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エピソード14 サマールル

14 競争と平等


その日の日差しは、いつもよりもずっと柔らかく感じられた。


宮殿の離れにある広大な庭園の中庭で、テーブルを挟んで2人の女性がお茶を愉しんでいる。片方はドレスを身に纏ったシルヴィ元王女と、今となってはお決まりのスーツ姿のミルキだ。2人は会話を弾ませているが、不思議と周りには使用人も護衛も辺りを見渡しても誰も側にいなかった。なのでお茶のお変わりは、自ら注いでいる。


「今日はいつになく帝都はにぎやかですね?何かのお祭りですか?」


「・・・うむ。そうだな。毎年この日を祝い日にするのも悪くないな。」


皮肉交じりのミルキの言葉を理解してシルヴィは微笑みながら応える。今、帝都では囚人達が脱走して騒ぎを起こしているために、護衛達は最低限を残し駆り出されている。使用人たちはその埋め合わせの為に、宮殿内で武装していると、いったところだ。


「時間を忘れますね。」


屈託のない笑顔でそう口にするミルキ。


「あぁ・・・。」


「このまま時間だけが巻き戻ってくれたらいいのにって、時折思い出します。」


「ふふっ。6人でか?そうしたら、戦場の間只中だぞ?」


「あら?それもそうですね。あの時は怖かった思いが強かったけれど、今は想うと楽しく懐かしいです。」


「ミルキにも誘いは来ているのだろう?」


「はい。でもお断りしています。テッツとの婚姻が正式に決まりそうなので。」


「ほう。何よりの良報だな。式に自ら伺いたいがそうもいかないだろうしな・・・何か

贈り物を届けよう。」


「ありがとうございます。シルヴィはどうするのですか?」


「私は欲張りでな。この先のサマールルの在り方を見届けたい。」


「レオリオン第一皇子と、ですよね?」


「う・・・」


顔を背けて、カップを口に運び砂糖が沁みた紅茶が、口内を蹂躙する。


そこに、


「シルヴィ様!緊急事態です。は、早く宮殿内へ!!」


護衛の者が慌ただしく慌てふためいている。それもそうだろ・・・だって、空にドラゴンが舞っているのだから・・・


これをきっかけにしてお茶会はお開きとなり、解散となった。次の再会が楽しみな2人だった。どう変わるのか・・・


****************************************


ヒオレド大佐が敗戦を認めて宣言したことによって、両軍ともに撤退を開始した。それを素直に受け止めるもの、理解に戸惑い混乱にきたす者と分かれることになるが、ともかくサマールルの総指揮官がそう宣言を下したことによって、各々の基地に帰還する運びになる。


同時刻、サマールル帝都にて、広々とした玉座の間にいる皇帝の耳にもその報告が告げられた。


「な・なんだと!」


怒りに染まるその頭の中で、詳細を口にした兵士の言葉が耳に届かない。盤石の備えと新兵器による圧倒的な火力と、戦力。多少押されはしているようだが、勝利は間違いないと確信にめいた構想が、勝利によって得られる繁栄が、至上戦場主義を掲げてきたサマールルの未来が・・・崩れ去る・・・


「れ、レオリオン第一皇子をここに呼べ!すぐにだ!!」


****************************************


かつて、こんな物語を読んだことがある。善いか悪いかはべつにして、全ての人族には生きていくうえで物語があるということを。


簡単に整理すると、他者を理解することに勤める事。相手の背景、背負った事情、それらを想像して意見が食い違うなら、どう関わっていくのかを探り、知り、話し合い、お互い最適な関係を築き上げることが理想といった内容だ。


だが、とレオリオン第一皇子は想う。それは理想論であって現実的ではない。と。シルヴィが幼い頃のことだ。声のかけ方がわからなくって、そんな本を読んだ記憶がこんな時に蘇る。・・・自分で自分がおかしくなったような錯覚を覚えた。


護衛は外してもらい扉をノックして開きと同時に、玉座に座る皇帝と目が合った。


「レオリオン!!貴様!!」


「陛下。召喚に応じ馳せ参じました。」


憤怒で怒り心頭の皇帝陛下と、対局にすました顔のレオリオン第一皇子が対面を果たす。


「・・・どういうことだ!なぜ?わが軍が敗北などしたのだ!言え!その言葉次第ではお前の命はないと思え!!!」


開口一番にそう言って、皇帝はレオリオン第一皇子に掴みかかる勢いで近づく。


「陛下。らしくないですね。ただ負けただけですよ。」


ふっと笑って、レオリオンはとぼけて見せる。


「ぐっ・・・今すぐにでも貴様の首を撥ね飛ばしてやりたいところだが、まずは聞こう。なぜだ?」


ぐっと堪えて状況説明を求める。レオリオン第一皇子は淡々と答える。


「マルセイザ共和国軍が我が軍より強かったということです。・・・加えるなら、我々は異世界の知識で新兵器を開発し戦力が大幅に強化されたことによって慢心が宿り、対するマルセイザ共和国軍は昔のよくあった例えば炭鉱の事故など、そういった事象を調べ上げて現象として昇華したということでしょうか。」


