が帰って来たらしい。


纏めると、ゴスロリファッションでパラソルをさして、護身用にスカートを捲れば、ダガーと小銃が太ももにそれぞれ革の鞘に収まっている。首にゴーグルを下げた猫獣人男の娘が、スカイ・コルトに跨り空を縦横無尽に駆け回る。夢、理想、憧れといったものがここに注ぎ込まれているというわけだ。


これでドロイから話が終わり、待ちに待った試乗運転をすることに


スライムを装着してスカイ・コルトを起動。高揚感、昂ぶり、興奮、期待感といった感情が不思議とレイニは感じなかった。ただ不思議な感覚に包まれる。それが何なのか?言葉に表すのは難しく、自然体といえばいいのか・・・緊張感もなくそのままアクセルを回せばスカイ・コルトはレイニの思うままに動いてくれる。


急上昇、急下降、旋回、宙返りとこなし続いて


バレルロール(螺旋を描きながら突き進む動き)、


スピンロール(その場でドリルやキリのように高速で横回転しながら直進する動き)、


インメンタルターン(急上昇しながら宙返りし、機体を上下逆さまにからクルッと元に戻して真後ろに向く)、


スプリット(その場で背面飛行になり、そのまま宙返りしながら急降下して180度反転)、


コブラ(機首をグッと真上に起こして空中で急ブレーキ)、


スラローム(障害物に対して、滑らかに、かつ鋭く左右へジグザグ軌道)、


匍匐飛行(地形の輪郭に沿う様に超低空で這うように飛行)


この一連の動作を飽きることなく続けて、スライムが魔力の残量を警告したところで、バルカンの試射だ。


「ブゥゥゥゥゥン!」


「バリバリバリバリ!」という重低音の唸りと、撃つたびに


「ウィィィィィン」


と銃身が回る音が聞こえる。魔弾が切れるとスライムがカートリッジを装填してくれるおかげで弾切をおこさない。


最後の締めに、スカイ・コルトの各部ハッチを一斉に開放させ、搭載している魔導ミサイルを一斉射撃。放たれたミサイルは、直線ではなくまるで生き物のように不規則な弧を描いて、左右、上下全方位から逃げ場を塞ぐように標的へと殺到する。次の瞬間、試し打ちに使っていいと言われた標的が爆炎に埋め尽くされる。


圧倒的な破壊力と機動力に、レイニの魂は揺さぶられる。息を呑み、感嘆のため息が漏れ、胸が熱くなる。


倉庫に戻り、スカイ・コルトを預け、トロイに礼を告げて倉庫を後にする。スライムはそのままレイニと生活も共に過ごして欲しいというので、そのまま預かる。


もう日は暮れかけて帰宅を急ぐ通行人達の中で、ぐっと拳を握りしめて、あらゆる感情が溢れ出すのを堪えて、ただ楽し気に笑顔だった。


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