「現象だと?」


「そうです。魔法が生活の中に溶け込んでしまっているこの世界で忘れ去られていることですが、異世界の言葉を使えば化学反応でしょうか?それらをマルセイダ共和国は研究していたということです。」


その内容はともかく、レオリオンの態度に違和感を抱くが、


「だからと言ってどうした?現象?魔法のようなことなのだろうが、ようするに戦略、戦術が疎かであり、侮っていたということだろうが。ならば即見切りをつけて総指揮官を入れ替えるのは貴様の仕事ではないのか?」


「確かに。入れ替えることは出来たことでしょう。ただ、お間違いなきように、私はサマールルを勝たせようとは考えていませんでした。」


笑みを浮かべて言ってのけるレオリオン第一皇子。帝国の歴史そのものを覆す言葉に、皇帝の眉間から血管が浮き上がる。


「戦争に勝つ。それが主義であり、正義であり、繁栄を約束される。本当にそうなのでしょうか?キラエルをご覧になったことは?あちらの国はサマールルよりも遥かに文化が繁栄し、人々は笑顔を絶やしません。対するわが国はどうでしょう?対人戦については他国を寄せ付けないと自負しておりますが、芸術、音楽、娯楽、といった楽しみが一切なく、ただ生きているだけ、希望、期待などは抱かない。子供を産んで育て、長男以外は兵士になり、死ねばお金になって悲しむどころか生活が楽になったと喜ぶ家族。貴族に至っても形は違えど同じようなものだと私は考えています。」


さらりと言い募るレオリオン第一皇子だ。皇帝はさらに険しい面持ちのまま問う。


「・・・つまりサマールルの国の在り方、わしの生涯を否定するというのだな?」


「ここだけは否定させてください。皇帝陛下・・・いえ父上。私はあなたの事を尊敬し崇拝しております。」


そう切り出すレオリオン。何を言っているのか、皇帝は困惑と怒りに眩暈をおこしそうだった。わざと負けておいて、ほざくその口ぶりに負い目も何も感じ取れない。


「・・・もういい。その言葉を聞くに耐えん!貴様は死ね!首を撥ねて民衆の前に晒してやる。」


眉間をきつく狭めて、皇帝は護衛達を呼びつける。その声は扉を超えて外まで響く通った声だ。さすが皇帝陛下といったところか、現場を離れていても戦意を纏ったその言葉は畏怖の念を感じる。


しかし、確かに複数の気配を感じ取ることが出来たが、一向に入って来ることはない。


「・・・」


「近衛兵はもうこちらの陣営に拘束させてもらっています。」


悠然とレオリオンは言い、皇帝はならばと切り替えて玉座に向かって剣を取る。


「・・・貴様これが狙いか?」


「そう。お察しの通りクーデターです。父上。あなたはサマールル最後の皇帝となり歴史に名を刻んでもらう。」


「不可解だな。貴様は次期皇帝だ。こんなことしなくとも自分の政権に成り代われば好き放題できるだろう。」


「これは、けじめときっかけのですよ。父上。」


「?」


皇帝は彼の言いたいことがわからず、目元だけピクリと動かした。


「私が皇帝なったところで、貴族、民衆の心は変わることはないでしょう。いくら命令したところで根本的に彼ら、彼女らは変わらない。なら、国自体が変わったら?どうなるでしょうか。おそらく混乱の坩堝と化すとおもわれます。」


「混乱に乗じて政権の根幹を覆す?そんなことしたら・・・まさか、貴様!」


「そうです。それを見越して、内乱を唆して鎮圧し、優秀な者は保護。ついでに腐敗した貴族、士官ともども始末しておきました。これで、武力闘争による混乱を未然に防ぐことが出来たと思っています。もちろん今ある軍部は残しますよ。今後は他国を侵略しない代わりに、他国からの侵略を許さない国家を築き上げていきます。対等の武力があるからこそ交渉という場が成立するのですから。」


レオリオンはそう告げて、皇帝はかつて見たことがない感情が表情に現れていた。


「マルセイダ共和国の教皇猊下、キラエルの国王には話しを通してあります。今回の敗戦によって領土を失うことはありません。約束したのは、ダンジョンの解放と冒険者という職業を確立させて、魔獣・魔物を討伐することです。金銭的にも要求はないと契約書に記載されています。要はキラエルを参考にして国を創り直せということです。」


説明するレオリオンの言葉を聞き、なおも事実を受け入れることが出来ない皇帝。


「・・・なぜだ・・・なぜ?今なのだ・・・」


「散々、魔獣、魔物の討伐を積極的におこなうようにと教皇猊下から催促が着ていたはずですが?」


皇帝への返事をため息交じりに応えるレオリオン。


「マルセイダ共和国は魔獣、魔物を人族の共通の敵とみなし協力して討伐しなさいと、ダンジョンが出来上がる遥か昔からそう言い続けてきました。それを無視した結果がこれです。父上の代でこうなることは心苦しいくもありますが、いずれはこうなる未来でした。今までは神が期待して見守っていたにすぎないと。」


「神?」


「神のお告げがあったそうです。サマールルを壊せと。」


きっぱりとレオリオンが告げる。


「これは創世記に記載されていることですが、神々が住まう世界は群雄割拠の人類、悪魔、亜人、獣人、魔獣、魔物たちがそれぞれ戦い明け暮れるそんな戦乱の地を、憂いた末にこの大地を創造した。最初は人類、次に獣人、亜人、魔人と住ませていたところ、種族の違いが発端で争いが絶えなくなった。そこで共通の敵、魔獣、魔物を送り争いの終結を図った。

が、キラエル側の大陸はダンジョンが誕生したことによって人族同士の争いがなくなり、反対にサマールル側の大陸はダンジョンを求めて熾烈な争いが繰り広げられる。

神は気が長いそうです。それが、今になって目を向けてきたという経緯です。」


「お前はいつから信者になった?」


「信者になった覚えはないです。ただこのままでは、繁栄どころか維持さえも難しくないのではないかと想ったのです。サマールルの歴史の重みでしょうか?父上を尊敬に値するのは、自分を殺し国に対して真摯だったことです。私もそれが正しきことだと考えていましたよ。」


父上については、心底からそう思う。


「・・・」


「・・・」


両者は見つめ合いしばらくして、皇帝が口を開く。


「・・・いつからだ。その考え方が変わったのは?」


「キラエル戦からですが、もっと前からかもしれません。」


「?」


「彼女と言葉を交わした頃合いから、帝王学について考えるようになりました。」


「帝王学をお前は否定するのだな?」


「帝王学は云わば競争社会と君主制、反対に従属学は、平等社会による民主制といったところでしょうか?どちらも良いところがあり、悪いところが存在します。」


「平等社会か、組織で行動して、考え、責任と義務を分かち合う。そしていつかは意欲が失い停滞を引き起こす。そうだろう?自分が怠けていても組織が補ってしまうためにやる気がなくなり、それが次第に伝播して1人、また1人と怠けていく。」


「そうです。だから競争と平等のバランスを上手く天秤にかける政策を国作りに私たちが目指します。」


「ふん。そう巧く行くわけがない理想は捨てて、現実を直視するのだな。」


「父上。私が、ではなく私たちがです。時間がかかるのは承知の上です。支配に慣れた民衆がそう簡単に意識が変わるはずがありません。過酷な道のりだと理解しています。しかし、やり遂げてみせます。私たちが。」


語る息子の瞳を見て、ふっと笑い口元を緩め剣を離す。


「勝手にするがいい・・・」


そう呟いた瞬間、皇帝のその腰がすとんと落ちる。


その姿を見てレオリオンが護衛を呼び寄せる。


「しかるべき場所にお連れしてくれ。」


護衛に連れられる皇帝の後ろ姿がやけに老けて見えたが、彼はその光景を目に焼き尽くすように離すことはなかった。


****************************************


同じ頃、皇帝とレオリオン第一皇子が対面を果たことで任務を果たしたと判断を勝手にしたセイギは


「ルン♪ルン♪」


と、鼻歌を歌いながら城の屋上に向かっていた。この様子から分かるようにご機嫌である。その理由は、彼が彼女との約束を果たしたからだ。セイギはルールカから託されたシルヴィ王女との約束を果たすために、精を尽くしていた。その約束もほぼ完了だろう。後は皇帝とレオリオン第一皇子の問題であって、それを邪魔しないように、近衛兵達を拘束し、部下達に後のことは任せている。そして、その後をハリーとカイが付き従う。


屋上に出て空を仰げば黒竜の2体が空を旋回しているのが見える。シイラの黒竜だろうと検討をつけて


「お~~い!こっち!こっち!」


と、大声を出して呼びかけて手を振る。


すると、黒竜からロープがするすると降りてくる。それを受け取ってしっかりと握る。その行動をぽかんとしたハリーとカイは意図が分からず眺めるだけだ。


「うん。うん。丈夫なロープでなによりだが、いっそのことここまで降りてくれたら楽ちんなのにな~まぁ仕方ない。シイラだし。」


そのままの調子でロープを伝って登りそうな勢いだったので、思わずハリーが声かける。


「セイギ中佐!いったい何をするのですか?」


「あぁ。もちろん。このまま黒竜に乗ってダンジョンに向かうつもりだよ。」


さらりと答えるセイギだ。あまりにも当然の事を今更聞くの?みたいな感じなのでハリーは間抜けな声を上げてしまう。


「ダ、ダンジョン??」


「そう。ダンジョン。今なら囚人と監視兵もいない状態だからね。面倒なく侵入出来るんだ。」


「そ、そうなんですか・・・」


どうやら冗談ではなく本当にこのまま行く様子だ。


「ま、待ってください。なら私たちも付いていきますよ。」


「あ、ごめん。メンバーが揃ったみたいでこれ以上は定員オーバーらしくってさ、だからここで2人とはお別れになるね。」


けろっとそんなこと言うセイギだ。「お別れ」その単語がハリーは敏感に反応して悲鳴じみた声を上げる。


「置いていかないでください!私も連れて行って・・・お願いですから!」


泣き叫ぶ子供のようにハリーはセイギに縋る。それを優しく引き剝がしながら


「本当はそうするつもりだったんだけどね・・・急遽シバ大佐が参加することになったんだ。非常に残念な結果だけど、こればかりは僕には権限がないんだ。」


左手でロープを握り、右手でハリーを離させようとしながら、セイギはカイを見る。


「俺たちを置いて、どうしても行くのか?」


「こればっかりは譲れないのさ。」


怒りにも似た瞳でセイギを見つめるカイ。だが、セイギの事情も分かっているつもりだ。いい機会かもしれない・・・


「ハリー!手を離せ!セイギが困っているだろう?いい加減諦めろ!!」」


「だって、だって・・・」


「どの道諦めるしかないんだよ。早いか遅いかの違いなんだから、きっぱりと諦めろ!それとも、このままセイギに嫌われたいのか?」


その言葉を聞いた途端、パっと手を離すハリー。その隙を見逃すはずがなくセイギは屋上から思いっきり飛び出した。


「突然でゴメン!それと今までありがとう!」


ハリーは追いすがり、カイはそのハリーを引き留める。


「あ、除隊届けだしといてね~」


「セイギのバカー!!」


笑顔でロープに吊られながら空を舞うセイギに、ハリーが大泣きしながら叫ぶ。


カイはその光景を見つめながら、はぁ・・・。とため息が漏れた。


****************************************


ロープを伝い上にするすると昇って見れば、そこにはワニ顔のキーンスが黒竜に跨っていた。


「やぁ久しぶりだね。キーンス副官どの。」


「あぁ。ひさしぶりだな。で、いきなりで悪いんだがもう俺もシイラ様も軍人じゃあないから、俺の事はキーンスと呼んでくれ。シイラ様は、シイラ様とお呼びしろよ。」


彼とは顔見知り程度だが名前を知っている。顔も印象的だしね。セイギはそのままキーンスの後ろに跨る。


「じゃあ。僕もセイギってよんでくれ。それからこれからよろしく。」


「おう!」


元気に返事が返ってきたところで、隣の黒竜の背中でこちらを見ているシイラから

声がかかる。


「久しいな。セイギ。達者だったか?」


「シイラ様。お久しゅうございます。」


セイギの切り替えは早かった。以前とは全く雰囲気と言葉遣いの変化を敏感に悟って、相手に合わせる。


「うむ。壮健そうでなによりじゃ。さて、お前を迎えに行けとトルークに言われたから来たわけじゃが、これからどうするつもりじゃ?」


語尾に「じゃ」がつきだしたな。とキーンスは心のメモに書きこんでおく。彼女はこう見えて読書好きだ。その作品が気に入れば、登場人物のセリフの真似をする。前回は聖女物語だったな。今回は女傑の類だろう。確かあれは長編物語だったはずだ。「じゃ」は長続きしそうだなと、彼女の身の回りの世話は彼の担当である。この辺りのチェックをかかすと後で痛い目にあうのは経験済みだ。


「もうこのままダンジョンに向かおうと愚行しておりましたが、いかがでしょうかシイラ様。」


「うむ。そうじゃの。そうするか。」


シイラは少し悩んだ素振りを見せてから、そう言うと進路をダンジョンに向ける。


セイギはこの時に感じたことを後で、キーンスに問いただせねばならないと心に誓う。何故って?シイラ様はスカートが捲れているのに無頓着だから、下半身全てが見えるのだ。見えてしまったから思わず敬語を使ってしまったが、これは正解だったらしい。


色々と身体の内部が見えている黒竜に突っ込みたい気持ちを押さえて、ダンジョンの中に侵入を果たし、セイギは目的の1つがクリアしたことに安堵の息が思わず漏れた。


****************************************


皇帝が幽閉されたその夜。レオリオン第一皇子とシルヴィ元王女が自室で対面する。これは結婚式以来の出来事だろう。2人きりでいるのは。


「シルヴィ大事な話がある。」


「・・・レオリオン第一皇子。なんだ?」


対面に座ってお茶を啜ってからの言葉だ。2人だけの空間。これだけで胸の高まりが止まらない彼女。


「今日は友人を招いてのお茶会をしたんだってね?」


「キラエルからの友人で今は、商人として活躍している。ミルキ・ゴーンドという女性だ。」


「へぇ。どうだった?」


「たわいもない話だったな。それなりに愉しめたが、途中でドラゴンが空に舞っていたおかげで急遽解散となった。」


そっけなく答える彼女だが、ますます鼓動が囃し立てる。


あぁ。と彼は苦笑して


「シイラ少佐だね。きっと。空軍の訓練中だったんだろう。驚かせてしまって申仕訳けなかったね。」


「いや、別段気にしてないぞ。訓練ならしかたないな。」


「そうか、そう言って貰えてよかった。」


レオリオン第一皇子はそこで一口お茶を飲み姿勢を正した。


「シルヴィ。君は国元に帰りたいと思ったことはないか?」


「いや。ないな。」


きっぱりと答えを返す。


「正直に答えてほしい。実は今日皇帝を拘束した。」


「・・・」


「クーデターを私は起こし、帝国は今後解散させる。至上戦場主義から、民主主義に根本的に国を創り変える。そうなると今までの生活は一変して贅沢は出来ないだろうし、苦労を虐げられるだろし、民衆や貴族からは罵声を浴びさせられるかもしれない。なにか物を投げつけてくるかもしれない。だから、この国に居るのは私はお勧めしない。」


「で、?」


少し怒った口調で彼女は聞き返す。


「だからさ、この国に滞在するにあたって君は誹謗中傷をあびるわけ。嫌だろうそんなの。」


「貴方と私はもう婚姻関係だ。気にすることはない。一蓮托生で共に側に居るつもりだ。」


「いや、普通は気にするでしょう?」


「私は気にしないと言っている。なんなら一緒に帝都を歩き回って、一緒に侮辱を一身に浴び回って、買いものは無理かもしれないが、散歩がてら衣服が泥や汚物に紛れて散策するのも楽しいとおもえるぞ。レオリオンが隣なら・・・」


最後の一言は小声でぼそぼそと呟く。


「本当に、いいのかい?」


「だから私は、貴方の隣が良いと言っている!」


言って、彼女の顔が赤く染まる。


「・・・」


「・・・」


シルヴィそう名前を呼んで彼は彼女の隣に座り、躊躇いながら肩を抱く。


「・・・・」


もう真っ赤な彼女の反応にさすがにレオリオン第一皇子も気づく。


「シルヴィ・・・」


優しく名前を呼び。彼が彼女の方に向き抱き寄せる。


「あ・・・」


それだけで自分が抱いている欲望が解き放たれる。彼の唇が目の前に迫る。衝動が掻き立てられる。彼の両腕が背中に回り、もう・・・恍惚が頭の中を蹂躙し、堪えようもない声が漏れだし、


「ま、まって欲しい・・・」


崩れ落ちる理性のタガが少しだけ残っていたらしく、思わず願ってしまった。


「・・・」


レオリオン第一皇子は穏やかに見つめて、そしてすぅっと離れようとする。


「だから、待って!」」


先ほどとは逆にシルヴィがレオリオン第一皇子を抱く形になる。顔が彼の胸板に埋まる。この密着感・・・もうだめだ・・・我慢できない・・・もう欲望に抗えない・・・


「お願い・・・昔のように私の耳元で貶して、言葉で嬲って、いじめてほしい・・・」


「シルヴィ・・・君はマゾヒズムなのかい?」


「あ・・・あ・・・・」


もうその言葉1つだけでシルヴィの身体がピクピクと痙攣する。


「耳元で囁いて欲しいのだろう?私の目の前でそんな声を上げて、恥ずかしくないのか?」


言葉と同時に吐息がかかり、ぞくりと肌が粟立ち際限のない恍惚感が全身をくまなく支配する。もうまともな思考回路は消え失せていた。ただただ、狂おしいほどに彼が恋しい。


「シルヴィ。愛している。今夜は一晩かけて、君を凌辱しよう。」


その言葉通り、一晩中彼女は甘美な妄執に狂い。浅ましい本能に、心の芯まで溺れ浸かった。


****************************************サマールル軍がマルセイザ共和国軍に敗北した事実は翌日、全国民に知れ渡ることになった。彼ら、彼女らが抱いたのは戸惑いであり、焦燥だった。サマールルがマルセイザ共和国に敗戦した。とすればどうなる。明日にでもマルセイダ共和国が攻め込んでくるのか、自分たちはどうしたらいい、1人残らず奴隷化されてしまうのか・・・だが、そうした最悪の状況が起こることがないと聞かされる。


本当なのか?と疑心暗鬼に少なからず国民の中に存在するが、マルセイダ共和国は一向に進軍する気配を見せないし、サマールルにしても厳戒態勢を築いているわけではない。


数日経過して、国民は不安が解消されることになる。マルセイダ共和国は領地が欲しいわけではなく、ダンジョンの解放と、魔獣、魔物の討伐、冒険者の擁立。これさえ守るのならこれ以上はサマールルに全て委託すると正式に発表。


この発表と同時に至上戦場主義を廃止し、民主主義を主張する国家を確立させると宣言。そこでさらに混乱が沸き起こる。国が管轄する施設に問いあわせという名の、苦情、抗議、具体的にどうなる、といったものだ。


これに対して、国側は一環として、すぐに何かが変わるわけではないと主張する。キラエル王国を参考にして国の在り方が変わっていく方針だ。とだけ伝えて追い返す。


至上戦場主義という政策の中で、生きて来た国民がすぐに生き方を変えることは出来ない事は、国側で職に着いている者には上司から説明を受けている。縦社会で生きる彼ら彼女らはその指示に対して、余計なことは伝えなかった。彼ら、彼女らにしても解らないというのが最大の理由でもあった。


未曾有の衝撃から数か月も経てば、結局今まで通りでいいのかと、国民たちは普段の生活に戻り、その後少しずつ変化が訪れることになった。


国民議会、国民裁判、などが始まり当初は誰も彼もよくわからない民衆を巻き込んだ政策がはじまり、それを根気よく続けていくことになる。続いて、学校が設立される。12歳未満の子供が対象で、基本的に読み書き、簡単な計算、ルールに基づいた運動。未来を託される子供たちに教育が施される。もちろん親の手伝いなど禁止だ。それに対して苦情が殺到するが国側は一切取り合わなかった。


さて、マルセイダ共和国が求めていた件については、ダンジョンは冒険者ギルドが管轄を担い、肝心の冒険者は元囚人たちがその職に就くことになる。彼らは元々ダンジョン内で労役をしていた経験が活かされて、日が経つにつれて要領を得、下層階に向かう様になっていた。そこで魔獣、魔物の素材、魔石、各階層で採掘される鉱石、草、木、といったものの買取は商業ギルドがゴーンド商会を参考にして取引する。その素材を鍛冶ギルド、魔道具ギルド、農業ギルドなど各ギルドに売り捌き、国もそれに参入する。


これによって、お金が回り始めて、経済が回り始まる。


そして、3年の月日が立ち、サマールル帝国の廃止を宣言。新たな国、フェデラル・ギルド・サマールルの設立。意味合いは様々なギルドの連合体として、国そのものが巨大な相互扶助のネットワークに生まれ変わった。もしくは生まれ変わることを意味するものだ。


例えば、国民裁判は、ギルド間の取引や、冒険者の依頼、国民同士のトラブルを、武力ではなく「法」で解決する場所に。


国民議会は、各ギルドの代表が集まり、国の運営に関わり話し合う場所に。


学校は、次世代の各ギルドの担い手を育てる場所に。


サマールルの名を残したのは、かつてのサマールルが生まれ変わった意味合いと、混乱を防ぐ狙いだ。いきなり全く違う国名に成り代わったとしたら、取引先はその対応に混迷をきたすだろうという理由が含まれている。


そしてその3年後には総選挙を実施すると通達。現状は旧サマールル体制のまま国を回してきたが、ここで国民による選挙によって、グランドマスターを誕生させる。各ギルドのトップという意味合いもあるが、軍事的な圧力を抑え、プロフェショナルたちのリーダーが国を回すと言っているのと同じだった。


これによって、旧体制、新体制たちが国民の1票を稼ぐために選挙に向けた取り組みが始まる。立候補者達は国民の声を聞き、必死に行動を起こしアピールすることになる。いずれにしても国民にとっては話を聞いてくれるだけではなく、対策なども検討してくれるわけであり、生活はより豊かな方向に向かっていくことになる。


****************************************


心地よい風が吹くある日常の光景だった。


朝食を済ませて、一家団欒で居間でのひと時の幸福を味わうテッツ・ミルキのハルダー夫妻。


「こらー。2人とも学校の支度はすませたの?」


お迎いが来るまでの時間を使って夫妻の子供たちがじゃれあって遊んでいる。


「うん。完璧」


「体操服も用意してるー。」


と、5歳ぐらいの男の子がトルエイ。その男の子より小柄な女の子がハロイだ。2人は戦闘ごっこで紙で作った棒を振りまわしている微笑ましい光景がそこにあった。


一言注意して食後のお茶を味わっているところに、ふと遠くから音が聞こえ始めた。


「来たようね。」


「みたいだね。トルエイ、ハロイ、お迎えきたよ。」


夫妻は子供たちを連れて外に出る。目線を上に向ければ細長い箱型で4つ輪がついたバスが空から、家の庭に着陸する。


直後に横の扉が開き、中から1人の女性が姿を現した。


「おはよ。テッツ、ミルキ。」


彼女は屈みこんで


「トルエイ、ハロイもおはよ。」


「「おはようございます」」


「「おはよ~」」


4人の挨拶に笑顔で答えるのは、オレンジの髪を風で靡かせて、美しくもあり、溢れ出す活力が滲み宿し、好奇心と優しさを伴った瞳、毎日の仕事着のキッチリと皺のないスーツ姿のシルヴィ・サマールルの姿がそこにあった。すでに民主制へと舵を切ったフェデラル・ギルド・サマールルであっても、彼女の存在感は依然として「戦乙女」のままであり、次の選挙戦ではグランドマスターの地位に一番近いと国民からは天井知らずの人気者でもある。


挨拶を交わし、一言二言会話を交わしていると、


「みつけ~」


「わ、バレた~」


「かんねんするのだ~」


足元で、ハルダー夫妻の子供達と、中でじっと様子を窺っていた子供がじゃれ合う。そのままバスの中できゃきゃっと騒ぐ騒ぐ。もう1人の子はレオリオン第一皇子とシルヴィとの間で出来た男の子だ。名前はフィンという。


これもいつもの光景だった。子供たちを一緒に学校に預けて、親たちは安心して仕事に精を出す。これも国民議会で可決された案件だ。他にも色々と変わり、以前のサマールルの面影はどこにも見当たらないぐらいだ。


「さて、では、我らもバスに乗り込もう。忘れ物はないだろうな?」


「はい!ってあれ?」


ミルキは無いだろうとは思っていたが確認の為に振り向いたら子供たちの持ち物がそのまま残されている。


「も~~~う。」


と頬を膨らませるミルキを見て笑う2人。


「ははっ。フィンも先ほどレオリオンに怒られておったわ。」


「ふふっ。子供は元気が一番ですね。」


「そうよな。子供達が笑う国を創るのが我らの努め。さぁいい加減レオリオンが痺れを切らしてしまうかもしれん。行こう。」


「「はい。」」


****************************************


「ん・・・」


その朝。自室のベッドで目覚めた彼女は、いつもように2日酔いに悩ませてから一日が始まる。水を飲み2日酔い止の薬を飲みこんで、身支度を済ませる。


今日は休日であるが、カイから誘いを受けていた。毎晩のように彼を誘ってセイギがいなくなった事への寂しさを紛らわせるために、お酒を煽るように飲んでいた。彼は私の愚痴を散々聞かされているのに嫌な顔を一切見せずに付き合ってくれて、最後には酔いつぶれた私を自宅まで送ってくれる。なんだが、申し訳ない気持ちと、セイギに対する気持ちが落ち着いた頃合いでの、このお誘いだ。断わる理由はなかったけれど頭が痛い。昨日も飲み過ぎた。


使用人に呼ばれてカイの到着を知り、もう一度身嗜みを振り替えて見てから、外に出る。


「よう。」


「おはよ。」


そのまま馬車に乗り込み街に出掛ける。馬車の中はミントの香りがして、すう~として気持ちがいい。これなら二日酔いもすぐに吹き飛ぶだろうな。とカイの気遣い感謝する。


「あれ~?やっぱり帝都の雰囲気が変わったような気がする。」


馬車を降りて、帝都の中心街でハリーは以前見た記憶と、照らし合わせて違和感を抱く。道を行き交う大勢の人たちもどこか活気がある。


「今日は、広場で大道芸が来ているらしい。ひとまずそれを見てから昼食にしようかとう思うが、どうだ?」


「いいよ。それで。」


ちょっとそっけなく答えてしまった私。少しばかりカイって紳士だなと想ってしまったのは内緒で気づかれないようにしたらこうなってしまった。


「ハリーとこうして昼間に街を歩くのは新鮮だな。」


「そ、そうね。夜の繁華街も悪くないけど、昼間もいいものね。」


「ついでに店頭に並んでいる品物を見ながら向かうか?気になる物があるかもな。」


「そう?帝都であんまり欲しい物を見つけたことないけど、まぁついでね。」


そう言いつつも、彼女は店頭に足を止めては熱心に品定めをする。以前とは比べて品物が入れ替わっているようで、彼女の中で何かを刺激を与えたらしい。


結局広場に着いた頃には大道芸たちは昼休憩をとるため、休憩中だった。それならば、先に昼食を済ませてしまうおうと、適当に店に入って食事にする。ここでも彼女は大いに刺激を受けたようだ。


外食するなら自宅で使用人が作ってくれる食事が美味しいと思い込んでいたようだが、ここで注文したパスタに感銘を受けている様子だった。目をキラキラさせて、口にパスタを含むたびに幸せそうに味わっている。


「どうだ?たまにはこういった休日の過ごし方も良いだろう?」


カイがそう聞けば、小動物のようにコクコクと頷き、パスタに舌鼓をうつ。


くっ・・・やっぱ可愛いな・・・


カイはそっぽを向いて心の中で囁く。


それから大道芸を堪能して、街中を散策して休憩も兼ねて甘味処を見つけて、またハリーが幸せそうにクレープを頬張っている。


そんな時間はあっという間に過ぎ去りもう夕暮れ時だった。


「正直、期待してなかったけど色々と変わっていて楽しかった。」


率直に喜んでくれてカイはまた、そっぽを向く。


「そ、そうか、誘ったかいがあったな・・・」


そこで彼は1つ提案をする。


「夕暮れのこの時間帯が綺麗なスポットがあるんだが、行ってみないか?」


「いいわよ。」


2つ返事に帰って来た言葉に思わずカイはガッツポーズする。


「なに?どうしたの?」


「い、いやなんでもない。行こうか。」


賑やかな通りを抜けて、街並みを一望できる場所にたどり着くと、視界が一気に開けた。


「綺麗・・・」


思わず零れるその言葉。


そこは、光と影が織りなす圧倒的な境界の舞台だった。背後の山々は既に夜の帳に包まれ黒い影と化しているが、見下ろす帝都の街並みは、沈みゆく太陽の残光を浴びて、まるで黄金に染まった幻想的な風景だった。


大通りを貫くいくつもの光の列、聳え立つ塔のシルエット、夕闇のグラデーションの中に浮かび上がり、やがて太陽が沈みこむと同時に、その光景はより一層輝きを増して、まるで天の川となって鮮やかに彩る。


「・・・・」


「・・・・」


しばらくこの光景を堪能し、奇妙な沈黙が降りる。静かな緊張感がそこに満ちていた。


そろそろ私、変わらないといけない・・・


ハリーはカイの気持ちを悟っていた。親が決めた婚約者がカイ・パダックだと知ったのはもうずいぶん前の事だ。それでもセイギの事が諦めきれずに、カイの好意に甘えさせてもらってきた。悪い女ね。わたし・・・


これから始まる言葉に向けて心を整えるという意味で、2人の考えが一致し、意味のある積極的な静寂だった。


「・・・ハリー。」


「はい。」


即座に返事を返す。


「俺と結婚してくれないか?」


「・・・うん。」


とくん。と、胸が高鳴る。


「い、いいのか?」


「その言葉そのまま返すわね。私でいいの?まだセイギの事を想っているのよ。」


「あぁ。それでもいい。」


カイはこくりと頷く。


「本当に?こんな困った女のどこがいいの?結婚するとういうことは、ずっと生活を共にすることなのよ。」


「だが、お前がいい。」


「・・・・」


鼓動そのものが早く感じる。セイギ以外を異性として意識するなら彼以外しかいない。事はもうずいぶん前からそんな気がしていた。だから彼以外の男性とは仕事上以外の付き合いはないし、断わってきた。セイギがいなくなったから、カイに乗り換えるというのは随分自分に対して勝手すぎないだろうか・・・


その負い目が、罪悪感がどうしてもぬぐい切れない。だからだろうか?セイギを盲目的に追い求めてしまうのは・・・


「前にも言ったと思うが、俺はお前の側にいる。それが俺の望みだ。」


「・・・?!」


真剣な眼差しを向けられて、見つめ合う2人。


「私、自分自身が嫌になるの・・・自分勝手すぎない?」


ハリーは視線を背ける。


「いいんじゃないのか?自分勝手で何が悪い。俺も同じだ。自分勝手でお前を好きになった。」


あ・・・・


そんな言い方、卑怯・・・自分を見つめる瞳に、優しさと好意が含まれていて、これっぽちも私の言い分を聞いてくれない。


「ハリー。自分勝手なお前を含めて、俺はお前の事が好きだ。」


「・・・あぁ・・・」


恋して報われなかった私。


恋して彼の恋路を邪魔したいと願った私。


恋さえしなければ、よかったと後悔する私。


それを全部ひっくるめて好きだと言ってくれる。人が目の前にいる。


「カイ・・・」


その瞬間、お互いが唇を重ねる。


知らない感覚がハリーの全身を満たす。唇から広がる甘い痺れに、理性が砕ける。


「「―――」」


ただ、ずっとこうしていたいと願い、彼の温もりの中に彼女は委ねる。


そして、そっと唇が離れ、


「本当に私でいいの?」


揺れる瞳で彼を見つめ、熱く愛おしい瞳で彼が見つめる。


「ハリー。お前じゃないと俺はダメなんだ。」


その言葉を聞いた瞬間、もう何も考えることが出来ず、お互いに抱きしめ合いキスをする。このまま時間が止まって欲しい。彼女の中で宿っていた黒くくすんだものが消えた瞬間でもあった。


「カイ。私を愛して、私はあなたを愛し尽くします。」


「もちろんだ。ハリー。死ぬまで愛す。」










































































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